コラムcolumn
薬・おうちケア

離乳食は、大人の料理を薄めたものではありません

赤ちゃんのごはんが「こんなに薄味」でよい理由

離乳食をひと口味見して、
「ほとんど味がしない」
「これでは食べてくれないのでは」と心配になったことはありませんか。

その心配は自然です。私たちは、大人の舌で「おいしいかどうか」を確かめるからです。
けれども離乳食は、大人の料理を小さくしたり、薄めたりしたものではありません。
母乳やミルクを飲んでいた赤ちゃんが、食べ物を口に取り込み、つぶし、飲み込み、いろいろな味に出会っていくための食事です。
結論から言えば、大人が味見をして「少し物足りない」と感じるくらいで大丈夫です。

 

別物なのは「献立」ではなく「仕上げの基準」です

離乳食は、赤ちゃんの発達に合わせた食事です。
しかし、毎回別の鍋で、まったく別の献立を作らなければならない、という意味ではありません。家族と同じ食材を使って構いません。
違うのは、完成したときの基準です。

  • 歯ぐきや舌でつぶせる固さか
  • 飲み込みやすい大きさか
  • 骨や硬い皮などが残っていないか
  • 大人の味付けになっていないか

親御さんが食べている「完成後の料理」は、そのまま赤ちゃんが食べるものではありません。
取り分けるなら、味付けをする前です。
煮物なら調味料を入れる前に、みそ汁ならみそを溶く前に、赤ちゃんの分を取り分けます。そのあとで、発達に合う固さと大きさに整えます(※1)。
「同じ食卓を囲むこと」と「同じ味付けにすること」は、別の話です。


薄味にする理由は、ふたつあります

1.赤ちゃんの体の大きさと、腎臓の発達

食塩に含まれるナトリウムは、主に腎臓が水分とともに調整しています。
乳児の腎機能はまだ発達の途中にあり、体も大人よりずっと小さいため、大人と同じ濃さを前提にはできません(※3)。

2.調味料以外からもナトリウムをとっている

母乳やミルク、肉、魚、パンなどにも、もともとナトリウムは含まれています。
味付けで足すことを前提にすると、一日の総量は思ったより増えやすくなります。
「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では、6~11か月のナトリウムの目安量は1日600mg、食塩相当量では1.5gです(※2)。
ただし、これは一日の飲食物すべてを合わせた目安です。
「調味料として1.5gまで足してよい」という意味ではありません。また、これを超えたら健康被害が出るという上限を示す数字でもありません。
国の「授乳・離乳の支援ガイド」も、離乳の開始頃には調味料は必要なく、進んでから使う場合も、素材の味を生かした薄味を勧めています(※1)。
一度、大人の料理をなめてしまったから腎臓が傷む、という話ではありません。
大切なのは、毎日の基準を大人の味に置かないことです。


「甘い味に慣れてしまう」のが心配な方へ

ここは、少し言葉を正確にしておきたいところです。
赤ちゃんは甘さをあとから覚えるというより、生まれつき甘味を受け入れやすい性質を持っています(※4)。
甘さは、赤ちゃんにとって分かりやすい「おいしい」の合図になりやすいのです。
だからといって、果物や母乳の自然な甘さまで避ける必要はありません。
気をつけたいのは、食べないたびに砂糖を足すことや、甘い飲み物・お菓子を日常の基準にすることです。世界保健機関(WHO)も、6~23か月の子どもには、糖や塩の多い食品と加糖飲料を避けるよう勧めています(※5)。
一方で、「一度甘いものを食べたら、将来ずっと甘党になる」とまでは言えません。
近年のレビューでも、甘味に触れることが、その後の甘味嗜好そのものを強めるという証拠は一貫していません(※6)。必要以上に怖がらなくて大丈夫です。

