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赤ちゃんの胸がへこむ。「陥没呼吸」は、どこを見ればいい?

「息を吸うたびに、みぞおちがへこんでいます」「泣くと胸が大きくへこむのですが、大丈夫でしょうか」。
小さな胸の動きを見ていると、これが普通なのか、苦しいのか、迷うことがあります。夜中に何度も呼吸を確かめている保護者の方もいると思います。

陥没呼吸は、呼吸の負担を知るための大切な所見です。ただし、赤ちゃんの胸は柔らかく、正常でも軽くへこむことがあります。へこみの深さだけで判断せず、落ち着いたときの呼吸、飲み方、顔色、そして「いつもとの違い」を一緒に見てください。


なぜ、息を吸うと胸がへこむのでしょう

私たちは、肺の下にある横隔膜などの筋肉を動かして息を吸っています。胸の中の圧力が下がることで肺が膨らみ、空気が入ってきます。この圧力が下がることを「陰圧」といいます。私たちが肺に空気を押し込んでいるのではなく、肺が空気を吸い込んでいるということです。

いつも使っているストローの途中を、少しつまんだところを想像してください。同じ量を同じ時間で吸おうとすると、通り道が狭くなった分、強く吸う必要があります。風邪などで空気の通り道が腫れたり、分泌物がたまったりしたときも、同じように空気を取り込もうとすると、いつもより力が必要になります。

これは、同じ赤ちゃんの「普段」と「通り道が狭くなったとき」の比較です。赤ちゃんは気道だけでなく肺も小さいので、ストローの太さだけで大人と比べることはできません。また、強く吸おうとしても、十分な空気が入らない場合があります。(※1)

強く吸うと、引き寄せる力が働きます。息を吸ったときに頬が内側へくぼむ様子を思い浮かべると、柔らかい部分がへこむ理由をイメージしやすいと思います。胸と頬は同じ構造ではありませんが、「内側の圧力が下がると、柔らかい壁はへこむ」という点は共通しています。ストローは空気の通り道、へこむ壁は胸の壁に相当します。

赤ちゃんの肋骨や軟骨でできた胸の枠組みは、まだ柔らかい状態です。横隔膜が収縮すると、胸の中の圧力が下がるとともに、つながっている下の肋骨にも力が伝わります。胸の枠組みと周囲の筋肉がそれを支えますが、支えの柔らかい赤ちゃんでは、胸の一部が内側へ動きやすいのです。(※2、3)

肋骨の間や下、みぞおち、首の付け根などが、息を吸うたびに引き込まれる。これが陥没呼吸です。見え方には「吸う力の強さ」と「胸の変形しやすさ」の両方が関係します。肺炎などで肺が膨らみにくくなったときにも、強い吸気の力が必要になり、陥没が起こります。(※2、4)


泣いているときだけ、大きくへこむ場合

赤ちゃんは、泣く合間に勢いよく息を吸い込みます。胸の柔らかさも重なり、普段よりへこみが目立つことがあります。そのため、泣いている最中の胸だけを見て、重症かどうかを判断しません。
WHOの診察手順でも、泣いているときや授乳中だけに見えるへこみは、その分類でいう「胸壁陥没」として数えません。落ち着いているときに、下の胸の壁が吸気とともに内側へ引き込まれるかを見ます。これは評価する条件をそろえるためのルールです。(※5)

泣きやむとへこみがなくなり、呼吸も落ち着く。顔色がよく、いつもどおり飲めて、反応も普段と変わらない。このような場合は、泣いたときのへこみだけを理由に救急受診を急ぐ必要は通常ありません。
ただし、「泣いているときだけなら、どんなへこみも大丈夫」という意味ではありません。息を吸うときに毎回高い音がする、飲みにくい、体重が増えにくいといった様子があれば、落ち着くと改善しても診察で確認します。


