コラムcolumn
病気の話

1歳前後の「食べない」が気になったら ── 食の初心者マークと、家庭でできること

離乳食後期から完了期にかけて、「口に入れない」「入れても出す」「投げる」「泣く」といった相談が増えます。困った行動に見えますが、この月齢では発達上ごく「ふつう」のことです。今回は、なぜ食べないのか、そしてエビデンスに基づいて家庭で何ができるのかを整理します。

「食べない子」は珍しくない

「うちの子だけ食べない」と感じるかもしれません。でも、研究データを見ると景色が変わります。

米国の全国調査(Carruthら、2004年、乳幼児3,022人)では、保護者が「偏食がある」と感じる割合は生後4か月で19%でしたが、24か月では50%まで上がりました。つまり12歳のころには、2人に1人の親が「うちの子は食べない」と感じている計算です。

台湾の調査(Chaoら、2018年)でも偏食の有病率は54%、英国の大規模コホートALSPAC14,000人以上)では偏食のピークは38か月(約32か月)前後でした。1歳前後はまさに「偏食が芽生える入口」にいます。

そして心強いデータもあります。Stanfordの縦断研究(Mascolaら、2010年)では、偏食児の58%2年以内に自然に改善しています。半数以上は「通り過ぎる時期」です。

なお、偏食には世界的に統一された定義がなく、有病率は研究によって850%と幅があります。この分野はまだエビデンスが発展途上であることも知っておいてください。

なぜ食べないのか──3つの理由

食べないと「栄養が足りない」「作り方がまずい」と自分を責めたくなります。でも、食べない原因は料理の腕とはほぼ関係ありません。

新しい食べ物は「モンスター」に見えている

見たことのない食べ物は、赤ちゃんにとって未知の物体です。これは新奇性恐怖(food neophobia)と呼ばれ、18か月ごろから強まり26歳がピークとされています(Doveyら、2008年)。もともと用心深い気質の子ほど「食べ慣れないもの=怖い」と感じやすく、これは生存のための防衛本能であり、「わがまま」とは別の話です。

食べることの「初心者」である

離乳食後期〜完了期の赤ちゃんは、噛む・飲み込む・手づかみ・スプーンを持つ——すべてが練習中です。口に入れても出す、噛んだけど飲み込めない、丸のみする。これらは「失敗」ではなく「練習の途中」です。WHOの補完食ガイドライン(2023年)でも、この時期は「健康的な食品を受け入れ、長期的な食のパターンを確立する重要な発達期」と位置づけられています。

「食べさせようとする」こと自体が食を狭くしている可能性

「一口だけでも」「おいしいよ」「せっかく作ったのに」——親の気持ちとしては自然です。でも、これらはすべて「強制」にあたります。スプーンで口に運ぶ、食べるかどうかを家族でじっと見る——これも強制の一種です。

複数の研究統合(Jansenら、2017年ほか)で、親がプレッシャーをかけるほど子どもの偏食行動が強まる傾向が示されています。WHO/UNICEF2023年の研究まとめでも、「食事を強制しない」「空腹と満腹のサインを読み取る」ことが明確に推奨されています。

親子の気持ちは鏡です。パパ・ママがリラックスすると、子どもの表情と態度が変わります。

食卓での「役割分担」を決める

偏食への対応で最も根幹にある考え方は、「親と子の仕事を分ける」ことです。

米国の栄養士・家族療法士Ellyn Satterが提唱した「食事の役割分担モデル」では、以下のように整理されています。

保護者が決めること:

  • なにを出すか
  • いつ出すか
  • どこで食べるか

赤ちゃんが決めること:

  • 食べるか食べないか
  • どれくらい食べるか
  • どうやって食べるか

この役割分担に沿った食事の関わりが、子どもの栄養リスクを下げることも検証されています(Lohseら、2021年)。また、子どもの食べる量に親が介入しない場合、体重が適正に保たれやすく、空腹でないのに食べてしまう行動も少なくなったという報告があります(Satter2014年)。

WHOの補完食ガイドライン(2023年)でも、623か月の子どもには「レスポンシブ・フィーディング」——子どもが自分のペースで、おなかのサインに応じて食べることを促す関わり——が「強い推奨」として示されています。

つまり、スプーンで口に運ぶ・一口だけ食べさせる——それは「赤ちゃんの仕事」を奪っています。口を閉じる、顔をそむける、手で払いのける——これは「もういらない」のサインです。吐き出しても、食べ物を触るだけでも、今はそれでOKです。

