コラムcolumn
院長より

当院で接種するワクチンのこと──10種類のワクチンが、子どもを何から守るのか

生後2か月から小学校入学を過ぎるまで、お子さんは10種類を超えるワクチンを受けます。
数の多さと聞き慣れない病名の前で、「これ全部、本当に必要なんですか」と感じる保護者の方は少なくありません。

結論から言えば、当院でお勧めしているワクチンは、いずれも「かかると重症化しやすい病気」または「ワクチンでしか確実に防げない病気」を対象に作られています。1本ずつに、子どもの命や将来の健康を守るための具体的な理由があります。

このコラムでは、定期接種の9種類と、安城市で公費助成が出ているおたふくかぜワクチン(制度上は任意接種)の合わせて10種類について、何を防ぐために打つのか、いつ頃日本に導入されたのか、そして日本人医師の貢献まで含めて、できるだけ手短にまとめます。母子健康手帳と一緒に読んでいただくつもりで書きました。

 

1.B型肝炎ワクチン

種類:不活化ワクチン  接種時期:生後2か月、3か月、7〜8か月の計3回

B型肝炎ウイルスは、肝臓の細胞に持続的に住み着き、将来の肝硬変や肝がんを引き起こすことがあります。とくに乳幼児期に感染すると、ウイルスを体内から追い出せず、生涯にわたって持ち続ける「キャリア」になりやすいことが分かっています。これがこのワクチンが「世界初のがん予防ワクチン」と呼ばれる理由です。

日本では1985〜86年に、B型肝炎キャリアの母親から赤ちゃんへの感染を防ぐ「母子感染予防事業」が始まりました。それ以前は、母親から赤ちゃんへの垂直感染が主要な感染経路でした。

ただし母子感染を防ぐだけでは十分ではありません。父親や祖父母、保育園での集団生活、転んだ時の出血など、家族や日常生活からの「水平感染」が依然として残っていたためです。これを受けて、2016年10月から、生まれたすべての赤ちゃんを対象とする定期接種となりました(対象は2016年4月1日以降生まれ)。3回接種後の感染防御効果は20年以上続くと考えられています。

 

2.ロタウイルスワクチン

種類:生ワクチン(経口)  接種時期:生後2か月から開始(初回は生後14週6日まで)

ロタウイルスは、激しい嘔吐と水のような下痢を起こす胃腸炎の代表的な原因ウイルスです。乳幼児では脱水症状が急速に進み、入院が必要になることも珍しくありません。日本では、ワクチン導入前は5歳未満の急性胃腸炎入院の40〜50%がロタウイルスによるものと報告されていました。さらに、まれですが急性脳症の原因にもなります。

日本では、2011年にロタリックス、2012年にロタテックが発売され、長らく任意接種でした。2020年10月1日からようやく定期接種となり、2020年8月1日以降生まれの赤ちゃんが対象になっています。

厚生労働省によれば、ワクチン接種によりロタウイルス胃腸炎による入院患者は約70〜90%減少したと報告されています。注射ではなく甘いシロップを口から飲むタイプで、生後14週6日までに初回を済ませる必要があるため、生後2か月のスタートが重要です。

 

3.5種混合ワクチン(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ・ヒブ)

種類:不活化ワクチン  接種時期:生後2か月から計4回(初回3回+追加1回)

5種混合ワクチンは、5つの感染症をまとめて予防します。とくに警戒すべきは百日咳とヒブ(インフルエンザ菌b型)感染症の2つです。

百日咳は、発作のような激しい咳が続く病気で、乳児がかかると咳の合間に呼吸が止まる「無呼吸発作」を起こすことがあります。入院が必要になった乳児では、約61%に無呼吸、約23%に肺炎、まれに脳症がみられ、入院乳児の約1%が命を落とすと報告されています。2024年には国内で生後1か月の女児がマクロライド耐性菌に感染し亡くなった事例も報告されており、油断のできない病気です。

