夜尿症(おねしょ) 〜 5歳を過ぎてもおねしょが続くとき 〜
「5歳を過ぎてもおねしょが治らない」「小学校に入ったのにまだ毎晩おねしょをする」——このような悩みを抱えるご家庭は少なくありません。おねしょ(夜尿)は決して珍しいことではなく、5歳児の約15%、小学校低学年でも約10%にみられます。しかし、年齢が上がるにつれて本人の自尊心に関わる問題になり、宿泊行事への不安にもつながります。
この記事では、夜尿症診療ガイドライン2021(日本夜尿症学会)に基づいて、夜尿症の原因・治療・予後について解説します。
1. 夜尿症とは
夜尿症は、「5歳以上で、1か月に1回以上の夜間睡眠中の尿失禁が3か月以上続くもの」と定義されています(国際小児禁制学会:ICCS)。つまり、5歳未満のおねしょは発達の過程として正常であり、「夜尿症」とは呼びません。
夜尿症は、夜間の尿失禁のみの「単一症候性夜尿症」と、昼間のお漏らしや頻尿・尿意切迫なども伴う「非単一症候性夜尿症」に分かれます。昼間の症状がある場合は、そちらを先に治療することが原則です。
2. どのくらいの頻度で、いつ治るのか
夜尿症は年間約15%の割合で自然に治っていきます。つまり、何もしなくても毎年100人中15人が治る計算です。ただし裏を返せば、小学校高学年になっても約5%、中学生でも約1〜2%のお子さんに夜尿が残ります。
「そのうち治る」は正しいのですが、それがいつなのかは予測できません。お子さん本人が困っている場合、宿泊行事が近い場合、あるいは自尊心への影響が出ている場合は、積極的に治療を行うことがガイドラインでも推奨されています。
3. なぜおねしょは起こるのか——3つの要因
夜尿症の原因は、以下の3つの要因のミスマッチで説明されます。
3-1. 夜間の尿量が多い(夜間多尿)
睡眠中は、これから水分が入ってこなくなることを体が認識するため、水分の排出をできるだけ防ごうと尿量を減らす仕組みがあります。これは抗利尿ホルモン(ADH=Antidiuretic Hormone、別名バソプレシン)というホルモンによって行われます。ADHは夜間の睡眠中に分泌が増加し、腎臓での水分の再吸収を促進することで、夜間の尿量を昼間の60%程度に減少させます。
しかし、このADHの夜間分泌が不十分なお子さんでは、夜間にも昼間と同じくらいの量の薄い尿が作られてしまいます。膀胱の容量を超える尿が作られれば、おねしょにつながります。
3-2. 膀胱にためられる量が少ない(膀胱容量の低下)
睡眠中は概日リズム(体内時計)の働きにより、膀胱にためられる尿の量が昼間よりも増えることが知られています。しかし、排尿筋(膀胱を収縮させる筋肉)の過活動などにより、睡眠中の膀胱容量が十分に増えないお子さんがいます。膀胱が小さいと、少ない尿量でもあふれてしまいます。
3-3. 尿意で目が覚めない(覚醒障害)
膀胱がいっぱいになったとき、本来であれば尿意を感じて目が覚め、トイレに行くはずです。しかし、子どもは大人に比べて睡眠が深く、尿意による覚醒が起こりにくいことが知られています。これ自体は生理的なものですが、上記の「夜間多尿」や「膀胱容量低下」と組み合わさると、おねしょが起こります。
つまり、夜尿症は「夜間に作られる尿の量」と「膀胱にためられる量」のバランスが崩れ、かつ尿意で目が覚めないことで起こる現象です。「しつけ」や「性格」の問題ではありません。
3-4. 病型分類
上記の要因に基づいて、夜尿症は3つの病型に分類されます。夜間尿量が多い「多尿型」、膀胱容量が少ない「膀胱型」、両方の要因がある「混合型」で、それぞれ約3分の1ずつとされています。この分類は治療法の選択に直結します。
また、遺伝的な要因も関与しており、両親のいずれかが小児期に夜尿症だった場合、お子さんが夜尿症になるリスクは高くなります。
4. 治療の第一歩——生活指導
治療の基本は「起こさない」「叱らない」「あせらない」の3原則です。
起こさない
夜中に起こしてトイレに連れて行くのは逆効果です。中途覚醒を強制すると、睡眠リズムが乱れ、ADH(抗利尿ホルモン)の分泌が抑制されてしまいます。また、膀胱がいっぱいになる前に排尿させるため、膀胱容量の拡大も妨げます。
叱らない
おねしょは本人の意思でコントロールできるものではありません。叱ったりペナルティを与えても改善しないばかりか、自尊心を傷つけ、かえってストレスで悪化することがあります。夜尿がなかった日は褒めてあげましょう。
水分・塩分の調整
朝から昼にかけて水分を十分にとり、夕食以降は水分を控えめにします。夕食後の水分は200mL程度(またはコップ1杯)を目安にしてください。塩分の多い食事は喉の渇きを招き、夜間の水分摂取と尿量増加につながるため、夕食は塩分控えめが望ましいです。
その他
寝る前には必ずトイレに行く、体を冷やさない(腹巻きや靴下)、規則正しい生活リズムを心がける、便秘がある場合はその治療を優先する——これらも大切です。生活指導だけでも20〜30%程度のお子さんで改善がみられます。