食事の「時間」と「空間」をデザインする

食べないときにメニューを工夫したくなりますが、実はそれ以上に効くのが「いつ・どこで食べるか」の設計です。

時間のデザイン:「おなかがすいた」をつくる

いつでも授乳やおやつをあげられる環境は、空腹感をまひさせます。食事の間隔を2.53時間あけること、1回の食事は1530分で切り上げることが目安です。母乳・ミルクなら飲んで1時間あければ食事にできます。

1日のスケジュール例(1歳前後):

  • 6:30 起床・授乳またはミルク
  • 7:30 朝食(離乳食)
  • 10:00 軽食+お茶や水
  • 12:00 昼食
  • 15:00 軽食+授乳またはミルク
  • 18:00 夕食
  • 20:00 授乳またはミルク就寝

食事時間を決めて2週間ほど続けると、空腹感のリズムができてきます。「早起き」がリズムづくりの出発点です。

空間のデザイン:「食べさせる」のではなく「食べやすくする」

  • 椅子とテーブルの高さ──足首・膝・股関節が90°、足の裏が床か足置きに全面つく。合わなければタオルやクッションで調整。テーブルはおへそと胸の間の高さが目安。
  • テレビ・おもちゃはオフ──この月齢では「食べること」と「バランスをとって座ること」の同時処理だけで精一杯です。
  • 食器はシンプルに──キャラクターつきは食器に気が散ります。食べ物が目立つ白や無地の器がベター。
  • 手づかみ食べOK──スプーンの上達にこだわるより「触って食べる」を優先。手づかみは食べ物の感触を学ぶ大事なステップです。
  • 口や手を食事中に拭かない──食事中に口まわりをぬぐうのは感覚過敏のもとになることがあります。食卓を離れてから洗いましょう。

パパやママ、きょうだいと同じものを一緒に食べるだけで、赤ちゃんの食べる量が増えるという知見もあります。「赤ちゃん専用メニュー」をわざわざ用意する必要はなく、大人の食事から味付け前に取り分けるだけで十分です。

8回以上は出す」──繰り返し提示のエビデンス

苦手な食材を12回出して食べなかったら「嫌いなんだ」とメニューから外したくなります。でも、食べなかったのは「まだ慣れていないだけ」かもしれません。

米国農務省(USDA)の研究まとめ(Spillら、2019年、21研究を統合)では、11回、810日以上野菜や果物を繰り返し出すと、424か月の乳幼児でその食品を受け入れやすくなることが示されました。さらに、同じ種類の別の食品にも効果が広がる(野菜別の野菜)ことも確認されています。2025年の米国食事摂取基準諮問委員会でも、この結論が再確認されました。

育児書でよく見る「1015回で食べるようになる」は1980年代の研究に由来しますが、実際には56回で食べ始める子もいれば、30回以上かかるケースもあります(Nekitsingら、2021年)。回数はあくまで目安で、個人差が大きいことを知っておいてください。

大事なのは「食べさせる」のではなく「食卓にそっと置く」こと。ペースは中2日あけてゆっくりでもOK。見る触る口に入れる食べる、のステップはゆっくりでいい。けっしてせかさず、そっと見守ってあげてください。

食べ物と「友達になる」工夫:

  • 食事の準備を一緒にする(野菜を洗う、ちぎるなど)
  • 食べ物を触る・においをかぐ──「食べなくてもOK」の段階で十分
  • 絵本で食べ物を見せる(食育絵本は0歳からでも効果的)
  • おもちゃの食材でおままごとをする
  • 親が目の前でおいしそうに食べて見せる

食事中の行動への「4つの対応」

食べ物を投げる、席を立とうとする、泣く——この月齢ではよくある行動です。ペアレントトレーニングの手法に基づいた4つの対応を紹介します。

  1. 好ましくない行動に「注目しない」

「こら!」「またやってる!」と反応すると、注目されたと感じて繰り返します。表情を変えず、視線を外して、おさまるまで待ちましょう。好ましい行動が出たらすぐほめます。

  1. 好ましい行動を「ほめる」

25%ルール──完璧でなくても、ほんの少しでもできていればほめる。食べ物を手に取っただけでも「○○さわれたね!」。座っているだけでも「すわっていてえらいね」。

  1. 具体的に「指示する」

おだやかに(Calm)、近づいて(Close)、静かに(Quiet)。CCQがおまじない。「ちゃんとしなさい」ではなく「すわって食べよう」。理解できる短い言葉で1回だけ。