ヒブは、5歳未満の子どもの細菌性髄膜炎の主要な原因菌でした。日本では2008〜2010年と2014年を比較すると、5歳未満のヒブ髄膜炎は人口10万人あたり7.7人から0.0人まで、ほぼ100%減少しました(厚生労働省)。ワクチンの効果がきわめて鮮やかに現れた一例です。

2024年4月から、これまでの4種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ)にヒブを加えた5種混合ワクチンが定期接種に導入されました。これにより、4種混合4回+ヒブ4回の計8回必要だった注射が、5種混合4回で済むようになり、赤ちゃんと保護者の負担が大きく軽減されました。

ポリオについては、日本国内では1980年以降、野生株による麻痺患者の発生はありません。ただし世界からの根絶までは接種が必要とされています。

 

4.小児用肺炎球菌ワクチン

種類:不活化ワクチン  接種時期:生後2か月から計4回(初回3回+追加1回)

肺炎球菌は、細菌性髄膜炎、敗血症、重い肺炎、中耳炎を引き起こす菌で、髄膜炎を起こすと一定の割合で神経学的な後遺症が残ります。小児科医がもっとも警戒する菌のひとつです。

日本では2010年に7価ワクチン(PCV7)が任意接種として導入され、2013年4月に定期接種化、同年11月にはより広範囲をカバーする13価(PCV13)に切り替わりました。さらに2024年4月からは15価(PCV15)、同年10月からは20価(PCV20)が定期接種に導入されています。現在は原則としてPCV20を使用します。

厚生労働省のデータでは、5歳未満の侵襲性肺炎球菌感染症(髄膜炎や敗血症など)は、ワクチン定期接種前の2008〜2010年は10万人あたり24〜26人だったのに対し、2022年には約4.8人と、約8割減少しました。最初の3回を生後6〜7か月までに終えることで、もっとも髄膜炎リスクが高い時期を確実にカバーできます。

 

5.BCG

種類:生ワクチン  接種時期:生後5〜8か月(1歳未満まで)

BCGは、結核を予防するワクチンです。とくに乳幼児が結核にかかった場合に起こる「結核性髄膜炎」と、菌が全身に広がる「粟粒結核」を防ぐことが目的です。これらは命に関わる重症結核で、BCGで64〜78%予防できると報告されています(小児結核全般では52〜74%)。

「日本でまだ結核なんて出るのですか」と驚かれる方もいますが、2024年も国内で年間10,051人が新たに結核と診断されています。罹患率は人口10万人あたり8.1まで下がり、低まん延国の水準に達したものの、依然として完全に過去の病気にはなっていません。

BCGは、針を9本束ねたスタンプを2か所に押しつける「管針法(ハンコ注射)」で接種します。これは1950年代から続く日本独自の方式で、注射ではないため針が皮下まで入る必要がなく、乳児にも安全に行えます。1924年に日本にBCG菌がもたらされ、1965年には日本で作られたTokyo 172株がWHOの国際参照品に指定されています。日本のBCGは、世界基準の水準にあります。

 

6.MR(麻しん・風しん混合)ワクチン

種類:生ワクチン  接種時期:1歳時(第1期)と就学前1年間(第2期)の計2回

麻しん(はしか)は、空気感染する感染症のなかで最強クラスの感染力を持ちます。免疫のない人が同じ部屋にいれば、ほぼ確実に感染すると言われるほどです。発症すると高熱、発疹、咳が続き、約1,000人に1人が脳炎を合併します。

風しんは、子ども本人にとっては比較的軽症ですが、妊娠初期の女性に感染すると、生まれてくる赤ちゃんに難聴、心臓病、白内障などの「先天性風しん症候群」を引き起こすことがあります。子ども自身を守るだけでなく、社会全体から風しんウイルスを減らすという公衆衛生的な意義の大きいワクチンです。