生後2か月未満では、正常でも軽いへこみが見られます

特に生後2か月未満は胸の壁が柔らかく、普段の呼吸でも軽い陥没が見られることがあります。WHOも、生後0〜59日の赤ちゃんでは軽い胸壁陥没が正常に見られると説明し、深く、はっきり分かる強い陥没を重視しています。生後2か月を境に、胸が急に硬くなるという意味ではありません。(※3、6)
胸の硬さや形、筋肉の支え方にも個人差があります。同じように息を吸っていても、胸の中央や下の縁の動きが目立つ子もいます。「息を吸うと少しへこむ」という見た目だけで、胸の病気の名前が決まるわけではありません。

以前から同じ動きで、楽に呼吸し、よく飲み、育っているのか。それとも、風邪をひいてから新しくへこみ始めたのか、いつもより深くなったのか。この違いが大切です。一度も確認されていないへこみが続く場合は、小児科で相談してください。普段の胸の動きを診察で確認しておくと、病気のときにも比べやすくなります。


呼吸が苦しいと、なぜ飲みにくくなるのでしょう

赤ちゃんは、ミルクを飲み込むたびに、呼吸をほんの短い間止めています。ミルクが気管へ入らないよう、のどの気道を閉じ、呼吸の動きも一時的に抑えるためです。鼻が通っていても、飲み込む瞬間には呼吸を続けられません。(※7)

元気なときは、飲み込む合間に息をして、上手に飲み進めます。ところが呼吸が苦しいと、息をする時間を十分に取りながら飲むことが難しくなります。少し吸っては休む、乳首を離して息をする、といった飲み方になることがあります。

実際に赤ちゃんの吸う動作・飲み込み・呼吸を調べた研究では、ミルクを飲まない「吸うだけ」の動作では換気量が減らず、飲み込みの頻度が増えると換気量が減りました。「吸う運動で疲れる」だけでなく、「飲み込むために呼吸を中断する時間が必要」という点が大切です。(※7)

赤ちゃんは普段から主に鼻で呼吸しています。口呼吸もできますが、小さい赤ちゃんや眠っている赤ちゃんでは、鼻がふさがってもすぐ切り替えられるとは限りません。乳首をくわえている間は、口を呼吸の代わりの通り道として使いにくくなります。鼻づまりがあれば、飲み込む合間の息継ぎにも負担が加わるのです。(※8)
「飲みたがるのに飲み続けられない」「息継ぎばかりで飲み進まない」「いつもより明らかに飲む量が少ない」は、呼吸と一緒に見てほしい変化です。まったく飲めなくなるまで待つ必要はありません。(※9)


鼻をピクピク広げるのは、何のため?

息を吸うたびに鼻の穴を広げる動きを「鼻翼呼吸」といいます。鼻の入口を広く保ち、空気を通しやすくする働きがあります。ストローの例なら、入口が狭くならないように保ち、吸う負担を減らす動きに近いものです。
早産児の研究では、鼻翼の筋肉が働くと、鼻を通る空気の抵抗が約2割下がりました。小さな動きでも、実際に呼吸を助ける効果があります。ただし、鼻の抵抗が減ることと、呼吸全体の問題が解決することは別です。(※10)

鼻翼呼吸は、体が呼吸を助けようとしている反応です。同時に、その助けを使って呼吸を保っていることもあります。原因は鼻づまりだけとは限りません。落ち着いているときにも続き、胸のへこみや飲みにくさを伴う場合は、呼吸に負担がかかっていると考えて受診してください。


抱き起こすと楽になることがあるのは、なぜ?

「寝かせると苦しそうなのに、抱き起こすと落ち着く」ということがあります。体の向きが変わると、肝臓を含むお腹の臓器から横隔膜にかかる力、胸とお腹の支え方、肺の広がり方が変わります。重力の向きと体の支え方が変わることで、呼吸しやすくなる場合があるのです。(※11、12)

回復期の早産児を調べた研究では、平らな仰向けより、上体を45度起こした仰向けやうつ伏せの方が、横隔膜の負担を表す指標が約2割低くなりました。これは早産児での結果ですが、姿勢によって呼吸筋の負担が変わることを示しています。(※11)

