子どもの立ちくらみは貧血?①
貧血は、本当に立ちくらみを起こすのか
「立ちくらみがするので、貧血の検査をしてください」
学童期から思春期のお子さんの診察で、よく受けるご相談です。
最初に、問いへそのままお答えします。
貧血は、立ちくらみを起こします。
ただし、立ちくらみがあるだけで「貧血だ」と判断することはできません。貧血があっても立ちくらみがない子もいれば、血液検査が正常でも立ちくらみが起こる子もいます。
今回は、「貧血が立ちくらみを起こす仕組み」と「どのようなときに採血を考えるのか」に絞って説明します。
貧血で、なぜ立ちくらみが起こるのでしょう
赤血球の中にあるヘモグロビンは、肺で受け取った酸素を脳や筋肉へ運んでいます。
貧血とは、このヘモグロビンが年齢や性別に応じた基準より少なくなった状態です。血液が運べる酸素の量が減るため、立ちくらみ、疲れやすさ、頭痛、動悸、運動時の息切れなどが起こり得ます(※1、※2)。
一方、体には心拍数を増やしたり、大切な臓器へ血液を優先的に送ったりして、酸素不足を補う仕組みがあります。そのため、軽い貧血やゆっくり進んだ貧血では、ほとんど症状がないこともあります(※2)。
反対に、短期間に進んだ貧血、出血を伴う貧血、程度の強い貧血では、症状が出やすくなります。
貧血の症状は、立ったときだけではありません
貧血による症状は、必ずしも立ち上がった瞬間だけに起こるわけではありません。
貧血が原因であれば、次のような症状が一緒にみられることがあります。
- 姿勢に関係なく疲れやすい
- 階段や体育で以前より息が切れる
- 動悸がする、脈が速い感じがする
- 顔色が悪いと言われる
- 頭痛が続く
ただし、これらも貧血だけに特有の症状ではありません。「立ったときだけか」「それ以外の時間もつらいか」を含め、症状の組み合わせと経過を見て、採血が必要かを考えます。
採血を考えたい手がかり
立ちくらみが一度あっただけで、すべてのお子さんに採血が必要とは限りません。
一方、次のような手がかりがあれば、まず血算で貧血の有無を調べ、必要に応じて体内の鉄の状態も確認する意味があります(※3、※5)。
- 月経量が多い、月経が長引く、衣類や寝具まで漏れる
- 月経以外にも出血が続く、出血しやすさが気になる
- 食事量が少ない、偏食が強い、鉄を含む食品をほとんどとらない
- 蒼白、疲労、運動時の息切れや動悸が続く
- 症状が強く、生活や登校、運動に影響している
これは「一つでも当てはまれば必ず採血」という基準ではありません。診察では、月経やほかの出血、食事、体重変化、服薬、発熱や慢性疾患の有無なども確認して判断します。
鉄は「貯める・運ぶ・使う」の流れで考えます
食事から吸収された鉄は、血液中でトランスフェリンというたんぱく質に乗って骨髄へ運ばれ、赤血球のヘモグロビンをつくる材料になります。すぐに使わない鉄は、主にフェリチンというたんぱく質に包まれて蓄えられます。
ここで血液中のフェリチンを測るのは、「これからヘモグロビンをつくるための鉄の在庫」を推定するためです(※2、※3、※4)。
検査では、鉄の流れのどこを見ているかを分けて考えます。
- 血算・ヘモグロビン:すでに貧血になっているか、赤血球の大きさなどに変化があるか
- フェリチン:体内に蓄えている鉄がどのくらい残っているか
- トランスフェリン飽和度:鉄を運ぶトランスフェリンに、どのくらい鉄が乗っているか
トランスフェリン飽和度は、ときに「鉄の利用率」のように説明されますが、正確には鉄が細胞で何%使われたかを測る検査ではありません。必要に応じて、つくられたばかりの赤血球に鉄が届いているかを見る網赤血球ヘモグロビン量なども追加します。すべてのお子さんに、これらを一律に測るわけではありません(※2、※3)。
鉄が不足し始めると、ヘモグロビンが下がる前に、まず蓄えていた鉄が減ってフェリチンが低くなることがあります。さらに不足が進み、赤血球づくりに使える鉄が足りなくなると、やがてヘモグロビンが低下して鉄欠乏性貧血になります。ただし、この変化の現れ方は、出血や炎症などの状況によって異なります(※2、※3)。
また、フェリチンは発熱や炎症があると、本来より高く見えることがあります。血清鉄も、食事や採血した時刻などで変動します。そのため、一つの数字だけで判断せず、血算、複数の鉄指標、症状、食事や出血の有無、検査時の体調を合わせて解釈します(※2、※3、※4)。
ヘモグロビンが正常でフェリチンだけが低い場合は、「鉄の蓄えが減っている」ことは示します。しかし、それだけで立ちくらみの原因が鉄欠乏だと証明されたわけではありません。貧血がなければ、少なくとも「ヘモグロビンが少ないために酸素を運べない」という仕組みとは分けて考える必要があります。
鉄剤は「立ちくらみの薬」ではありません
鉄欠乏や鉄欠乏性貧血が確認された場合は、食事、月経やほかの出血など原因を調べ、そのうえで鉄を補います(※3)。
一方、立ちくらみだけを理由に、市販の鉄サプリメントや鉄剤を自己判断で始めることは勧めません。
貧血には鉄欠乏以外の原因もあります。また、鉄欠乏がなければ、鉄を飲んでも立ちくらみの原因治療にはなりません。
症状が起きたときの対応と、受診の目安
立ちくらみが起きたら、まず座るか横になり、転倒を防いでください。落ち着いて意識がはっきりしていれば、水分を少しずつとります。
次の場合は、早めに医療機関へ相談してください。
- 実際に意識を失った
- 息苦しさや強い動悸が続く
- 顔色が明らかに悪く、普段どおり動けない
- 出血が続いている
- 月経量が多く、立っていられないほどふらつく
意識が戻らない、呼吸がおかしい、大量の出血が続いている場合は、救急要請を考えてください。
血液検査が正常でも、立ちくらみは起こります
採血で分かるのは、貧血や鉄欠乏があるかどうかです。採血だけで、立ちくらみの原因すべてが分かるわけではありません。
特に、立ったときに起こり、座る・横になると軽くなる立ちくらみでは、血液の中身ではなく、立ったときの循環調節が関係していることがあります。
その代表が、起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)です。第2回では、採血が正常でも立ちくらみが起こる仕組みを説明します(※6)。
まとめ――貧血は原因になりますが、症状だけでは分かりません
- 貧血は、血液が運べる酸素の量を減らし、立ちくらみを起こします。
- 軽い貧血では症状がないこともあり、反対に貧血がなくても立ちくらみは起こります。
- 姿勢との関係、疲労、息切れ、動悸、蒼白、月経やほかの出血、食事などを合わせて、採血の必要性を判断します。
- 症状が出たら、まず座るか横になって安全を確保してください。

参考文献
※1 World Health Organization. Anaemia. Updated 2025.
※2 Gallagher PG. Anemia in the pediatric patient. Blood. 2022;140(6):571-593.

