こどもの便秘
「何日もうんちが出ない」「うんちの時に泣いて痛がる」「おなかが張って食欲がない」——こどもの便秘は、保護者の方が思っている以上に多い疾患です。小児の約10〜30%が便秘を経験するとされ、小児科外来の受診理由としても非常に多いものです。
「たかが便秘」と思われがちですが、こどもの便秘は放置すると悪循環に陥りやすく、治療に長い時間がかかることがあります。この記事では、小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン(2013年版、2025年版)に基づいて、便秘の原因・治療・予後をお伝えします。
1. こどもの便秘とは
「何日出なければ便秘」という明確な日数の基準があるわけではありません。排便が週2回以下であることに加え、排便時の痛み、硬い便、排便に長い時間がかかる、おなかの張り、食後の腹痛などがあれば、便秘症として治療を検討します。
重要なのは、毎日排便があっても便秘の場合があるという点です。少量の便が毎日出ていても、腸の中に大量の便が溜まっていることがあります。「毎日出ているから大丈夫」とは限りません。
こどもの便秘のほとんど(90%以上)は、大腸や肛門に構造的な異常のない「機能性便秘」です。生後間もなくからの頑固な便秘、おなかの著しい膨満、成長障害などがある場合は精査が必要です。
2. なぜ便秘になるのか
2-1. 排便のしくみ
正常な排便には、大腸が便を肛門方向へ送る「蠕動運動(ぜんどううんどう)」、便が直腸に到達したときに感じる「便意」、そして肛門の筋肉(外肛門括約筋)をゆるめて腹圧をかけて押し出す「排便協調運動」が必要です。
こどもの便秘の多くは、この一連の流れのどこかがうまくいかないことで始まります。特に多いのが、硬い便や排便時の痛みをきっかけに「排便を我慢する」ようになるパターンです。
2-2. 便秘の悪循環
排便時に痛い思いをすると、お子さんは次から排便を我慢するようになります。我慢すると便は直腸に長くとどまり、水分が吸収されてさらに硬くなります。硬い便はますます出しにくく、痛みも強くなります。こうして「痛い → 我慢する → 便が硬くなる → さらに痛い」という悪循環が形成されます。
便が直腸に長期間溜まり続けると、直腸が拡張(伸びて広がる)して便意を感じにくくなります。これがさらに便秘を悪化させます。この段階になると自然には治りにくく、適切な治療が必要です。
2-3. 排便協調運動障害
通常、排便時には腹圧をかけると同時に外肛門括約筋(肛門を閉める筋肉)をゆるめます。しかし、排便時の痛みへの恐怖から、排便しようとするときにかえって肛門をぎゅっと締めてしまうお子さんがいます。これを「排便協調運動障害」といいます。足をクロスさせて踏ん張るような姿勢は、実は排便を我慢しているサインであることが多いです。
3. 便秘が起きやすい3つの時期
こどもの便秘には、特に起こりやすい時期があります。
3-1. 離乳食の開始期(生後5〜6か月頃〜)
母乳やミルクから離乳食に移行すると、便の性状が変わります。食物繊維や水分のバランスが変化し、便が硬くなりやすくなります。特に離乳食後期に水分摂取が不足すると便秘になりやすい時期です。
3-2. トイレトレーニングの時期(2〜3歳頃)
トイレトレーニングの時期は、お子さんにとって排便が「新しい場所での新しい行為」になります。緊張やプレッシャーから排便を我慢するようになることがあります。トイレが怖い、足が床につかずに踏ん張れないなども便秘の原因になります。
3-3. 就学時(6〜7歳頃)
小学校に入ると、学校のトイレでの排便を恥ずかしがるお子さんが多くなります。休み時間が短い、トイレの個室を使うとからかわれるなどの理由で排便を我慢し、便秘が始まることがあります。この時期に始まった便秘が慢性化するケースも少なくありません。
4. 治療の全体像
こどもの便秘治療は、大きく以下の4つのステップで進めます。
① 便塞栓(べんそくせん)の解除:直腸に大量に溜まった硬い便を出す(disimpaction)
② 維持療法:緩下剤を使って「毎日やわらかい便が出る」状態を維持する
③ 生活指導・排便習慣の確立:食事・水分・トイレ習慣の改善
④ 段階的な減量・中止:十分な期間、良好な排便が維持できたら薬を減らす
5. まず溜まった便を出す——便塞栓の解除
治療の最初のステップは、直腸に溜まっている硬い便の塊(便塞栓)を取り除くことです。便塞栓がある状態で緩下剤だけを飲んでも、便の出口がふさがっているため効果が出にくく、かえって腹痛や「ソイリング」(後述)を起こすことがあります。
