なぜ胃腸炎のとき、白いうんちが出るのか? ー小児科医が解説する仕組みと対策ー
子どものうんちが白い!大丈夫?
お子さんが胃腸炎にかかって、いつもより白っぽい、まるで「米のとぎ汁」のようなうんちが出ると、保護者の方はとても驚かれると思います。「色がおかしいけれど、大丈夫なのか」「何か大きな病気が隠れていないか」と心配になるのは当然のことです。
結論からお伝えすると、お子さんがすでに胃腸炎の経過の中にいて、嘔吐や水のような下痢が続いている流れで便が白っぽくなっているのであれば、その多くは胃腸炎そのものの一症状です。 胃腸が回復してくるにつれて、便の色も自然にもどってきます。
ただし、状況によっては「胃腸炎以外の別の病気」を考えなければならない場合もあるため、その見分け方と、お家での観察ポイントを知っておくと安心です。
白色便は「ロタウイルス胃腸炎」で特に有名
乳幼児の胃腸炎で白いうんちが出る原因として、もっとも有名なのが「ロタウイルス」です。
ロタウイルスは秋から春にかけて流行する感染力の強いウイルスで、5歳までにほとんどの子どもが一度は感染するといわれています。日本では2020年10月からロタウイルスワクチンが定期接種となり、重症化するお子さんは大きく減りました。それでも、毎年一定数の発症がみられます。
ロタウイルスによる胃腸炎は、激しい嘔吐から始まり、その後に水のような下痢が数日続くのが典型的な経過です。この下痢便がまるで米のとぎ汁のように白っぽくなることがあり、古くから「白色便性下痢症」や「白痢(はくり)」と呼ばれてきました。
ノロウイルスやサポウイルスなど、他のウイルス性胃腸炎でも便の色が薄くなることはありますが、白さの程度はロタウイルスがもっとも目立ちます。
なぜ白くなるのか? — うんちの色の仕組みから考える
「なぜ白いうんちが出るのか」を理解するために、まずは「普段のうんちがなぜ茶色いのか」という仕組みから見ていきましょう。
1. 普段のうんちが茶色い理由
私たちのうんちが茶色いのは、肝臓で作られた「胆汁(たんじゅう)」という消化液に含まれる色素が、腸の中で変化するためです。
胆汁は、肝臓から出てくるときは黄金色をしており、胆嚢(たんのう)という袋にいったん貯められて濃くなると、黄褐色〜緑色を帯びてきます。この胆汁の色のもとになっているのが、次の色素です。
- ビリルビン(黄色〜橙色の色素):胆汁の色素のもとです。もともとは古くなった赤血球から出てくるもので、肝臓を経て、胆管という管を通って十二指腸に流れ込みます。ビリルビンが酸化されると緑色の物質(ビリベルジン)に変わるため、赤ちゃんの便が緑色っぽく見えることがあるのもこのためです。
- ステルコビリン(茶色の色素):腸の中にすんでいる細菌(腸内細菌)が、ビリルビンを少しずつ変化させることで、最終的にこの茶色の色素になります。
これがうんちに混ざることで、見慣れた茶色〜黄土色のうんちができあがります。
2. 胃腸炎のときに白くなる理由
胃腸炎のときに白いうんちが出るのは、「腸の中に届く胆汁が一時的に減ること」と、「下痢で腸を通る時間が短くなること」が重なるためと考えられています。
- 理由①:胆汁の分泌が一時的に減る
ロタウイルスは、小腸の粘膜にある「絨毛(じゅうもう:栄養や水分を吸収する小さな突起)」という構造に感染してダメージを与えます。胆汁の主成分である「胆汁酸」は、本来、小腸の終わり(回腸)でしっかり再吸収されて肝臓へ戻り、再び使われるという『リサイクル』を繰り返しています。
小腸の粘膜が広く傷つくと、このリサイクルがうまく回らず、結果として腸の中に届く胆汁の量が一時的に減ってしまうと考えられています。便を黄色〜茶色に染めるはずの胆汁が少なくなるため、便の色が薄くなり、白っぽく見えてくるのです。
- 理由②:下痢で「色がつく時間」が足りなくなる
水のような激しい下痢では、腸の中身があっという間に体外へ流れ出てしまいます。そのため、腸内細菌がビリルビンを茶色の色素(ステルコビリン)に変えるのに必要な時間が足りなくなります。「まだ茶色になりきっていない状態」のまま便が出てくる、というイメージです。
下痢がひどいときに便が緑色っぽく見えたり、白っぽく見えたりするのは、この「胆汁の分泌低下」と「腸を通る時間の短さ」のバランスによって見た目が変わってくるためです。
胃腸炎が落ち着いて、小腸の粘膜と腸内環境がもとに戻れば、便の色も自然に戻ってきますので、色だけで過度に慌てる必要はありません。
ご家庭で観察していただきたい3つのポイント
便の色そのものよりも、「お子さんの全体的な状態」のほうがはるかに大切です。
実際、胃腸炎で重症化するかどうかを決めるのは、便が白いかどうかではなく、「水分をどのくらい失っているか(脱水の有無)」だからです。次の3点を意識して観察してみてください。
