6種混合ワクチンの臨床試験が始まりました
ワクチンを「ひとつにまとめる」ことの難しさ
2026年、国内で「6種混合ワクチン」の臨床試験(治験)が相次いで始まりました。ニュースで目にして、「いま打っているワクチンの予定を待ったほうがいいのか」と気になった方もいると思います。
6種混合はまだ承認される前の段階で、いつから使えるようになるかは決まっていません。いまのお子さんの接種は、予定どおり進めてください。
いま受けるワクチンは、予定どおりで大丈夫です
赤ちゃんの時期は、百日せきやHib感染症、肺炎球菌感染症のように、かかると重くなりやすい病気から早く守ることが大切です。6種混合を待って、いまの接種を遅らせることはしないでください。接種の間隔や同時接種の考え方は、以前のコラムにまとめています。
6種混合は、5種混合にB型肝炎を加えたものです
いま使っている5種混合ワクチンには、百日せき、ジフテリア、破傷風、ポリオ、Hib感染症(ヒブ。髄膜炎などを起こす細菌による感染症)の5つを防ぐ成分が入っています。B型肝炎のワクチンは、これとは別の注射で打っています。
6種混合は、そのB型肝炎の成分も同じ注射に入れたものです。国内では2社が開発していて、どちらも治験の段階です。
- 阪大微生物病研究会(BIKEN財団)と田辺ファーマの「BK1803」:予定は344人
- Meiji Seika ファルマとKMバイオロジクスの「KD2-396」:予定は540人
どちらも、生後2か月以上7か月未満の赤ちゃんに筋肉注射で打ちます。いまの5種混合とB型肝炎ワクチン(皮下注射)を別々に打った場合と比べる計画です(※1、※2)。
混ぜるのは足し算ではなく、効きを確かめ直す作業です
2011年に国の検討会がまとめた報告書は、混合ワクチンの問題として、成分どうしの干渉や、結合型ワクチン(細菌の表面の糖に、運び役のたんぱく質をつないだワクチン)の運び役が重なることによる影響を挙げています(※3)。成分が増えれば、どれかの効きが落ちていないかを、ひとつずつ確かめ直す必要があります。
ワクチンの組み合わせで効きが変わった例があります。乳児567人の試験で、百日せき・ジフテリア・破傷風とHibを混ぜたワクチンに、ポリオのワクチンも同時に打ったところ、Hibに対する抗体が下がりました。
7か月の時点で、Hibに対する抗体が長く守る目安とされる濃度(1.0μg/mL)以上だった赤ちゃんの割合は、ポリオを不活化ワクチン(注射)で打った群で53%、経口の生ワクチンの群で78%でした(※4)。
2000年の試験で、ポリオは別の注射であり、いまのワクチンの数字でもありませんが、組み合わせで効き方が変わることがある例です。だから6種混合も、別々に打ったときと同じくらい効くかを、治験で確かめます。
B型肝炎を含む6種混合で、効きが弱かった製品がありました
B型肝炎を含む6種混合は、以前にもありました。ヨーロッパで使われていた「ヘキサバック」は、B型肝炎に対する免疫への懸念から、2005年に販売が停止され、2012年に取り下げられました(※5)。
ドイツでの調査では、接種後およそ2.4年の時点で、B型肝炎の抗体が低い値(10mIU/mL未満)だった子どもの割合が、ヘキサバックでは25.3%、別の6種混合(インファンリックス・ヘキサ)では4.7%でした(※6)。
昔の1製品の数字で、いまの6種混合が同じとは限りません。ただ、混ぜたあとにB型肝炎の成分が弱くなる製品が、実際にありました。
B型肝炎は、3回目までの期間が短くなる計画です
いまの国の決まりでは、B型肝炎ワクチンは、1回目から27日以上あけて2回、1回目から139日以上あけて3回目を打ちます(※7)。標準的な期間は生後2か月から9か月になるまでで、国の技術的な検討では、生後2か月、3か月、7〜8か月ごろが標準として示されています(※8)。
3回目が7〜8か月ごろなのは、国の資料に「他のワクチンと同じ日程で対応できる」とあるためです(※10)。製品の用法(1回目から20〜24週後に3回目)とも重なりますが、その関係を説明した記述や、5〜6か月ではない理由を抗体の面から検討した記述は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。2010年の作業チーム報告書(案)は、3〜6か月ごろの3回目に混合ワクチンを使う日を想定していました(※9)。
6種混合の治験は、27〜56日あけた3回と、6〜18か月後の追加1回の計画です(※1、※2)。打つ月齢は登録票にありませんが、2か月から始めれば3回目は4〜6か月ごろに早まり、2回目と3回目の間は4〜5か月から1か月ほどに縮みます。B型肝炎は3回から4回になります。
WHOの文書には、初回の間隔が1・2・5か月でも差はなかったという記述と、間隔が長いほど最終的な濃度は上がるように見えるが抗体ができる割合は変わらない、という記述があり、両立の説明はありません(※11)。土台のレビューで3回接種の乳児の濃度を比べたのは1件だけで、質は低いとされています(※12)。3回目を4か月ごろと7〜8か月で比べた研究は、見つかっていません。
