コラムcolumn
病気の話

おなかの風邪「急性胃腸炎」- 嘔吐・下痢の時のホームケア

突然の嘔吐!これって何?

お子さんが突然吐いたり、下痢が始まったりすると、とても心配になりますよね。「急性胃腸炎」は、ウイルスや細菌がおなかの中に入り込んで悪さをすることで起こる、子どもによくある病気です。一般的に「おなかの風邪」や「感染性胃腸炎」とも呼ばれます。

原因はほとんどがウイルス

急性胃腸炎の主な原因はウイルスです。特に冬場に流行するノロウイルスと、乳幼児に多いロタウイルスが有名です。
ロタウイルス:生後6か月から2歳をピークに、5歳までにほぼすべての子どもが感染すると言われています[1]。日本の調査では、ロタウイルスワクチンが定期接種になる前は、5歳未満の小児の入院を要する胃腸炎の約半数がロタウイルスによるものでした[2]。
ノロウイルス:感染力が非常に強く、少量でも感染するため、家族内や保育園などで広がりやすいのが特徴です。一年中発生しますが、特に11月から2月にかけて流行します。
その他、アデノウイルスやサポウイルスなども原因となります。

どんな症状が出るの?

嘔吐:突然、何度も吐いてしまうことが多いです。
下痢:水のような便(水様便)が1日に何回も出ます。ロタウイルスでは、白っぽい米のとぎ汁のような便が出ることがあります。
腹痛
発熱
症状はウイルスの種類によっても異なりますが、通常は数日から1週間ほどで回復します。

お家でのケア:一番大切なのは「水分補給」

胃腸炎の治療で最も重要なのは、脱水を防ぐことです。ウイルスに直接効く薬はないため、お子さんの体の水分が失われないようにサポートすることが、お家での一番の仕事になります。

水分補給のコツ

吐き気が強い時に一度にたくさん飲ませると、また吐いてしまうことがあります。焦らず、以下のポイントを試してみてください。
1.吐き気が落ち着くまで待つ:最後の嘔吐から30分~1時間ほどは、おなかを休ませましょう。
2.少量から始める:まずはスプーン1杯やペットボトルのキャップ1杯(5~10ml)の水分からスタートします。
3.5~10分おきに繰り返す:飲んでも吐かなければ、5~10分おきに同じ量を飲ませます。
4.少しずつ量を増やす:30分~1時間ほど吐かずにいられたら、少しずつ1回に飲ませる量を増やしていきます。

何を飲ませればいいの?

経口補水液(ORS)が最も推奨されます。薬局やドラッグストアで購入でき、体から失われた水分と塩分(電解質)を効率よく補給できます。
しかし、経口補水液は塩味があり、お子さんが嫌がって飲んでくれないこともありますよね。そんな時は、無理強いしなくても大丈夫です。
ポイント:薄めたりんごジュースも有効です 2016年に発表されたカナダの研究では、軽症の胃腸炎のお子さんに対して、水で半分に薄めたりんごジュースを与えたところ、経口補水液を与えたグループよりも治療の失敗(点滴が必要になるなど)が少なかった、という結果が出ています[5]。りんごジュースの方が味が良く、お子さんが喜んで飲んでくれるためだと考えられています。軽症の場合は、お子さんが飲みやすいものを優先してあげましょう。イオン飲料や麦茶、湯冷ましなどでも構いません。
注意:オレンジジュースなどの柑橘系の飲み物や、糖分の多いジュースは、下痢を悪化させることがあるので避けましょう。

食事はどうする?

吐き気が治まり、食欲が出てきたら、消化の良いものから始めましょう。
おかゆ、うどん
すりおろしたりんご
野菜スープ
白身魚
無理に食べさせる必要はありません。食事よりも水分補給を優先してください。

こんな時は病院へ:見逃さないで!脱水のサイン

お家でのケアが基本ですが、脱水が進むと危険な状態になることもあります。以下のサインが見られたら、すぐに医療機関を受診してください。
おしっこの量が少ない、色が濃い(半日以上おしっこが出ていない)
泣いても涙が出ない
口や舌が乾いている
ぐったりして元気がない、あやしても笑わない
顔色が悪い、皮膚にはりがない
その他、血便が出た激しい腹痛が続く嘔吐が止まらず水分が全く取れない場合も、すぐに受診が必要です。

家族にうつさないために

手洗い:おむつ交換の後や、吐いたものの処理をした後は、石けんと流水で30秒以上かけて丁寧に手を洗いましょう。アルコール消毒はノロウイルスには効きにくいので、手洗いが基本です。
吐いたものの処理:使い捨ての手袋とマスクをして、ペーパータオルなどで静かに拭き取ります。拭き取った後は、次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤を薄めたもの)で消毒しましょう。
タオルの共用は避ける

まとめ

お子さんの嘔吐や下痢は、見ているだけでも辛いものですが、適切な水分補給で乗り切れることがほとんどです。脱水のサインに気を付けながら、焦らず、お子さんの回復をサポートしてあげてください。判断に迷う時や心配な時は、遠慮なくかかりつけ医に相談しましょう。
参考文献
5.Freedman SB, et al. Effect of Dilute Apple Juice and Preferred Fluids vs Electrolyte Maintenance Solution on Treatment Failure Among Children With Mild Gastroenteritis: A Randomized Clinical Trial. JAMA. 2016;315(18):1966-1974.