コラムcolumn
予防接種, 院長より

不活化ワクチンを「間隔をあけて」複数回受ける理由 -早く守ることと、免疫をしっかり育てることのバランス-

子どもの予防接種の予定表を見ると、同じワクチンを「少し間隔をあけて、何回かに分けて」接種するものが多いことに気づきます。
たとえば、五種混合ワクチン、小児用肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンなどです。
こうしたワクチンの多くは、不活化ワクチン、あるいはそれに近い「生きた病原体が体の中で増えるタイプではないワクチン」です。

保護者の方からは、ときどき次のような質問を受けます。
・どうして1回で終わらないのですか?
・早く守りたいので、もっと間隔を詰めて打てませんか?
・逆に、間隔を長くあけたほうが、しっかり効くのではないですか?

どれも自然な疑問です。
予防接種のスケジュールは、単に「なんとなく数週間あけている」わけではありません。
そこには、「できるだけ早く病気から守りたい」という考えと、「免疫がきちんと育つ時間を確保したい」という考えの両方が入っています。

今回は、不活化ワクチンを数週間ごとに複数回受ける理由を、できるだけわかりやすく整理します。

結論:数週間ごとの接種は、「早く守る」と「しっかり効かせる」の落としどころです

不活化ワクチンは、生きた病原体が体の中で増えるワクチンではありません。
そのため、感染そのものを起こす心配は基本的にありません。一方で、生ワクチンと比べると、1回の接種だけで長く十分な免疫をつくることが難しい場合があります。
そこで、同じワクチンを決められた間隔で複数回接種し、免疫を段階的に積み上げていきます。

1回目で体に「この病原体を覚えてください」と知らせる。
2回目、3回目でその記憶を強める。
そして、必要に応じて追加接種で免疫を長く保つ。

このような設計になっています。

ただし、接種間隔はワクチンごとに異なります。
たとえば、五種混合ワクチンの初回接種は、20日以上、標準的には20〜56日までの間隔をあけて3回接種します。日本脳炎ワクチンの1期初回は、6〜28日の間隔をおいて2回接種します。小児用肺炎球菌ワクチンは、乳児期にはおよそ1か月おきに接種します。B型肝炎ワクチンは、生後2か月、生後3か月、その後生後7〜8か月頃という形で、3回目までに少し長めの間隔をとります。

つまり、「不活化ワクチンはすべて4週間ごと」と決まっているわけではありません。
ただ、乳児期には複数のワクチンを同時に進める必要があるため、実際の運用としては「毎月、決まった時期に受ける」というリズムが使いやすいことが多いです。

これは、最短を狙うためというより、忘れにくく、予定を立てやすく、必要な免疫を遅れずにそろえるための現実的な方法です。

なぜ、続けてすぐに打ってはいけないのか

ワクチンを接種すると、体の中では免疫の準備が始まります。
とくに重要なのが、抗体をつくるB細胞という免疫細胞です。
B細胞は、ワクチンに含まれる成分を目印として認識し、リンパ節などで反応します。その中で、よりよい抗体をつくれる細胞が選ばれ、増えていきます。
イメージとしては、免疫の「訓練期間」です。
この訓練には時間がかかります。
ワクチンを打った直後に、すぐ次の接種をしても、体の免疫はまだ準備中です。その状態で間隔を詰めすぎると、期待したほど免疫が上積みされないことがあります。
そのため、それぞれのワクチンには「最低限これだけは間隔をあけてください」というルールが決められています。

体の免疫が反応し、記憶をつくり、次の刺激を受け止めるために必要な時間です。

では、もっと長くあけたほうがよいのでしょうか

ここが少し難しいところです。
免疫学的には、ある程度間隔をあけたほうが、最終的な抗体の反応がよくなる場合があります。成人のワクチンや一部のワクチンでは、数か月単位で間隔をあけたほうが抗体価が高くなることもあります。
ただし、子どもの定期接種では、もう一つ大事な視点があります。
それは、「免疫が完成するまでのあいだ、病気にかかるリスクが残る」ということです。

とくに乳児期は、百日せき、Hib感染症、肺炎球菌感染症など、かかると重症化しやすい病気から早く守る必要があります。

たとえば百日せきは、年長児や成人では長引く咳で済むこともありますが、月齢の低い赤ちゃんでは無呼吸、肺炎、けいれん、脳症などを起こすことがあり、命に関わることがあります。
実際に、2025年には国内で百日せきの報告数が大きく増加しました。生後6か月未満の赤ちゃんの重症例や死亡例も報告されています。

もし「しっかり効かせたいから」と考えて、初回接種の間隔を必要以上に長くあけてしまうと、そのぶん免疫がそろう時期が遅れます。
つまり、一番守りたい時期に、守りが間に合わなくなる可能性があります。
予防接種のスケジュールは、早く守ることと、免疫が育つ時間を確保することのバランスで作られています。

「同じワクチンの間隔」と「違うワクチン同士の間隔」は別です

ここまでお話ししてきた「数週間あける」というルールは、基本的には「同じワクチンを複数回受けるときの間隔」の話です。
一方で、「種類の違うワクチン同士」の間隔は、別のルールです。

現在は、注射の生ワクチン同士を別の日に接種する場合だけ、27日以上あける必要があります。
たとえば、MRワクチンと水痘ワクチンを別々の日に打つ場合などです。
それ以外の組み合わせ、つまり不活化ワクチン同士、不活化ワクチンと生ワクチン、経口生ワクチンと他のワクチンなどでは、接種間隔の制限はありません。
たとえば、五種混合ワクチンと肺炎球菌ワクチン、B型肝炎ワクチン、ロタウイルスワクチンなどを同じ日に受けることは可能です。

乳児期のワクチンは種類が多いため、同時接種を上手に使うことで、早く免疫をそろえ、通院回数を減らすことができます。

予定がずれてしまったときはどうすればよいか

赤ちゃんや子どもの予防接種では、予定通りに進まないこともよくあります。
その場合でも、多くのワクチンでは、最初からやり直す必要はありません。
基本的には、すでに受けた回数を生かして、「続きの回数」から再開します。
接種間隔が予定より長くなったからといって、それまでの接種が無駄になるわけではありません。

そのため、予定がずれた場合は、放置せず、体調が戻りしだい早めに次の接種を組み直すことが大切です。
また、ワクチンによっては接種できる年齢や期限、必要回数が変わることがあります。ロタウイルスワクチンのように接種期限が厳密なものもあります。

「もう遅いかもしれない」
「どこから再開すればよいかわからない」
「母子手帳を見ても判断できない」

そのようなときは、自己判断せず、母子手帳を持ってご相談ください。