横隔膜は、自分で縮むことで働く筋肉です。「肝臓が重いから苦しい」「横隔膜が重力で下がれないから苦しい」という一つの説明よりも、姿勢によって胸・お腹・横隔膜の働く条件が変わる、と考えると実際に近くなります。健康な赤ちゃんが仰向けになるだけで、呼吸が苦しくなるという話ではありません。

細気管支炎などで呼吸がつらいときには、起きている間に、頭と首を支えて上体を起こして抱くと楽になることがあります。NHSも、細気管支炎の家庭でのケアとして、起きている間の上体挙上を案内しています。抱くことで落ち着いても、寝かせるたびに息苦しくなる、十分に飲めないときは、受診して状態を確認してください。(※9)

NICUでうつ伏せにすることがあっても、家での睡眠は仰向けです

新生児集中治療室(NICU)では、呼吸を助けるためにうつ伏せにすることがあります。柔らかい胸の壁が支えられて胸とお腹が協調して動きやすくなり、肺にかかる圧迫の分布も変わるためと考えられています。胸腹部の動きのずれが減り、一回に入る空気の量が増えた研究もあります。(※12、13)

人工呼吸中の新生児では、うつ伏せによって肺に入る空気と血流の釣り合いが改善した研究もあります。「楽そうに見える」という経験には、ガス交換が改善するという裏づけがあります。(※14)

一方、早産児48人の研究では、うつ伏せで血液の酸素が大きく下がる回数は減っても、10秒を超える無呼吸の回数は増えました。ある指標がよくなることと、すべてが安全になることは同じではありません。NICUでは、呼吸や酸素の状態を監視し、変化に対応できる環境で、治療として体位を選んでいます。(※15)

家庭で眠るときは、硬く平らな寝床で仰向けが基本です。鼻づまりや呼吸を楽にする目的で、枕で傾斜をつけたり、うつ伏せ寝にしたりはしません。NICUでも、医学的に安定したら、退院前から安全な仰向け睡眠へ移行します。(※12、16)

呼吸を頑張り続けると、筋肉にも負担がかかります

強い吸気を繰り返し、柔らかい胸が大きく変形すると、筋肉の働きの一部が胸を変形させることにも使われます。その分、肺へ空気を入れる効率が下がることがあります。大きな負担が続けば、呼吸筋の疲労も問題になります。(※2、17)

ただし、休み休み飲むことだけで、呼吸筋が疲労しているとは決まりません。飲み込みと呼吸の時間配分が難しくなれば、その前から飲みにくくなります。保護者の方に見てほしいのは、「疲労しているか」の判定よりも、飲み方や呼吸、反応が普段と違ってきていないかです。

「飲めない・息苦しくて眠れない」も受診の目安に

まず、泣きやんで落ち着いたときに、次の5つを一緒に見てください。

  • 胸の動き:新しいへこみや、普段より強いへこみが続いていないか。
  • 呼吸の速さと音:普段より速くないか。鼻を大きく広げる、息を吐くたびにうなる様子がないか。
  • 飲み方:息継ぎばかりで飲めない、飲む量が明らかに減ったという変化がないか。
  • 眠り方:息苦しくて寝つけない、呼吸の苦しさで何度も目を覚ましていないか。
  • 顔色と反応:唇や舌の色は普段どおりか。反応や体の動きが弱くなっていないか。

安静でも新しい陥没が続く、だんだん強くなる、息苦しくて飲みにくい・眠れない。このような場合は、その日のうちに、症状が強ければ直ちに受診してください。「眠れない」は、いつもの夜泣きや寝つきの悪さではなく、呼吸の苦しさで眠りが妨げられていることを指します。

胸や首が毎回大きく引き込まれ、明らかに苦しそう。呼吸が止まる。唇や舌が青紫・灰色になる。ぐったりして起こしにくい。このような場合は119番で救急を要請してください。複数の症状がそろうまで待つ必要はありません。(※9)

飲めている、眠っているというだけで、強い呼吸困難を否定できるわけではありません。余裕があれば、顔・首・胸・お腹と呼吸音が分かる短い動画が診察の参考になりますが、苦しそうなときは撮影より受診を優先してください。

胸のへこみを見つけたら、まず落ち着いたときの様子を見て、いつもと比べる。判断に迷うときは、胸の動きと飲み方、顔色、反応を一緒に教えてください。


引用文献

※1 Trachsel D, Erb TO, Hammer J, von Ungern-Sternberg BS. Developmental respiratory physiology. Paediatr Anaesth. 2022;32(2):108–117. doi:10.1111/pan.14362.