日本では2006年から1歳と就学前の2回接種が始まりました。1回接種で約95%、2回接種で97〜99%の人が免疫を獲得します。2015年3月には、WHO西太平洋地域事務局から日本が「麻しん排除状態」にあると認定されました。今は海外からの持ち込みを防ぎ、排除状態を維持するためにワクチンを打ち続けている時代です。

 

7.水痘(水ぼうそう)ワクチン

種類:生ワクチン  接種時期:1歳以降に2回(標準は3か月〜1年の間隔)

水ぼうそうは、強い感染力を持つウイルス感染症で、ほとんどの場合は数日のかゆみと発疹で済みますが、重症化すると脳炎、肺炎、皮膚の細菌感染を起こし、まれに死亡例もあります。日本では定期接種化前、年間約100万人が罹患し、約4,000人が入院、約20人が亡くなっていたと推定されていました(国立感染症研究所)。

もうひとつの重要な意義は、将来の「帯状疱疹」予防です。水痘ウイルスは、水ぼうそうが治った後も神経の中に潜伏し続け、加齢や疲労などで免疫が落ちると再活性化して帯状疱疹を引き起こします。ワクチンで感染そのものを防げば、潜伏ウイルスを減らせる可能性があります。

実は、世界中で使われている水痘ワクチンの株(Oka株)は、1974年に大阪大学の高橋理明博士らによって日本で開発されたものです。1985年にはWHOから「もっとも望ましい弱毒生水痘ワクチン株」と認められました。日本発のワクチンが、いまも世界中の子どもを守っているという事実は、誇りに思っていい話だと思います。日本では2014年10月に定期接種となり、その後の研究では、定期接種化により水痘発生率が約45.6%減少したと報告されています。

 

8.おたふくかぜ(ムンプス)ワクチン ── 制度上は任意接種です

種類:生ワクチン  接種時期:1歳と就学前の計2回(任意接種、安城市では公費助成あり)

ここまで紹介してきた7種類のワクチンと違い、おたふくかぜワクチンは現在も「任意接種」です。つまり予防接種法に基づく定期接種ではなく、制度上は受けるかどうかを保護者が判断するワクチンに位置づけられています。ただし安城市では公費助成が用意されており、2026年4月1日からは制度が拡充されました。1歳から就学前1年間(年長児相当)までの間に、最大2回まで1回あたり2,000円の助成が受けられます。これまでは「1歳児」と「年長児」の特定の時期に助成券が送られてくる仕組みでしたが、現在は接種当日に医療機関で申請書を提出する形に変わり、接種タイミングの自由度が高まりました。事実上、定期接種に近い形で運用されているのが現状です。当院でも、ほかの定期接種と同様に1歳と就学前の2回接種を強くお勧めしています。

制度の話を先に書いたのは、「任意だから無理に打たなくてもいいのでは」という誤解を避けたいためです。医学的には、おたふくかぜは決して軽い病気ではありません。

もっとも警戒すべき合併症は、ムンプス難聴です。片耳もしくは両耳の聴力を一生失う、治療法のない後遺症で、日本耳鼻咽喉科学会が2015〜2016年に行った全国調査では、2年間で348人がムンプス難聴と診断され、303人に難聴後遺症が残ったことが分かりました(うち両耳難聴16人)。発症頻度はおたふくかぜ患者400〜1,000人に1人と推計されています。そのほか、無菌性髄膜炎、精巣炎、卵巣炎、膵炎などの合併症もあり、大人になってからかかると重症化しやすい病気です。

日本では1980年代に承認され、現在も定期化に至っていません。世界保健機関(WHO)の集計によれば、おたふくかぜワクチンは120以上の国で定期接種に組み込まれており、先進国の中で定期化されていないのは日本だけです。日本小児科学会も早期の定期化を求め続けています。制度の議論はこれからも続きますが、お子さんの聴力を守るという意味では、いま接種できる環境にある以上、迷う理由は多くありません。

 

