コラムcolumn
病気の話, 薬・おうちケア

突発性発疹は、なぜあんなに不機嫌になるの?

熱と発疹だけでは見えてこない、HHV-6のもう一つの顔

突発性発疹を経験した保護者の方にとって、意外と強く記憶に残るのが「あの不機嫌」ではないでしょうか。
抱っこしても泣く。下ろしても泣く。眠そうなのに寝ない。何をしても気に入らない。
「高い熱が出る病気」と聞いていたけれど、実際には熱よりも、このぐずりのほうが大変だった――そんなこともあります。
実は研究を見ていくと、この「不機嫌」は単なる印象ではありません。
そして、その理由を追っていくと、突発性発疹という病気のちょっと意外な一面が見えてきます。


まず、突発性発疹はどんな病気?

突発性発疹は、主に乳幼児がかかるウイルス感染症です。
原因の中心はヒトヘルペスウイルス6B(HHV-6B)で、ヒトヘルペスウイルス7(HHV-7)でも起こります。大半は2歳未満で経験します。※1、※2
典型的には、突然高い熱が出て3日ほど続き、その熱が下がるころに体を中心として赤い発疹が出てきます。※1
だから発熱している最中には、まだ「突発性発疹です」と分からないことが多いです。
熱が下がって発疹が出てから、「なるほど、突発性発疹だったのか」と分かることの多い病気です。


「一度かかったから、もうならない」は本当?

実は、突発性発疹は2回経験することがあります。
理由はシンプルで、原因になるウイルスが一つではないからです。
一般にはHHV-6Bのほうが早い時期に感染し、HHV-7はもう少し後に感染します。実際に、突発性発疹を2回発症した子どもでは、2回目がHHV-7によることが多いと報告されています。※2
ですから、「上の子は1回だったのに、この子は2回突発をやった気がする」ということはあり得ます。
もちろん、発熱のあとに発疹が出る感染症はほかにもありますので、「突発性発疹は必ず2回まで」という意味ではありません。


そして本題。「不機嫌」は本当に多い

子ども277人を生まれたときから2歳まで追いかけ、HHV-6への初感染を調べた研究があります。
感染した時期をはっきり特定できた81人では、69%に不機嫌(fussiness)がみられました。 しかもHHV-6に感染していない時期のほかの病気と比べても、不機嫌は有意に多くみられました。※3
この研究は「典型的な突発性発疹だけ」を集めた研究ではないので、「突発性発疹の69%が必ず不機嫌になる」という意味ではありません。
それでも、HHV-6への初感染そのものに「不機嫌」がついて回りやすいことは、研究からも見えてきます。

では、なぜなのでしょう。いくつかの怪しいものたちについて考えます。

犯人候補その1――体の中で起きている「炎症」

まず考えられるのが、ウイルスに対する全身の免疫反応です。
合併症のないHHV-6初感染の子どもを調べた研究でも、急性期には複数のサイトカインやケモカインと呼ばれる免疫物質が増えていました。※4
サイトカインという言葉は難しいのですが、簡単にいえば、体が感染と戦うときに細胞どうしが出し合う「連絡物質」のようなものです。
私たち大人も感染症にかかると、

「体が重い」
「頭がぼーっとする」
「食欲がない」
「何となく全部いやだ」

という感覚になります。赤ちゃんには、それを言葉で説明することができません。
その「なんだかものすごくしんどい」が目立ちやすい感染症なので、泣く、怒る、抱っこから離れない、眠れない、という形で表現されている可能性があります。


犯人候補その2――実は「熱と発疹」以外にもいろいろ起きている

突発性発疹というと、どうしても「高熱+発疹」のイメージが強いのですが、ウイルス学的にHHV-6初感染が確認された176人を調べた日本の研究では、下痢、まぶたのむくみ、のどの赤い発疹など、さまざまな症状がみられています。※5
別の研究では、HHV-6が血液から分離された発熱児34人のうち21人に、鼓膜の炎症所見がありました。※6
もちろん、「耳が痛いから突発性発疹では機嫌が悪くなる」と証明されたわけではありません。
ただ、外から見れば「熱があるだけ」に見えても、子どもの体の中ではそうではないのかもしれません。

のどが変な感じがする。
おなかの調子が悪い。
耳も気持ち悪い。
眠りも浅い。
体全体がだるい。

でも、本人はどこがどう嫌なのか説明できない。
そう考えると、あの「何をしても納得してくれない不機嫌」も、少し違って見えてきます。


犯人候補その3――HHV-6は「神経系との距離が近い」ウイルス

そして、もうひとつ興味深い点があります。
先ほどの日本の176人の研究では、26%に大泉門の膨隆がみられました。大泉門とは、赤ちゃんの頭にある「やわらかいところ」です。※5
なぜ突発性発疹で大泉門が膨らむことがあるのでしょう。
これについては、HHV-6によって引き起こされる炎症反応が脳脊髄液の産生に影響し、一時的な頭蓋内圧の上昇につながるのではないか、という仮説も提唱されています。※7

まだ確立した仕組みではありませんが、「突発性発疹は皮膚に発疹を出すだけの病気ではない」と考える材料にはなります。


ほかの感染症でも、ウイルスは脳まで来るの?

