コラムcolumn
病気の話

舌下免疫療法(SLIT)について ― 当院の考え方

「子どものスギ花粉症がつらいので、舌下免疫療法を検討したい」というご相談を、季節を問わず多くいただくようになりました。テレビや学校のお友だちのご家族からも話を聞いて、「うちの子もできるなら早く始めた方がいいのでは」と感じておられる方も少なくないと思います。

当院は、舌下免疫療法を「希望される方すべてに、一律にお勧めする治療」とは考えていません。有効性のしっかりした、価値のある治療であることはたしかですが、毎日数年にわたって続ける治療ですので、お子さんとご家族の負担に見合う見込みがあるかをきちんと見極めてからお出しする方がよい、という立場です。このコラムでは、その考え方の根拠と、当院での進め方をできるだけ正直にお伝えします。

通常のコラムよりも少し長めの文章になります。舌下免疫療法は3〜5年という長い時間をお子さんとご家族にかけていただく治療であり、始める前に知っておいていただきたいこと、そして当院がなぜこのような姿勢を取っているかをきちんと整理してお伝えしたいと考えました。お時間のあるときに、ご家族で読んでいただければと思います。

 

舌下免疫療法とは何か

舌下免疫療法(sublingual immunotherapy:SLIT)は、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を毎日少量ずつ舌の下に置いて吸収させ、体をそのアレルゲンに少しずつ慣らしていく治療です(※1)。つらい時期だけ症状を抑える抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイド薬と違い、アレルギー体質そのものに働きかけ、治療を終えた後も年単位で効果が続くことが期待できる、現時点では数少ない「根本的な治療」のひとつです(※1)。

国内で保険適用されているのは、スギ花粉症に対するシダキュアと、ダニアレルギー性鼻炎に対するミティキュア・アシテアの三剤です(※1, ※2, ※3)。1日1回、舌の下に1分間ほど錠剤を保持してから飲み込み、そのまま3〜5年、できれば毎日休まず続けることが推奨されています(※1)。

舌の下を投与経路に選ぶのには理由があります。舌の下の粘膜には、免疫のブレーキ役である制御性T細胞を誘導する樹状細胞が多く分布しており、ここからアレルゲンを取り込ませると「これは攻撃しなくてよいもの」と免疫システムに学ばせやすい、という性質があります(※1)。注射に比べてアナフィラキシーなどの重い副作用が起こりにくく、自宅で続けられるのが大きな利点です(※1)。

 

当院の基本的な姿勢 ― 「漫然と始めない」

舌下免疫療法は、メディアやSNSで「夢の治療」「花粉症が治る薬」のように紹介されることがあります。一方で、診療ガイドラインや公的機関の文書を読むと、その表現はもう少し慎重です。

国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)の発表では、スギ花粉症の舌下免疫療法は「7割以上の症例に有効性が認められる一方で、2年以上の長期治療にも関わらず2〜3割程度の症例には効果が乏しく、十分な普及には至っていません」と説明されています(※4)。日本アレルギー学会の「アレルゲン免疫療法の手引き」でも、「SCIT、SLITは長期にわたる治療を必要とする一方で、中には無効例も存在する」と明記されており、効かないケースも一定数あることが正直に書かれています(※1)。

海外の研究を見ても、3〜18歳の小児を対象にした10件のランダム化比較試験(合計484例)を統合したメタアナリシスでは、舌下免疫療法は症状スコアと薬の使用量のどちらもプラセボに比べて統計的に有意に減らした、という結果が報告されています(※5)。ただし同じ研究の中で、「治療期間が18か月を超えること」「ダニよりも花粉に対して」効果がはっきり出やすい、という条件もあわせて指摘されています(※5)。つまり、効くか効かないかは「やってみればわかる」のではなく、ある程度は事前に予測される条件の中で決まっている、ということです。

また、ヨーロッパで行われた812名の子どもを対象とした大規模な試験(GAP試験)では、5〜12歳のグラス花粉アレルギー(イネ科花粉症)の子どもに3年間舌下免疫療法を行い、その後2年間追跡した結果、鼻と目の症状や薬の使用量は治療終了後2年経っても有意に少なく保たれました(※6)。一方で、当初の主要な目的であった「喘息発症を遅らせる効果」は、統計的にははっきりとは示せませんでした(※6)。これも、舌下免疫療法に何でもかんでも期待しすぎない、という慎重な見方を支える結果のひとつです。

毎日3〜5年続けるとなれば、お子さんにとっても、毎晩声をかけるご家族にとっても、相応の労力がかかります。その負担を背負っていただく以上、当院としては、「効きそうだから一応始めてみましょう」という入り方はしたくありません。

