赤ちゃんの股関節のはなし ― 健診で「股関節」を指摘されたら ―
乳児健診で「股関節の開きが気になります」「専門の先生に診てもらいましょう」と言われると、驚かれる保護者の方は多いと思います。「脱臼」という言葉が頭をよぎり、心配になるのも当然です。
でも、まず知っておいていただきたいのは、健診で指摘を受けた=今すでに関節が完全に外れている、というわけではないということです。股関節の状態にはかなりの幅があり、そのほとんどは適切な対応で良好な経過をたどります。
今回は、小児科の領域からは少し外れた整形外科の話題になりますが、健診でご不安を感じている保護者の方に向けて、知っておいていただきたいことをお伝えします。
1. 「先天性股関節脱臼」から「発育性股関節形成不全」へ
この病気は以前、「先天性股関節脱臼」と呼ばれていました。しかし現在は、「発育性股関節形成不全(DDH)」という名前が使われています。
名前が変わった理由は、生まれつき完全に脱臼しているケースは実はごく稀で、生まれたあとの環境――抱っこの仕方やおむつの当て方、衣服による足の固定など――によって股関節の状態が変わっていくことがわかってきたからです。つまり「先天性」という言葉が実態に合わなくなったのです。
「発育性股関節形成不全」という名前には、完全な脱臼だけでなく、股関節が不安定な状態や、受け皿(臼蓋)が浅い状態(臼蓋形成不全)なども含まれています。幅のある診断名であるということを、まず知っておいてください。
2. どれくらいの赤ちゃんに見つかるのか
日本の全国データベースを用いた研究(Matsumoto Hら, Journal of Orthopaedic Science 2023)によると、脱臼の治療が必要になるDDHの発生率は出生1万人あたり約7.6人(およそ1,300人に1人)と報告されています。1970年代の予防活動やおむつの改善により、かつてと比べると大きく減少しました。
ただし、脱臼に至らない軽度の不安定性や臼蓋の浅さまで含めると、もう少し多くの赤ちゃんが経過観察の対象になります。日本小児整形外科学会の全国調査でも、1歳を過ぎてから脱臼と診断される「遅れた発見」が全体の約15%を占め、全国で年間およそ100人程度の診断遅延例があることが明らかになっています。発見が早ければ早いほど治療の負担は小さくなるため、健診での早期チェックが大切です。
3. 治療はどうなるのか
健診で指摘を受けたあとの経過は、お子さんの状態によってさまざまですが、おおまかには以下のような段階に分かれます。
多くの場合:生活指導と経過観察
臼蓋がやや浅い、あるいは股関節がやや不安定といった軽度の状態であれば、コアラ抱っこ(股関節を開いた状態でのたて抱き)やおむつの当て方の工夫など、日常生活での注意だけで改善していくことが少なくありません。赤ちゃんの股関節は成長とともに発育していくため、正しい肢位(脚をカエルのように開いた状態)を保ってあげることが、最大の治療になります。
装具が必要になる場合:リーメンビューゲル
脱臼や亜脱臼が確認された場合、生後6〜8か月頃までであれば「リーメンビューゲル」と呼ばれるベルト型の装具を使った治療が行われます。赤ちゃんの脚を自然に開いた状態に保つ装具で、入院せずに外来で治療できます。この装具で約80%の赤ちゃんの股関節が整復されると報告されています。
それでも難しい場合
リーメンビューゲルで改善しない場合は、入院しての牽引療法が必要になることがあります。さらにそれでも整復できない場合には手術となりますが、手術が必要になるのは全体の約5%程度です。発見が早ければ早いほど、こうした大きな治療を避けられる可能性が高くなります。
4. 専門外来の受診までに、ご家庭でできること
健診で指摘を受けてから専門の先生に診てもらうまでの間、おうちでできることがあります。大切なのは赤ちゃんの股関節をカエルのように開いた状態で、自由に動かせるようにしてあげることです。
コアラ抱っこを心がける 赤ちゃんの脚を開いた状態でたて抱きにします。脚をまっすぐ伸ばした状態で包んだり、横抱きで脚を閉じた状態にしたりしないよう気をつけてください。
おむつや衣服で脚を固定しない おむつはウエストテープがおへその高さにくるように当て、サイドギャザーで太ももの動きを邪魔しないようにします。冬場の厚着で脚を伸ばした状態に固定してしまうことにも注意が必要です。実際に、秋冬生まれの赤ちゃんに股関節脱臼が多いことが知られており、衣服による影響が指摘されています。
向き癖に注意する 強い向き癖があると、体がねじれて反対側の股関節の開きが悪くなることがあります。寝かせるときに体がまっすぐになるよう工夫してあげてください。
逆に言えば、これらに気をつけていただければ、専門外来を受診するまでのあいだにご家庭でできることとしては十分です。
5. 「早く見つかった」ことは、よいこと
健診で何かを指摘されると不安になるのは自然なことですが、見方を変えれば、早期に発見できているということは、それだけ適切な対応につなげやすいということでもあります。
発育性股関節形成不全は、早く見つけて早く対応すれば、多くの場合は経過観察や生活指導で改善し、一部が装具治療で対応できる病気です。逆に、歩き始めてから初めて発見されると、入院や手術が必要になることもあります。
「異常があるかもしれない」と言われた段階で必要以上に不安を抱える必要はありません。専門の先生に診ていただき、お子さんの股関節の状態を正確に評価してもらうことが、いちばんの安心材料になります。
6. 小児科としてお伝えできること
発育性股関節形成不全の診断・治療は小児整形外科が専門であり、当院で直接治療を行うことはできません。ただ、乳児健診で股関節の開きを確認し、必要があれば専門医への紹介をおつなぎすること、そして保護者の方にコアラ抱っこや向き癖への対応など、ご家庭でできることをお伝えすることは、小児科の大切な役割だと考えています。
ご不安なことがあれば、お気軽にご相談ください。
参考
- 朝貝芳美.「知っていれば防げる!先天性股関節脱臼」子どもと医療(kodomotoiryo.com).
- 日本小児整形外科学会. 乳児股関節脱臼予防パンフレット.
- Hattori T, Inaba Y, Ichinohe S, et al. The epidemiology of developmental dysplasia of the hip in Japan: Findings from a nationwide multi-center survey. J Orthop Sci. 2017;22(3):479-484.
- Matsumoto H, Ichinohe S, Hattori T, et al. Epidemiology of Developmental Dysplasia of the Hip: Analysis of Japanese National Database. J Orthop Sci. 2023;28(5):1063-1068.
- Rosendahl K, et al. Results of universal ultrasound screening for developmental dysplasia of the hip. Bone Joint J. 2018;100-B:1399-1404.

