コラムcolumn
予防接種

日本脳炎ワクチンは、3歳まで待たなくても受けられます

生後6か月から受けられる理由と、早めをおすすめしたいお子さん

当院のある安城市は大きな企業が多く、遠くの地域から転入されるご家族もたくさんいらっしゃいます。九州などから来られた方のお子さんは、日本脳炎ワクチンを3歳より前に受けていることがよくあります。そうしたお友達の様子を見て、「うちも先に打ったほうがいいのでしょうか」と相談を受けることがあります。

安城市では、日本脳炎ワクチンのお知らせは3歳1か月のころに届きます※1。ただ、定期接種そのものは生後6か月から公費で受けられます。多くのお子さんは3歳の案内で受けて間に合いますが、早めに受けたほうがよいお子さんもいます。
 

日本脳炎は、主にブタの体で増えたウイルスを蚊が運ぶ病気です

日本脳炎は、日本脳炎ウイルスが脳に炎症を起こす病気です。このウイルスが大きく増えるのは、主にブタの体の中です(サギなどの水鳥の体でも増えます)。ブタが感染すると、血液の中でウイルスがたくさん増えます※2。

そのブタの血を吸った蚊がウイルスを持ち、次に人を刺すと人が感染します。ウイルスを運ぶ主な蚊はコガタアカイエカで、田んぼや湿地で育ち、夕方から夜にかけて屋外で血を吸います。好んで吸うのはブタやウシなど大きな動物や鳥で、人を刺すことは比較的少ない蚊です※2。

人の体の中ではウイルスがあまり増えないので、人を刺した蚊が別の人にうつすことはありません。人から人に直接うつることもありません※2。

蚊は意外と遠くまで動きます。1967年に長崎で、印をつけたコガタアカイエカを15万匹以上放し、まわりの19か所の罠で捕まえ直す調査が行われました。
ふだんの行動範囲は少なくとも1km、なかには8.4km以上離れた場所まで散らばった蚊もいました※3。
さらに遠くから来ることもあります。九州で捕まえたコガタアカイエカの遺伝子を調べると、全体の2%ほど、時期と場所によっては1割ほどが、ふだんは大陸側にいる型でした。
実験では、日本の型の蚊が38時間飛び続けたこともあり、風に乗れば約1,000km離れた大陸から九州まで飛んでくることも気象の上では可能だと考えられています※4。


 

患者さんは少ないですが、ウイルスは毎年動いています

日本で日本脳炎と診断される人は、1992年以降、多くの年で10人以下です。しかも大半は60歳以上で、2020〜2023年に年代が分かった17人のうち、10代以下の人は1人もいませんでした※5※6。

それでもワクチンが要るのは、ウイルスが毎年夏に日本の中で動いているからです。国は毎年、と畜場に集まるブタの血液を調べています。四国や九州の多くの県では、毎年夏に、調べたブタの8割以上が感染したあとの抗体を持つようになります。千葉や静岡でも高くなる年があります。愛知県は年によって違いますが、2024年の9月下旬には、調べたブタの80%から抗体が見つかっています※7。

人でも、気づかないうちに感染していることがあります。2015年に乳児の患者さんが出た千葉県の養豚が盛んな地域で、病院に入院した子どものうちワクチンを受けていない子どもの血液を調べたところ、9.2%に感染したあとの抗体がありました。抗体があった6人のうち5人は3歳未満でした※8。

脳炎になるのはまれですが、なると重い病気です

日本脳炎ウイルスに感染しても、ほとんどの人は症状が出ないか、軽い熱で終わります。脳炎まで進むのは、感染した人の1%未満です※2。

ただ、いったん脳炎になると重くなります。脳炎になった人の20〜40%が亡くなり、助かった人の約半数に重い後遺症が残るとされています※9。ウイルスに効く薬はありません※2。国内で15歳未満の子どもがかかった例を全国で調べた研究では、9人のうち5人に後遺症が残り、3歳以下は経過がよくない傾向がありました※10。


 

当院では、豚舎の近くで過ごすお子さんに早めをおすすめしています

ブタの体でウイルスが増え、蚊が数km単位で動くことを考えると、養豚場が「家のすぐ隣」でなくても、同じ地域にあれば関係してくると私は考えています。ブタの飼育場から何km離れていれば安全、という線を引いたデータはありません。

そこで当院では、豚のにおいがするような場所の近くで過ごすことが多いお子さんには、以前から3歳を待たずに早めの接種をおすすめしてきました。たとえば、次のようなお子さんです。

  • 家や保育園の近くに養豚場がある
  • ご家族の職場が養豚場や食肉加工場のそばにあり、一緒に行くことがある
  • 祖父母の家が田んぼと養豚場のある地域にあり、よく泊まりに行く

安城市の中にも豚を飼っているところはありますが、当院の周りにはほとんどありません。
当院に来られる多くのお子さんのように、当てはまらない場合は、3歳の案内で受けて間に合います。
もちろんご心配な方は、積極的に接種されるのが良いと思います。

 

