コラムcolumn
予防接種

ロタワクチンは14週6日を1日過ぎたら、もう接種できない?

ロタリックス・ロタテックの開始時期を考える

「ロタワクチンの初回は14週6日まで」と聞いて、あわてて相談されることがあります。
では、15週0日になった瞬間に、急に危険なワクチンへ変わるのでしょうか。
結論からお伝えすると、14週6日と15週0日の間に、体の仕組みが急変するわけではありません。ただし、15週0日以降は初回接種の安全性データが十分でなく、腸重積症の自然発生も月齢とともに増えるため、現在の国内ルールでは初回接種を原則として勧めていません(※1、2)。
一方で、「1日でも過ぎたら、どのような事情があっても絶対に接種しない」という意味でもありません。医学的な理由で接種機会を逃した赤ちゃんでは、十分な説明と同意のもと、例外的に個別検討する余地が残されています(※2、3)。


まず知っておきたい接種時期

ロタウイルスワクチンは、生後6週0日から接種できます。標準的には、ほかの乳児期ワクチンと同じ生後2か月に始め、初回を出生14週6日後までに行います(※1)。

  • ロタリックス:27日以上の間隔で2回接種。出生24週0日後までに完了
  • ロタテック:27日以上の間隔で3回接種。出生32週0日後までに完了

どちらも、初回は出生14週6日後までが推奨です。製品を替えれば、開始時期の問題を避けられるわけではありません(※4、5)。
出生15週0日後以降は、標準的な開始時期の外です。ただし、それだけで「禁忌」「一律に接種禁止」という意味ではありません。
日本小児科学会は、医学的な理由で接種機会を逃した赤ちゃんを例外的に検討する場合でも、残りの接種を完了できるよう、初回はロタリックスなら出生20週0日後まで、ロタテックなら出生24週0日後までとしています。これは例外時の技術的な最終ラインであり、初回接種の推奨期間がそこまで延びたという意味ではありません(※3)。


なぜ「14週6日まで」なのか

理由は、主に3つあります。

1.腸重積症は月齢とともに増える

腸重積症は、腸の一部が隣の腸の中へ入り込む病気です。ワクチンを受けていない赤ちゃんにも起こり、乳児期の早い時期より、月齢が進んでから増えてきます(※1)。
日本の研究でも、腸重積症は0~2か月では少なく、3~5か月になると増え、6~8か月でさらに多くなることが確認されています(※10)。
ただし、15週0日を境に突然増えるわけではありません。月齢が上がるにつれて、もともとの起こりやすさが少しずつ高まっていきます。
そのため、同じ「接種後の短いリスク上昇」でも、自然発生が少ない低月齢で接種した方がよいと考えられます。

2.初回接種後の約1週間に、リスクが少し上がる

ロタリックス、ロタテックとも、初回接種後7日間を中心に腸重積症のリスクが一時的に上がることが、海外の市販後調査で確認されています。日本小児科学会は、接種によって追加されるのは数万人に1人程度とまとめています(※3、6)。
まれなリスクですが、無視してよいわけではありません。だからこそ、できるだけ低月齢のうちに接種することが勧められています。

3.15週以降に初回接種した安全性データが乏しい

「安全性が確立していない」とは、「危険だと証明された」という意味ではありません。15週以降に開始した赤ちゃんを十分な人数集め、低月齢で開始した赤ちゃんと同じ精度で比較したデータがない、という意味です。
承認前には、どちらのワクチンも6万人を超える乳児で試験されました。しかし、1回目はほぼ生後6~13週までに行われ、15週以降に初めて接種した赤ちゃんは十分に調べられていません(※11、12)。
これらの試験では、低月齢から開始した場合に大きな問題は見つかりませんでした。けれども、その結果だけで15週以降に開始した場合の安全性まで判断することはできません(※11、12)。
2021年のコクランレビュー(いろんなデータを集めて作るレビュー)でも、多くの試験をまとめた結果、試験の中では腸重積症の明らかな増加を捉えられませんでした。ただし、腸重積症はまれなので、後の市販後調査で見つかった小さな増加まで否定できるわけではありません。また、15週以降に初めて接種した赤ちゃんだけを調べた結論でもありません(※13)。

つまり、14週6日は「危険が突然始まる日」ではなく、月齢に伴う自然発生の増加と、直接データがある範囲を踏まえて設けられた安全側の境界です。


「10万人あたり5.6件」を、人数で考えると

Kochらの分析では、生後3か月以降に1回目を接種すると、接種後1週間の腸重積症が「10万人あたり5.6件」追加されると推定されました(※7)。
人数に置き換えると、およそ1万8,000人に1人です。
ただし、これは15週台の赤ちゃんだけを実際に10万人追跡した数字ではありません。複数の国の研究結果と、ドイツで自然に起こる腸重積症の頻度を組み合わせた計算上の推定です。
一方、日本のデータから計算すると、3~5か月の赤ちゃんでは、接種をしていなくても、任意の1週間におよそ3万2,000人に1人が腸重積症になる規模です(※10)。
この2つの数字は、意味が違います。

  • 約1万8,000人に1人:接種によって追加されると推定された分
  • 約3万2,000人に1人:接種とは関係なく自然に起こる分

ただし、国も調べ方も違うため、この2つを足したり、直接比べたりして、日本の赤ちゃんの正確な確率を出すことはできません。
ここで伝えたいのは、どちらもまれではあるものの、月齢が上がるほど腸重積症そのものが起こりやすくなるため、初回接種は早い方が安全側だということです。15週0日になった瞬間に、危険が急に跳ね上がるという意味ではありません。


「接種後の腸重積」と「ロタ感染後の腸重積」を比べてよい?