そこで当院では、舌下免疫療法を検討する前に、まず通常の治療をきちんと組み立て、その反応を見たうえで、それでも生活に支障が残るかどうかを判断材料にしています。

ご相談の中で、ときどき申し訳なく思いながらお伝えしているのは、「他のクリニックで舌下免疫療法をやろうと言われた」「もう始めるつもりで来た」という方に対しても、当院では同じプロセスをもう一度たどらせていただく、ということです。当院で処方をお出しする以上、当院の医師の判断に責任が伴います。検査結果と症状経過を見て、通常の治療の組み立てを確認し、本人とご家族の意思を一緒に確かめてから、というプロセスは省略できません。

そのため、「説明だけ聞いて、すぐに薬がほしい」というご希望には添えないことがあります。場合によっては、「この方には今のタイミングでの導入はお勧めしません」とお伝えすることもあります。これで気を悪くされる方がいらっしゃるのは承知しています。それでも、お子さんに3〜5年の毎日を背負っていただく治療です。当院は「保険診療として、責任を持って続けられる方にお出しする」という姿勢を変えるつもりはありません。納得いかない場合は、もちろん他院での治療も選択肢のひとつです。

 

まずは通常の治療をきちんと組み立てる

鼻アレルギー診療ガイドライン2024年版や日本アレルギー学会の手引きでも、アレルゲン免疫療法は、「抗ヒスタミン薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬、鼻噴霧用ステロイド薬の投与、あるいは手術療法などで症状を十分にコントロールできない患者で勧められる」と位置づけられています(※1)。つまり、最初から舌下免疫療法ありきではなく、まず通常治療できちんと症状を抑えにいく、というのが標準的な順番です。

具体的には、第2世代の抗ヒスタミン薬を1日1回、必要に応じてロイコトリエン受容体拮抗薬を組み合わせ、鼻づまりが強ければ点鼻ステロイドを正しい使い方で加える、という三本柱です(※1)。きちんと使えば、多くのお子さんの症状はかなり楽になります。

それでも、シーズン中ずっと授業に集中できない、夜眠れない、外で遊べない、といった生活の質に響く症状が続く場合に、はじめて舌下免疫療法を一緒に検討する、というのが当院の流れです。逆に、抗ヒスタミン薬だけでだいぶ楽になっているお子さんに、いきなり舌下免疫療法をご提案することはしていません。経過を見るという選択肢も十分にあります。

 

「効きやすい人」「効きにくい人」を正直に伝える

舌下免疫療法を始めるかどうかを話し合うときに、もうひとつ大切な視点があります。それは、効きやすさには個人差があるという点です。

日本アレルギー学会の手引きでは、「他のアレルゲンに感作がなく、ダニにのみ感作を認める患者では高い効果を期待できる」と書かれています(※1)。つまり、原因がはっきりスギ花粉に絞られている、あるいはダニに絞られているお子さんほど、舌下免疫療法は本来の力を発揮しやすい、ということです。

一方で、保険診療として処方できる舌下錠は、現時点では「スギ花粉」と「ダニ」の二つだけです(※1, ※2, ※3)。カモガヤやブタクサといったイネ科・キク科の花粉、ペットの毛、カビなどに対しては、対応する錠剤がありません。

ですから、たとえばダニに加えてカビやペットにも反応が出ていて1年中症状が続いているお子さんでは、ダニの舌下免疫療法をしても、ほかの原因による症状はそのまま残ります。スギ花粉症と同時にカモガヤの花粉症もあるお子さんでは、5月以降の症状はあまり変わらないかもしれません。

「治療を始めれば全部きれいになる」という説明は、私たちの立場からは正直すぎるとは言えません。当院では、検査結果と症状の出る時期を一緒に並べて、「この治療で楽になりそうな部分はどこまでか」「楽にならない部分はどう付き合っていくか」をご家族と確認したうえで、納得していただけた場合に始めるようにしています。

 

年齢と「続けきれるか」の問題

保険適用上は5歳以上から舌下免疫療法を始めることができます(※2, ※3)。ただし、添付文書にも「適切に舌下投与できると判断された場合にのみ投与する」とあるとおり、舌の下に1分間錠剤を置いていられる、口の中に違和感が出ても自分で言葉にできる、毎日同じ時間に続けるしくみを作れる、といった条件がそろう必要があります(※1, ※2, ※3)。