生後6か月から受けられますが、標準は3歳です

日本脳炎の第1期は、生後6か月から7歳6か月になる前までが定期接種の対象です。安城市のページにも、対象は「生後6か月から」と書かれていて、そのうえで「標準的な接種開始年齢:3歳」とされています※1。3歳より前に受けても公費の対象で、お知らせが3歳1か月に届くのは、この標準に合わせているからです。

では、生後6か月から受けられるのに、なぜ3歳が標準なのでしょうか。
 

3歳が「標準」になったのは、1994年です

2005年に、以前のワクチンで重い副反応(急性散在性脳脊髄炎)が問題になったことが理由だと思われがちです。私もそう考えていましたが、記録を調べると違っていました。

3歳を標準とした国の通知は、1994年に出ています。そこには「初回接種については標準として三歳」とあり、そのすぐあとに「地域における患者発生の状況により、必要と認められる場合には接種開始年齢を早める等の考慮をすること」とも書かれています※11。患者さんが出ている地域では早めに、という考え方は、最初から書かれていたのです。なぜ3歳にしたのかは、私が探した範囲の国の資料には書かれていませんでした。

2005年に変わったのは年齢ではなく、受ける人の数です。積極的なおすすめが控えられ、1回目を受けた子どもの割合は、2004年度の83.0%から2006年度には4.0%まで下がりました。
2010年におすすめを再開するときも、国はまず標準の3歳から再開すると決めました。新しいワクチンの量が足りなかったためです※12。
2021年度にワクチンが足りなくなったときも、小さい子どもへのおすすめは、3歳の最初の2回に絞られました※13。

こうして、「日本脳炎は3歳」という印象が強く残りました。2008年には国立感染症研究所の研究者が、0〜4歳の患者さんがいることから「3歳より前の接種も考えるべき」と書いています※6。
 

2015年、千葉県で生後10か月の赤ちゃんがかかりました

2015年8月、千葉県で生後10か月の男の子が日本脳炎になりました。まだ3歳になっていなかったので、ワクチンは受けていませんでした。家の近くには田んぼが多く、よく蚊に刺されていて、10km以内に養豚場がいくつもありました。治療を受けましたが、発症から1年半たっても首がすわらず、重い手足のまひが残っているとのことでした※14。

2009年から論文が書かれた時点までに、国内で3歳未満の日本脳炎の患者さんは3人確認されています※8。数は少ないものの、3歳の案内を待つあいだにかかる例があるということです。

日本小児科学会は2016年に、最近患者さんが出た地域や、ブタが日本脳炎の抗体を持つ割合が高い地域に住む子どもには、生後6か月から接種を始めることをすすめました。こうした子どもの例も、経緯の一つに挙げられています※15。千葉県でも同じ年に、県の医師会が生後6か月からの接種をすすめる通知を出しています※8。
 

九州や千葉では、早めに受ける家庭が多くなっています

3歳より前に受け始めた子どもの割合を全国で調べたインターネット調査では、全国で33%、九州では50%でした。県別では千葉県が65%、愛知県は24%でした※16。ブタの感染が多い九州や、乳児の患者さんが出た千葉で、早めに受ける家庭が多いことは読み取れます。
お隣の静岡県でも、2023年に県内で患者さんが出たことをきっかけに、2024年から県として3歳より前の接種をすすめ、市や町に受けやすい体制づくりを求めています※19。同じ調査で、静岡県は45%でした※16。

同じ調査では、医療機関から案内を受けた家庭で、早めに受ける割合が高くなっていました※16。九州から転入されたご家族のお子さんが3歳前に受けていることが多いのも、こうした地域の流れを背景にしていると考えられます。
 

早めに受けるときに知っておいてほしいこと

第1期は全部で3回です。3歳から始める場合は、最初に2回受け、そのおよそ1年後に追加を1回受けます※1。早めに始める場合の日程として、日本小児科学会は、生後6か月で2回、1歳で追加を1回、という形を示しています※15。違うのは量で、3歳未満は1回0.25mL、3歳以上は0.5mLです※15。

量が少なくても心配はいりません。千葉の調査では、3回目の追加まで受けた子どもは、0.25mLで受けた子も3歳から0.5mLで受けた子も、全員に十分な抗体がありました。ただ、2回目までの段階では、0.25mLで受けた子どもの抗体が低めでした。早めに始めたら、1歳の追加まで忘れずに受けてください※8。

副反応では、3歳未満のほうが熱などがやや多いことが、承認のときの試験で分かっています。主に軽い発熱で、ワクチンが原因の重い副反応は確認されていません※17。

お知らせが届く前に受けるときは、先に安城市の保健センターで「予診票兼接種券」をもらってください※1。そのうえで、当院で定期接種として受けられます。ご予約のときに「日本脳炎を早めに」とお伝えください。迷うときは、ほかの予防接種で来られたときに声をかけてください。ほかのワクチンとの関係は「当院で接種するワクチンのこと」もご覧ください。
 

