コラムcolumn
院長より

子どもの予防接種は、これからどう変わる? 国の最新の議論からわかること

お子さんの予防接種は、いつ・どのワクチンを・どんな費用で受けられるのか。これは最初から決まっていたものではなく、国の専門家会議で一つひとつ議論して決められています。2026年5月20日、その会議のひとつである厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会が開かれ、これからの予防接種の「決め方」を見直す議論が行われました(※1)。少し専門的な内容ですが、ここで決まる方針は、数年後にお子さんが受けるワクチンの中身に直接つながってきます。当院では、保護者の皆さんにも知っておいていただきたいと考え、要点を整理しました。

「ワクチン・ギャップ」は、ほぼ解消した

かつて日本は、海外の先進国と比べて公的に接種できるワクチンの種類が少ない、と指摘されてきました。これを「ワクチン・ギャップ」と呼びます(※1)。世界では推奨されているのに日本では公費で受けられない、という状態が長く続いていました。

この10年あまりで状況は大きく変わりました。今回の会議では、ワクチン・ギャップは現在ほぼ解消されたと報告されています(※1)。長らく残された課題だったおたふくかぜ(ムンプス)についても、新しいMMRワクチン(麻しん・おたふくかぜ・風しんの混合ワクチン)が2026年5月に薬事承認され、最後のピースが埋まりつつあります(※1)。会議でも、2014年当時から関わってきた委員から「隔世の感がある」という声が上がりました(※1)。長年にわたり多くの人が積み重ねてきた努力の成果だと言えます。

いま、どんなワクチンが検討されているのか

ギャップが解消に向かう一方で、新しい課題も生まれています。それは「嬉しい悲鳴」とも言えるものです。

今回の会議資料によると、現在、定期接種にするかどうかを国が同時並行で検討しているワクチンは、次の5つです(※1)。お子さんに関わるものを中心に、今どの段階にあるかを整理します。

おたふくかぜワクチン:2026年5月に新しいMMRワクチンが薬事承認され、専門委員会で完成した評価資料(ファクトシート)をもとに、あらためて定期接種化の議論を行うことになっています(※1)。

②RSウイルスの抗体製剤:新生児・乳児に直接投与してRSウイルスの重症化を防ぐもので、まずこれを「予防接種に用いる医薬品」として法律上位置づけるための提言が2026年4月にまとまりました(※1)。妊婦さんへのRSワクチン(アブリスボ)は2026年4月にすでに定期接種化されており、それに続く動きです。

③HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンの男性への接種:2025年7月に9価HPVワクチンが男性の肛門がんやその前段階、尖圭コンジローマなどに対して承認され、男性への定期接種化に向けた費用対効果などの検討が進められています(※1)。これまで女子のみが定期接種の対象でしたが、男子も対象に加わる可能性が議論されている、ということです。

④造血幹細胞移植を受けた後の予防接種:これは多くの方に関係ないのですが、白血病などの治療で移植を受けると、それまでの予防接種で得た免疫が失われてしまうため、接種し直す必要があります。この費用を公的に支える仕組みが以前から議論されています(※1)。

⑤高齢者向けの新しい肺炎球菌ワクチン(PCV21):これは子どもではなく高齢者が対象です(※1)。

このように、ワクチンの多くは子どもに関わるものです。これだけ多くの候補が挙がるのは喜ばしいことですが、仮に一度に全部が定期接種になると、実際に接種を行う自治体や医療機関の現場が対応しきれない、という現実的な問題が出てきます(※1)。これを迅速に行うシステムの構築も合わせて議論されています。

残された宿題 住む場所による「格差」

今回の会議では、もうひとつ重要な論点が繰り返し取り上げられました。住んでいる自治体によって、ワクチンの自己負担額や接種率に差が生じている、という問題です(※1)。

特に、個人の予防に重点を置く「B類疾病」と呼ばれるワクチンでは、自治体ごとに自己負担の考え方が異なり、数千円単位の差が出ることもあります(※1)。私たちの周りで言うと、安城市はおたふくの補助が厚いですが、近隣の市町村は補助額が小さく、ご家族の負担が大きくなっています。これについて隣の市の住民との間に生まれる差をなくしてほしい、費用負担を透明化してほしい、という意見が出されました(※1)。

まとめ

国の予防接種は、ワクチン・ギャップの解消という大きな到達点を迎え、いまは「増えてきた良いワクチンを、どう賢く現場に届けるか」という新しい段階に入っています。子どもに関わるものだけでも、おたふくかぜ、RSウイルスの抗体製剤、HPVの男性接種などが同時に検討されており、今回の会議では、科学の評価と制度の判断を分ける検討プロセスの見直しが議論されました。今後はより速く・確実に新しいワクチンが定期接種に加わっていくことが期待されます。同時に、住む場所による格差をなくすという宿題も残されています。

保護者の皆さんに今お伝えしたいのは二つです。予防接種のスケジュールは今後も更新されていくので、案内が変わっても戸惑わないでいただきたいこと。そして、制度がどう変わっても、対象時期に入っているワクチンを遅らせずに受けることが、お子さんを守るうえで変わらず大切だということです。新しい情報やお子さんのスケジュールで迷うことがあれば、当院でいつでもご相談ください。


最後に、ひとつ書き添えておきたいことがあります。これだけ次々と新しいワクチンが登場し、制度も速いペースで変わっていく中で、その流れに戸惑いや違和感を覚える方がいらっしゃるのは、とても自然なことだと思います。「本当にこんなに必要なのだろうか」「うちの子に受けさせるべきか迷っている」——そうした気持ちを抱くこと自体は、決しておかしなことではありません。当院は、予防接種をお勧めする立場ではありますが、その考えを一方的に押しつけるつもりはありません。一人ひとりの迷いや不安にはそれぞれ理由があり、その背景に丁寧に耳を傾けたいと考えています。受けることをためらっている方も、どうか遠慮なくご相談ください。納得して決めていただくことが何より大切だと、私たちは考えています。お子さんのことで気がかりなことがあれば、いつでもお声がけください。

参考資料

※1 第65回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(令和8年5月20日開催)資料1「令和9年度からの定期接種について」および当日の議事録. 厚生労働省. *本コラムは、当院が同分科会の公開資料および議事録に基づき、保護者向けに要点を整理したものです。制度の詳細や最新の決定事項については、厚生労働省の公式情報をご確認ください。資料ページ:https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_73264.html