私の経験としては、低学年で始めた場合よりも、中学年〜高学年以降で本人がはっきり「やりたい」「続けたい」と意思を持って始めたお子さんのほうが、3年間最後まで続けきれている印象があります。3年間毎日続けるのは、大人にとっても簡単ではありません。早く始めればそれだけ効果が出るのも早いのですが、途中で挫折してしまうと、そこまでの時間も労力もすべて中途半端になってしまいます。

ですので、年齢の目安については画一的にお伝えするのではなく、「いつ始めると本人が一番続けやすいか」を、ご家族と一緒に考えていきます。受験を控えている、習い事のピークに重なるなど、生活のリズムも一緒に見ます。希望されればもちろん早期から開始できますが、その場合も「途中で続けられなくなりそうだ」と感じた段階で一度立ち止まれるよう、定期診察で必ず継続意思を確認します。

 

治療を始めるときに知っておいていただきたいこと

初回投与は院内で30分待機

舌下免疫療法は、ごくまれにアナフィラキシーなどの重い反応が起こり得るため、添付文書上、初回投与は医療機関で行い、30分間は院内で経過を観察することが定められています(※1, ※2, ※3)。当院でも初回はクリニックで一緒に錠剤を口の中に置き、30分間待っていただいてから帰宅となります。

 

毎日続けるからこその副作用と工夫

もっとも多い副作用は、口の中のかゆみ・違和感・腫れ感、のどのイガイガ感です(※1)。多くは服用後しばらくで自然におさまり、開始から1か月ほどで軽くなっていく方が多いとされています(※1)。

ただし、毎日のことですから、「我慢しなさい」では続きません。違和感が強いときは無理をせず、舌下保持の時間を短くしたり、服用後すぐに水を飲んだり、舌下投与のタイミングを変えたりして、ご家族と一緒にやりやすい方法を一緒に探っていきます。

服用前と服用後2時間は、激しい運動・入浴・飲酒(保護者の方も付き添い時はご注意ください)を避ける必要があります(※1)。スポーツの前ではなく、夕方の落ち着いた時間に飲むご家庭が多い印象です。

 

受診のタイミングと開始時期

スギ花粉に対する舌下免疫療法は、花粉の飛んでいる1〜5月には新規開始ができません(※1)。当院でも、おおむね6月から12月初旬までを開始時期とご案内しています。ダニについては、原因となる抗原が1年中あるため、季節を問わず開始できます。

治療開始後は、最初は2週間に1回、その後は月1回程度の通院をお願いしています。3〜5年続ける治療ですので、続けやすい曜日・時間を一緒に決めていきます。

 

やめる判断もきちんとする

日本アレルギー学会の手引きでは、「1年以上投与しても効果が得られない患者では、投与継続を慎重に判断すること」とされています(※1)。また、効果判定はおおむね2年程度で行うのが一般的とされています。

当院でも、シーズンごとに症状日記や薬の使用量で効果を一緒に確認し、「思ったように効いていない」「続けるのがつらくなってきた」と感じたら遠慮なくおっしゃってください、とお伝えしています。続けることを目的にしてしまうと、本来の意義から外れてしまいます。

 

効果は一生続くわけではない ― 再燃したときの考え方

舌下免疫療法を考えていただくときに、もうひとつ正直にお伝えしておきたいのは、3〜5年治療を完遂したあと、その効果は一生続くわけではない、ということです。

イタリアで行われた、ダニにのみ感作のある呼吸器アレルギー患者を15年間追跡した前向き研究では、3年間の舌下免疫療法を行った群は治療終了後に約7年間、4年間または5年間続けた群は治療終了後に約8年間、効果が持続したと報告されています(※7)。同じ研究では、効果がだんだん薄れて症状が戻ってきた段階で2回目の舌下免疫療法を行うと、1回目より効果が早く現れたとも報告されています(※7)。

つまり、3年や4年がんばって治療を完遂しても、その後10年・20年と症状が出ないわけではなく、一定期間ののちに少しずつ症状が戻ってくる可能性は織り込んでおく必要があります。日本国内のクリニックでも、治療終了後しばらくしてから再び花粉症の症状が出てきた、というご相談を受けることはあります。

ただし、これは舌下免疫療法の価値を否定するものではありません。3〜5年の治療で、そのあと数年〜10年近く、つらいシーズンが楽になる、薬の使用量を減らせる、というのは十分に意味のある効果です。「治療すれば一生治る」という期待ではなく、「アレルギー症状がいちばん生活に響く時期を、できるだけ楽に過ごすための投資」と考えていただくのが、現実に近い受け止め方です。

 