便塞栓の解除には、浣腸(グリセリン浣腸)が最も確実な方法です。場合によっては数日間連続で浣腸を行う必要があります。また、モビコール(後述)を通常より多い量で短期間使用して解除する方法もあります。
6. 緩下剤——薬の種類と使い分け
便塞栓を解除した後は、「毎日やわらかい便が出る」状態を維持するために緩下剤を継続します。緩下剤にはいくつかの種類があり、作用の仕方が異なります。
6-1. 浸透圧性下剤(便をやわらかくする薬)
腸の中に水分を引き込んで便をやわらかくする薬です。腸を直接刺激するのではなく、便の水分量を増やすことで自然な排便を促します。こどもの便秘治療の中心となる薬です。
モビコール(マクロゴール4000/ポリエチレングリコール製剤)
ガイドラインで第一選択薬として推奨されている薬です。主成分のポリエチレングリコール(PEG)が腸管内で水分を保持し、便を軟化させ、便の容積を増やすことで蠕動運動を促進します。体内にはほとんど吸収されないため、安全性が高い薬です。
粉薬を水に溶かして飲みます。味がやや塩辛いため、カルピスやリンゴジュースに混ぜると飲みやすくなります。現在、2歳以上の小児に適応がありますが、1歳児への適応拡大も申請されています。
酸化マグネシウム
日本で最も広く使用されている浸透圧性下剤です。1回あたりの量が少なく済むため、お子さんにも飲ませやすいという利点があります。モビコールの量が多くて飲みにくいという場合に、こちらを希望されるご家庭もあります。
ラクツロース(ラグノスNFゼリーなど)
合成の糖類で、腸内で分解されて有機酸を産生し、浸透圧効果で便をやわらかくします。甘味があるため小児でも比較的飲みやすい薬です。
6-2. 刺激性下剤(腸を動かす薬)
大腸を直接刺激して蠕動運動を促進する薬です。ピコスルファート(ラキソベロン)やセンノシド(プルゼニド)などがあります。
浸透圧性下剤で便をやわらかくしても、なかなか排便に至らない場合に「第二の手」として併用します。毎日の維持療法の中心は浸透圧性下剤ですが、それだけでは排便リズムがつきにくいお子さんに、腸の動きを後押しする目的で追加する位置づけです。
なお、浣腸(グリセリン浣腸)は、便塞栓の解除や、数日間排便がないときの「レスキュー」として使います。
6-3. 緩下剤の役割の違い(まとめ)
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種類 |
代表的な薬 |
作用 |
位置づけ |
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浸透圧性下剤 |
モビコール酸化マグネシウムラクツロース |
便に水分を含ませてやわらかくする |
治療の中心毎日使用 |
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刺激性下剤 |
ラキソベロンセンノシド |
腸を直接刺激して動かす |
第二の手浸透圧性下剤で不十分なとき |
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浣腸 |
グリセリン浣腸 |
直腸を刺激して排便反射を誘発 |
便塞栓の解除レスキュー |
7. 治療中に起こる「ソイリング」について
治療中に「パンツが少し汚れる」ことがあります。これを「ソイリング」(便汚染)といいます。保護者の方は「お漏らし?」「わざと?」と戸惑われることが多いのですが、これには明確な理由があります。
長期間の便秘で直腸が拡張すると、硬い便の塊の周囲を、上から下りてきた新しいやわらかい便(または液状の便)がすり抜けて漏れ出ることがあります。これは本人が気づかないうちに起こるもので、意図的なものではありません。直腸が拡張して便意を感じにくくなっていること自体が原因です。
ソイリングが出ているということは、まだ直腸に便が溜まっている状態です。ここで治療をやめてしまうのではなく、むしろ治療を続けていくことが大切です。便塞栓が解消され、直腸のサイズが元に戻っていけば、ソイリングは自然に改善していきます。この過程を乗り越えた先に、便秘の解決があります。お子さんを叱らず、「治療がちゃんと進んでいる途中なんだよ」と伝えてあげてください。
8. 生活指導——排便習慣の確立
トイレに座る習慣
食後(特に朝食後)は「胃結腸反射(いけっちょうはんしゃ)」という仕組みにより、食べ物が胃に入った刺激で大腸の動きが活発になります。この反射を利用して、食後にトイレに5分程度座る習慣をつけることが推奨されています。実際の研究でも、食後15〜30分以内に排便がみられる子どもが多いことが確認されています。
