お子さんが急性胃腸炎(嘔吐・下痢)になったときに
お子さんが急に吐いたり下痢をしたりすると、どう手を打てばいいのか、本当に迷われると思います。今回は、原因となるウイルスの基礎から、家庭で押さえておきたいケアのポイントまで、最新の小児科の標準的な考え方をふまえて整理しました。
原因のほとんどはウイルス。代表は「ノロ」と「ロタ」
子どもの急性胃腸炎の大半はウイルス感染です。代表的なのはノロウイルスとロタウイルスで、ロタワクチンが定期接種となった現在は、ノロウイルスが最も多い原因になっています(※1)。突然の嘔吐から始まり、半日ほどしてから水のような下痢が続く、というのが典型的な経過で、多くは1〜2日で症状の山を越え、1週間ほどで落ち着いていきます(※1、※2)。
【ノロウイルス】冬(11〜2月頃)に流行のピーク(※2)。感染力が非常に強く、嘔吐物が乾いて空気中を漂うことでも感染します(※2)。一度かかっても十分な免疫がつかないので、何度もかかります。アルコール消毒は効きにくく、家庭内で広げないためには次亜塩素酸ナトリウム(家庭用塩素系漂白剤)での処理が必要です(※2)。
【ロタウイルス】春先(3〜5月)に流行のピーク(※3)。下痢便が白っぽくなることが特徴で、嘔吐や脱水が強く、まれにけいれんや脳症などの合併症を起こすことがあります(※3)。日本では2020年10月からロタワクチンが定期接種化され、入院や重症化を大幅に減らせるようになりました(※3)。
「ノロ」「ロタ」だけが胃腸炎ではありません
名前がよく知られているので、「うちの子もノロかも」「ロタの検査をしてほしい」とご希望される保護者の方も多いのですが、実は、クリニックで便の検査をしても、ノロやロタが検出されるのは胃腸炎のお子さんの一部にとどまります。多くのお子さんは、これら以外のウイルス(サポウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスなど)か、検査では特定できない「原因ウイルス不明」の胃腸炎で、それでも経過は同じように回復していきます。
また、たとえノロやロタが検出されたとしても、特効薬があるわけではなく、治療は「脱水を防ぐ水分補給」「消化のよい食事」という点でどのウイルスでも同じです。検査の結果で薬の選び方が変わるわけでもありません。当院では、検査をして原因ウイルスを特定することよりも、症状の経過と脱水の有無をきちんと見ることを大切にしています。もちろん、保育園・幼稚園から検査結果の提出を求められた場合や、症状が長引いて他の病気との鑑別が必要な場合には、検査を行うこともあります。
一番の山場は「水分補給」
胃腸炎で本当に怖いのは、ウイルスそのものよりも脱水です。子どもは大人より体内の水分の割合が多く、調節機能も未熟なので、嘔吐や下痢が続くと一気に脱水が進みます。
水分補給の主役は経口補水液(OS-1など)です。塩分と糖分のバランスが、小腸で水を吸収するのに最適になるよう設計されており、軽度〜中等度の脱水であれば補水療法として推奨されています(※1)。一方、スポーツドリンクや果汁は糖分が多く塩分が少ないため、胃腸炎時の水分補給には向きません(※1)。
コツは「ティースプーン1杯(5mL)を5分おき」。吐いている最中でも、口の粘膜を湿らせるくらいの量から始めて、1時間ほど続けて落ち着いてきたら、少しずつ量を増やしていきます。
▶ 詳しい飲ませ方や、経口補水液を嫌がるときの工夫(リンゴジュースを薄める方法など)については、別コラム「嘔吐・下痢のときの水分補給」で詳しくまとめていますので、あわせてご覧ください。
「お腹を休ませる」は古い考え方です
少し前までは「下痢のときは腸を休ませる」と言われていましたが、今のガイドラインの考え方は逆です。水分が摂れるようになったら、年齢に応じた普段どおりの食事を早めに再開することが推奨されています(※1)。長く絶食しても下痢の期間は短くならず、むしろ体重の戻りが遅れる可能性があります(※1)。