5. アラーム療法
生活指導で十分な改善がない場合、積極的な治療に進みます。ガイドラインでは、薬物療法と並んでアラーム療法が第一選択の一つとして位置づけられています。
5-1. アラーム療法とは
パンツやシーツに小さなセンサーを取り付け、おねしょで尿が漏れ始めた瞬間にアラーム(音や振動)が作動してお子さんを起こす方法です。
最初はお子さんが自分で起きることはほとんどないため、保護者がアラームに気づいて起こし、トイレで残りの排尿を済ませます。これを繰り返すうちに、脳が「膀胱がいっぱいになったら覚醒する」という反応を学習し、同時に睡眠中の膀胱容量が徐々に増えていきます。
5-2. 効果と期間
約2〜3か月で効果が現れ始め、約3分の2のお子さんに有効とされています。薬物療法と比較して、治療終了後の再発率が低いのが大きな利点です。
ただし、毎晩アラームに対応する保護者の負担が大きく、家族の協力が不可欠です。一晩に何度も夜尿がある場合やお子さんがアラームを嫌がる場合は、効果が出にくいこともあります。
5-3. 機器について
アラーム機器は保険適用ではなく、自費で購入またはレンタルする必要があります(目安:約5,000〜10,000円)。無線タイプの「ピスコール」や「ウェットストップ」などが市販されています。
6. 薬物療法——ミニリンメルト(デスモプレシン)
6-1. ミニリンメルトとは
ミニリンメルト(一般名:デスモプレシン酢酸塩水和物)は、ADH(抗利尿ホルモン)の合成類似体です。腎臓に作用して水の再吸収を促進し、夜間の尿量を減らします。薬物療法の第一選択薬であり、特に「多尿型」の夜尿症に効果が高いとされています。
6-2. 使い方
口腔内崩壊錠(OD錠)で、舌の下に置くと唾液で溶けます。水なしで服用します(水と一緒に飲むと効果が弱くなります)。就寝の30分〜1時間前に服用し、食後30分以内の服用は避けてください。
用量は120μg(マイクログラム)から開始し、効果が不十分であれば240μgに増量します。約30%の症例で夜尿が完全に消失し、さらに約40%で夜尿の頻度が有意に減少すると報告されています。
6-3. 最も重要な注意点——水中毒の予防
ミニリンメルト服用中は、夕食後の水分摂取を200mL以下に制限することが必須です。この薬は尿を減らす薬ですので、水分を多く摂った状態で服用すると体内に水分が過剰になり、低ナトリウム血症(水中毒)を起こす危険があります。症状としては頭痛、吐き気、むくみ、重症の場合はけいれんが起こりえます。
発熱時や嘔吐・下痢で水分補給が必要なときは、その日のミニリンメルトは中止してください。逆に、旅行やイベントで夕食後に水分を多く摂った日もその日だけ休薬すればよいので、お子さんの楽しみを犠牲にする必要はありません。
6-4. デスモプレシンは「治療」なのか
デスモプレシンについては、「夜尿を根本的に治す薬なのか、それとも飲んでいる間だけ夜尿を防いでいるだけなのか」という議論があります。
7年間の長期追跡研究(Steffens, 1998)では、デスモプレシン治療群の治癒率が自然治癒の予測値を上回り、治療終了後も効果が持続したという報告があります。この研究は、デスモプレシンに単なる対症療法を超えた効果がある可能性を示唆しています。
一方で、Cochrane系統的レビュー(2023年更新)では、治療終了後に持続的に夜尿が消失した割合はアラーム療法の方が優れている(アラーム54% vs デスモプレシン35%)ことが示されています。また、Hjalmasらは「多くの患児の夜尿はデスモプレシンが標的とする夜間バソプレシン分泌低下だけでは説明できず、中枢神経系の成熟の問題が背景にある」と指摘しています。
現時点での率直な評価としては、デスモプレシンは「夜間の尿量を減らすことで夜尿を防ぎ、お子さんの自尊心を守りながら自然な成熟を待つ薬」という位置づけが最も正確です。根本的に治す薬というよりは、成熟の過程を支える薬と考えるのが妥当でしょう。
ただし、そうであっても、お子さんが夜尿で自信を失っている場合や宿泊行事を控えている場合には、夜尿を防ぐこと自体に大きな意味があります。「治すため」だけでなく「守るため」の薬として、有用な選択肢であることは間違いありません。
7. その他の薬物療法
抗コリン薬
膀胱の過活動(勝手に収縮する)を抑え、膀胱にためられる尿量を増やす薬です。単独での効果は限定的で、ミニリンメルトやアラーム療法で効果不十分なときに併用します。昼間のお漏らし(尿失禁)を伴う「非単一症候性夜尿症」では特に考慮されます。なお、小児の夜尿症に対する保険適用はありません。便秘を悪化させることがあるため、便秘合併例では注意が必要です。
8. アラーム療法とミニリンメルト、どちらを選ぶか
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アラーム療法 |
ミニリンメルト |
