夏休みにHPVワクチンを考える
夏休みは、HPVワクチンを始めるよい機会です
「子宮頸がんを予防できるなら接種させたい。でも、副反応の話を聞くと心配になる」
「国や製薬会社の説明だけで、本当に判断してよいのだろうか」
HPVワクチンについて、このように迷うのは不自然なことではありません。大切なのは、誰かの説明を無条件に信じることではなく、異なる国や研究機関が、異なる方法で調べた結果を一つずつ確かめることです。
現在までの研究を総合すると、HPVワクチンには、HPV感染や前がん病変だけでなく、実際の子宮頸がんを減らす効果があります。安全性についても、日本を含む複数の国で大規模な調査が行われ、接種によって特定の重い病気や多様な症状が増えるという一貫した結果は確認されていません。
当院では、こうした研究結果に基づき、定期接種の対象となる方にHPVワクチンをおすすめしています。
今回はいつもよりも長い内容になっています。興味のある部分だけ読んでいただければいいようにしたつもりですので、ご心配な方はぜひ一読ください。
子宮頸がんは、HPVの持続感染によって起こります
子宮頸がんのほぼすべてには、高リスク型のヒトパピローマウイルス、略してHPVの感染が関係しています。
HPVは、主に性的な接触によって皮膚や粘膜に感染する、ごく一般的なウイルスです。感染しても、多くの場合は免疫の働きによって自然に排除されます。しかし、一部の方では感染が長く続き、子宮の入り口にある細胞が少しずつ変化して、前がん病変を経て子宮頸がんへ進むことがあります。※1
HPVワクチンは、感染性のあるウイルスそのものを接種するワクチンではありません。ウイルスの外側の形を再現した「ウイルス様粒子」を使い、HPVに対する免疫をあらかじめ準備します。HPVの遺伝情報は含まれておらず、ワクチンが体内で増殖したり、ワクチンによってHPVに感染したりすることはありません。
10代で接種するのは、現在の交友関係や性行動を疑うためではありません。将来HPVに出会う可能性が生じる前に、感染を防ぐ準備をしておくためです。
臨床試験では、前がん病変を防ぐ効果が確認されています
子宮頸がんは、HPVへの感染から発症までに長い年月がかかります。
そのため、ワクチンの臨床試験では、まず、HPVの持続感染や、将来がんになる可能性のある高度な前がん病変を防げるかが調べられました。
現在、日本の定期接種で使用される9価HPVワクチンについては、16~26歳の女性1万4,215人を対象とした無作為化二重盲検試験があります。この試験では、9価ワクチンに追加された5種類の高リスク型に関連する高度病変を防ぐ有効率は97.4%でした。※2
この97.4%という数字は、「すべての子宮頸がんを97.4%防ぐ」という意味ではありません。9価ワクチンに新しく追加された5種類のHPV型に関連する、高度な前がん病変を評価した数字です。
しかし臨床試験には製造企業が関与したものもあります。そのため、一つの試験だけで判断するのではなく、ワクチンが広く使われた後に、実際の社会で子宮頸がんが減ったかどうかを確認する必要があります。
ワクチン接種後、実際の子宮頸がんも減っています
スウェーデンでは、10~30歳の女性約167万人について、予防接種の記録とがん登録を結び付けた全国規模の研究が行われました。
調査期間中に浸潤性子宮頸がんと診断されたのは、4価HPVワクチンを受けた人で19人、受けていない人で538人でした。年齢や居住地域、家庭背景などを調整した後も、接種者では子宮頸がんの発症率が低く、特に17歳になる前に接種した方で大きな効果が確認されました。※3
イングランドの全国データを用いた研究でも、12~13歳でHPVワクチンの接種対象となった世代では、接種制度導入前の世代と比べ、子宮頸がんが87%、高度な前がん病変であるCIN3が97%少ないと推定されました。※4
これらは無作為化試験ではなく、実際の社会を観察した研究です。そのため、接種した人と接種しなかった人の生活背景などの違いを完全に取り除くことはできません。
それでも、異なる国の大規模な研究で、若い年齢で接種した世代ほど実際の子宮頸がんが少ないという結果が繰り返し確認されていることは、重要な意味を持ちます。
日本の「名古屋スタディ」でも安全性が調べられました
子宮頸がんワクチンをうつことで、副反応を心配される方も多いかと思います。
日本国内では、名古屋市立大学の鈴木貞夫先生、細野晃弘先生による「名古屋スタディ」が行われています。
名古屋市在住の若い女性を対象に、接種した人と接種していない人を比較し、頭痛、疲労感、記憶や集中に関する問題、手足の動かしにくさなど、24種類の症状が調べられました。
年齢の違いを調整した解析では、24種類の症状の発生について、HPVワクチン接種との統計学的に有意な関連は認められませんでした。※5
これは、接種後に症状を経験した人がいなかったという意味ではありません。接種した集団で、これらの症状が接種していない集団より多く発生していたとは確認されなかった、という結果です。
実際に小児科診療をやっていると、思春期女子での頭痛、疲労感、記憶や集中に関する問題、手足の動かしにくさなどについては、相談されることがあります。つまりワクチンとうってもうたなくても、この頻度は変わらなかったということです。
日本人を対象に、接種者と非接種者を直接比較した大規模な研究として、名古屋スタディは重要な安全性データの一つです。
海外の大規模研究でも、重い病気の増加は確認されていません
海外ではさらに大きな研究が行われています。デンマークとスウェーデンでは、約100万人の女の子を対象に、4価HPVワクチン接種後の自己免疫疾患、神経疾患、静脈血栓症などが調べられました。
一部の病名で統計上の増加がみられたものの、発症時期が接種後に集中していない、国を分けると結果が再現されないなど、ワクチンとの因果関係を示す一貫したパターンは確認されませんでした。研究全体として、接種によってこれらの病気が増えるという根拠は示されていません。※6
現在使われている9価ワクチンについても、米国の複数の医療機関の診療データを使った市販後監視が行われ、あらかじめ調査対象とした有害事象について、新たな安全性上の問題は確認されませんでした。※7
「将来妊娠できなくなるのではないか」という心配については、デンマークの全国コホート研究で、卵巣の働きが若い年齢で低下する原発性卵巣機能不全との関連が調べられましたが、HPVワクチン接種による増加は認められませんでした。※8
もちろん、これらの研究も「あらゆる副反応の可能性が完全にゼロである」と証明するものではありません。しかし、国や研究者、調査方法の異なる大規模研究が、同じ方向の結果を示していることが、安全性を判断する根拠になります。