では、なぜ毎日の薄味を大切にするのでしょうか。
塩味については、早い時期に食べたものと、その後の塩味の受け入れ方との関連を示す小規模研究があります。ただし、因果関係が証明されたわけではありません(※8)。
日々の食事が、少しずつ「味の基準」に関わっていく可能性がある、という程度に受け止めてください。
そして野菜などは、最初に顔をしかめても、日を変えてまた少量を出すうちに受け入れやすくなることがあります(※7)。

赤ちゃんの時期は警戒心が旺盛です。何でも食べてしまうと危険なので、とりあえず警戒から入るようになっていると考えてください。ただおうちの人が5回、10回と食卓に出し続けることで「これは悪いものじゃないんだな。食べられるものなんだな。どんな味がするのかな?」と変わっていきます。目の前で親御さんが同じものを食べてもらえると、まねをしたくなるお子さんが8割とされているので、さらに食べやすくなります。

砂糖で味を隠すより、素材のまま何度か出会う機会をつくる方が、離乳食の目的に合っています。


味付け前に、ひとさじ分ける

薄味の離乳食を続けるために、特別な料理を増やす必要はありません。

  1. 家族の料理を作る途中で、調味前の食材を取り分ける
  2. 赤ちゃんの発達に合わせて、やわらかさと大きさを整える
  3. 野菜の煮汁やだしなど、食材そのものの香りとうま味を生かす
  4. 食べないときは甘くして追いかけず、いったん終えて別の日にまた出す
  5. 市販品は、対象月齢だけでなく原材料や栄養成分表示も見る

大人が味見をして物足りなくても、失敗ではありません。
赤ちゃんは今、大人と同じ味を食べる練習をしているのではなく、食べ物そのものを知る練習をしています。

味付けよりも「そもそも食べてくれない」ことが気になる場合は、当院コラム「1歳前後の『食べない』が気になったら ── 食の初心者マークと、家庭でできること」もあわせてお読みください。


薄味より先に、相談していただきたいこともあります

味付けを工夫するより先に、相談していただいた方がよい場合があります。

  • 成長曲線に沿って体重が増えていない
  • 食べるたびにむせたり、咳き込んだりする
  • 嘔吐を繰り返す
  • 食べられる物が極端に少ない、または減り続けている
  • 月齢に合った固さへ、なかなか進めない

このようなときは、単なる「薄味が嫌い」と決めてしまわず、小児科や乳幼児健診でご相談ください。

まとめ

離乳食は、大人の料理を薄めたものではありません。
別物なのは、鍋や献立ではなく、赤ちゃんに合わせた仕上げの基準です。家族の料理から味付け前に取り分ければ、無理なく続けられます。
赤ちゃんは甘味を受け入れやすいからこそ、食べさせるために甘さを足す必要はありません。
素材の味に、少しずつ、何度も出会わせてあげてください。
次の食事では、調味料を入れる直前に、赤ちゃんの分をひとさじ取り分ける。まずは、そこからで十分です。

参考文献

※1 「授乳・離乳の支援ガイド(2019年改定版)」(こども家庭庁掲載)

※2 厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2025年版)

※3 Quigley R. Developmental changes in renal function. Curr Opin Pediatr. 2012. PMID: 22426155

※4 Mennella JA, Bobowski NK. The sweetness and bitterness of childhood. Physiol Behav. 2015. PMID: 26002822

※5 World Health Organization. WHO Guideline for complementary feeding of infants and young children 6–23 months of age. 2023.

※6 Mela DJ, Risso D. Does sweetness exposure drive ‘sweet tooth’? Br J Nutr. 2024. PMID: 38403648

※7 Spill MK, et al. Repeated exposure to food and food acceptability in infants and toddlers: a systematic review. Am J Clin Nutr. 2019. PMID: 30982874

※8 Stein LJ, Cowart BJ, Beauchamp GK. The development of salty taste acceptance is related to dietary experience in human infants. Am J Clin Nutr. 2012. PMID: 22189260