コラムcolumn
病気の話
アトピー性皮膚炎 – 上手に付き合っていくために
アトピー性皮膚炎って、どんな病気?
「かゆくて、夜も眠れない…」
アトピー性皮膚炎は、かゆみのある湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返す、慢性の皮膚の病気です。お子さん本人はもちろん、ご家族にとっても辛い病気ですよね。
日本の調査によれば、3歳児の13.2%、小児全体の10.7~15%がアトピー性皮膚炎と診断されています[1][2]。決して珍しい病気ではなく、多くのお子さんが経験しています。
なぜアトピー性皮膚炎になるの?
アトピー性皮膚炎の原因は、一つではありません。いくつかの要因が重なって発症すると考えられています。
皮膚のバリア機能の低下
アトピー性皮膚炎のお子さんは、皮膚のバリア機能が弱く、外からの刺激物質やアレルゲンが皮膚に入りやすくなっています。これにより、炎症が起こりやすくなります。
免疫の過剰反応
アレルギー体質があり、免疫系が過剰に反応することで、皮膚に炎症が起こります。
遺伝的要因
ご家族にアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎などのアレルギー疾患がある場合、お子さんも発症しやすい傾向があります。
環境要因
ダニ、ハウスダスト、花粉、汗、衣類の刺激、乾燥、ストレス、食物(特に乳児期)などが、症状を悪化させる要因となります。
年齢によって症状が変わる
アトピー性皮膚炎の症状は、年齢とともに変化します。
乳児期(2か月~2歳)
顔、特に頬から始まることが多く、頭、首、体幹、四肢に広がります。じくじくした湿疹が多いのが特徴です。
幼小児期(2歳~12歳)
首、肘の内側、膝の裏などの屈曲部(曲がる部分)に湿疹が目立ちます。乾燥した湿疹が多く、皮膚が厚くなる(苔癬化)こともあります。
思春期・成人期
上半身に皮疹が目立ち、顔や首に赤みが強く出ることがあります。
治療の3本柱
アトピー性皮膚炎の治療の目標は、症状がないか、あっても軽微で、日常生活に支障がなく、薬もあまり必要としない状態を維持することです[3]。
1. スキンケア
保湿と清潔が基本です。
保湿
•1日2回以上、たっぷり塗る:朝と夜、お風呂上がりには必ず塗りましょう。
•お風呂上がり5分以内:皮膚が乾燥する前に、すぐに保湿剤を塗ります。
•症状が良くなっても続ける:保湿を続けることで、再発を予防できます。
清潔
•1日1回の入浴:汗や汚れを洗い流しましょう。
•石けんは泡立てて、やさしく洗う:ゴシゴシこすらず、手のひらでやさしく洗います。
•しっかりすすぐ:石けんが残らないように、よくすすぎましょう。
2. 薬物療法
ステロイド外用薬
炎症を抑える最も効果的な薬です。症状の強さに応じて、適切な強さのステロイド外用薬を使用します。
「ステロイドは怖い」と思われる方も多いのですが、医師の指示に従って適切に使用すれば、安全で効果的です。自己判断で中止すると、かえって症状が悪化することがあります。
タクロリムス軟膏(プロトピック®)
ステロイド外用薬とは異なる作用機序で炎症を抑える薬です。2歳以上のお子さんに使用できます。
保湿剤
皮膚のバリア機能を保つために、毎日使用します。
抗ヒスタミン薬
かゆみを和らげるために内服することがあります。
新しい外用薬:ステロイド以外の選択肢
近年、ステロイドとは異なる作用で炎症やかゆみを抑える新しい外用薬が登場し、治療の選択肢が広がっています。これらは、顔や首など、ステロイドの長期使用に注意が必要な部位にも使いやすいというメリットがあります。
コレクチム®軟膏(デルゴシチニブ)
•作用:JAK(ヤヌスキナーゼ)という、炎症やかゆみを引き起こす信号を伝える物質の働きをブロックします。
•対象:2歳以上のお子さんから使用できます(小児は0.25%、成人は0.5%)。
•特徴:プロトピック®軟膏以来、約20年ぶりに登場した新しいタイプの外用薬です。長期的な有効性と安全性も確認されています[6]。
モイゼルト®軟膏(ジファミラスト)
•作用:PDE4(ホスホジエステラーゼ4)という、炎症を引き起こす物質の産生を抑えます。
