ヘルパンギーナと手足口病
夏になると、「のどに口内炎のようなものができて高い熱が出ています」「手のひらや足に小さな水ぶくれが出てきました」というご相談が増えます。
この時期に多い病気として、ヘルパンギーナと手足口病があります。名前は聞いたことがあっても、「どう違うのか」「何回もかかるのか」「大人にもうつるのか」「いつから登園してよいのか」は、判断に迷いやすいところです。
このコラムでは、ヘルパンギーナと手足口病の似ている点と違う点、症状の出方、家庭での見守り方、受診や登園の目安を整理します。
1. ヘルパンギーナと手足口病は、どちらもエンテロウイルスの感染症です
ヘルパンギーナと手足口病は、どちらも主にエンテロウイルスというグループのウイルスによって起こります。エンテロウイルスは、手足口病、ヘルパンギーナ、無菌性髄膜炎など、いろいろな病気の原因になります。日本では、いずれも乳幼児を中心に、夏に流行しやすい感染症です。(国立健康危機管理研究機構)
感染経路も似ています。主な感染経路は、せきやくしゃみなどによる飛沫感染、手や物を介した接触感染、便に排出されたウイルスが手を介して口に入る糞口感染です。特に保育園や幼稚園では、おむつ替え、トイレ、食事前の手洗いが重要になります。(厚生労働省)
どちらも、ウイルスに直接効く特効薬はありません。抗菌薬は細菌に対する薬なので、通常は効果がありません。治療は、熱や痛みをやわらげること、水分をとれるようにすることが中心です。多くは数日から1週間ほどで自然によくなります。(国立成育医療研究センター)
また、日本で承認されている予防ワクチンはありません。予防としては、流水と石けんでの手洗い、排泄物の適切な処理、タオルの共用を避けることが基本です。エンテロウイルスはアルコール消毒が効きにくいことがあるため、消毒だけに頼らず、流水と石けんで洗うことが大切です。(国立健康危機管理研究機構)
2. いちばんの違いは「水ぶくれがどこに出るか」です
ヘルパンギーナと手足口病を見分けるとき、最も大切なのは発疹や水ぶくれの場所です。
手足口病では、口の中に加えて、手のひら、足の裏、足の甲などに小さな水ぶくれが出ます。ひじ、ひざ、おしりにも出ることがあります。典型的には、手足の先の方に目立つのが特徴です。(国立成育医療研究センター)
一方、ヘルパンギーナでは、水ぶくれや潰瘍が出る場所は基本的に「のどの奥」です。特に、軟口蓋と呼ばれる上あごの奥のやわらかい部分から、口蓋弓というのどの入り口あたりに小さな水ぶくれが出ます。手や足には出ないのが典型です。(国立健康危機管理研究機構)
口の中の場所にも違いがあります。ヘルパンギーナは、のどの奥に限局しやすい一方で、手足口病では口の中の前方にも病変が出ることがあります。診察では、「口の中のどこにできているか」と「手足にも出ているか」をあわせて見ます。(国立健康危機管理研究機構)
熱の出方も少し違います。ヘルパンギーナは、突然の発熱で始まり、高熱になることがあります。発熱は2〜4日ほど続き、その後に軽快していくことが多いです。手足口病でも熱は出ますが、38℃以下にとどまることが多く、発熱しない、または軽い熱だけで済むこともあります。(厚生労働省)
典型的には、
ヘルパンギーナは「突然の高熱+のどの奥の水ぶくれ」
手足口病は「口の中+手足の水ぶくれ、熱は比較的軽いことが多い」
というイメージです。ただし、実際には典型どおりに出ないこともあります。最終的には、診察で口の中や皮膚の分布を見て判断します。
3. 症状はどんな順番で出るのか
手足口病の潜伏期間は、おおむね3〜6日程度です。最初に発熱、のどの痛み、食欲低下、なんとなく元気がないといった症状が出ることがあります。その後、口の中の水ぶくれや潰瘍、手足の発疹が目立ってきます。(厚生労働省)
口の中の症状が先に出て、翌日以降に手足の発疹が出てくることもあります。そのため、初日は「口内炎かな」「ヘルパンギーナかな」と思っていたら、翌日になって手足に発疹が出て、手足口病らしくなることがあります。
手足口病の発疹は、通常3〜7日ほどで目立たなくなります。水ぶくれが、かさぶたを作らずに治っていくことが多いのも特徴です。(国立成育医療研究センター)
