コラムcolumn
院長より

今シーズンのインフルエンザワクチン 接種した意味はあったのか


今シーズンのインフルエンザは例年より1か月以上早く流行が始まり、「ワクチンを打ったのに感染した」というご相談を多くいただきました。接種したご家族の中には、「打った意味があったのか」と感じた方もいるかと思います。今回は、現時点で公表されているデータに基づいて正直にお伝えします。


今シーズンの流れ

今シーズンは大きく2つのフェーズに分かれていました。

前半(2025年秋〜2026年初頭)はA型インフルエンザ(H3N2)の「サブクレードK」と呼ばれる変異株が主役でした。後半(2026年1月末〜2月)になるとB型インフルエンザが増加し、東京都をはじめ各地で再び注意報・警報レベルに達しました。A型に感染した後でもB型への再感染リスクがあるため、「今シーズン2度インフルエンザにかかった」という方もいたと思います。

A型とB型ではワクチンの効き方の状況が異なりましたので、それぞれ説明します。


A型(サブクレードK)に対するワクチン効果

なぜ型のズレが起きたのか

インフルエンザワクチンは毎年、春ごろに「今冬に流行しそうなウイルス」を予測して製造されます。サブクレードKはCDCが2025年6月に初めて確認した株で、すでにワクチン株の選定が終わった後に出現したため、今シーズンのワクチンとは抗原性が異なります。日本のワクチンH3N2成分もA/Perth/722/2024(IVR-262)であり、同様の型ズレが生じていました。英国UKHSAの研究でも、ワクチン株に対して作製した抗血清がサブクレードKへの反応性低下を示しており、WHOの報告とも一致しています。

数字で見たA型へのワクチン効果

現時点で日本独自のデータは公表されていません。米国・英国のデータが参考になります。

米国(CDC・約14万人対象、2025年9月〜2026年2月)では、18歳未満の子どもで外来受診を38〜41%、入院を41%防いだ。成人では外来受診を22〜34%、入院を30%防いだ。

英国(UKHSA / Kirsebom et al., Eurosurveillance 2025)では、2〜17歳の子どもで救急受診・入院に対するワクチン有効率がそれぞれ74.8%・73.8%と高い値を示した。18〜64歳の成人では約32〜33%であった。

例年の発症予防効果(40〜60%程度)と比べると米国データはやや低めです。一方で英国データでは、子どもの重篤な転帰(救急受診・入院)に対しては例年と同水準の効果が維持されていました。

UKHSAは「型がズレていても、ワクチンは救急受診・入院に対して通常の範囲内の予防効果を示した」と結論づけています。また過去に発症予防効果が30%程度にとどまったシーズン(2022-23年)においても、ワクチンは推定71,000件の入院と4,300件の死亡を防いだとCDCは推計しています。


B型に対するワクチン効果

B型はなぜA型と状況が違うのか

B型インフルエンザにはビクトリア系統と山形系統の2系統があります。山形系統は2020年以降世界的に検出されなくなっており、現在流行しているのはビクトリア系統のみです。

B型はA型(特にH3N2)と比べて変異の速度がはるかに遅く、ワクチンのカバー範囲が維持されやすい性質があります。今シーズン流行したB型はビクトリア系統内の「C.3.1」と呼ばれるグループですが、WHOのワクチン選定前から存在が確認されており、抗原解析でワクチン株との一致度が高いことも示されていました。A型サブクレードKのような「選定後に突然出現した型ズレ」とは構造がまったく異なります。

CDCのウイルス監視データでも、今シーズンのB/Victoria系統の85.7%がワクチン株との抗原性一致基準を満たしていました。

数字で見たB型へのワクチン効果

この構造の違いが、データにもはっきり表れています。米国CDC(Maloney et al.)のデータでは、B型に対するワクチン有効率は子どもで45〜71%、成人で63%と、A型を大きく上回る値が示されました。

A型で「打ったのに感染した」という経験をされた方も、B型に対してはより高い防御効果があったことがデータで示されています。


フルミスト(経鼻ワクチン)を接種されたお子さんへ

当院では今シーズン、多くのお子さんにフルミスト(経鼻弱毒生ワクチン・LAIV)を接種しました。同じ週にMMWRに掲載されたカリフォルニア州の研究(Zhu et al.)に、注射ワクチンとの比較データがあります。

2〜17歳の子どもでは、フルミストのワクチン有効率は55%、通常の注射ワクチン(標準用量)は39%で、フルミストのほうが高い有効率を示しました。型がズレたシーズンであっても、フルミストは注射ワクチンと同等以上の効果を発揮していました。


まとめ

A型(サブクレードK) B型
ワクチンとの型ズレ あり(製造後に出現した株) 小さい(抗原性一致を確認済み)
発症予防効果・子ども(注射ワクチン) 約38〜41% 約45〜71%
発症予防効果・子ども(フルミスト) 約55%(※1) データなし
重篤な転帰(救急・入院)予防効果・子ども 約40〜75%(※2) データなし

※1 フルミストの55%はA型・B型合算の全体値です(米国カリフォルニア州データ)。B型単独のフルミストVEデータは現時点で公表されていません。

※2 米国データは「入院」のみを対象(約41%)、英国データは「救急受診+入院」を対象(約73〜75%)と測定対象が異なるため幅が生じています。どちらも公的機関による査読済みの研究です。


今シーズンのワクチンは、A型への効果は例年より低下しましたが、重症化・入院を防ぐ効果は維持されていました。またB型への効果は高く保たれていました。「打った意味はあった」と当院は考えています。来シーズンも引き続きインフルエンザワクチンの接種を推奨しています。


参考文献

  1. Maloney P, et al. Interim Estimates of 2025–26 Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness — United States. MMWR 2026;75(9):116–123.
  2. Zhu S, et al. Interim Estimates of 2025–26 Seasonal Influenza Vaccine Effectiveness — California. MMWR 2026;75(9):124–128.
  3. Kirsebom FCM, et al. Early influenza virus characterisation and vaccine effectiveness in England in autumn 2025. Euro Surveill. 2025;30(46):2500854.
  4. 国立健康危機管理研究機構. 令和7年度(2025/26シーズン)インフルエンザワクチン株情報.
  5. 東京都感染症情報センター. インフルエンザの流行状況(2025-2026年シーズン).