•対象:生後3か月以上の赤ちゃんから使用できます。
•特徴:ステロイド外用薬が使えない、または使いにくい赤ちゃんにとって、新しい治療の選択肢となります。皮膚が薄くなるなどの副作用の心配が少ないのが特徴です。
3. 悪化因子の対策
ダニ・ハウスダスト対策
•こまめな掃除:週に2~3回は掃除機をかけましょう。
•寝具の洗濯:シーツや枕カバーは週に1回洗いましょう。
•ぬいぐるみは洗える素材を:定期的に洗濯しましょう。
汗の対策
•汗をかいたらすぐに拭く:濡れたタオルでやさしく拭き、保湿剤を塗り直しましょう。
•シャワーを浴びる:夏場は1日2回シャワーを浴びるのも効果的です。
衣類の選択
•柔らかく、通気性の良いものを:綿100%など、肌に優しい素材がおすすめです。
•タグは切る:首元のタグが刺激になることがあります。
爪を短く切る
ひっかき傷を防ぐため、爪は短く切りましょう。
食物アレルギーとの関係
乳児期のアトピー性皮膚炎では、食物アレルギーが関与していることがあります。ただし、すべてのアトピー性皮膚炎に食物が関与しているわけではありません。
自己判断で食物を除去することは避け、必ず医師に相談してください。不必要な食物除去は、栄養不足や食物アレルギーの発症リスクを高める可能性があります[4]。
将来はどうなるの?(小児と成人の違い)
「このまま大人になっても治らないの?」と心配される方も多いでしょう。
小児のアトピー性皮膚炎は、多くの場合、成長とともに症状が軽快します。研究によれば、思春期までに約50~70%のお子さんが寛解(症状がほとんどなくなる状態)すると報告されています[3]。これは、皮膚のバリア機能が成長とともに成熟していくためと考えられています。
一方で、症状が成人まで続く場合や、一度治った後に再発する場合もあります。成人のアトピー性皮膚炎は、小児期とは異なり、顔や首、胸など上半身に強い症状が出やすく、慢性化しやすい傾向があります。小児期発症と成人期発症では、病気の背景にある免疫のメカニズムが少し異なる可能性も指摘されています。
ただし、一部のお子さんでは成人まで症状が持続することがあります。また、一度寛解しても、再発することがあります。
日常生活で気を付けること
スキンケアの継続
症状が良くなっても、保湿剤によるスキンケアを続けることが大切です。これにより、再発を予防できます。
規則正しい生活
十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動は、症状のコントロールに役立ちます。
ストレス対策
ストレスは症状を悪化させることがあります。お子さんがリラックスできる時間を作ってあげましょう。
こんな時は病院へ
•かゆみが強く、夜眠れない
•湿疹が広がっている
•治療をしても改善しない
•湿疹がじくじくして、黄色い汁が出る(細菌感染の可能性)
•発熱がある
まとめ
アトピー性皮膚炎は、適切な治療とスキンケアにより、症状をコントロールできる病気です。治療の3本柱(スキンケア、薬物療法、悪化因子の対策)を続けることで、日常生活に支障のない状態を維持することができます。
かかりつけ医と二人三脚で、お子さんの症状と上手に付き合っていきましょう。
参考文献
1.Kawaguchi C, et al. Skin health survey on atopic dermatitis among Japanese children. Allergol Int. 2025;74(1):108-115.
2.Furue M, et al. Current status of atopic dermatitis in Japan. Asia Pac Allergy. 2011;1(2):64-72.
6.Nakagawa H, et al. Delgocitinib ointment in pediatric patients with atopic dermatitis: A 56-week, open-label, long-term study. J Am Acad Dermatol. 2021;85(6):1369-1378.

