採血やエコーをすれば、おたふくかぜか分かる?
診断が歯切れの悪い説明になる理由と、登園・登校をどう考えるか
お子さんの耳の下が腫れたとき、
「おたふくかぜでしょうか?」
「採血をすれば、はっきり分かりますか?」
と聞かれることがあります。
診察ではおたふくかぜを疑っているにもかかわらず、「おたふくかぜの可能性はありますが、現時点では確定できません」という、少し歯切れの悪い説明になることがあります。これは、医師が判断を避けているからではありません。
現在のおたふくかぜ診療には、次のような限界があります。
- ウイルスを直接調べる検査を、一般外来では日常的に利用しにくい
- 代わりに行われる採血は、ワクチン接種済みのお子さんでは解釈が難しい
- エコーで耳下腺の炎症は確認できても、原因がムンプスかどうかは分からない
今回は、なぜおたふくかぜの診断が難しいのかを、現在の検査制度とともに説明します。
通常の採血では、ウイルスそのものを探していません
一般には、採血をすると、血液の中からおたふくかぜのウイルスが直接見つかるように思われるかもしれません。
しかし、通常のおたふくかぜの血液検査では、ムンプスウイルスそのものを探しているわけではありません。
採血で調べているのは、ムンプスウイルスが体に入ったときに、免疫が作る「抗体」です。
つまり、調べているのは、「血液の中にムンプスウイルスがいるか」ではなく、「ムンプスウイルスに対して、体が反応した形跡があるか」ということです。
犯人そのものを捕まえる検査ではなく、体の中に残された「足あと」や「対応記録」を調べていると考えると分かりやすいと思います。
通常の採血では、そもそもムンプスウイルスそのものを探していないからです。
ウイルスを直接調べるにはPCR検査を使います
ムンプスウイルスをより直接的に調べる方法はあります。
コロナで有名になったPCR検査です。
PCR検査では、ウイルスを顕微鏡で見つけるのではなく、検体に含まれるウイルスの遺伝子を増やして検出します。
したがって、「ウイルスが小さすぎるから、直接調べられない」ということではありません。
ムンプスのPCR検査では、通常は血液ではなく、唾液腺の出口に近い頬の内側をぬぐった検体を使用します。PCRが陽性であれば、検体中にムンプスウイルスの遺伝子が存在することを確認できるため、現在ある検査の中では最も直接的な方法です。
しかし、日本の一般外来ではPCRを日常的に使えません
PCRという検査方法が医学的に認められていないわけではありません。むしろ、確定診断には適した検査です。
ところが現在の日本では、インフルエンザや新型コロナウイルスの検査のように、一般の小児科外来から保険診療で日常的に提出できる標準的な検査として整備されていません。
集団発生や重い合併症が疑われる場合などには、保健所や公的検査機関を通じて検査を相談できることがあります。しかし、耳下腺が腫れて受診したすべてのお子さんに、その日の外来で実施できる検査ではありません。
つまり現在の制度は、「ウイルスを直接調べる方法はあるが、一般診療では日常的に利用できない」という状態です。
これが、おたふくかぜの診療が歯切れの悪い説明になりやすい大きな理由です。
PCR検査も、陰性なら完全に否定できるわけではありません
PCR検査が利用できれば、すべて解決するわけでもありません。
発症から検体採取までに時間がたっていたり、検体中のウイルス量が少なかったりすると、実際にはムンプスに感染していても陰性になることがあります。
特にワクチン接種済みのお子さんでは、唾液に排出されるウイルス量が少なく、排出される期間も短いことがあります。
PCRは、陽性であればムンプスを確認できるものの、陰性だから絶対にムンプスではない、とまでは言えない
検査です。
採血で調べるIgMとIgGとは何でしょうか
採血でおたふくかぜを調べる場合には、主に「IgM」と「IgG」という2種類の抗体を測定します。少し難しいですが、大事なところなので詳しく説明します。
IgMは「はじめまして」の抗体
体があるウイルスに初めて出会ったとき、早い段階で作られやすいのがIgMです。
ムンプスウイルスに初めて出会った免疫が、「はじめまして。まずは急いで対応します」と作る、初動対応の抗体と考えると分かりやすいと思います。
その後、免疫はIgGという抗体を作るようになります。
IgGは「また会いましたね」の抗体
一度ウイルスに出会うと、一部の免疫細胞は、その相手の特徴を記憶します。この細胞を「記憶B細胞」といいます。
再び同じウイルスに出会ったときには、記憶B細胞が、「また会いましたね。前にも対応した相手です」と素早く反応し、IgGを早く、たくさん作ります。
正確には、IgGそのものが相手を覚えているわけではありません。記憶B細胞が相手を覚えており、再会したときにIgGを素早く作るという仕組みです。
