花粉症の治療 〜 お子さんの花粉症、どう治療する? 〜
「子どもの鼻水がずっと続いている」「目をこすってばかりいる」——花粉シーズンになると、こうした相談が増えます。花粉症は大人の病気というイメージがありますが、近年は発症の低年齢化が進んでおり、2〜3歳で発症するお子さんも珍しくありません。
この記事では、鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版(改訂第10版)に基づいて、お子さんの花粉症の治療法を整理します。「どんな薬があるのか」「何歳からどの薬が使えるのか」「市販薬と処方薬は何が違うのか」——こうした疑問に、できるだけ簡潔にお答えします。
1. 重症度と病型に応じた治療の考え方
花粉症の治療薬は「とりあえず何か出す」のではなく、症状のタイプ(病型)と重さ(重症度)に応じて選びます。
病型の分類
花粉症の症状は、くしゃみ・鼻水が強い「くしゃみ・鼻漏型」と、鼻づまりが強い「鼻閉型」に分けられます。両方同じくらい強ければ「充全型」です。この分類が薬の選択に直結します。
重症度の分類
くしゃみの回数(1日平均)、鼻をかむ回数、口呼吸の有無で、軽症・中等症・重症・最重症の4段階に分けます。重症度が上がるほど、薬の種類を増やしたり、より強い薬を選択します。
ガイドラインの治療選択
鼻アレルギー診療ガイドライン2024では、花粉症の重症度と病型に応じた治療法の選択表が示されています。概要は以下のとおりです。
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重症度 |
くしゃみ・鼻漏型 |
鼻閉型・充全型 |
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軽症 |
第2世代抗ヒスタミン薬または遊離抑制薬または鼻噴霧ステロイド薬 |
抗ロイコトリエン薬または鼻噴霧ステロイド薬 |
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中等症 |
第2世代抗ヒスタミン薬+鼻噴霧ステロイド薬 |
抗ロイコトリエン薬+鼻噴霧ステロイド薬 |
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重症〜最重症 |
第2世代抗ヒスタミン薬+鼻噴霧ステロイド薬 |
鼻噴霧ステロイド薬+抗ロイコトリエン薬+第2世代抗ヒスタミン薬 |
※ガイドライン2024の治療選択表をもとに簡略化して作成。いずれの重症度でも「抗原の除去・回避」「アレルゲン免疫療法」は並行して推奨されています。
2. 飲み薬(内服薬)
2-1. 第2世代抗ヒスタミン薬
花粉症治療の中心となる薬です。「抗ヒスタミン薬」とは、アレルギー反応で放出されるヒスタミンという物質の働きをブロックする薬のことです。くしゃみと鼻水に特に効果があります。
現在は「第2世代」と呼ばれる、眠気が出にくく改良された薬が主流です。古い「第1世代」(ポララミンなど)は眠気が強く、小児ではけいれんを誘発するリスクも指摘されており、花粉症の治療には推奨されません。
小児で使える主な第2世代抗ヒスタミン薬
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薬剤名 |
適応年齢 |
剤形 |
服用回数 |
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アレグラ(フェキソフェナジン) |
生後6か月〜 |
ドライシロップOD錠・錠剤 |
1日2回 |
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ザイザル(レボセチリジン) |
生後6か月〜 |
シロップ・錠剤 |
1日1〜2回(年齢による) |
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アレロック(オロパタジン) |
2歳〜 |
顆粒錠剤・OD錠 |
1日2回 |
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クラリチン(ロラタジン) |
3歳〜 |
ドライシロップ・錠剤 |
1日1回 |