  1. やる気を「引き出す」

「バナナとリンゴ、どっち?」と選ばせる。「もうすぐごはんだよ」と予告して気持ちの準備をさせる。自分で決めると、気持ちよく動けます。

これらの対応は保護者だけでなく、祖父母など子どもと関わるすべての人が同じように行うことが大事です。

受診の目安──「見守る」と「見逃さない」の線引き

偏食のほとんどは時間と適切な関わりで改善します。ただし、以下に当てはまる場合は小児科に相談してください。

  • 成長曲線から明らかに外れてきている(体重・身長の伸びが止まった、または減った)
  • 食べられるものが極端に少ない、またはさらに減っている
  • 嘔吐やえずきが頻繁にある
  • 特定の食感を極端に嫌がる(ドロドロしか食べない、固形を一切拒否など)
  • 水分も含めてほとんど口にしない時間が長い
  • 月齢に見合った食形態にまったく進めない

英国の大規模追跡研究(Taylorら、2019年)では、3歳で偏食と判定された子どもの成長を17歳まで追いかけたところ、体重・身長ともに正常範囲内で推移していました。多くの偏食児は成長に大きな問題を起こしません。ただし、偏食の子にやせ傾向がやや多いという報告もあるため、成長曲線のフォローは大切です。

成長曲線に沿って体重・身長が伸びていれば、食べる量が少なく見えても今のところ大きな心配はいりません。乳児健診や定期受診のたびに確認していきましょう。

まとめ──今日からできること

  1. スプーンで運ぶのをやめる──赤ちゃんが口を開けない・顔をそむけるなら「いらない」のサイン。WHOも推奨するレスポンシブ・フィーディングの基本です。
  2. 食事のリズムをつくる──3食+12回の軽食、間隔は2.53時間。授乳やミルクもスケジュールに組み込み「ほどよい空腹」をつくる。
  3. 同じ食卓で同じものを食べる──赤ちゃん専用メニューは不要。大人の食事から取り分けるだけで十分です。
  4. 苦手なものは「置くだけ」を8回以上──食べなくてもOK。見慣れるだけで次のステップにつながります。
  5. 食べたことではなく、触ろうとしたことをほめる──手に取っただけ、座っているだけ、それで十分です。

キレイに食べること、早く食べることが「えらい」のではありません。目指すのは、食べることを好きになること。だから──「たのしく!」

ここまで読んで「うちはこんなにうまくいかないよ」と思った方、それがふつうです。食事の悩みは正解がひとつではないので、困ったときは気軽に相談してください。外来でもLINEでも、一緒に考えます。

 

この記事は一般的な情報提供を目的としています。お子さまの状態が心配な場合は、かかりつけ医にご相談ください。

参考にしたパンフレット

本記事の「役割分担」「4つの対応」「時間と空間のデザイン」は、神奈川県立こども医療センター偏食外来のパンフレット(心の準備編・はじめの一歩編・ステップアップ編、著:大山牧子)を参考にしています。以下のリンクから無料でダウンロードできます。

https://kanagawa-syounihokenkyoukai.jp/pamphlet/

参考文献

  1. Carruth BR, et al. J Am Diet Assoc. 2004;104(Suppl 1):s57-64.
  2. Chao HC, et al. Front Pediatr. 2018;6:22.
  3. Emmett PM, et al. ALSPAC data. As cited in: Kozioł-Kozakowska A, et al. Nutrients. 2025;17(24):3884.
  4. Mascola AJ, et al. Eat Behav. 2010;11(4):253-257.
  5. Taylor CM, et al. Proc Nutr Soc. 2018;77(4):1-9.
  6. Dovey TM, et al. Appetite. 2008;50(2-3):181-193.
  7. WHO. Guideline for complementary feeding of infants and young children 6–23 months of age. 2023.
  8. Jansen PW, et al. Nutr Rev. 2017;75(7):516-532.
  9. WHO/UNICEF. Responsive feeding SR. 2023.
  10. Satter E. The Satter Feeding Dynamics Model. Ellyn Satter Institute.
  11. Lohse B, et al. J Nutr Educ Behav. 2021;53(3):209-216.
  12. Satter E. Am J Clin Nutr. 2014;99(6):1565-1566.
  13. Spill MK, et al. Am J Clin Nutr. 2019;109(Suppl 7):978S-989S.
  14. USDA/NESR. 2025 DGAC SR: Repeated exposure and food acceptance.
  15. Nekitsing C, et al. Foods. 2021;10(5):913.
  16. Taylor CM, et al. Eur J Clin Nutr. 2019;73:869-878.