コラムcolumn
病気の話, 院長より

安城市でインフルエンザが増えています

― 週報だけでは見えない流行と、今年も変わらない治療・まだ届かないワクチン ―

 

「真夏なのに、インフルエンザですか?」
診察室で、こう聞かれることが増えてきました。実際、当院でもインフルエンザの患者さんが明らかに増えています。
今回は、安城市でいま何が起きているのかに加えて、「結局、治療はどうするのか」「ワクチンを早く打てないのか」まで、今一度まとめます。

先に結論をお伝えします。

  • 安城市全体の一様な大流行ではなく、特定の保育園などに強いホットスポットがあります。
  • インフルエンザ治療の軸は今年も変わらず、当院ではタミフルを基本に考えます。
  • ワクチンはまだ医療機関へ届いていません。当院での接種開始は、早くても10月上旬の予定です。

 

全国でも、一部の地域から増え始めています

国立健康危機管理研究機構の第32週の集計では、全国の定点当たり報告数は0.52でした。一方、沖縄県は2.30、宮城県と新潟県は1.64、埼玉県は1.09で、流行開始の目安となる1.0を超えた地域が点在しています(※1)。
東京都も増加傾向です。第33週は0.91で、8つの保健所管内が1.0を超えました(※2)。横浜市では、前週の0.49から1.22へ増えています(※3)。
全国どこでも同じように流行しているわけではありません。しかし、関東、東北、沖縄など、離れた地域に小さな流行の山ができています。


お盆をはさむ週報は、そのままでは読みづらくなります

感染症の週報は大切な資料ですが、お盆を含む時期は、医療機関の休診、受診の先送り、帰省先での受診などが重なります。診断から集計・公表までにも時間差があります。
週報が間違っているという意味ではありません。ただ、この時期の数字だけを見て「増えていない」「安城市ではまだ流行していない」と判断するのは難しくなります。
正直なところ、お盆前後は週報だけでは現在地をつかみにくく、診察室で同じ施設から患者さんが続いているかという実感も合わせて考える必要があります。
お盆の帰省や旅行で人の出入りが増えたことが、地域間でウイルスが持ち込まれるきっかけになった可能性はあります。ただし、これは現在の集まり方から考えられる一つの推測です。

 

安城市では、特定の保育園などに強いホットスポットがあります

愛知県全体の第33週の定点当たり報告数は0.51で、数字だけを見れば大きな流行には見えません(※4)。
ところが当院では、特定の保育園などから、短い期間に複数の患者さんが続いています。同じクラスから、短い間隔で次々に発熱するお子さんが受診しています。
市内全体へ均等に広がっているというより、ある施設では強く流行し、少し離れた施設ではほとんど出ていない状態です。この集まり方は、インフルエンザの感染力の強さを臨床的に感じさせます。
おそらくそこから市内全域に広がるのは時間の問題と考えています。
インフルエンザは、発症する前日からウイルスを排出することがあります(※5)。まだ熱がなく、本人も周囲も感染に気づいていない時期から広がり得るため、一人目の発症を確認した時点で、すでに同じクラス内の感染が進んでいることがあります。

 

今一度、インフルエンザの治療を復習しましょう

結論からいうと、治療の軸は今年も変わりません。
今シーズンの日本小児科学会の新しい指針はまだ公表前ですが、現時点での最新版は「引き続き、以下の考え方を継続する」としています(※6)。
インフルエンザは、多くの場合、休息と水分補給を中心に自然に回復します。抗インフルエンザ薬は、全員が必ず飲まなければならない薬ではありません。
乳幼児でも、かかっただけで必ず重症になるわけではありません。多くは休息と水分補給を中心に回復します。ただし、幼児、基礎疾患がある子、呼吸器症状が強い子、重症化が心配な子では、早めの治療を考えます。基礎疾患がなく、元気や水分摂取が保たれている子では、薬の利点、飲みやすさ、副作用を一緒に考えて決めます(※6)。

 

当院の基本は、今年もタミフルです

当院では、抗インフルエンザ薬を使用する場合、今年もタミフル(一般名:オセルタミビル)を第一に考えます。
乳幼児を含む小児での使用経験が豊富で、粉薬とカプセルがあり、小さい子どもにも使用しやすいためです。日本小児科学会では新生児・乳児に推奨され、米国小児科学会(American Academy of Pediatrics:AAP)も小児の優先薬としています(※6、※7)。
吸入薬は、指示に合わせて十分に吸い込めなければ治療になりません。小さい子どもや、咳が強い子には使いにくいことがあります。
タミフルは通常、1日2回、5日間服用します。吐き気、嘔吐、下痢、腹痛などの消化器症状が問題になることがあります。ただし、インフルエンザそのものでも嘔吐は起こるため、薬だけが原因とは限りません(※8)。

AAPは1歳未満のタミフル量に細かな区分があります。満期産の0〜8か月は1回3 mg/kg、9〜11か月は1回3.5 mg/kgを1日2回としています。9〜11か月では、目標とする薬の濃度を得るため、少し多い量が必要という薬物動態の研究に基づくものです(※7)。
一方、日本の添付文書では、新生児・乳児は1回3 mg/kgを1日2回です(※8)。つまり「8か月になったら量が変わる」のではなく、AAPでは9か月から区分が変わり、日本の承認用量とは少し異なります。
現状は本邦のやり方に従います。