ヘルパンギーナの潜伏期間は、おおむね2〜4日程度とされますが、保育所向けのガイドラインでは3〜6日と記載されています。突然の発熱で始まり、その後にのどの痛みが目立ちます。のどの奥に小さな水ぶくれができ、それが破れて浅い潰瘍になるため、飲み込むときに痛みが出ます。発熱は2〜4日ほどで下がり、そのあと口の中の病変も少しずつ改善します。(国立健康危機管理研究機構)
どちらの病気も、口やのどの痛みが強いと、食事や水分を嫌がることがあります。特に乳幼児では、飲めないことによる脱水に注意が必要です。
4. 手足口病の発疹は、毎回同じとは限りません
手足口病という名前から、「手・足・口だけに出る病気」と思われがちですが、実際には原因ウイルスの型によって、発疹の出方に幅があります。
特にコクサッキーウイルスA6型による手足口病では、従来より水ぶくれが大きく見えたり、平たい発疹になったり、水痘と間違えるほど広い範囲に出たりすることがあります。保育所の感染症対策ガイドラインでも、A6型では水痘と間違えられるほどの発疹や、後から爪がはがれることがあるとされています。(CFA Japan)
顔まわり、ひじ、ひざ、おしり、太ももなどに広がることもあります。そのため、「手足口病と言われたのに、発疹が広い」「顔にも出ているから違う病気では」と心配になることがあります。
ただし、手足口病では、手のひら、足の裏、足の甲など、体の末端に発疹が目立つことが診断の手がかりになります。反対に、体幹だけに発疹が出て手足にはほとんど出ない場合は、別のウイルス性発疹、突発性発疹、薬疹、水痘なども含めて考える必要があります。
また、手足口病が治った数週間後に、爪が浮いたり、はがれたりすることがあります。多くは新しい爪が生えてきますので、過度に心配する必要はありません。ただし、痛みや赤み、腫れが強い場合は診察で確認した方がよいです。(国立健康危機管理研究機構)
5. 何回もかかることがあります
手足口病もヘルパンギーナも、原因となるウイルスの型が複数あります。
手足口病では、コクサッキーウイルスA6、A16、A10、エンテロウイルス71などが原因になります。ヘルパンギーナでは、主にコクサッキーウイルスA群が原因ですが、コクサッキーウイルスB群やエコーウイルスが関係することもあります。(国立健康危機管理研究機構)
一度かかると、そのときの原因ウイルスに対する免疫はできます。しかし、別の型のウイルスによる感染までは防げません。そのため、「去年も手足口病になったのに、今年もまたかかった」「きょうだいで別の時期に何度も似た病気になる」ということが起こります。(国立健康危機管理研究機構)
「一度かかったからもう安心」という病気ではありません。
6. 大人にもうつります
手足口病もヘルパンギーナも、大人にうつることがあります。
ただし、大人は子どもの頃に似たウイルスに感染していることが多く、発症しない、または軽く済むことも多いです。一方で、免疫のない型に感染した場合は、大人でも発熱、のどの痛み、口内炎、手足の発疹が出ることがあります。(国立健康危機管理研究機構)
家庭内では、お子さんの看病、おむつ替え、食器やタオルの共有などを通じて感染することがあります。
特に大切なのは、症状が治ったあとも、便からしばらくウイルスが排出されることです。手足口病では、症状が消えたあとも2〜4週間ほど感染源になり得るとされます。保育所ガイドラインでは、手足口病・ヘルパンギーナともに、便から数週〜数か月ウイルスが排出されることがあるため、登園再開後も排便後やおむつ交換後の手洗いを徹底するよう示されています。(国立健康危機管理研究機構)
ただし、ウイルス排出が続くからといって、何週間も登園を控える必要があるわけではありません。長く休ませても感染拡大を完全に防ぐことは難しく、現実的でもありません。大切なのは、急性期は休むこと、回復後も手洗いを続けることです。(CFA Japan)
7. 家庭で見るポイントは「水分がとれているか」です
ヘルパンギーナも手足口病も、多くは自然に治ります。家庭で最も大切なのは、水分がとれているかどうかです。
口の中やのどが痛いと、食事を嫌がることがあります。この時期は、無理に普通の食事を食べさせる必要はありません。まずは水分を優先してください。