ヨーロッパの6種混合では、2・3・4か月の3回のあとに、抗体が防ぐ目安(10mIU/mL以上)に達した赤ちゃんは、3つの製品で96.8〜99.5%でした(※13)。問題は、その後どのくらい保たれるかです。
ドイツで6種混合を4回受けた子どもでは、7〜8歳で72.2%でした(※14)。2つの6種混合を比べた研究では、約4年後が製品により70.2%と82.0%でした(※15)。
ただ、7〜8歳で追加の1回を打つと98.9%が目安に達し、免疫の記憶は残っていると考えられています。WHOは、免疫が正常な子に初回接種後の追加接種が必要だという根拠はない、としています(※11)。
これらは2・3・4か月の数字です。日本の2・3・7〜8か月と同じ条件で持続を比べた研究や、日本の定期接種を受けた子の持続を調べた研究は、見つかっていません。
4回接種の国は、ほかにもあります。オーストラリアは出生時と2・4・6か月、ベルギー(フランドル)は8・12・16週と15か月です。英国は8・12・16週の3回で2017年から運用し、2026年1月に18か月の追加が加わりましたが、これはHibの追加接種を置き換えるためで、UKHSAはB型肝炎の追加は不要としています(※16)。
BK1803の治験は、6種混合の初回3回の4週後と、別々に打ったB型肝炎ワクチンの3回目の4週後で、抗体をもつ割合を比べます(※2)。接種直後の手がかりにはなりますが、持続は分かりません。
承認されれば、同じ日に打つ注射が1本減る日が出てくる見込みです。注射が減ることと副反応が減ることは別の話で、安全性は治験で確かめます。
肺炎球菌は、同時に打てますが、同じ注射には入っていません
肺炎球菌ワクチンは、5種混合と同じ日に、別の注射で打つことができます(以前のコラム)。同時に打てないから別になっている、というわけではありません。
同じ1本の注射に混ぜた臨床試験は、私が調べた範囲では見つかりませんでした。なぜ別のままなのかを説明した公的な資料も、見つかりませんでした。ただ、肺炎球菌ワクチンのこれまでの歩みから、私なりに考えたことがあります。資料の話と私の見立てを分けて書きます。
肺炎球菌ワクチンは、型を増やしながら更新されてきました
肺炎球菌には、たくさんの型(血清型)があります。ワクチンは、型ごとの糖を運び役のたんぱく質に結合させたものを組み合わせて、1本にしています(※17)。そのため、どの型を入れるかが、ワクチンの中身そのものになります。
日本では、2010年に7価(7つの型に対応)が発売され、2013年に定期接種になりました。同じ年に13価が承認され、切り替えが予定されました。2024年4月に15価が加わりました。2024年10月からは、20価が定期接種の基本になっています(※17、※18)。型は、ここ15年ほどで7から20へ増えました。
ここからは、資料に書かれていることではなく、私の見立てです。型の構成が更新され続けるワクチンを、成分が決まっている6種混合に入れると、型を変えるたびに、混ぜた形で試験をやり直す必要が出てくるのではないか、と私は考えています。肺炎球菌ワクチンは、単独で試験をして単独で更新できる今の形のほうが、6種混合に入れるより扱いやすいのではないか、という見立てです。
海外の「6種混合」は、中身が同じではありません
6種混合はすでに海外で使われていますが、中身は一様ではありません。ヨーロッパやアメリカの3つの6種混合は、どれも無細胞百日せきを使っていますが、成分の数が違います。2種類のもの、3種類のもの、5種類のものがあります。Hibの成分につなぐたんぱく質も、破傷風のたんぱく質を使うものと、髄膜炎菌の成分を使うものとで異なります(※13)。
まとめ
6種混合は、いまの5種混合にB型肝炎を加えたワクチンで、国内の2社が治験を始めたところです。いつ承認されるかや、接種のスケジュールは、まだ決まっていません。
ワクチンを混ぜるのは、足し算では済みません。組み合わせで別の成分の効きが変わることがあり、B型肝炎では効きが弱かった製品もありました。B型肝炎は3回目までの期間が短くなる計画で、数年後の持続を日本の間隔と比べた研究は見つかっていません。肺炎球菌が別の注射のままである理由を説明した資料も見つかっていません。型が更新され続けるワクチンは6種混合と馴染みにくいのではないか、というのが私の見立てです。
お子さんの予防接種は、6種混合を待たず、いまの予定どおり進めてください。接種の相談は、いつでもお受けします。
参考資料
※1 jRCT2031250804「KD2-396 第III相試験」 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031250804
※2 BK1803 第III相試験 ClinicalTrials.gov NCT07793513、jRCT2031260370 https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2031260370