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ビラノア(ビラスチン) |
15歳〜 |
錠剤 |
1日1回空腹時 |
※各薬剤添付文書に基づく(2025年時点)。年齢・体重・症状に応じて医師が用量を調整します。
第2世代抗ヒスタミン薬の効果や眠気の出方には個人差があります。「この薬が一番効く」と一概には言えません。実際に使ってみて、効果があるか、眠気が気にならないかを確認しながら、お子さんに合う薬を選んでいきます。
「インペアード・パフォーマンス」について
抗ヒスタミン薬には、自覚できる眠気だけでなく、本人も周囲も気づきにくい「集中力・判断力の低下」を起こすことがあります。これを「インペアード・パフォーマンス」といいます。脳への移行が少ない薬ほどこの影響は小さくなるとされています。学童期のお子さんでは、テストや授業に影響する可能性もあるため、薬の選択時に考慮する点です。
2-2. 抗ロイコトリエン薬(LTRA)
ロイコトリエンは、鼻づまり(鼻閉)の主な原因となる物質です。抗ロイコトリエン薬(LTRA=Leukotriene Receptor Antagonist)は、このロイコトリエンの働きをブロックすることで、特に鼻づまりに効果を発揮します。
小児で使えるLTRAには、オノン(プランルカスト:1歳〜)とシングレア/キプレス(モンテルカスト:1歳〜)があります。鼻づまりが主な症状の場合、あるいは抗ヒスタミン薬だけでは鼻閉が取れない場合に追加・併用します。
3. 点鼻薬
3-1. 鼻噴霧用ステロイド薬
鼻噴霧用ステロイド薬は、花粉症治療において最も効果が高い薬の一つです。「ステロイド」と聞くと不安に思う保護者の方も多いですが、鼻噴霧用ステロイド薬は鼻の粘膜だけに作用するよう設計されており、全身への吸収はごくわずか(モメタゾン・フルチカゾンでは1%未満)です。飲み薬のステロイドとは全く別物と考えてください。
くしゃみ・鼻水・鼻づまりの3症状すべてに効果があり、中等症以上ではガイドライン上ほぼすべてのパターンで推奨されています。効果は1〜2日で感じ始めますが、毎日続けることでさらに効果が高まります。シーズン中は症状がなくても継続して使うのがコツです。
小児で使える主な鼻噴霧用ステロイド薬
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薬剤名 |
小児適応 |
使用回数 |
特徴 |
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ナゾネックス(モメタゾン) |
3歳〜 |
1日1回 |
全身吸収率1%未満。小児では各鼻腔1噴霧ずつ。ジェネリックあり |
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アラミスト(フルチカゾンFF) |
小児適応あり |
1日1回 |
液だれ少なく使いやすい。横押し型で子どもにも噴霧しやすい設計 |
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小児用フルナーゼ(フルチカゾンFP) |
小児用あり |
1日2回 |
1噴霧25μgの小児専用製剤。長期使用でも成長障害なしとの報告あり |
3-2. 点鼻用血管収縮薬に関する注意
市販の点鼻スプレーの多くに含まれる「血管収縮薬」は、使用後すぐに鼻が通る即効性がありますが、効果は2〜4時間と一過性です。
重要:連用すると、薬が切れたときにかえって鼻づまりが悪化する「リバウンド現象」が起こり、薬剤性鼻炎になることがあります。使用は原則2週間以内に限り、鼻噴霧用ステロイド薬と併用することがガイドラインでも推奨されています。なお、2歳未満は使用禁忌です。
4. 点眼薬
花粉症では目のかゆみ・充血・涙が出ることもよくあります。目の症状には点眼薬を併用します。
主な点眼薬の種類
抗アレルギー点眼薬(クロモグリク酸ナトリウム、アレジオン点眼液など):アレルギー反応を予防的に抑えます。副作用が少なく、早い段階から使えます。
抗ヒスタミン点眼薬(パタノール、アレジオンLX点眼液など):かゆみを速やかに抑えます。小児にも広く使用されています。
ステロイド点眼薬(フルメトロンなど):症状が強いときに短期間使用します。眼圧上昇のリスクがあるため、医師の管理下で使用します。