9.日本脳炎ワクチン

種類:不活化ワクチン  接種時期:3歳から計3回(第1期)、9〜12歳に1回(第2期)

日本脳炎は、コガタアカイエカというブタを介してウイルスを運ぶ蚊が媒介する重篤な脳炎です。発症すると20〜40%が亡くなり、生存しても45〜70%に神経学的な後遺症が残ると報告されています。

「最近聞かないけれど、まだ必要なのですか」とよく聞かれます。1966年には全国で2,017人の患者が発生していましたが、1992年以降は年間10人以下まで激減しました(令和3年は3人)。これはワクチンの定期接種が効いている証拠です。一方で、毎夏ブタの体内では今もウイルスが増えており、感染の機会自体はなくなっていません。

2005年に、当時の旧ワクチンで重い副反応が報告されたことを受けて、一時的に積極的勧奨が控えられた時期がありました。しかし2009年に安全性の高い新ワクチンが導入され、現在は通常通り接種が行われています。ワクチンによって罹患リスクを75〜95%減らせるとされています。

 

10.HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン

種類:不活化ワクチン  接種時期:小学6年生〜高校1年生相当の女子が定期接種対象(男子は任意)

HPVワクチンは、子宮頸がんを防ぐワクチンです。日本では年間約1.1万人が子宮頸がんになり、約2,900人が亡くなっています。20〜30代で発症するケースも多く、若い女性が治療のために子宮を失い、妊娠ができなくなることも少なくありません。

子宮頸がんの原因のほとんどはHPV(ヒトパピローマウイルス)の持続感染です。ワクチンが対象とするタイプ(16型、18型など)による前がん病変は、ワクチン接種でほぼ完全に予防できることが分かっています。子宮頸がん全体としても、原因の50〜70%(9価ワクチンでは80〜90%)を防ぐことができます。

日本では2013年4月に定期接種化されましたが、同年6月に副反応の懸念から「積極的勧奨の差し控え」が行われ、約9年間、対象者にお知らせが届かない状態が続きました。その間、海外の研究で安全性と有効性が確認されたことを受け、2022年4月から積極的勧奨が再開されました。差し控え期間に接種機会を逃した世代には、キャッチアップ接種制度が用意されています。

男子も任意で接種可能です。男性自身の中咽頭がん、肛門がん、尖圭コンジローマの予防につながり、また性的パートナーとなる女性への感染源を減らす意味もあります。

 

最後に──保護者の方へ

10種類のワクチンを並べると、「こんなに必要なのか」と圧倒されるかもしれません。けれども、ひとつひとつのワクチンの背景には、それを必要とした子どもたちの歴史があります。BCGは終戦直後の結核流行を、ヒブと肺炎球菌は2000年代までの細菌性髄膜炎の悲しい症例を、ロタは脱水で命を落とす赤ちゃんたちを、HPVは若くして子宮を失う女性たちを、それぞれ具体的に念頭に置いて作られています。

予防接種スケジュールは複雑で、間隔や順序にもルールがあります。母子手帳の記録を見て不安になったり、いつ何を打てばよいか分からなくなったりしたときは、いつでもなかのこどもクリニックにご相談ください。1本ずつの注射には、お子さんの未来を守るための、確かな理由があります。
またスケジュール通りうてなかった場合の任意接種にも対応します。お子さんの年齢や途中までの接種回数などから、そのときに適切なワクチンスケジュールを提案します。遠慮なくご相談ください。

 

主な参考資料

・厚生労働省「予防接種情報」各ワクチンページ

・国立健康危機管理研究機構(旧 国立感染症研究所)感染症情報提供サイト

・日本小児科学会「日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール」

・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「ムンプス難聴の全国調査結果報告」(2017年)

・国立成育医療研究センター プレスリリース「水痘ワクチン定期接種化の影響」(2023年)

・大阪大学微生物病研究会(BIKEN財団)公開資料