子どもの言葉のおくれ
多くは追いつきます。言える単語の数より「伝える」「分かる」と「聞こえ」を
「同じ月齢の子は、もう単語をいくつも言っているのに」「健診で様子を見ましょうと言われた」。外来で、ことばの遅れの相談は多いです。
ことばが遅いと感じたお子さんの多くは、あとから追いつきます。ただ、2つだけ覚えておいてほしい線があります。
1歳のお誕生日には、まだ単語を言わない子のほうが多い
この記事で「単語を言う」というのは、特定のものや人に向けて、ことばを言うことです。お母さんに向かって「ママ」、車を見て「ブーブー」。医療の場では、こうした単語を「有意語(意味のあることば)」と呼びます。「アーアー」「ダダダ」のような声(喃語)は、まだ単語には数えません※2。
国の調査(令和5年乳幼児身体発育調査、一般家庭の子6,892人)では、実際のものに向けて言う単語があれば「言葉を話す」と数えます。その割合は、1歳0〜1か月で36.5%でした※1。1歳のお誕生日のころは、まだ単語を言わない子のほうが多いのです。
この割合が90%を超えるのは1歳6〜7か月ごろです※1。
2歳で言える単語が少なくても、半分以上は追いつきます
2歳で「ことばの出始めが遅い」と判定される子は、地域の一般の子の1割あまりいます。オーストラリアの2歳児1,766人では13.4%、カナダの1,023組では12.6%でした※3※4。
その後を追った研究では、半分以上の子が追いついています。英国の双子8,386人の研究では、2歳で言える単語が少なかった子のうち、4歳でもことばの遅れが続いていたのは40.2%でした※5。小さな研究をまとめた報告では、ことばの理解は年齢相応で、言うことだけが遅れていた子の約6割が、特別な訓練なしに追いついていました※6。
2歳で言える単語が少なかったこと自体が、その後の行動や気持ちの問題につながるわけでもありません。17歳まで追いかけた研究で、そう結論されています※7。
また、2歳でことばの出始めが遅いことは、親の学歴や育て方とは関連しませんでした※3。
「私の話しかけが足りなかったのでは」と自分を責める必要はありません。
ことばは「伝える」「分かる」「言う」の3つに分けて見ます
ひとくちに「しゃべる」といっても、中身は3つに分かれます。
伝える:目線、指さし、身ぶり、声を使って、相手に何かを伝えようとすること。単語が出る前から始まっています。
分かる:相手の言うことばの意味が分かること。
言う:単語や、単語をつなげた文を口に出すこと。
母子健康手帳は1歳の欄で「バイバイ、コンニチハなどの身振りをしますか」「大人の言う簡単なことば(おいで、ちょうだいなど)がわかりますか」と尋ね、単語を尋ねるのは1歳6か月の欄です※9。
1歳のころは、単語より先に、身ぶりやことばの理解が見られるかを確かめているわけです。
言える単語が少なくても、伝える・分かるが育っていれば、多くはあとから言える単語が増えてきます。国の健診マニュアルも、1歳6か月で言える単語が少なくても、ことばの理解や指さしが育っていれば「通常3歳までに言葉表出が伸びることが多い」としています※2。
1歳6か月ごろには、次のようなことを見てみてください。
分かる:身ぶりをつけずに「ゴミ、ポイしてきて」と言って分かるか。「ワンワンどれ?」と聞くと、指さして答えるか。
伝える:おもしろいものを見つけたとき、指さしてこちらを見るか。
ここが育っているかどうかは、追いつくかを考える手がかりになります。ただ、それだけで一人ひとりの先行きが決まるわけではありません※8。
相談の目安は「2歳で単語5つ」「3歳で二語文」
当院では、「言う」について次の2つを相談の目安にしています。
2歳になっても、言える単語が5つに届かない。
3歳になっても、二語文が出ない。
ここでいう二語文は、「単語が2つ言える」ことではありません。2つの単語をつなげて、ひとつの文として言うことです。
たとえば「ワンワン、きた」「マンマ、ちょうだい」「ママ、だっこ」「ブーブー、あった」。「ママ」「ワンワン」と別々に言えるのは単語が2つで、まだ二語文ではありません。助詞(「が」「を」など)は入っていなくてかまいません※2。
国の健診マニュアルも、3歳で二語文が出ていなければ、ことばの遅れと判断するとしています※2。
母子健康手帳の2歳の欄には「2語文(ワンワンキタ、マンマチョウダイ)などを言いますか」という質問があります※9。当院が2歳で見ているのは言える単語の数で、二語文の目安は3歳です。
この線を越えたら、様子を見るのをやめて一度ご相談ください。追いつく子も多いのですが、どの子が追いつくかを、その時点で見分けることは難しいからです※5※8。
「男の子だから遅いだけ」「二つの言葉で育てているから」は、この線を待つ理由にはなりません。男の子はたしかにことばの出始めが遅い子が多いのですが※3、だからこそ確かめる意味があります。二つの言葉で育つ子が、ことばの遅れを起こしやすいわけではありません。ただ、一つの言葉だけで数えると単語は少なく見えるので、両方の言葉を合わせて数えてください※20。
線の手前でも、早めに相談してほしいこと
2つの線は「言う」の目安です。年齢の線に届く前でも、次の4つは早めにご相談ください※2※8。
- 言えていた単語が言えなくなった
- 1歳6か月を過ぎても、身ぶりなしの簡単な言葉の指示が、ほとんど分からない
- 名前を呼んでも振り向かない、音への反応が気になる
- 1歳6か月を過ぎても、「見て」と指さしで伝えてくることがない
ひとつ当てはまっても、それだけで何かの診断になるわけではありません。確かめておきたい、という意味です。
聞こえは、一度きちんと確かめます
赤ちゃんは、まわりの大人のことばを聞いて、ことばを覚えていきます※21。ことばが遅いときは、聞こえを確かめます。
生まれつき両耳の聞こえが悪い子は、1,000人に1〜2人です※10。生まれてすぐの聴覚検査に合格していても、あとから聞こえが悪くなる難聴もあるため、検査の結果にかかわらず確かめることが勧められています※10。