- 水分の出入り(おしっこの確認)
嘔吐や下痢の回数・量が多く、汗や高熱で失われる水分が多いほど、体は脱水に近づきます。体の中に水分が足りているかを知る一番の目安は「おしっこ」です。「半日以上おしっこが出ていない」「おむつがずっと軽いまま」というときは、脱水が進んでいるサインです。
2.お子さんの様子(活気があるか)
きげんよく遊ぶ瞬間があるか、目を合わせて反応するか、抱き上げたときにぐったりせずに姿勢を保てるかを確認してください。「眠ってばかりで起こしても反応が鈍い」「目がうつろ」「顔色や唇の色が悪い」というときは、すぐに医療機関を受診する必要があります。
3.症状の経過
胃腸炎は、嘔吐が先に1〜2日続き、その後に下痢が数日から1週間以上続くことも珍しくありません。下痢が徐々に黄色や茶色っぽい色に戻ってきたら、それは順調に回復に向かっているサインのひとつです。
ご家庭でのケアと感染予防
胃腸炎のウイルスを直接退治する特別な特効薬はなく、治療の中心は「水分と電解質の補充」になります。
- 水分補給のコツは「少量を頻回に」
嘔吐が少し落ち着いてきたら、経口補水液をスプーン1杯(約5ml)から、5〜10分おきに少しずつ与えるのが基本です。一気にたくさん飲ませると、その刺激で胃がパニックを起こして吐き戻してしまいます。「少しずつ、何度も」が脱水を防ぐ最大のコツです。受けつけられる量が増えてきたら、普段のミルクや母乳、おかゆ、うどんなど、消化しやすい食事へ少しずつ戻していきましょう。
- 二次感染の予防(家庭内での消毒)
吐いた物や便には、ウイルスが大量に含まれています。特にロタウイルスは感染力が非常に強力です。
処理をする時は、必ず使い捨て手袋とマスクを着用し、終わったら石けんで流水手洗いを徹底してください。また、これらのウイルスはアルコール消毒だけでは不十分なため、ハイターなどの家庭用塩素系漂白剤を薄めた「次亜塩素酸ナトリウム液」で拭き取り消毒を行うのが望ましいです。
【受診の目安】このようなときは医療機関へ
以下のようなサインが見られる場合は、当院または救急医療機関へご相談ください。
- 水分を口からまったく受けつけず、激しい嘔吐が止まらない
- 半日以上おしっこが出ていない、または明らかに量が減っている
- ぐったりしていて、声をかけても反応が鈍い・元気がない
- けいれんを起こした、または意識がはっきりしない
- 便に血が混じっている(血便)、または強い腹痛が持続している
- 生後3か月未満の赤ちゃんで、下痢・嘔吐・哺乳量低下などの体調変化があった
注意!「胃腸炎ではない白色便」(胆道閉鎖症について)
最後に、もうひとつだけ保護者の方に知っておいていただきたい重要なことがあります。それは、「胃腸炎の経過とは関係なく、便が白い場合」です。
特に生後4か月ごろまでの赤ちゃんで、下痢や嘔吐がないにもかかわらず、便がクリーム色や白っぽい色になり、以下のような症状が見られる場合は、「胆道閉鎖症(たんどうへいさしょう)」という病気を考える必要があります。
- 生後2週間を過ぎても、皮膚や白目が黄色く見える(黄疸:おうだんが続く)
- おしっこの色が濃い黄色〜褐色になる(濃い麦茶のような色)
胆道閉鎖症は、肝臓から腸へ胆汁を流す管が生まれつき、あるいは生後早期に詰まってしまう病気で、放置すると肝臓に重い障害が残ってしまいます。この病気は、診断と治療が早いほどその後の経過が良いことが分かっています。そのため、母子健康手帳には「便色カード」が綴じ込まれており、生後4か月くらいまでは赤ちゃんの便の色を見比べていただくよう国からも推奨されています。
【見分け方の目安】
- 胃腸炎による白色便:激しい下痢の最中に「水のような白っぽい便」が出始め、回復とともに元の色に戻る。
- 胆道閉鎖症による白色便:下痢はしていないのに、普段のうんちが「徐々に白っぽく・クリーム色」になっていく。
もし日々の生活の中で、「下痢をしていないのにうんちが白い」「生後2週間を過ぎても白目や皮膚の黄色みが抜けない」と感じたら、自己判断せず、お気軽に当院までご相談ください。
まとめ:色だけで慌てず、子どもの全体像を観察しましょう
胃腸炎のときに見られる白色便は、ウイルスの影響で「腸の中に届く胆汁が一時的に減り」「激しい下痢で腸内細菌が便を茶色にする時間が足りない」という現象が重なるためと考えられています。多くは胃腸炎の回復とともに自然に元に戻ります。
大切なのは、便の色そのものよりも、「水分が摂れているか」「おしっこが出ているか」「ぐったりしていないか」というお子さんの全体像です。
「いつもと違って心配」「判断に迷う」というときは、スマートフォンなどで便の写真を撮影したうえで受診していただけますと、より具体的なアドバイスがしやすくなります。どうぞひとりで抱え込まず、頼ってくださいね。