点眼を嫌がるお子さんには、眼軟膏(フルメトロン眼軟膏など)を使う方法もあります。
5. 乳幼児の花粉症——特有の難しさと対応
5-1. なぜ乳幼児の診断は難しいのか
花粉症の確定診断には、症状が花粉の飛散時期と一致していること、血液検査でスギ花粉などへの特異的IgE抗体(免疫グロブリンE)が陽性であることが必要です。しかし乳幼児では次のような問題があります。
まず、もともと風邪を繰り返す年齢であるため、鼻水が「花粉症なのか風邪なのか」の判別が困難です。また、低年齢児は症状を言葉でうまく伝えられません。さらに、2〜3歳では花粉への感作(IgE抗体の産生)がまだ十分に進んでおらず、血液検査で陰性になることもあります。
5-2. 抗ヒスタミン薬による「診断的治療」
こうした理由から、小児科の現場では「診断的治療(empiric treatment)」がしばしば行われます。これは、花粉症を疑う症状があるときに、まず第2世代抗ヒスタミン薬を処方して反応をみるという方法です。
薬で症状が改善すれば、アレルギー性鼻炎である可能性が高いと判断できます。逆に改善しなければ、風邪や副鼻腔炎など別の原因を考えます。
診断的治療の根拠
鼻アレルギー診療ガイドライン2024では、「典型的な症状と鼻粘膜所見で臨床的にアレルギー性鼻炎と診断し、早期治療開始」する方針が示されています。
また、米国耳鼻咽喉科頭頸部外科学会(AAO-HNS)のアレルギー性鼻炎診療ガイドライン(2015年)では、より直接的に「臨床診断されたアレルギー性鼻炎がempiric treatment(経験的治療)に反応しない場合、診断が不確実な場合、または原因アレルゲンの特定が必要な場合にアレルギー検査を実施すべき」と記載されています。つまり、「まず臨床所見で診断→治療を開始→反応をみる→反応しなければ検査」という流れが国際的にも認められた進め方です。
第2世代抗ヒスタミン薬は副作用が少なく安全性が高い薬であり、花粉シーズンに限定して使用する場合のリスクは低いと考えられます。「検査ができないから何もしない」よりも、安全な薬で症状を緩和しながら経過をみる方が、お子さんのQOL(生活の質)を保てます。
ただし、診断的治療はあくまで暫定的な対応です。症状が毎年繰り返される場合や、採血が可能になった段階で、血液検査による確定診断を行うことが望ましいです。
5-3. 乳幼児で使える薬
生後6か月から使える第2世代抗ヒスタミン薬として、アレグラ(フェキソフェナジン)のドライシロップとザイザル(レボセチリジン)のシロップがあります。鼻噴霧用ステロイド薬はナゾネックスが3歳から使用可能です。
3歳未満のお子さんで鼻噴霧用ステロイド薬の使用が難しい場合は、抗ヒスタミン薬の内服を中心に対応し、鼻づまりが強ければ抗ロイコトリエン薬(オノンは1歳から使用可能)を併用します。
6. 市販薬(OTC)と処方薬の違い
ドラッグストアで花粉症の市販薬を購入する方も多いと思います。処方薬とは何が違うのでしょうか。
市販の飲み薬
アレグラFXやクラリチンEXなど、処方薬と同じ成分の市販薬が販売されています。ただし、小児用として市販されているのはアレグラFXジュニア(7〜14歳用)など一部に限られ、6歳以下に使えるOTCの第2世代抗ヒスタミン薬はほとんどありません。
市販の点鼻スプレー
ここが最も注意が必要な点です。市販の点鼻スプレーの人気ランキング上位の多くに血管収縮薬が含まれています。前述のとおり、連用するとリバウンド現象で鼻づまりが悪化します。市販のステロイド点鼻薬(フルナーゼ点鼻薬やナザールαARなど)も販売されていますが、18歳未満への使用は推奨されておらず、使用期間にも制限があります(年間3か月まで)。
処方薬を使うメリット
処方薬では、お子さんの年齢と体重に合った薬剤・用量を選択でき、シロップやドライシロップなど小児が飲みやすい剤形も豊富です。また、鼻噴霧用ステロイド薬は処方薬にしかない小児専用製剤があり、市販薬では対応できない低年齢のお子さんにも使用できます。毎年繰り返す場合や症状が強い場合は、早めに受診して適切な治療を受ける方が結果的に楽に過ごせます。
7. 舌下免疫療法——根本治療という選択