ただし、出なくても叱らないこと。「トイレに座れたこと」自体を褒めてください。排便を強制する場ではなく、リラックスして座れる時間にすることが大切です。
姿勢の工夫
足が床やステップ台にしっかりつき、膝が股関節より少し高くなる姿勢が排便しやすい体勢です。大人用のトイレに補助便座だけで座らせると足がぶらぶらして踏ん張れません。踏み台を置くことで排便がスムーズになることがあります。
食事と水分
食物繊維と十分な水分の摂取が重要です。ただし、食事の改善だけで慢性化した便秘が治ることは難しく、薬物治療との併用が基本です。
9. 治療にはどのくらいかかるのか
ガイドラインによれば、小児の便秘治療には通常6〜24か月の薬物治療が必要とされています。治療開始後2年以内に薬を終了できるのは約50%で、思春期になっても治療の継続が必要なお子さんが約25%いるとされています。
「薬を飲んでうんちが出るようになったから、もう大丈夫」と自己判断で薬を中止するのは最も多い失敗パターンです。直腸がまだ拡張したままの状態で薬をやめると、すぐに便秘が再発します。拡張した直腸が元の大きさに戻るには時間がかかるため、便が順調に出ている状態を数か月以上維持してから、段階的に減量していくことが大切です。
9-1. 薬の減らし方
ガイドラインでは、「少なくとも2か月間の維持療法後、症状が1か月以上消失した状態」が減量開始の目安とされています。実際には、排便が順調な期間がもっと長くなってから慎重に減量するのが望ましいです。
当院では、良好な排便が安定してきたら、緩下剤を少しずつ減量し、経過を見ながら進めます。目安として、2日間排便がなければ元の量に戻す、というルールで管理しています。「減らしてみて、ダメならすぐ戻す」を繰り返しながら、お子さんのペースに合わせて少しずつゴールに近づいていきます。
逆に言えば、早期に適切な治療を開始するほど治療期間は短くなります。「便秘が長引いてから受診する」よりも、「便秘かも?と思った段階で相談する」方が結果的に負担は少なくなります。
10. よくある質問——「緩下剤はクセになりますか?」
最も多いご質問です。結論から言えば、浸透圧性下剤(モビコール・酸化マグネシウムなど)は「クセになる」ことはありません。これらの薬は腸の神経を刺激するのではなく、便の水分量を増やすだけの薬であり、長期間使用しても腸の機能が低下することはありません。
むしろ、薬を使わずに便秘を放置する方が問題です。便が溜まり続けると直腸が拡張し、便意を感じにくくなり、さらに便秘が悪化するという悪循環に陥ります。適切な薬で「毎日やわらかい便が出る」状態を維持し、直腸のサイズが正常に戻るのを待つことが、便秘を根本的に治す近道です。
11. まとめ——受診の目安
以下のような場合は、早めにご相談ください。
- 排便が週2回以下、または排便時に痛がる・泣く
- 便が硬くて太い、または排便に時間がかかる
- おなかが張って食欲が落ちている
- パンツが汚れる(ソイリング)
- トイレトレーニングがうまく進まない
- 以前処方された薬を自己中止して再発した
こどもの便秘は「放置すればするほど治りにくくなる」疾患です。逆に、早い段階で適切な治療を行えば、多くのお子さんが改善します。「たかが便秘」と思わずに、気になることがあればお気軽にご相談ください。
【参考文献・根拠】
- 日本小児栄養消化器肝臓学会・日本小児消化管機能研究会(編). 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン. 診断と治療社, 2013.
- 日本小児栄養消化器肝臓学会・日本小児消化管機能研究会(編). 小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン2025年版. 診断と治療社, 2025.
- Tabbers MM, et al. Evaluation and treatment of functional constipation in infants and children: evidence-based recommendations from ESPGHAN and NASPGHAN. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014.
- Vriesman MH, et al. Management of Functional Constipation in Children: Therapy in Practice. Pediatr Drugs. 2020.
- モビコール配合内用剤LD/HD 添付文書(EAファーマ/持田製薬)

