なぜ赤ちゃんは花粉症にならないのか ── 「2シーズンの壁」と免疫の未熟さ
春になると「うちの赤ちゃん、鼻水がずっと出ているけど花粉症?」という相談が増えます。0歳で花粉症を発症することは非常にまれです。でも「まれです」だけでは安心できませんよね。今回は、なぜ小さい子に花粉症が少ないのかを掘り下げます。
花粉症が成立する「2ステップ」
花粉症は、花粉に1回触れたら発症する病気ではありません。
まず、花粉が鼻や目に繰り返し触れることで、体の中に花粉専用の「指名手配書」(IgE抗体)が作られます。この準備段階を「感作(かんさ)」と呼びます。次に、再び花粉が入ってきたとき、指名手配書を持った見張り番の細胞(マスト細胞)が反応して、ヒスタミンなどを放出する。これがくしゃみ・鼻水・目のかゆみの正体です。
つまり、①まず体が花粉を「記憶する」(感作)→②再び出会って「反応する」(発症)の2段階が必要です。
理由1:感作には「2シーズンの壁」がある
この感作は、1回の花粉シーズンだけでは完成しにくいことがわかっています。
韓国・済州島でスギ花粉の多い地域に住む大学生857人を調べた研究では、居住1年未満の感作率は3.8%だったのに対し、2〜3年で8.5%、10年以上で19.1%まで上がりました。感作リスクが明確に跳ね上がる境目は「25か月」──およそ2回の花粉シーズンでした。
0歳の赤ちゃんは、初めての花粉シーズンか、多くても2シーズン目。日本アレルギー学会も「初めてのスギ花粉シーズンに花粉症を発症することはほとんどない」としています。そもそも感作が完成するだけの経験値が足りないのです。
理由2:免疫の「モード」と「工場」のギャップ
ここが一番意外なポイントです。
赤ちゃんの免疫には、生まれた直後だけ見られる特徴があります。免疫には、ウイルスに感染した細胞を直接攻撃する「Th1モード」と、IgE抗体を作ってアレルギー反応を起こす「Th2モード」があり、新生児ではTh2モード──アレルギー寄り──に大きく傾いています。
「ならば赤ちゃんこそアレルギーになりやすいのでは?」と思いますよね。
このTh2への偏りは、胎内で母体の組織をTh1モード(直接攻撃型)で傷つけないための設計です。花粉に反応するためではありません。
そして肝心なのは、「IgE抗体を作れ」という指令を出すシステム(Th2)と、実際にIgE抗体を作る工場(B細胞や胚中心という仕組み)は別だということです。赤ちゃんでは、この工場がまだ未完成。発注書は出ているのに、工場が稼働していない状態です。2021年の総説でも、乳児のリンパ節では抗体の品質管理を担う構造がほとんど形成されておらず、抗体を作る細胞が長く生き残れないことが報告されています。
理由3:数字で見る「年齢カーブ」の急さ
日本の全国調査(2019年)によるスギ花粉症の有病率です。
- 0〜4歳:3.8%
- 5〜9歳:30.1%
- 10〜19歳:49.5%
0〜4歳から5〜9歳にかけて約8倍。しかも2008年の調査では5〜9歳が7.5%だったので、わずか10年で4倍に増えています。
さらに、18か月児408人を対象にした研究では、すでに10.7%にIgE抗体の陽性反応がありました。ただし、実際に鼻のアレルギー性炎症まで確認されたのはわずか2.0%。「指名手配書」は作り始めていても、症状が「発火」するにはまだ足りないということです。
0歳の鼻水、多くは花粉症ではない
この時期の鼻水で圧倒的に多い原因は、かぜの繰り返し、温度差による血管運動性鼻炎、乾燥やホコリなどの環境刺激です。そもそも0歳児は鼻腔が狭く、少しの粘膜の腫れでも鼻づまりが目立ちやすい構造をしています。保育園に通い始めた赤ちゃんが何週間も鼻水を出し続けるのは、かぜが治りきる前に次のかぜをもらっているケースがほとんどです。
その中で以下のパターンがそろうと花粉症の可能性が高まります。
- 透明でさらさらの鼻水が毎日続く
- 目のかゆみ・充血が目立つ
- 発熱がなく、周囲のかぜとも無関係
- 毎年同じ時期に繰り返す
すぐ相談してほしいサイン
花粉症かどうかとは別に、以下は早めに受診してください。
- 呼吸が苦しそう、ゼーゼーする
- 哺乳ができないほど鼻がつまる
- 高熱が続く、ぐったりしている
- 耳を気にする、機嫌が悪い、夜泣きが増える(中耳炎の可能性)
まとめ
0歳で花粉症が非常にまれな理由は、①花粉シーズンの経験が足りない(最低2シーズン必要)、②IgE抗体を作る工場が未完成、③感作が始まっても症状に至るまでにはさらにステップがある──この3つが重なっているからです。
ただし、子どもの花粉症は確実に低年齢化しています。「まだ小さいから大丈夫」は数年後には通用しないかもしれません。鼻の症状が気になるときは、早めにご相談ください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としています。症状が気になる場合は医療機関にご相談ください。
参考文献
- Suh MJ et al. Sci Rep. 2019;9:10336.(済州島・スギ花粉感作と居住期間)
- 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会 全国調査 2008年・2019年
- Masuda S et al. Allergol Int. 2012;61:65-8.(小児のスギ花粉感作率の年齢推移)
- Masuda S et al. ISRN Otolaryngol. 2012;2012:427105.(18か月児の感作率と鼻好酸球)
- 日本アレルギー学会 Q&A「赤ちゃんも花粉症になるのでしょうか?」
- Cernada M et al. Front Immunol. 2021;11:595297.(乳児の胚中心・B細胞応答の未熟性)
- Saglani S et al. Front Allergy. 2023;3:1080153.(乳児期のTh2偏向とアレルギー気道疾患)
- Medscape: Pediatric Allergic Rhinitis 2025 update(感作の年齢別推移)

