コラムcolumn
感染症

こどもの尿路感染症   ー「かぜっぽくないのに熱だけ続く」とき、小児科医が考えていることー

お子さんが急に熱を出したとき、お父さんやお母さんはまず「咳は?」「鼻水は?」と様子を観察されると思います。実は、咳も鼻水もないのに熱だけが高いという状況、あるいは、かぜらしい症状はあるのに熱だけが妙に長く続いているとき、私たち小児科医は「尿路感染症」という病気を必ず頭に置きながら診察しています。

今回は、見た目にわかりにくい尿路感染症を、なぜ私たちが「疑う」段階から動くのか、そして「その先で何が調べられるのか」について、専門医の視点から丁寧にお話しします。

1. 尿路感染症とは、おしっこの通り道で起きる「内臓の感染症」

腎臓でおしっこが作られ、体から出るまでの通り道を「尿路(にょうろ)」と呼びます。本来は無菌でとてもきれいな場所ですが、お尻側から細菌(主に大腸菌など)が入り込み、増えてしまうことがあります。

炎症が膀胱までで止まっていれば「膀胱炎」ですが、さらに上にのぼって腎臓にまで達すると「腎盂腎炎(じんうじんえん)」になります。乳幼児の発熱を伴う尿路感染症の多くはこの腎盂腎炎で、腎臓そのものに炎症が起きている「内臓の感染症」です。

2. 見逃されやすい「2つのサイン」

尿路感染症のいちばん厄介なところは、熱以外の症状がはっきりしないことです。私たちは、特に以下の2つのパターンでこの病気を疑います。

  • パターンA:咳も鼻水もないのに高熱がある ── 「お腹の風邪かな?」と思うような機嫌の悪さや嘔吐、食欲不振、あるいは「おしっこの色がいつもと違う」といったサインしか出ないことがよくあります。
  • パターンB:かぜ症状はあるが、熱だけが下がらない ── これが盲点です。お子さんはもともとかぜを引きやすいため、鼻水や軽い咳が出ていることは珍しくありません。しかし、「かぜの症状のわりに、熱が3〜4日経っても一向に下がらない」というとき、私たちは「かぜとは別に、尿路でも炎症が起きているのではないか?」と考えます。
  1. 咳・鼻水などが目立たず、熱だけが続いているとき
  2. かぜ症状はあるが、解熱せずに3日以上熱が続くとき
  3. 1歳未満で、原因のはっきりしない発熱があるとき

このようなときには、尿の検査を一度しておく価値があると考えてください。

3. なぜ菌がのぼってしまうのか――「偶発的な侵入」と「逆流」

背景には大きく分けて2つの事情があります。

(1) うんちの菌が入り込んでしまうケース

おむつの中は便と接しやすく、特に乳児は尿道が短いため、おしりについた便の菌がそのまま尿道の入り口に達してしまうことがあります。健康な体では、入ってきた菌の多くはおしっこと一緒に洗い流されますが、ちょっとしたきっかけで菌が奥まで到達してしまうことがあります。

(2) 生まれつきの形態異常「VUR(膀胱尿管逆流症)」

もうひとつの重要な背景が、膀胱尿管逆流症(VUR:vesicoureteral reflux)です。膀胱と尿管のつなぎ目には、おしっこが腎臓側に逆流しないようにする「弁」の仕組みが備わっています。しかし、生まれつきこの弁の位置が少しずれていたり、作りが弱かったりするお子さんがいます。VURはお子さん全体のおよそ1%に見られる状態です。

初めて熱を伴う尿路感染症を起こしたお子さんの約25〜30%に、このVURが隠れています。逆流が起こりやすい作りだと、菌がエスカレーターに乗るように簡単に腎臓まで運ばれてしまい、腎盂腎炎を起こしやすくなるのです。

4. 逆流は多くの場合、成長とともに改善する

VUR(逆流)は、生まれつき弁の作りや位置に異常がある状態です。

心配になられるかもしれませんが、VURの多くは、成長とともに自然に消えていくことが知られています。実際のデータでも、乳児期にVURと診断されたお子さんの約半数は、1〜4年のうちに自然に消失し、その後も年に約9%ずつ消えていくことが報告されています。逆流の程度(grade)が軽いほど、消失率は高くなります。

理由は、乳幼児期はまだ「おしっこをためる・出す」という機能が発達の途中だからです。成長してしっかりためてスッキリ出せるようになると、膀胱内の無駄な圧力が減り、受動的な仕組みである弁への負担も減ります。その結果、逆流も自然に解消しやすくなるのです。