※3 厚生労働省「混合ワクチン検討ワーキンググループ報告書」(2011年3月) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000033079-att/2r985200000330io_1.pdf
※4 Rennels MB, et al. Pediatr Infect Dis J 2000;19:417-23. PMID 10819337
※5 Hum Vaccin Immunother 2024;20:2345493(Hexavacの経緯)PMC11123514
※6 Jorgensen P, et al. Epidemiol Infect 2010;138:1621-9. PMID 20233496
※7 厚生労働省 定期接種実施要領「B型肝炎」(平成31年2月改正版) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000527481.pdf
※8 厚生労働省「B型肝炎ワクチンに関する技術的検討結果」 https://www.mhlw.go.jp/content/10901000/001499982.pdf
※9 ワクチン評価に関する小委員会 B型肝炎ワクチン作業チーム報告書(2010〜11年) https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000uj23-att/2r9852000000uj59.pdf
※10 厚生科学審議会 予防接種基本方針部会 第3回(2013年7月10日)資料7「B型肝炎ワクチンの接種対象者及び接種方法について」 https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001634030.pdf
※11 WHO. Hepatitis B vaccines: WHO position paper, July 2017. Wkly Epidemiol Rec 2017;92:369-92. PMID 28685564
※12 WHO 2017立場文書の脚注55(Soares-Weiser K ほか、小児のB型肝炎ワクチン接種スケジュールの系統的レビュー)。要約:WHO SAGE 2016年10月 https://terrance.who.int/mediacentre/data/sage/SAGE_Docs_Ppt_Oct2016/9_session_HepB/Oct2016_session9_HepB_summay.pdf
※13 EMA 製品情報(Hexyon、Infanrix hexa、Vaxelis)
※14 Van Der Meeren O, et al. Hum Vaccin Immunother 2014;10:1682-7. PMID 24637296
※15 Vesikari T, et al. Hum Vaccin Immunother 2020;16:867-74. PMID 31689166
※16 UKHSA「Hexavalent combination vaccine: information for healthcare practitioners」 https://www.gov.uk/government/publications/hexavalent-combination-vaccine-programme-guidance/hexavalent-dtapipvhibhepb-combination-vaccine-information-for-healthcare-practitioners / Australian Immunisation Handbook「Hepatitis B」 https://immunisationhandbook.health.gov.au/contents/vaccine-preventable-diseases/hepatitis-b / Kind en Gezin「Vaccination schedule」(2021年6月版) https://www.kindengezin.be/sites/default/files/2021-06/vaccinatieschema-engels.pdf
※17 (年表)厚生労働省 13価小児用肺炎球菌ワクチンに関する資料(2013年) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001225300.pdf /(結合体)EMA 製品情報(Prevenar 13、Apexxnar〔Prevenar 20〕、Vaxneuvance)
※18 厚生労働省 事務連絡「小児の肺炎球菌感染症に係る定期の予防接種の実施方法について」(2024年9月6日)。自治体の案内:札幌市 https://www.city.sapporo.jp/hokenjo/f1kansen/202410haien.html、横浜市 https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/yobosesshu/yobosesshu/child/childhaikyu.html