※2 Diedericks C, Crossley KJ, Davies IM, et al. Role of the Chest Wall in Newborn Respiratory Function at Birth. FASEB J. 2025;39(19):e71064. doi:10.1096/fj.202502372R.

※3 Papastamelos C, Panitch HB, England SE, Allen JL. Developmental changes in chest wall compliance in infancy and early childhood. J Appl Physiol (1985). 1995;78(1):179–184. doi:10.1152/jappl.1995.78.1.179.

※4 McCollum ED, Ginsburg AS. Outpatient Management of Children With World Health Organization Chest Indrawing Pneumonia: Implementation Risks and Proposed Solutions. Clin Infect Dis. 2017;65(9):1560–1564. doi:10.1093/cid/cix543.

※5 World Health Organization. Handbook: IMCI—Integrated Management of Childhood Illness. Geneva: WHO; 2000. WHO/FCH/CAH/00.12.

※6 World Health Organization, UNICEF. Management of the sick young infant age up to 2 months: IMNCI training course—Facilitator guide. WHO; 2019. WHO/MCA/19.03.

※7 Koenig JS, Davies AM, Thach BT. Coordination of breathing, sucking, and swallowing during bottle feedings in human infants. J Appl Physiol (1985). 1990;69(5):1623–1629. doi:10.1152/jappl.1990.69.5.1623.

※8 Rodenstein DO, Perlmutter N, Stănescu DC. Infants are not obligatory nasal breathers. Am Rev Respir Dis. 1985;131(3):343–347. doi:10.1164/arrd.1985.131.3.343.

※9 National Health Service. Bronchiolitis. NHS. 2026年更新[ウェブ資料].

※10 Carlo WA, Martin RJ, Bruce EN, Strohl KP, Fanaroff AA. Alae nasi activation (nasal flaring) decreases nasal resistance in preterm infants. Pediatrics. 1983;72(3):338–343. PMID:6684277.

※11 Dimitriou G, Tsintoni A, Vervenioti A, Papakonstantinou D, Dassios T. Effect of prone and supine positioning on the diaphragmatic work of breathing in convalescent preterm infants. Pediatr Pulmonol. 2021;56(10):3258–3264. doi:10.1002/ppul.25594.

※12 American Academy of Pediatrics. Transition to a Safe Home Sleep Environment for the NICU Patient. Pediatrics. 2021;148(1):e2021052045. doi:10.1542/peds.2021-052045.

※13 Gouna G, Rakza T, Kuissi E, Pennaforte T, Mur S, Storme L. Positioning effects on lung function and breathing pattern in premature newborns. J Pediatr. 2013;162(6):1133–1137.e1. doi:10.1016/j.jpeds.2012.11.036.

※14 Barka K, Papachatzi E, Fouzas S, Dimitriou G, Dassios T. Respiratory Function in Ventilated Newborn Infants Nursed Prone and Supine. Pediatr Pulmonol. 2025;60(4):e71075. doi:10.1002/ppul.71075.

※15 Bohnhorst B, Lutz E, Pirr S, Peter C, Böhne C. Prone Positioning Was Associated With Less Hypoxemic Events and Improved Feeding Tolerance in Preterm Infants. Acta Paediatr. 2025;114(10):2643–2650. doi:10.1111/apa.70153.

※16 American Academy of Pediatrics. My baby has a stuffy nose. How can I help them sleep safely? HealthyChildren.org. 2025[ウェブ資料].

※17 Muller N, Volgyesi G, Bryan MH, Bryan AC. The consequences of diaphragmatic muscle fatigue in the newborn infant. J Pediatr. 1979;95(5 Pt 1):793–797. doi:10.1016/S0022-3476(79)80738-6.