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病気の話

お子さんの鼻吸引——家庭でできること・やりすぎないこと

「鼻水がつまって息が苦しそう」「おっぱいを飲むたびにむせる」——お子さんの鼻づまりは、保護者の方にとって見ているだけでつらいものです。何かしてあげたいという気持ちから、鼻吸引器を手に取る方は多いと思います。

鼻吸引は家庭でできる数少ないケアの一つです。ただし、「やればやるほどいい」わけではありません。この記事では、鼻吸引でできること・やり方・やりすぎないための目安をまとめます。

1. なぜ鼻吸引をするのか——乳幼児の鼻の特徴

乳児は生後数か月の間、主に鼻で呼吸をしています。口呼吸への切り替えが未熟なため、鼻がつまると呼吸そのものが苦しくなります。大人であれば鼻がつまっても口で呼吸できますが、赤ちゃんにとっての鼻づまりは、大人が想像する以上に大きな負担です。

鼻がつまると哺乳にも影響します。おっぱいやミルクを吸うには鼻で呼吸しながら口で吸う必要があるため、鼻が通らないと上手に飲めず、途中でむせたり、疲れてしまったりします。睡眠も妨げられ、機嫌が悪くなります。

一方、小さなお子さんは自分で鼻をかむことができません。鼻水を体の外に出す手段がないのです。そこで、保護者が鼻吸引器を使って鼻水を取り除いてあげることが、呼吸・哺乳・睡眠を楽にするための現実的な方法になります。

2. 鼻吸引でできること・できないこと

鼻吸引の効果については、実はしっかりした研究がまだ多くありません。ここでは現時点で分かっていることを率直に整理します。

鼻症状が続く日数を短くする可能性がある

喘鳴(ゼーゼー)の既往がある生後3〜72か月のお子さん89人を対象にした海外の研究(Pizzulli et al. 2018)では、風邪をひいたときに家庭用電動吸引器で鼻吸引をしたグループは、吸引をしなかったグループに比べて、鼻の症状(鼻づまり・鼻水・くしゃみ)が続いた日数が短かったと報告されています(平均4.3日 vs 5.7日、約1.4日の差)。

なお、この「4.3日 vs 5.7日」は風邪の全経過(一般に7〜14日)ではなく、保護者が毎日の記録で「鼻の症状あり」とした連続日数です。風邪の後半に咳だけが残っている期間などは含まれていません。

それでも、6歳未満の小児には市販の風邪薬は推奨されておらず、抗菌薬はウイルス性の風邪には効きません。鼻症状を短くする手段がほとんどない中で、「鼻づまりのつらい日が1〜2日減るかもしれない」というのは、家庭でのケアとして意味のある情報です。

ただし、この研究は89人と少人数の初期的な研究であり、今後さらに多くのお子さんを対象にした研究で確認される必要があります。

風邪の予防はできない

同じ研究では、風邪をひく回数には差がありませんでした。鼻吸引は「今ひいている風邪の鼻症状を短くする」助けにはなっても、「次の風邪を防ぐ」効果はありません。

吸引力の強さは結果を変えない

細気管支炎の乳児367人を対象にしたカナダの研究(Schuh et al. 2023)では、病院の壁吸引に匹敵する強い電動吸引器と、ほとんど吸引力のないゴム球型の吸引器を比較しましたが、退院後72時間の再診率・哺乳状態・睡眠に差はありませんでした。「強く吸えばより効く」わけではないということです。

3. やり方——3つのポイント

① 生理食塩水を先に入れる

吸引の前に、生理食塩水(市販の鼻用スプレーや点鼻液)を片方の鼻に1〜2滴ずつ入れ、10〜20秒ほど待ちます。生理食塩水が鼻水をやわらかくし、粘り気のある鼻水も吸い出しやすくなります。乾いた状態でいきなり吸引すると、粘膜を傷つけやすくなります。

生理食塩水で鼻を洗うこと自体に鼻症状を改善する効果があることが、複数の研究で報告されています。吸引の前処置としてだけでなく、洗浄そのものに意味があります。

② 浅く・手前で吸う

吸引器のノズルは鼻の入口付近に当てるだけで十分です。奥に深く入れる必要はありません。

細気管支炎の入院児を対象にした研究(Mussman et al. 2013)では、カテーテルを鼻の奥まで挿入して吸引した場合、入院日数がかえって延びるという結果が出ています。深い吸引は粘膜を腫れさせ、鼻づまりを悪化させる可能性があります。

③ タイミングは哺乳前・就寝前

鼻吸引のベストなタイミングは、哺乳(授乳・ミルク)の前と就寝前です。鼻が通った状態で飲めるようにすること、寝ている間の呼吸を楽にすることが目的です。食後すぐの吸引は嘔吐を誘発することがあるため避けてください。