よく見つかるのは、鼓膜の奥に水がたまる滲出性中耳炎です。痛みや熱が出にくく、「言葉が遅い」「発音が悪い」がきっかけで見つかることもあります※11。ほかに心配のない子では、学童期になるとことばの差はなくなるとされています※11※12。
発音は、5歳ごろまで育っている途中です
発音(音の正確さ)は、言える単語の数とは別の話です。
「さかな」が「たかな」や「ちゃかな」、「だるま」が「らるま」になる。3歳前後では、よくあることです。
発音は5歳前後で完成するとされ、こうした言い誤りは異常ではありません※2。少し古い日本の子どもの調査ですが、ラ行は4歳0か月ごろ、サ行・ザ行・ツは4歳6か月ごろになって、ようやく4人に3人が正しく言えるようになります※13。
舌の裏のすじ(舌小帯)を心配される方もいますが、発音のために2〜4歳で切る必要はなく、判断は5歳以降とされています※14。
5歳を過ぎても言い誤りが続くときは、ご相談ください※2。
3歳を過ぎても、言っていることのほとんどが家族にも聞き取れないときは、聞こえを確かめたいので、一度ご相談ください※2※8。
家でできるのは、やりとりを増やすこと
ことばを育てるのは、大人が聞かせることばの量よりも、やりとりです。ここでいうやりとりは、子どもの声に大人が応え、子どもがまた声で返す、という往復のことです。
1歳半〜2歳ごろの子の家庭の音声を録音した研究では、大人と子どもの声の往復が多かった子ほど、10年後のことばの力が高い傾向がありました※16。保護者に関わり方を伝える方法も、ことばに遅れやそのリスクがある子の76の研究をまとめた解析で、ことばの伸びと結びついていました※15。
お子さんが声を出したり指さしたりしたら、応えてあげてください。「ワンワン」と言ったら「ワンワン、走ってるね」と、少しだけ足して返します。
言い間違いを言い直させる必要はありません。「たかなじゃなくて、さかな。言ってごらん」ではなく、「そう、さかなだね」と正しい形でさりげなく返してください※13。
絵本も、読み聞かせ方を保護者に伝えた研究をまとめると、子どものことばの伸びが確かめられています。効果は大きくはありませんが、絵を指さして話しかけながら読むのはよい方法です※17。
テレビやスマホは、見る時間が長いほど、単語が出るのが遅い子や、保護者が記入する発達の質問票でコミュニケーションの遅れにあたる子が多いという報告があります※18※19。
ただ、これは見ている時間と遅れが一緒に見られたという調査で、テレビが原因とまでは分かっていません。つけっぱなしにせず見たら消す、一人で見せず、一緒に歌ったり子どもの問いかけに応えたりする、を心がけてみてください※18。
当院に相談いただいたら
お話を伺い、聞こえや、伝える・分かるを含めた全体の発達を確かめます。必要なときは、総合病院などに相談します。聞こえの検査も、総合病院の耳鼻科にお願いすることが多いです。
まとめ
ことばが遅いと感じても、多くの子は追いつきます。
見てほしいのは、言える単語の数より先に、伝えようとしているか、分かっているか、聞こえているかです。
そのうえで、2歳で言える単語が5つに届かない、3歳で「ワンワン、きた」のような二語文が出ないときは、ご相談ください。線の手前でも、気になることがあれば遠慮なくどうぞ。
参考資料
※1 こども家庭庁「令和5年乳幼児身体発育調査 調査結果の概要」2024年 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/b32105e4-fa26-42eb-97d0-2e5cbaef703a/25a6391e/20241225_policies_boshihoken_r5-nyuuyoujityousa_10.pdf
※2 国立成育医療研究センター「改訂2版 乳幼児健康診査 身体診察マニュアル」2025年 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0b505d2e-87a3-488b-a78c-46a38fbcf38b/105c3e0b/20250722_policies_boshihoken_manuals-etc_19.pdf
※3 Zubrick SR, et al. Late language emergence at 24 months: an epidemiological study of prevalence, predictors, and covariates. J Speech Lang Hear Res. 2007;50(6):1562-92. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18055773/
※4 Collisson BA, et al. Risk and Protective Factors for Late Talking: An Epidemiologic Investigation. J Pediatr. 2016;172:168-174. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26968834/
※5 Dale PS, et al. Outcomes of early language delay: I. Predicting persistent and transient language difficulties at 3 and 4 years. J Speech Lang Hear Res. 2003;46(3):544-60. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/14696985/
※6 Law J, et al. Screening for speech and language delay: a systematic review of the literature. Health Technol Assess. 1998;2(9):1-184. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9728296/
