子どもの立ちくらみは貧血?②
採血が正常でも起こる、起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)
「立ちくらみが続くのに、採血では貧血ではありませんでした。では、原因はないのでしょうか」
そんなことはありません。
血液検査が正常でも、立ちくらみは起こります。
血液検査で分かるのは、主に血液の中身です。一方、立ち上がったときの立ちくらみには、下半身へ移動した血液を心臓へ戻し、そこから脳へ送り出す「循環の調節」が関係していることがあります。
その代表が、起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD)です。
まず体の血液の流れを説明します。
1.立つだけで、血液は下半身へ移動します
横になっているとき、血液は全身を比較的均等に巡っています。
そこから立ち上がると、重力によって血液の一部が脚やおなか側へ移動します。その瞬間、心臓へ戻る血液が減り、心臓から脳へ送り出せる血液も一時的に減ります(※1、※2、※3)。
通常は、首や胸にある「血圧の変化を感じるセンサー」がすぐに反応します。自律神経が血管を縮め、心拍数を調整し、血圧と脳への血流を保ちます。
この調節が追いつかないと、目の前が暗くなる、ふわっとする、動悸がする、といった症状が出ます。
2.脚の筋肉が血液を押し上げる「骨格筋ポンプ」
脚へ移動した血液を戻すのは、自律神経だけではありません。
歩いたり足首を動かしたりすると、ふくらはぎや太ももの筋肉が静脈を外から圧迫します。静脈の弁が逆流を防ぎ、血液を心臓の方向へ押し上げます。これが「骨格筋ポンプ」です(※3、※4)。
立ったまま動かないときに症状が出やすく、足踏みや歩行で少し楽になることがあるのは、この仕組みも関係します。
ただし、「筋肉量が少ないからODになる」と単純には言えません。ODには循環血液量、血管の反応、心拍出量、自律神経、睡眠、活動量など、複数の要因が重なります。
3.ODは「血圧が下がる病気」だけではありません
ODでは、立ったときに血圧が大きく下がる病型だけでなく、血圧を保つ代わりに脈が大きく増える病型もあります。
体位性頻脈症候群(Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome:POTS)では、立っても血圧が大きく下がらないことがあります。その代わり、心臓へ戻る血液の減少を補おうとして心拍数が過度に増えます。それでも補いきれないと、立ちくらみ、動悸、だるさなどが現れます(※1、※3、※4)。
血管迷走神経性失神(Vasovagal Syncope:VVS)では、長く立つことなどをきっかけに反射が起こり、血管が広がったり、脈が遅くなったりして、失神することがあります(※1、※3、※5)。
つまり、「血圧が下がっていないからODではない」とは言えません。
なぜ思春期に増えるのでしょう
ODは、小児期から思春期に多くみられます(※1、※2)。
「成長期には骨だけが先に伸び、血管や筋肉の発達が追いつかない」と説明されることがあります。分かりやすい表現ですが、これがODの原因として証明されているわけではありません。
思春期には、内分泌系、神経系、循環器系が大きく変化します。そこへ睡眠リズムの乱れ、運動不足、体調不良、心理社会的ストレスなどが重なり、症状が始まったり、強くなったりすると考えられています(※1)。
また、つらいために横になって過ごす時間が増えると、骨格筋ポンプや循環調節がさらに働きにくくなる「デコンディショニング(身体機能の低下)」が加わることがあります(※3、※4)。本人の気合いや性格の問題ではありません。
症状が出たら、まず転倒を防ぎます
目の前が暗くなる、気が遠くなる、足元がふわっとする。
そのまま階段を上ったり、歩き続けたりしないでください。
- まず座るか横になる
- 起き上がる前に足首を動かし、ゆっくり立つ
- 長く立つときは、可能なら足踏みや脚の筋肉を動かす
- 意識がはっきりしていれば、水分を少しずつとる
- 起きた時刻、姿勢、直前の食事・入浴・運動、動悸の有無を記録する
食事や水分を極端に減らさないこと、睡眠時間を整えることも大切です。塩分や運動の増やし方は、年齢、体格、持病、症状の強さに応じて医師と相談します。
診察では、採血とは別のことを調べます
ODが疑われる場合は、病歴と診察に加え、安静時と起立後の血圧・脈拍の変化をみる「新起立試験」が診断の中心になります(※1、※2)。
立ち上がった直後なのか、しばらく立ってからなのか。座る・横になると軽くなるのか。朝、入浴後、暑い場所、空腹時などに増えるのかを確認します。
一方、貧血、心臓病、内分泌疾患など、別の病気を除外することも必要です。採血が正常でもODは否定できませんし、ODらしい症状があっても、必要な検査を省いてよいという意味ではありません。
登校できないのは「怠け」ではありません
ODでは、朝に症状が強く、午後になると動けることがあります。そのため、周囲から「夜は元気なのに」「学校へ行きたくないだけでは」と誤解されることがあります。
しかし、朝に循環調節がうまく働かず、立っていられない状態なら、気合いで解決できる問題ではありません。
通学路や階段で倒れそうな日は、安全を優先します。遅刻や欠席が続く場合は、登校時間、体育、保健室利用などを学校と相談します。学校との連携も治療の一部です(※1、※2)。
まとめ――採血が正常でも、原因がないわけではありません
- 立つと、重力によって血液の一部が下半身へ移動します。自律神経と骨格筋ポンプによる調節が追いつかないと、立ちくらみが起こります。
- ODは単なる低血圧ではなく、POTSのように脈を増やして血圧を保つ病型や、VVSのように反射で失神する病型もあります。
- 症状が出たら、まず座るか横になり、姿勢、時刻、動悸、誘因を記録してください。
- 繰り返して生活や登校に影響する場合は、採血だけで終わらせず、血圧と脈拍の変化を含めて相談しましょう。

参考文献
※1 石井和嘉子. 「小児起立性調節障害診療ガイドライン改訂第3版」の概説. 日大医学雑誌. 2026;85(2):51-57.
※2 日本小児科学会. 起立性調節障害(Orthostatic Dysregulation:OD). 2024.