4. やりすぎないこと——回数と深さの上限

鼻吸引は「やればやるほどいい」ものではありません。やりすぎると鼻の粘膜が腫れて、かえって鼻づまりが悪化します。

  • 回数の目安は1日3〜4回まで。哺乳前と就寝前を中心に、必要な場面に絞ってください
  • ノズルは鼻の入口に当てるだけで十分です。奥に押し込まないでください
  • 吸引のあとに鼻血が出た場合は、吸引が強すぎたか深すぎたサインです。次回から力を弱めてください
  • お子さんが泣いて激しく嫌がる場合は、無理に続けないでください。泣くこと自体が鼻の粘膜をさらに腫れさせ、鼻づまりを悪化させます
  • 哺乳・睡眠・遊びが普通にできている場合は、鼻水が出ていても吸引の必要はありません

大切なのは、鼻吸引は「鼻づまりで困っている場面を楽にする」ための一時的な処置であるという認識です。鼻水そのものは、ウイルスや細菌を体の外に出すための正常な反応でもあります。鼻水が出ていること自体が悪いわけではありません。

5. 吸引器の種類と選び方

家庭で使える鼻吸引器にはいくつかの種類があります。当院では電動式をおすすめしています。

種類

特徴

注意点

電動据え置き型

安定した吸引力。手がふさがりにくく、お子さんを支えやすい

吸引圧の調整に注意。最大圧で使い続けない

電動ハンディ型

持ち運びやすい。外出先でも使える

据え置き型よりやや吸引力が弱い機種もある

口吸い式

安価。吸引力を加減しやすい

保護者への感染リスクあり(後述)

ゴム球型(バルブシリンジ)

最も安価。電源不要

吸引力は弱く持続しない。内部が洗いにくく衛生面に難あり

 

当院が電動式をおすすめする理由

先ほどお伝えしたとおり、吸引力の強さで風邪の経過が変わることはありません。どの種類を選んでも、鼻水を取り除くという基本的な目的は果たせます。それでも当院が電動式をおすすめしているのには、主に衛生面の理由があります。

口吸い式の製品にはフィルターが付いており、「菌を通さない」とされています。しかし、この根拠となっている研究はごく少人数のもので、しかも細菌についてしか調べられていません。風邪の原因のほとんどはウイルスですが、フィルターがウイルスを防げるかどうかは確認されていないのが現状です。お子さんの風邪を看病している最中に保護者まで体調を崩してしまうと、ご家庭全体が大変になります。

また、ゴム球型は内部の構造が複雑で、使用後にしっかり洗浄・乾燥させることが難しく、内部に雑菌が繁殖しやすいという衛生上の問題があります。電動式は分解して洗えるものが多く、使用後の手入れがしやすい点でも安心です。

以前は電動式の吸引器というと1万円以上するものが多く、手が出しにくい印象がありました。しかし最近はだいぶお求めやすい価格の製品が増えており、数千円台から購入できるものもあります。風邪のシーズンに繰り返し使うことを考えると、十分に元は取れる買い物だと思います。

なお、吸引力が強ければ強いほど効くわけではありません。電動式を使う場合も、弱めの設定から始めて、鼻水が取れる最小限の吸引力で使うことをおすすめします。

6. 受診の目安

鼻吸引は家庭でできるケアですが、以下のような場合は医療機関への受診をおすすめします。

  • 鼻づまりで哺乳量が明らかに減っている、体重が増えない
  • 呼吸が速い、肩で息をしている、胸がへこむように呼吸している
  • 鼻水が10日以上続き、改善傾向がない(細菌性の副鼻腔炎の可能性)
  • 黄色・緑色の鼻水とともに高熱が3〜4日以上続いている
  • 耳を痛がる、機嫌が極端に悪い(中耳炎の合併の可能性)
  • 鼻吸引をしても鼻づまりがまったく改善しない

風邪の鼻水は通常7〜10日で改善に向かいます。それ以上続く場合や、一度よくなりかけてから再び悪化した場合は、細菌感染の合併を考える必要があります。

7. まとめ

  • 鼻吸引は、自分で鼻をかめないお子さんの呼吸・哺乳・睡眠を楽にするための家庭でできるケアです
  • 鼻症状(鼻づまり・鼻水)が続く日数を短くする可能性が報告されていますが、風邪の予防はできません
  • 生理食塩水を先に入れる→浅く手前で吸う→哺乳前と就寝前に行う、の手順で
  • 回数は1日3〜4回まで。やりすぎは鼻づまりを悪化させます
  • 感染リスクや衛生面を考え、電動式の吸引器をおすすめします
  • 鼻水が10日以上続く場合、呼吸が苦しそうな場合は受診してください

 

【参考文献】

Pizzulli A, Perna S, Bennewiz A, et al. The impact of nasal aspiration with an automatic device on upper and lower respiratory symptoms in wheezing children. Ital J Pediatr. 2018;44:68.

Schuh S, Coates AL, Sweeney J, et al. Nasal Suctioning Therapy Among Infants With Bronchiolitis Discharged Home From the Emergency Department. JAMA Netw Open. 2023;6(10):e2337810.

Mussman GM, Parker MW, Statile A, et al. Suctioning and Length of Stay in Infants Hospitalized With Bronchiolitis. JAMA Pediatr. 2013;167(5):414-421.

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日本鼻科学会(編). 急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン 2010年版(2013年追補版).

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