ここで、インフルエンザと比べるとさらに興味深くなります。
インフルエンザでも、まれに脳症という重い神経合併症を起こします。
ところが日本でインフルエンザ脳症の子ども11人を調べた研究では、髄液からインフルエンザウイルスのRNAが検出されたのは1人だけでした。研究者らは、インフルエンザ脳症ではウイルスが直接脳へ侵入することは一般的ではなく、炎症反応などが病態に関わる可能性を指摘しています。※8
一方、HHV-6Bの初感染では、神経症状があって髄液検査を受けた子どもの髄液からHHV-6BのDNAが検出されることがあります。※9

この違いはなかなか興味深いところです。

ただし、「HHV-6Bはほかのウイルスより血液脳関門(BBB)を簡単に通り抜ける」とまで証明されているわけではありません。

髄液からウイルスDNAが見つかることと、ウイルスが脳の中で活発に増えていることも同じではありません。HHV-6では、ウイルスDNAが人の染色体に組み込まれている場合があり、PCRの結果には慎重な解釈が必要です。※9

それでも、HHV-6Bが神経系とまったく無関係なウイルスではないことは確かです。突発性発疹では熱性けいれんがみられ、まれには脳炎・脳症を起こすことも知られています。※1

ですから、あの独特の不機嫌についても、「高熱で疲れているだけ」ではなく、
全身の炎症、耳やのど・おなかなどの不快感、そしてHHV-6Bがもつ神経系との関わり――そんなものがいくつも重なっているのではないか

と考えられています。

どれか一つが「不機嫌の原因」と証明されたわけではありません。
でも、研究をつなぎ合わせていくと、「どうしてあんなに機嫌が悪かったんだろう」の背景が少し見えてくる気がします。

まと


突発性発疹の不機嫌は、「機嫌が悪いだけ」と言ってしまえば簡単です。
でも小さな子どもにとって、「不機嫌」は大切な症状の表現でもあります。

体がだるい。
どこかが気持ち悪い。
うまく眠れない。
いつもとは違う感覚がある。

まだ言葉にできないその全部を、泣くことで伝えているのかもしれません。
突発性発疹で不機嫌が多いことは研究でも確かめられています。そして、その背景には全身の炎症やさまざまな身体的不快感、さらには神経系への影響まで、いくつもの仕組みが検討されています。
「あんなに泣いていたのには、ちゃんと理由があったのかもしれない」そう考えるだけでも、ぐずるお子さんを見る目が少し変わるのではないでしょうか。

参考文献

※1 国立健康危機管理研究機構.「突発性発しん」2026年3月23日更新.

※2 国立感染症研究所/国立健康危機管理研究機構.IASR「突発性発疹 2000~2020年」2020.

※3 Zerr DM, et al. A population-based study of primary human herpesvirus 6 infection. N Engl J Med. 2005;352:768-776. PMID:15728809. DOI:10.1056/NEJMoa042207.

※4 Yoshikawa T, et al. Kinetics of cytokine and chemokine responses in patients with primary human herpesvirus 6 infection. J Clin Virol. 2011;50:65-68. PMID:21035385. DOI:10.1016/j.jcv.2010.09.017.

※5 Asano Y, et al. Clinical features of infants with primary human herpesvirus 6 infection (exanthem subitum, roseola infantum). Pediatrics. 1994;93:104-108. PMID:8265302.

※6 Pruksananonda P, et al. Primary human herpesvirus 6 infection in young children. N Engl J Med. 1992;326:1445-1450. PMID:1315416. DOI:10.1056/NEJM199205283262201.

※7 Cristoforo T, et al. The Not-So-Soft Spot: Pathophysiology of the Bulging Fontanelle in Association With Roseola. Pediatr Emerg Care. 2020;36:e576-e578. PMID:29489601. DOI:10.1097/PEC.0000000000001447.

※8 Ito Y, et al. Detection of influenza virus RNA by reverse transcription-PCR and proinflammatory cytokines in influenza-virus-associated encephalopathy. J Med Virol. 1999;58:420-425. PMID:10421411.

※9 Ward KN, et al. Human herpesvirus 6 DNA levels in cerebrospinal fluid due to primary infection differ from those due to chromosomal viral integration and have implications for diagnosis of encephalitis. J Clin Microbiol. 2007;45:1298-1304. PMID:17229866. DOI:10.1128/JCM.02115-06.

※10 厚生労働省.「こんな時は迷わず119へ」「子どもの症状は#8000」.