ここは、天秤の置き方に注意が必要です。
野生型のロタウイルス感染が腸重積症を起こす、という明確な因果関係は確認されていません。2020年の文献レビューでは、ロタウイルスを調べた12の評価のうち9つで有意な関連がなく、全体として関連を支持しませんでした(※8)。

したがって、比較するべきなのは、

  • 接種後約1週間に増える、小さな腸重積症リスク
  • 接種しないことで残る、ロタウイルス胃腸炎による激しい嘔吐・下痢、脱水、点滴や入院のリスク  です。

ロタワクチンは、ロタウイルス胃腸炎による入院を約70~90%減らしたと報告されています(※1)。この便益があるからこそ、世界保健機関は、接種が遅れやすくロタによる死亡が多い国では、遅れた子どもにも接種機会を広げる方針を採っています。ただし、これは高死亡地域を含む世界的な判断であり、そのまま日本の15週台の赤ちゃん一人ひとりに当てはめることはできません(※9)。


15週台なら、場合によっては接種を考えてよいのか

出生15週0日以降は標準的な開始時期の外であり、日常的に勧める時期ではありません。一方、接種そのものが一律に禁止される時期でもありません。
当院では、早産や長期入院など医学的な理由で接種機会を得られなかった場合に、安全性データの限界をご説明したうえで、例外的に個別検討します。

厚生労働省の実施要領には、「出生15週0日後以降に初回接種を行う場合、安全性が確立していないことを十分に説明し、同意を得た場合に接種する」、と記載されています(※2)。日本小児科学会も、早産や長期入院など医学的な理由で接種機会を得られなかった乳児では、例外的な検討を認めています。その場合は、腸重積症の診断・治療ができる二次医療機関との連携も重視しています(※3)。

個別検討では、単に「15週台だから大丈夫そう」とは考えません。

  • 接種が遅れた理由
  • 正確な週齢と、ロタリックスは出生24週0日後、ロタテックは出生32週0日後までに全回数を完了できるか
  • 腸重積症の既往、未治療の先天性消化管障害、重症複合型免疫不全症など、接種できない条件がないか
  • 15週以降の安全性データが不十分であることを、ご家族が理解しているか
  • 接種後に症状が出たとき、速やかに受診し、必要な治療につなげられるか

を確認します。

15週台だけを切り出した精密なリスク値はありません。「15週台なら安全」と断定することも、「15週0日を過ぎた瞬間に危険」と断定することも、現在のデータからはできません。最終判断は、赤ちゃんの事情、ロタウイルス胃腸炎の重症化予防という便益、腸重積症の短期リスク、接種後の診療体制を含め、接種医療機関で行います。ご希望があっても、安全性や接種後の診療体制を考慮し、接種しない判断になることがあります。


接種後1週間は、腸重積症の症状を知っておく

14週6日までに接種しても、腸重積症が起こらないわけではありません。特に初回接種後7日間は、次の症状に注意してください(※1、3)。

  • 突然激しく泣く、不機嫌を繰り返す
  • 嘔吐を繰り返す
  • 便に血が混じる
  • ぐったりする、顔色が悪い

全部そろうのを待つ必要はありません。どれか一つでも気になる症状があれば、早めに医療機関へ相談してください。

 

まとめ

ロタリックス、ロタテックの初回接種は、原則として出生14週6日後までです。いちばん安全で、迷いが少ないのは、生後2か月になったら先延ばしにせず始めることです。
14週6日は生物学的な崖ではありません。しかし、15週以降に開始した赤ちゃんを十分な人数で直接評価した試験がなく、月齢とともに腸重積症の背景リスクも上がるため、日常的に遅らせてよい境界でもありません。
医学的な理由で機会を逃した場合は、原則非推奨を確認したうえで、例外的な個別検討があり得ます。その場合も、初回の技術的な最終ラインはロタリックスが出生20週0日後、ロタテックが出生24週0日後、全接種の完了はそれぞれ出生24週0日後、出生32週0日後です。
「もう1日過ぎたから終わり」と自己判断せず、できるだけ早く接種医へ相談してください。

参考資料

※1 厚生労働省「ロタウイルスワクチン」

※2 厚生労働省「定期接種実施要領」

※3 日本小児科学会「ロタウイルスワクチンの初回接種時期について(第2版)」

※4 医薬品医療機器総合機構「ロタリックス内用液 添付文書」

※5 医薬品医療機器総合機構「ロタテック内用液 添付文書」

※6 Rosillon D, et al. Pediatr Infect Dis J. 2015;34:763-768. PMID: 26069948.

※7 Koch J, et al. Dtsch Arztebl Int. 2017;114:255-262. PMID: 28468712.

※8 Burnett E, et al. Pediatr Infect Dis J. 2020;39:1127-1130. PMID: 33060518.

※9 World Health Organization. Rotavirus vaccines: WHO position paper. 2021.

※10 Noguchi A, et al. Jpn J Infect Dis. 2012;65:301-305. DOI: 10.7883/yoken.65.301.

※11 Ruiz-Palacios GM, et al. N Engl J Med. 2006;354:11-22. PMID: 16394298.

※12 Vesikari T, et al. N Engl J Med. 2006;354:23-33. PMID: 16394299.

※13 Bergman H, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2021;11:CD008521. PMID: 34788488.