分かりやすくまとめると、
IgMは「はじめまして」
IgGは「また会いましたね」
となります。
ワクチンは、免疫に予行演習をさせるものです
おたふくかぜワクチンは、実際のおたふくかぜにかかる前に、免疫へムンプスウイルスの特徴を覚えさせます。
初めてワクチンを接種すると、免疫はムンプスウイルスの特徴に反応し、IgMに続いてIgGを作ります。同時に、記憶B細胞も作られます。
2回目のワクチンを接種したときや、その後に本物のムンプスウイルスに出会ったときには、免疫にとっては「はじめまして」ではありません。
すでに作られている記憶B細胞が、「また会いましたね」と素早く反応します。
これは、ワクチンが目的どおり免疫の記憶を作った結果です。
ワクチン接種済みだと、抗体検査が分かりにくくなります
ワクチン接種済みのお子さんがムンプスウイルスに感染した場合、免疫にとっては初めての出会いではありません。
そのため、「また会いましたね」というIgGを中心とした反応が素早く起こる一方、「はじめまして」のIgMがはっきり上がらないことがあります。
したがって、IgMが陰性だったので、おたふくかぜではありませんとは言えません。
一方、ワクチン接種済みのお子さんでは、今回耳下腺が腫れる前から、ワクチンによるIgGを持っていることがあります。
そのため、IgGが陽性だったとしても、
- ワクチンによって作られたIgGなのか
- 過去の感染によって作られたIgGなのか
- 今回の感染によって増えたIgGなのか
を、1回の採血だけで区別することはできません。
つまり、
IgGが陽性だったので、今回がおたふくかぜです
とも言えないのです。
さらに、急性期と数週間後に2回採血してIgGの上昇を見る方法もあります。しかし、ワクチン接種済みのお子さんでは、症状が出た時点ですでにIgGが上昇していることがあります。そのため、2回目の採血でも診断に使えるほどの変化を確認できない場合があります。
つまり、ワクチン接種済みのお子さんでは、
- IgMが陰性でも否定できない
- IgGが陽性でも確定できない
- 2回採血しても、はっきりしないことがある
ということになります。つまり「採血をしたのに何も言えないという事態が大いにあり得る」ということです。
ワクチンが診断を悪くしたのではありません。ワクチンによって免疫の記憶が作られたため、従来の抗体検査を単純に読めなくなった一方で、ウイルスを直接調べるPCRが一般外来で使える制度になっていないことが問題です。
言い換えれば、
ワクチン後の免疫反応に、現在の検査体制が十分追いついていない
ということです。
当院では、確認だけを目的とした採血は基本的に行いません
当院では、全身状態が良好で、通常の耳下腺炎の経過であり、検査結果によって治療や感染対策が変わらない場合、おたふくかぜかどうかを確認するためだけの採血は基本的に行っていません。
実際には、ほとんどのケースで採血をしていません。
採血をしても、
- IgM陰性で否定できない
- IgG陽性で確定できない
- 2回採血しても結論が出ないことがある
からです。
一方で、採血はお子さんにとって何も負担のない行為ではありません。針を刺す痛みや恐怖があります。
検査は、実施できるから行うものではありません。
その検査結果によって、次の判断が変わるのかが大切です。
保険診療で算定できる検査であることと、そのお子さんに必要な検査であることは別です。
エコーをすれば分かるのでしょうか
とはいえ他に方法はないのか。
耳下腺が腫れたときに、超音波検査、いわゆるエコーを行うことがあります。
エコーは体への負担が少なく、その場で画像を確認できる便利な検査です。
エコーを使うことで、
- 本当に耳下腺が腫れているのか
- 耳下腺ではなく周囲のリンパ節が腫れているのか
- 膿がたまっていないか
- 唾液の通り道に明らかな異常がないか
などを確認できることがあります。耳下腺そのものと周囲の組織を区別する目的には、エコーは役立ちます。
しかし、ここで大切なのは、
「エコーで耳下腺炎を確認すること」と「その耳下腺炎の原因がムンプスウイルスだと確認すること」は、まったく別だということです。
ムンプスウイルスを画像で見ているわけではありません。
エコーだけで、ムンプスと反復性耳下腺炎は区別できません
反復性耳下腺炎では、耳下腺内部に複数の小さな低エコー域が見られることがあります。
このため、「この所見があれば反復性耳下腺炎と診断できる」と説明されることがあります。
しかし、ここには注意が必要です。
「反復性耳下腺炎で見られることがある所見」と、「この所見があればムンプスではないと言える所見」は同じではありません。