母乳は中断する必要はなく、続けて構いません。ミルクも、薄めずに通常の濃さで再開してください(※1)。「バナナ・お米・りんご・トーストだけ」のような偏った食事にこだわる必要もありません。脂っこいものや甘いジュースは下痢を長引かせるので避けつつ、ごはん、うどん、じゃがいも、野菜スープ、ヨーグルトなど、消化のよい普段の食事で大丈夫です。
お薬は「足す」より「引く」が基本
下痢止め(止瀉薬)は、子どもの急性胃腸炎には推奨されません(※1)。下痢はウイルスを体外に出すための反応でもあり、無理に止めると回復が遅れたり、副作用が問題になります。ウイルス性が大半なので、抗菌薬も基本的には不要です(※1)。
一方で、嘔吐が止まらず水分すら摂れないときは、当院で吐き気止めを使うことで点滴を回避できる場合があります。「お薬を増やす」のではなく、「水分を取り戻すための一手」とお考えください。
整腸剤について
整腸剤(ビオフェルミン、ミヤBMなど)は、保護者の方からもよくご質問をいただく薬です。日本のガイドラインの考え方を、わかりやすくお伝えします。
2024年に発行された「小児消化管感染症診療ガイドライン」では、整腸剤について「下痢の期間を短くする目的で投与することを提案する」とされています(※1)。日本で使える整腸剤を含む14件の臨床試験をまとめて分析した結果、整腸剤を使った場合、下痢の続く期間がおよそ1日短くなること、48時間以上続く長引く下痢になる人が減ることが示されました(※1)。
ただし、効果は「下痢が劇的に治まる」というものではなく、「1日早く楽になる」という穏やかなものです。整腸剤を使わなくても自然に治っていきますが、「使えば回復が少し早まる」「副作用がほとんどない」「価格も手ごろ」という点で、ガイドラインも整腸剤の使用を支持しています(※1)。
当院では、酪酸菌の整腸剤(ミヤBM)を選んで処方することが多いです。これは、抗菌薬と一緒に飲んでも問題なく使えること、酪酸が大腸の粘膜のエネルギー源になること、副作用がきわめて少なく赤ちゃんから使えること、といった理由からです(※4)。
「絶対に飲ませなければいけないお薬」ではありませんが、「下痢の期間を少しでも短くしてあげたい」という場合に、安心して使える選択肢の一つです。希望される場合も、希望されない場合も、診察時にお気軽にご相談ください。
受診の目安
家庭で様子を見ていただいて構わないのは、機嫌があり、水分が少しずつでも摂れている場合です。次のいずれかがあるときは、早めに受診をご検討ください。
- 半日以上水分が摂れない、または尿が極端に少ない
- 泣いても涙が出ない、口の中がカラカラに乾いている
- ぐったりして反応が鈍い、目が合いにくい
- 血便、または緑色・黄色の嘔吐
- 繰り返し激しい腹痛で身体を丸めて泣く(腸重積を疑います)
- けいれんを起こした、意識がもうろうとしている
- 生後3か月未満の発熱を伴う嘔吐下痢
特に、ぐったりして反応が鈍い、けいれん、生後3か月未満の発熱を伴う嘔吐下痢の3つは、夜間でもためらわずに受診してください。
まとめ
「最初の数時間、5mLずつ経口補水液を根気よく」「水分が摂れたら普段の食事を早めに戻す」「下痢止めに頼らず、整腸剤は症状を少し早く楽にする選択肢として使う」。この3つを押さえれば、ほとんどのお子さんは家庭で乗り切れます。判断に迷うときは、いつでもLINEからご相談ください。
参考文献
※1 日本小児感染症学会・日本小児消化管感染症・免疫アレルギー研究会(編). 小児消化管感染症診療ガイドライン2024. 診断と治療社, 2024年11月.
※2 厚生労働省. ノロウイルスに関するQ&A. 2021年11月最終改定. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html
※3 厚生労働省. ロタウイルスに関するQ&A. https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/Rotavirus/index.html
※4 ミヤBM細粒・ミヤBM錠 添付文書(2022年11月改訂・第1版). ミヤリサン製薬株式会社.