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向いている病型 |
膀胱型、混合型 |
多尿型 |
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効果発現 |
2〜3か月かかる |
比較的早い(数日〜2週間) |
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再発率 |
低い |
やや高い |
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家族の負担 |
大きい(毎晩の対応) |
小さい(服用のみ) |
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費用 |
機器購入費(5千〜1万円)保険適用なし |
保険適用子ども医療費助成対象 |
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注意点 |
家族の協力が不可欠根気が必要 |
水分制限の徹底発熱・胃腸炎時は休薬 |
どちらを選ぶかは、病型の評価に加えて、ご家族の生活スタイルやお子さん本人の希望も考慮して決めます。両方を併用することもでき、特に混合型ではミニリンメルトとアラーム療法の併用が有効とされています。
9. 宿泊行事が近いとき
修学旅行やキャンプなどの宿泊行事は、夜尿症のお子さんにとって大きな不安材料です。ガイドラインでは、行事の少なくとも6週間(1か月半)前からミニリンメルトの使用を開始し、効果を確認しておくことが推奨されています。
「ぎりぎりになってから」ではなく、早めにご相談ください。担任の先生と連携して、夕食後の水分制限、就寝前の排尿、他の子に気づかれにくい配慮(濃い色のパジャマなど)を事前に準備できます。
10. まとめ
- 夜尿症は「5歳以上で月1回以上の夜尿が3か月以上」続くもの。珍しくない疾患です
- 原因は「夜間多尿」「膀胱容量の低下」「覚醒障害」のミスマッチ。しつけの問題ではありません
- まずは生活指導(起こさない・叱らない・水分調整)から開始
- 積極的治療はアラーム療法とミニリンメルトが2本柱
- 年間15%ずつ自然に治りますが、本人が困っている場合は積極的治療で支えられます
- 宿泊行事の6週間前までに受診を
おわりに——治療との向き合い方
夜尿症については、上記のように治療を行うことができます。ただ、治療といっても必ずしも効果があるものではありません。一定の効果が得られることもありますが、夜尿をゼロにできると確証できるものでもありません。
治療をしながら本人の発達を待っているという側面もあり、以前はキャンプなどに行く機会が増える小学校5年生を目安にすることが多かったほどです。
「自尊心」ということがよく話題になりますが、あまり気にしていないお子さんに対して積極的に治療を取り入れることが、かえって夜尿にフォーカスしすぎてしまうという側面もあります。そのため、あまり若年期から治療を開始するのがいいのかどうかについては、私も悩ましいと考えています。
おねしょのことで相談するタイミングも、お子さんやご家庭によってさまざまです。「困ったら相談する」くらいの気持ちで、お気軽にお声がけください。
【参考文献・根拠】
- 日本夜尿症学会(編). 夜尿症診療ガイドライン2021. 診断と治療社, 2021.
- Nevéus T, et al. Management and treatment of nocturnal enuresis: an updated standardization document from the ICCS. J Pediatr Urol. 2020.
- Negoro H, et al. Disruption of circadian rhythm as a potential pathogenesis of nocturia. Nat Rev Urol. 2024.
- Steffens J, et al. Desmopressin in the treatment of severe nocturnal enuresis in adolescents: a 7-year follow-up study. Eur Urol. 1998.
- Glazener CM, Evans JH. Desmopressin for nocturnal enuresis in children. Cochrane Database Syst Rev. 2002(2023年更新).
- Hjalmas K. Cure of nocturnal enuresis: why isn’t desmopressin very effective? Pediatr Nephrol. 1996.
- ミニリンメルトOD錠 添付文書(フェリング・ファーマ)