反復性耳下腺炎の超音波所見を扱った報告はありますが、小規模な症例集積が中心です。急性ムンプス患者と直接比較し、感度や特異度を十分に検証した診断精度データは乏しいのが現状です。
すくなくとも「耳下腺は腫れているが、エコーでムンプスは否定できるから登園登校していいです」といえるレベルで、証明することは難しいです。
陰性と言い切れない場合は、感染対策を優先します
おたふくかぜを疑う耳下腺腫脹があり、ムンプスを十分に否定できない場合には、原因が確定していなくても、感染対策上はムンプスの可能性があるものとして対応します。
これは、「ムンプスと確定した」という意味ではありません。
ムンプスでないとまでは言えないため、周囲への感染を避ける側に判断するという意味です。
採血もエコーも、結果によってこの判断を変えられないのであれば、登園・登校を早めるための検査にはなりません。
学校保健安全法施行規則では、流行性耳下腺炎の出席停止期間は、「耳下腺、顎下腺または舌下腺の腫れが現れた後5日を経過し、かつ全身状態が良好になるまで」と定められています。
「おたふくじゃないかもしれないのにお休みしないといけないんですか?」と言われることもありますが、その通りです。
感染対策上、お休みで経過を見ることとお願いしています。
繰り返し腫れたときに、初めて分かることがあります
耳下腺の腫れが一度治った後、しばらくして再び同じように腫れることがあります。
この場合に考えるのが「反復性耳下腺炎」です。ただし、「反復性」という名前のとおり、初めて腫れた時点では、反復性耳下腺炎と診断することはできません。
初回の診察時には、まだ「繰り返した」という情報が存在しないからです。
その後に再び腫れたことで、初めて、前回の腫れも、反復性耳下腺炎の最初の発作だったのかもしれないと考えられるようになります。
必要に応じて、腫れている時期や、腫れが引いた時期にエコーを行い、経過と画像を組み合わせて診断を見直します。
反復性耳下腺炎は、1回の画像で言い当てる病気というよりも、時間の経過によって診断が見えてくる病気です。
結果的に、おたふくかぜではない場合もあります
初診時にはおたふくかぜを疑っていたものの、その後に同じ腫れを繰り返し、結果的に反復性耳下腺炎と考えられることがあります。
これは、採血やエコーをしなかったから分からなかった、という単純な話ではありません。
採血をしても確定できないことがあり、エコーでも原因ウイルスは判定できず、より直接的なPCRも一般外来で日常的に利用できないためです。
おたふくワクチンの接種率が悪かった頃は、この悩みも少なかったのですが、接種率が上がってきたが故に、感染管理が難しくなってしまったということになります。
だからこそ、その後の経過を一緒にみせてください
このような理由で、おたふくかぜの診療が歯切れの悪い説明になるのには、理由があります。
どれだけ丁寧に診察しても、初診の段階では診断を確定できないことが多いです。
しかし、そこで診療が終わるわけではありません。
初診時の所見を記録し、現時点で分かることと分からないことを共有し、必要な感染対策を行います。
再び腫れたときには、最初の診断に固執せず、新しく得られた情報を加えて診断を見直します。
結果的に、おたふくかぜではない場合もあります。だからこそ、その後の経過を一緒にフォローさせてください。
検査をしないことは、何も調べていないということではありません。
検査が何を答えられるのか、何を答えられないのかを理解したうえで、お子さんに不必要な負担をかけず、診察とその後の経過から診断を積み重ねていく。
それが、当院がおたふくかぜを疑うお子さんを診療するときに大切にしている考え方です。
お子さんや親御さんにご負担をおかけして心苦しいのですが、なにとぞよろしくお願いします。
主な参考資料
- 国立健康危機管理研究機構「流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)」
- 国立健康危機管理研究機構「おたふくかぜワクチンファクトシート(第2版)」
- CDC「Laboratory Testing for Mumps」
- CDC「Serology to Diagnose Mumps」
- e-Gov法令検索「学校保健安全法施行規則」
- Nozaki H, et al. Ultrasonographic features of recurrent parotitis in childhood.
- Resende EA, et al. Ultrasound imaging of salivary gland inflammatory conditions: a scoping review.
- 国立健康危機管理研究機構「流行性耳下腺炎サーベイランスにおける検査診断の必要性の検討」