夏休みに接種を始めるメリット
2026年度、安城市では、小学6年生から高校1年生相当の女子が、9価HPVワクチンを無料で受けられます。
対象となるのは、2010年4月2日から2015年4月1日までに生まれた女子です。高校1年生相当の方が無料で接種できる期限は、2027年3月31日です。2026年度から、公費接種で使用されるワクチンは9価ワクチンのみとなっています。
接種回数は、1回目を受ける年齢によって変わります。
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1回目を15歳になる前に受ける場合
標準的には、6か月の間隔をあけて合計2回接種します。 -
1回目を15歳になってから受ける場合
標準的には、初回、2か月後、6か月後の合計3回接種します。
15歳になる前の中学生であれば、「夏休みに1回目、冬休みに2回目」という予定を立てやすくなります。
高校1年生相当の方は通常3回接種です。7月または8月に1回目を受ければ、3回目を翌年1月または2月ごろに予定できます。体調不良や学校行事で予定を変更する可能性も考えると、年度末ぎりぎりではなく、夏休みから始めることをおすすめします。
過去に1回または2回接種した記録がある方は、最初からやり直す必要はありません。母子健康手帳や接種済証を確認し、残りの接種について医療機関へご相談ください。
親子で話し合う夏休みに
HPVワクチンは強制されるものではありません。効果と副反応について、ご本人と保護者が理解し、納得したうえで受けるものです。
疑問を持つことは、医学を否定することではありません。
「どのような研究で効果が分かったのか」
「副反応として、どのような症状が起こり得るのか」
「持病や体質があっても接種できるのか」
気になることがあれば、接種を決める前に遠慮なくご相談ください。
夏休みは、すぐに接種すると決めるためだけの時間ではありません。親子で資料を読み、疑問を整理し、将来の病気を防ぐ方法について一緒に考える機会にもできます。
当院では、効果だけでなく、副反応や研究でまだ分かっていないこともお伝えしたうえで、ご本人と保護者が納得して判断できるようお手伝いします。
接種をご希望の方は、母子健康手帳と予診票兼接種券をご確認のうえ、事前に当院へお問い合わせください。
接種後もすべての子宮頸がんを防げるわけではないため、20歳になったら自治体の案内に沿って、定期的に子宮頸がん検診を受けましょう。
参考文献
※1 Walboomers JMM, et al. Human papillomavirus is a necessary cause of invasive cervical cancer worldwide. J Pathol. 1999;189:12-19. PMID: 10451482.
※2 Huh WK, et al. Final efficacy, immunogenicity, and safety analyses of a nine-valent human papillomavirus vaccine in women aged 16-26 years: a randomised, double-blind trial. Lancet. 2017;390:2143-2159. PMID: 28886907. DOI: 10.1016/S0140-6736(17)31821-4.
※3 Lei J, et al. HPV vaccination and the risk of invasive cervical cancer. N Engl J Med. 2020;383:1340-1348. PMID: 32997908. DOI: 10.1056/NEJMoa1917338.
※4 Falcaro M, et al. The effects of the national HPV vaccination programme in England on cervical cancer and grade 3 cervical intraepithelial neoplasia incidence. Lancet. 2021;398:2084-2092. PMID: 34741816. DOI: 10.1016/S0140-6736(21)02178-4.
※5 Suzuki S, Hosono A. No association between HPV vaccine and reported post-vaccination symptoms in Japanese young women: Results of the Nagoya study. Papillomavirus Res. 2018;5:96-103. PMID: 29481964. DOI: 10.1016/j.pvr.2018.02.002.
※6 Arnheim-Dahlström L, et al. Autoimmune, neurological, and venous thromboembolic adverse events after immunisation of adolescent girls with quadrivalent human papillomavirus vaccine in Denmark and Sweden. BMJ. 2013;347:f5906. PMID: 24108159. DOI: 10.1136/bmj.f5906.
※7 Donahue JG, et al. Near real-time surveillance to assess the safety of the 9-valent human papillomavirus vaccine. Pediatrics. 2019;144:e20191808. PMID: 31740498.
※8 Hviid A, et al. Association between human papillomavirus vaccination and primary ovarian insufficiency in a nationwide cohort. JAMA Netw Open. 2021;4:e2120391. PMID: 34436612. DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2021.20391.
厚生労働省「HPVワクチンに関するQ&A」。2026年7月24日閲覧。
安城市「ヒトパピローマウイルス(HPV)感染症予防接種(子宮頸がん予防ワクチン)」。2026年7月24日閲覧。