※7 Whitehouse AJ, et al. Late talking and the risk for psychosocial problems during childhood and adolescence. Pediatrics. 2011;128(2):e324-32. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21727106/
※8 Bishop DVM, et al. CATALISE: A Multinational and Multidisciplinary Delphi Consensus Study. PLoS One. 2016;11(7):e0158753. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27392128/
※9 こども家庭庁「母子健康手帳 府令様式(令和8年4月1日施行)」 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/909390f5-d0c0-47b9-9b9e-c343b88bde66/ce5b736e/20260409_policies_boshihoken_techou_25.pdf
※10 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「小児難聴診療の手引き」2025年 https://www.jibika.or.jp/uploads/files/guidelines/shoni_nancho_0430.pdf
※11 日本耳科学会・日本小児耳鼻咽喉科学会「小児滲出性中耳炎診療ガイドライン2022年版」 https://www.otology.gr.jp/common/pdf/guideline_otitis2022.pdf
※12 Paradise JL, et al. Tympanostomy tubes and developmental outcomes at 9 to 11 years of age. N Engl J Med. 2007;356(3):248-61. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17229952/
※13 青木俊仁「3歳児健診における幼児の構音の誤りに対する早期アプローチ」小児耳鼻咽喉科 2021;42(1):7-10 https://www.jstage.jst.go.jp/article/shonijibi/42/1/42_7/_pdf/-char/ja
※14 日本小児歯科学会「舌小帯切除に関する見解」2024年 https://www.jspd.or.jp/recommendation/article25/
※15 Roberts MY, et al. Association of Parent Training With Child Language Development: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatr. 2019;173(7):671-680. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31107508/
※16 Gilkerson J, et al. Language Experience in the Second Year of Life and Language Outcomes in Late Childhood. Pediatrics. 2018;142(4):e20174276. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30201624/
※17 Dowdall N, et al. Shared Picture Book Reading Interventions for Child Language Development: A Systematic Review and Meta-Analysis. Child Dev. 2020;91(2):e383-e399. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30737957/
※18 日本小児科学会 こどもの生活環境改善委員会「乳幼児のテレビ・ビデオ長時間視聴は危険です」2004年 https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20040401_TV_teigen.pdf
※19 Takahashi I, et al. Screen Time at Age 1 Year and Communication and Problem-Solving Developmental Delay at 2 and 4 Years. JAMA Pediatr. 2023;177(10):1039-1046. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37603356/
※20 Byers-Heinlein K, Lew-Williams C. Bilingualism in the Early Years: What the Science Says. LEARNing Landscapes. 2013;7(1):95-112. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30288204/
※21 日本言語聴覚士協会「言語聴覚士に相談する」 https://www.japanslht.or.jp/consultation/
本文の考え方について参照した書籍:大塚裕一 編著、井﨑基博 著『明日からの臨床・実習に使える言語聴覚障害診断―小児編』診断と治療社