海外で日本脳炎ワクチンを受けたお子さんへ

当院には、海外から赴任されてきたご家族のお子さんもいらっしゃいます。日本脳炎ワクチンには、日本で使っている不活化ワクチンのほかに、生ワクチンなどいくつかの種類があり、国によって使うものが違います※2。日本の定期接種は、国内の不活化ワクチンで行うと決められています※18。

海外で受けた予防接種は、医師の判断と保護者の同意があれば、受けた回数として数えることが「できる」とされています※18。必ず数えなければいけない、という決まりではありません。
海外で受けた生ワクチンと国内の不活化ワクチンは種類が違うので、当院では、海外で受けた分を回数に数えずに、国内の不活化ワクチンだけで第1期から計画することができます。
母子手帳や海外の接種記録をお持ちください。一緒に予定を立てます。
 

まとめ

日本脳炎は、主にブタの体で増えたウイルスを蚊が人に運ぶ病気です。患者さんはまれですが、ウイルスは毎年動いていて、脳炎になると重い病気です。ワクチンは3歳の案内を待たなくても、生後6か月から公費で受けられます。豚舎の近くで過ごすことが多いお子さんは、早めに始めることを考えてみてください。早めに始めたら、追加の3回目まで受けることが大切です。
 

参考資料

※1 安城市. 子どもの予防接種(2026年10月23日更新). https://www.city.anjo.aichi.jp/kurasu/kenko/yobosessyu/annai.html

※2 Hills SL, et al. Japanese Encephalitis Vaccine: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices. MMWR Recomm Rep 2019;68(2):1-33. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6659993/

※3 Wada Y, et al. Dispersal Experiment of Culex tritaeniorhynchus in Nagasaki Area (Preliminary Report). 熱帯医学 1969;11(1):37-. https://nagasaki-u.repo.nii.ac.jp/records/24678

※4 Arai S, et al. Two hidden taxa in the Japanese encephalitis vector mosquito, Culex tritaeniorhynchus, and the potential for long-distance migration from overseas to Japan. PLoS Negl Trop Dis 2022;16(6):e0010543. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9278767/

※5 国立健康危機管理研究機構. 感染症流行予測調査報告書 第4 日本脳炎(2020〜2023年度). https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/report/2020/04.pdf / https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/report/2023/04.pdf

※6 Arai S, et al. Japanese encephalitis: surveillance and elimination effort in Japan from 1982 to 2004. Jpn J Infect Dis 2008;61(5):333-8. https://www.jstage.jst.go.jp/article/yoken/61/5/61_JJID.2008.333/_article

※7 国立健康危機管理研究機構. ブタの日本脳炎抗体保有状況(2024年度・2026年度速報). https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/rapid/japanese-encephalitis/2024/1029/index.html / https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/nesvpd/rapid/japanese-encephalitis/2026/1029/index.html

※8 追立のり子ほか. 日本脳炎ワクチン早期接種推奨後の中和抗体価について. 日本公衆衛生雑誌 2023;70(4):243-251. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jph/70/4/70_22-001/_article/-char/ja

※9 国立健康危機管理研究機構. 日本脳炎. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/na/je/index.html

※10 Nanishi E, et al. A Nationwide Survey of Pediatric-onset Japanese Encephalitis in Japan. Clin Infect Dis 2019;68(12):2099-2104. https://doi.org/10.1093/cid/ciy816

※11 厚生省保健医療局長通知. 予防接種の実施について(平成6年8月25日 健医発第962号). https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta4909&dataType=1&pageNo=1

※12 厚生科学審議会 感染症分科会 予防接種部会 日本脳炎に関する小委員会(2010年1〜2月)資料. https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/dl/s0115-12j.pdf / https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/01/s0127-9.html

※13 厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会(第26回、2021年9月1日)資料2. https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000825287.pdf

※14 国立感染症研究所. 2015年夏に千葉県で発生した日本脳炎の乳児例. 病原微生物検出情報(IASR)2017;38:153-154. https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2410-iasr/related-articles/related-articles-450/7461-450r01.html

※15 日本小児科学会. 日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について(2016年2月). https://www.jpeds.or.jp/society-activities/pediatric-medical-care/vaccination/vaccinations-infectiousdiseases/20207.html

※16 宇野信吾ほか. 日本脳炎ワクチンの3歳未満接種開始(早期接種)に関する全国web調査結果〜影響要因と地域差〜. 新薬と臨牀 2026;75:694-708. https://www.iyaku.info/archive/up_img/1785901060-076851.pdf

※17 医薬品医療機器総合機構. 審査報告書 ジェービックV(2009年)・エンセバック皮下注用(2011年). https://www.pmda.go.jp/drugs/2009/P200900014/63014400_22100AMX00439_A100_2.pdf / https://www.pmda.go.jp/drugs/2011/P201100014/20001100_22300AMX00412_A100_1.pdf

※18 厚生労働省. 定期接種実施要領(令和7年9月30日改正). https://www.mhlw.go.jp/content/001471610.pdf

※19 田中敏博ほか(静岡県小児科医会). 一人の日本脳炎患者も出さないために:日本脳炎ワクチンの接種率向上と早期接種に向けた静岡県内の取り組み. https://www.jsvac.jp/topics/nouen_43.pdf