再燃したらどうするか

治療を一度終えたあとに症状が戻ってきた場合、選択肢は大きく2つあります。

1つは、抗ヒスタミン薬や点鼻ステロイドなどの通常の薬で症状を抑えながら、シーズンを乗り切る方法です。治療前の重症度より軽くなっていることが多いため、以前ほどの薬の量はいらない、というケースもしばしばあります。再開するほどではない、という方はこの選択肢で十分なこともあります。

もう1つは、再び舌下免疫療法を始める方法です。先ほどの15年追跡研究で「2回目は1回目より効きが早い」と報告されているとおり(※7)、再開する場合の見通しは、初めて始めるときよりも明るいことが多いと考えられています。再開するかどうかは、症状の戻り方の程度、ご本人の生活への影響、毎日続けられる状況かどうかを一緒に確認したうえで決めていきます。

当院でも、治療を完遂されたお子さんには「数年後に症状が戻ってきたら、もう一度ご相談ください」とお伝えしています。完遂したからこれで終わり、ではなく、その後も生涯のなかでアレルギーと付き合っていくための選択肢を一緒に持っておく、というスタンスです。

 

まとめ ― 当院でのご相談の流れ

舌下免疫療法は、適切に選んだお子さんに対しては大きな価値のある治療です。一方で、すべての方にとって最善の選択肢ではありません。当院がやや慎重に見えるのは、お子さんとご家族の負担に見合うだけの結果が出そうな方に、しっかり完遂していただくためです。実際、当院で開始されたお子さんはみなさん、ここまでのところみなさん続けてこられています。

ご相談の流れは、おおむね次のようなものです。まず、症状の出る時期と程度、これまでに使ってきた薬の効き方を一緒に整理します。必要に応じて、原因アレルゲンを血液検査で確認します。通常の治療できちんと症状が抑えられているなら、無理に舌下免疫療法を始める必要はありません。それでも生活に支障が残る場合に、はじめて舌下免疫療法のメリットとデメリットを具体的にお話しし、ご家族の意向も伺ったうえで、一緒に決めていきます。

「とりあえず話だけ聞いてみたい」「他院で勧められたけれど迷っている」というご相談ももちろん歓迎です。ただし、ご相談いただいた結果として、「当院ではいまは始めない方がよいと思います」とお伝えする可能性があることも、あらかじめご承知おきください。当院での導入の可否は、当院の判断としてお出しします。納得して始めれば、3年間は思っているより早く過ぎていきます。

 

参考文献

※1 日本アレルギー学会「アレルゲン免疫療法の手引き」作成委員会. アレルゲン免疫療法の手引き. 2021年版. https://www.jsaweb.jp/uploads/files/allergen_202101.pdf (アクセス確認日: 2026年4月30日)

※2 鳥居薬品株式会社. シダキュアスギ花粉舌下錠2,000JAU/同5,000JAU 添付文書. 2025年9月作成. (PMDA医療用医薬品情報検索より)https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdSearch/02/4490035F1027 (アクセス確認日: 2026年4月30日)

※3 鳥居薬品株式会社. ミティキュアダニ舌下錠3,300JAU/同10,000JAU 添付文書. (PMDA医療用医薬品情報検索より) (アクセス確認日: 2026年4月30日)

※4 国立大学法人福井大学/国立大学法人筑波大学/国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED). スギ花粉症の治療法「舌下免疫療法」の効果を予測する遺伝子型を発見. 2022年4月5日. https://www.amed.go.jp/news/seika/kenkyu/20220405.html (アクセス確認日: 2026年4月30日)

※5 Penagos M, Compalati E, Tarantini F, Baena-Cagnani R, Huerta J, Passalacqua G, Canonica GW. Efficacy of sublingual immunotherapy in the treatment of allergic rhinitis in pediatric patients 3 to 18 years of age: a meta-analysis of randomized, placebo-controlled, double-blind trials. Ann Allergy Asthma Immunol. 2006;97(2):141-148. doi:10.1016/S1081-1206(10)60004-X. PMID: 16937742

※6 Valovirta E, Petersen TH, Piotrowska T, Laursen MK, Andersen JS, Sørensen HF, Klink R; GAP investigators. Results from the 5-year SQ grass sublingual immunotherapy tablet asthma prevention (GAP) trial in children with grass pollen allergy. J Allergy Clin Immunol. 2018;141(2):529-538.e13. doi:10.1016/j.jaci.2017.06.014. PMID: 28689794

※7 Marogna M, Spadolini I, Massolo A, Canonica GW, Passalacqua G. Long-lasting effects of sublingual immunotherapy according to its duration: a 15-year prospective study. J Allergy Clin Immunol. 2010;126(5):969-975. doi:10.1016/j.jaci.2010.08.030. PMID: 20934206