しみやすいもの、酸味の強いもの、熱いもの、硬いものは嫌がることがあります。常温から少し冷たいもの、のどごしのよいものが向いています。たとえば、ゼリー、プリン、ヨーグルト、ポタージュ、冷ましたおかゆ、うどん、経口補水液などを、少量ずつこまめに試してください。国立感染症研究所の手足口病の説明でも、口腔内病変に対しては刺激にならない柔らかめで薄味の食べ物をすすめ、水分不足を避けることが重要とされています。(国立健康危機管理研究機構)
熱や痛みが強いときは、年齢や体重に合った解熱鎮痛薬を使うことで、水分がとりやすくなることがあります。
8. 受診した方がよいサイン
次のような場合は、早めに受診してください。
水分がほとんどとれない
半日以上おしっこが出ない、明らかに尿が少ない
ぐったりしている
呼びかけへの反応が悪い
強い頭痛がある
繰り返し吐く
発症して2〜3日目以降に、かえって発熱が強くなる
けいれんがある
首を痛がる、強く不機嫌でいつもと様子が違う
手足口病もヘルパンギーナも、多くは軽く済みますが、まれに髄膜炎、脳炎、急性心筋炎などを合併することがあります。特に手足口病の原因となるエンテロウイルス71は、中枢神経系の合併症に注意が必要とされています。(国立健康危機管理研究機構)
また、発疹の出方が典型的でない場合、水痘、とびひ、薬疹、ヘルペス性歯肉口内炎、アフタ性口内炎などとの区別が必要になることがあります。写真だけ、あるいは文章だけでは判断が難しいこともありますので、迷う場合は診察で確認してください。
9. 登園・登校の目安
手足口病もヘルパンギーナも、インフルエンザや水痘のように「解熱後何日まで休む」といった一律の日数で決まる病気ではありません。
保育所の感染症対策ガイドラインでは、登園の目安として、発熱や口の中の水ぶくれ・潰瘍の影響がなく、普段の食事がとれる状態が示されています。発疹が完全に消えるまで待つ必要はありません。(CFA Japan)
つまり、目安としては、
熱が下がっている
口やのどの痛みが軽くなっている
水分や食事が普段に近い形でとれる
全身状態がよい
集団生活で無理なく過ごせる という状態です。
一方で、発熱がある、のどの痛みが強く食べられない、下痢がある、ぐったりしている場合は、登園を控えて休ませてください。
園によっては、登園届や独自のルールがある場合があります。登園前に、通っている園のルールを確認しておくと安心です。
まとめ
ヘルパンギーナと手足口病は、どちらも夏に多いエンテロウイルス感染症です。
ヘルパンギーナは、突然の高熱とのどの奥の水ぶくれが中心です。手足口病は、口の中に加えて、手のひら、足の裏、足の甲などに水ぶくれが出るのが特徴です。
どちらも特効薬はなく、治療の中心は水分摂取と痛み・熱への対応です。多くは自然に改善しますが、水分がとれない、ぐったりしている、強い頭痛や嘔吐がある、後から熱が強くなるといった場合は受診が必要です。
登園は「発疹が完全に消えたか」ではなく、「熱がなく、口やのどの痛みの影響がなく、普段の食事がとれるか」で判断します。回復後もしばらく便からウイルスが出ることがあるため、登園再開後も手洗い、とくにトイレ後・おむつ替え後の手洗いを続けることが大切です。
参考文献
※1 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「エンテロウイルス感染症」(国立健康危機管理研究機構)
※2 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「手足口病」および「手足口病(詳細版)」(国立健康危機管理研究機構)
※3 厚生労働省「手足口病」(厚生労働省)
※4 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト「ヘルパンギーナ」および「ヘルパンギーナ(詳細版)」(国立健康危機管理研究機構)
※5 国立健康危機管理研究機構 感染症発生動向調査週報 IDWR 2025年第30号「手足口病・ヘルパンギーナ」(国立健康危機管理研究機構)
※6 こども家庭庁「保育所における感染症対策ガイドライン(2018年改訂版、2023年一部修正)」(CFA Japan)