ただし、この自然な改善を邪魔する「天敵」がいます。それが、便秘とおしっこの我慢ぐせ(医学的にはBBD:膀胱・直腸機能障害と呼びます)です。腸に硬い便が溜まっていると、隣にある膀胱が圧迫されてうまく膨らめません。おしっこを我慢する子も、膀胱の圧力が上がってしまいます。

VURがある子にBBDが合併すると、再発リスクが約2倍になり、自然治癒も遅れることがわかっています。ですから、「便秘を治し、規則正しいトイレ習慣をつけ、水分をしっかりとること」は、今日からできる立派な予防策になります。

5. 当院での判断:パック尿を待つか、採血を優先するか

尿路感染症を疑った場合、本来は尿検査が必要です。しかし、乳幼児の「パック尿(採尿バッグによる採取)」は、おしっこが出るまで時間がかかるうえ、便や皮膚の汚れが混じりやすい(汚くなりやすい)という難点があります。

そのため当院では、おしっこが出るのを長く待つよりも、先に「採血」を行い、全身の炎症反応を確認することを優先する場合があります。採血の結果から「尿路感染症が否定できない」という状況であれば、それ以上の詳しい確定検査や点滴治療は、設備と体制の整った総合病院へ速やかにご紹介するという方針をとっています。

6. 精密検査をするかどうかの判断は、総合病院へ

「尿路感染症になったら、必ず逆流の検査(VCUG)までやるのですか?」というご質問をよくいただきます。答えは「ケースバイケース」です。

逆流の有無を調べる精密検査(VCUGなど)は、お子さんへの負担も考慮して、慎重に行うべきものです。また、その適応(検査が必要かどうか)の判断基準は、各基幹病院や専門施設によって考え方が異なる場合もあります。

当院としては、「尿路感染が疑わしい」と判断した段階で、適切な総合病院へバトンをお渡しします。その後の、

  • 本当に尿路感染症かどうかの最終確認
  • どのレベルの精密検査が必要か
  • 今後のフォローをどうするか

といった点については、ご紹介先の専門医が、お子さんの年齢、性別、経過やエコー所見などを総合的に見て判断されます。当院の役割は、「必要なお子さんを、適切な専門施設へ確実におつなぎすること」に徹しています。

7. 治療の原則――抗生剤は「飲み切る」

尿路感染症の治療は抗生剤です。乳幼児で熱がある場合は点滴が必要になるため入院が標準ですが、状態が落ち着けば飲み薬に切り替え、合計で7〜14日間しっかり治療します。

ここでのお願いは、「熱が下がっても、指示された分は最後まで飲み切る」ことです。途中でやめてしまうと、生き残った菌が再発を招いたり、薬が効かない「耐性菌」を生んだりする原因になります。

その後の経過観察や、再発予防のために少量の薬を飲み続ける「予防内服」が必要かどうかも含め、ご紹介先の総合病院の方針を尊重し、当院でも連携してフォローしていきます。

 

「咳も鼻水もない、ただの熱」「かぜを引いているのに、熱だけが下がらない」。こうした熱は、私たち小児科医にとって、少し緊張感のある熱です。

設備が整った大きな病院をご紹介するのは、ご家族にとって負担も大きいことだと思います。それでも、腎臓は一度ダメージを受けると一生付き合っていく大切な臓器です。だからこそ、「見逃したくない」という一念で診察しています。

一方で、もしVUR(逆流)が見つかったとしても、多くは成長とともに治っていく力を持っています。ご家庭で「便秘とトイレ習慣、水分補給」を整えることが、何よりの応援になります。ご不安なことがあれば、いつでもご相談ください。一緒に、お子さんの大切な腎臓を守っていきましょう。

参考文献

  • 日本小児泌尿器科学会学術委員会編. 小児膀胱尿管逆流(VUR)診療手引き2016. 日本小児泌尿器科学会雑誌 2016;25(2):47-94.
  • https://www.nagoya2.jrc.or.jp/kidney-center/syounikannzouka/ (2026年5月閲覧)
  • Keren R, Shaikh N, Pohl H, et al. Risk factors for recurrent urinary tract infection and renal scarring. Pediatrics 2015;136(1):e13-e21. doi:10.1542/peds.2015-0409. PMID:26055855.
  • Meena J, Mathew G, Hari P, Sinha A, Bagga A. Prevalence of bladder and bowel dysfunction in toilet-trained children with urinary tract infection and/or primary vesicoureteral reflux: a systematic review and meta-analysis. Front Pediatr 2020;8:84. doi:10.3389/fped.2020.00084. PMID:32300575.
  • Shaikh N, Craig JC, Rovers MM, et al. Identification of children and adolescents at risk for renal scarring after a first urinary tract infection: a meta-analysis with individual patient data. JAMA Pediatr 2014;168(10):893-900. doi:10.1001/jamapediatrics.2014.637. PMID:25089634.