ここまで紹介した薬物療法は、いずれも「症状を抑える対症療法」です。一方、アレルギー体質そのものを改善し、根本的な治癒を目指す治療として「舌下免疫療法」(SLIT=Sublingual Immunotherapy)があります。
スギ花粉症に対しては「シダキュア」、ダニアレルギーに対しては「ミティキュア」という舌下錠を毎日服用し、3〜5年かけて体をアレルゲンに慣らしていく治療です。約8割の方に何らかの効果が期待でき、治療終了後も効果が持続するとされています。
対象は原則5歳以上ですが、錠剤を舌の下に1分間保持できること、症状のない時期にも数年間毎日の内服を続ける必要があることを考えると、治療の意味を本人がある程度理解できる10歳前後からが現実的な適応と考えています。血液検査でスギ花粉(またはダニ)の特異的IgE抗体が陽性であることが開始の条件です。
舌下免疫療法の詳しい内容(治療の流れ、ヒノキ花粉症への効果、副作用など)については、別の記事で詳しく解説しています。ご興味のある方はそちらもご覧ください。
8. 初期療法——花粉が飛ぶ前から始める
花粉症の薬は、症状がつらくなってから飲み始めるよりも、花粉の飛散が始まる1〜2週間前から使い始める方が、シーズン全体の症状を軽く抑えられます。これを「初期療法」といいます。
椅子取りゲームで考える
花粉症の症状は、花粉が鼻の粘膜にあるヒスタミン受容体(H1受容体)にくっつくことで起こります。抗ヒスタミン薬は、この受容体を先にブロックして花粉の影響を抑える薬です。
これを椅子取りゲームにたとえると分かりやすいかもしれません。花粉がすでに大量に飛んでいる状態は、椅子(受容体)にすでに花粉が座ってしまっている状態です。ここに後から抗ヒスタミン薬を投入しても、空いている椅子が少なく、十分な効果が得られません。
一方、花粉が飛び始める前から抗ヒスタミン薬を飲んでおけば、先に椅子を確保できます。花粉がやってきても座る椅子がないため、症状が出にくくなるのです。
もう一つ大切なのは、薬が体から抜けてしまうと椅子が空いてしまうということです。抗ヒスタミン薬が代謝されていなくなると、花粉だけの椅子取りゲームが再び始まり、症状がぶり返します。シーズン中は「症状が落ち着いているから」と自己判断で中断せず、毎日きちんと飲み続けることが重要です。
ガイドライン2024でも、鼻噴霧用ステロイド薬の初期療法はシーズン中の症状スコアを有意に改善し、費用対効果にも優れると報告されています。愛知県では例年2月中旬からスギ花粉の飛散が始まるため、1月末〜2月上旬には治療を開始するのが理想的です。
9. まとめ——受診の目安
お子さんの花粉症は、年齢や症状に応じて使える薬が異なります。以下のような場合は、早めの受診をおすすめします。
- 毎年同じ時期に鼻水・くしゃみ・鼻づまり・目のかゆみが続く
- 市販薬では症状が十分にコントロールできない
- 鼻づまりで口呼吸になっている、睡眠が妨げられている
- 6歳以下で、花粉症か風邪か判断がつかない
- 舌下免疫療法(根本治療)に興味がある
花粉症は命に関わる病気ではありませんが、お子さんの生活の質を大きく下げます。正しい薬の選択と適切な使い方で、花粉シーズンをできるだけ快適に過ごせるようサポートします。気になることがあれば、お気軽にご相談ください。
【参考文献・根拠】
- 日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会. 鼻アレルギー診療ガイドライン 通年性鼻炎と花粉症 2024年版(改訂第10版). 金原出版, 2024.
- Seidman MD, et al. Clinical Practice Guideline: Allergic Rhinitis. Otolaryngol Head Neck Surg. 2015; 152(1 Suppl): S1-S43.(AAO-HNSガイドライン)
- 各薬剤添付文書(PMDA 医療用医薬品情報検索)
- Gotoh M, et al. Efficacy of Japanese cedar pollen sublingual immunotherapy tablets for Japanese cypress pollinosis. J Allergy Clin Immunol: Global. 2022.
- シダキュアスギ花粉舌下錠 添付文書・インタビューフォーム(鳥居薬品)