これは保護者がご家庭で計算するための情報ではありません。出生週数、月齢、体重、国内の承認用量を踏まえて医師が処方します。

 

ゾフルーザは「1回で終わる」ことに意味があります

ゾフルーザ(一般名:バロキサビル マルボキシル)は、一度服用すれば治療が完了します。薬を嫌がる子や、何度も服用することが難しい家庭では、飲み忘れを防げる大きな利点があります。
小児での根拠は以前より増えていますが、年齢とA型・B型で位置づけが異なります。日本小児科学会は、12歳以上ではA型・B型とも推奨し、6〜11歳ではB型で使用を提案する一方、A型では慎重な判断を求めています。5歳以下では積極的には推奨していませんが、B型では個別に考慮されます(※6)。
そのため、「1回で済むから全員ゾフルーザ」でも、「新しい薬だから使わない」でもありません。治療自体が必須ではない軽症例も含め、年齢、型、重症化リスク、確実に飲めるかを見て選びます。
基本的に内服に抵抗のないお子さんであれば、タミフルをお勧めします。

主な副作用には、下痢、吐き気、嘔吐、頭痛、発疹などがあります(※9)。

 

異常行動は、タミフルだけの副作用ではありません

急に走り出す、意味の通らないことを言う、窓や玄関から出ようとするなどの異常行動は、タミフルを飲んだ子だけに起こるものではありません。
薬を使用したかどうか、どの薬を使用したかにかかわらず、インフルエンザに伴って起こることがあります。少なくとも発熱から2日間は一人にせず、窓やベランダの施錠を確認してください(※6、※8、※9)。

 

ワクチンを早く打ちたいのですが、まだ届いていません

これだけ早く流行が始まると、「ワクチンをすぐ打てませんか」と思われるのは当然です。
しかし、今シーズン用のワクチンは、当院にはまだ出荷・納品されていません。製造株は決まっていますが、製造、検定、流通を経て医療機関へ届くのを待つ段階です(※10)。

いま完成したワクチンが当院の倉庫にあるのに、接種を先延ばしにしているわけではありません。そもそも当院へ納品されていないため、早く打ちたくても打てないのが現状です。
当院での接種開始は、早くても10月上旬の予定です。供給時期が確定しましたら、予約方法とあわせてご案内します。
今シーズンのインフルエンザワクチンは、A型2株(H1N1、H3N2)とB型1株(ビクトリア系統)を含む「3価ワクチン」です。体が3つの株それぞれに対する抗体を含む免疫反応をつくるように設計されています。平たく言えば、「3つのパターンに備えるワクチン」です(※10)。
このため、今インフルエンザにかかったとしても、「今シーズンはもうかからない」「ワクチンはもういらない」とは言えません。今回の感染で得られる免疫は、ほかのA型やB型への備えの十分な代わりにはならないからです。同じシーズンの中でも、異なる型や亜型のインフルエンザに複数回かかることがあります。
今回インフルエンザにかかったお子さんも、発熱などの症状が落ち着き、体調が戻ったら、今年のワクチンは予定どおり受けることをお勧めします。ワクチンで感染を100%防げるわけではありませんが、今回の感染だけでは得られない型への備えにもなります。

 

登園許可は「熱が下がった日」だけでは決まりません

幼児の登園再開は、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後3日を経過するまで」が基準です。発症した日と解熱した日は、それぞれ0日目として数えます。小学生以上では、発症後5日に加えて、解熱後2日を経過する必要があります(※5)。
陰性確認のための再検査や治癒証明書を一律に求める必要はありませんが、登園届や医師の意見書などの運用は園や学校で異なります。再受診する前に、必要な書類を確認してください。

 

まとめ

現在の安城市では、特定の保育園などに強いホットスポットがあります。お盆前後は週報だけでは現在地をつかみにくいため、同じ施設から患者さんが続いているという診療現場の動きも重要です。
治療の軸は今年も変わりません。薬は全員に必須ではありませんが、使用する場合、当院ではタミフルを基本とし、年齢、型、症状、飲みやすさによってゾフルーザなどを選びます。
ワクチンは、まだ当院へ届いておらず、接種開始は早くても10月上旬です。今年はA型2株とB型1株に備える3価ワクチンです。今回インフルエンザにかかったお子さんも、体調が戻ったら予定どおり接種をお勧めします。届くまでの間は、呼吸、水分摂取、反応を確認してください。

検査を受けるタイミングなどの基本情報は、既存コラム「インフルエンザ – 知っておきたい予防と対策」もあわせてご覧ください。

参考文献

 

※1 国立健康危機管理研究機構「IDWR速報データ 2026年第32週」

※2 東京都感染症情報センター「東京都感染症週報 2026年第33週」

※3 横浜市衛生研究所「横浜市インフルエンザ流行情報 第33週」

※4 愛知県衛生研究所「愛知県感染症情報 2026年第33週」

※5 厚生労働省「インフルエンザQ&A」

※6 日本小児科学会「2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」

※7 American Academy of Pediatrics. Recommendations for Prevention and Control of Influenza in Children, 2025–2026.

※8 医薬品医療機器総合機構「タミフルドライシロップ3% 添付文書」

※9 医薬品医療機器総合機構「ゾフルーザ錠・顆粒 添付文書」

※10 厚生労働省「ワクチンの供給状況について」