コラムcolumn
予防接種, 院長より

MMRワクチン「ミムリット」が承認されました ー何が変わるのか、今どうすべきかー

2026年5月11日、日本の小児医療にとって大きなニュースがありました。第一三共株式会社が開発したMMRワクチン、乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン「ミムリット®皮下注用」が、日本で製造販売承認を取得しました(※1, ※2)。

MMRワクチンとは、麻しん、いわゆる「はしか」、おたふくかぜ、風しんの3つを対象とした混合ワクチンです。

日本では過去に、1989年にMMRワクチンが使われるようになりましたが、おたふくかぜワクチン成分による無菌性髄膜炎が問題となり、1993年に中止された経緯があります(※3)。今回はそれ以来、30年以上ぶりに国内でMMRワクチンが薬事承認されたことになります。

このニュースを聞いて、「待望の3種混合ワクチンだ」「これからは1回の注射で済むの?」と期待される保護者の方も多いと思います。

一方で、新しいワクチンだからこそ、今すぐ何が変わるのか、そして今は何を優先すべきなのかを、落ち着いて整理しておくことが大切です。

最初に、もっとも大切な結論からお伝えします。

現時点では、当院でのミムリット接種は開始しません

ミムリットは承認されたばかりです。この記事作成時点では、発売日や流通開始時期、当院への納入時期、接種費用、公費助成の有無、定期接種としての扱いは、まだ整理中です。

今後、国や自治体での議論、流通状況、添付文書やPMDA審査報告書などの公開情報を確認したうえで、当院としての接種体制を検討します。

ミムリットを待つために、MRワクチンの定期接種を遅らせないでください

ここが最も大切です。

現在、日本で定期接種として行われているのはMRワクチン、つまり麻しん・風しん混合ワクチンです。MRワクチンは、1歳の第1期と、小学校入学前1年間の第2期の2回接種が必要です(※4)。

2026年は、日本小児科学会からも麻しん患者数増加に関する注意喚起が出されています。麻しんは感染力が非常に強く、重症化することがある感染症です(※5)。

「新しいMMRワクチンが使えるようになるまで待とう」とMRワクチンの接種を先延ばしにすると、その間、お子さんは麻しん・風しんに対して十分な防御がない状態になってしまいます。

ミムリットの承認は歓迎すべきニュースですが、今すぐ優先すべきことは、対象時期に入っているMRワクチンを遅れずに接種することです。

ミムリットとはどんなワクチンか

ミムリットは、麻しん、おたふくかぜ、風しんを対象とした3種混合の生ワクチンです。第一三共の発表では、日本で定期接種に使われている同社のMRワクチンに、世界で使われているおたふくかぜワクチン株を加えたMMRワクチンと説明されています(※1)。

成分としては、麻しん成分、風しん成分、おたふくかぜ成分を含みます。公開されている添付文書情報では、麻しんはAIK-C株、おたふくかぜはRIT4385株、風しんは高橋株とされています(※6)。

つまり、ミムリットは「海外製MMRワクチンをそのまま輸入したもの」ではありません。

日本で使われてきたMRワクチンを土台に、海外で使用実績のあるおたふくかぜ成分を加えた、日本独自のMMRワクチンと考えるのが正確です。

「1回で済む」の意味に注意してください

MMRワクチンと聞くと、「これからは1回だけ打てば全部終わるのですか?」と感じるかもしれません。

ここは少し注意が必要です。

MMRワクチンの「1回で済む」という意味は、1回の注射で麻しん・おたふくかぜ・風しんの3つを対象にできる、という意味です。

「生涯で1回だけ接種すればよい」という意味ではありません。

現在のMRワクチンは、麻しん・風しんの免疫を確実にするため、1歳の第1期と小学校入学前1年間の第2期の2回接種が基本です(※4)。国によってスケジュールは違いますが、海外でも原則は2回接種となります。
ミムリットが今後どのような接種スケジュールで運用されるかは、定期接種化の議論や行政・学会の方針を確認して判断する必要があります。

過去のMMRワクチンと何が違うのか

保護者の方が最も気になるのは、「昔のMMRワクチンで髄膜炎が問題になったと聞いたけれど、今回のワクチンは大丈夫なのか」という点だと思います。

旧MMRワクチンで問題となったのは、主におたふくかぜワクチン成分による無菌性髄膜炎でした。厚生労働省資料でも、1989年に使われるようになったMMRワクチンは、おたふくかぜウイルスワクチンによる無菌性髄膜炎が問題となり、1993年4月に中止されたと整理されています(※3)。

今回のミムリットでは、おたふくかぜ成分としてRIT4385株が使われています。

RIT4385株は、GSK社のMMRワクチン「Priorix」に含まれるおたふくかぜワクチン株です。厚生労働省の資料では、Priorixは1997年にドイツで承認されて以降、2022年9月時点で99か国で承認され、2021年末時点で累積8億5,300万ドーズが出荷されたとされています(※7)。

また、厚生労働省の資料では、RIT4385株について、国産おたふくかぜワクチン株と比べて無菌性髄膜炎の発生頻度が極めて低いとされ、英国やドイツの報告でも無菌性髄膜炎などの発症リスクは低いと整理されています(※7, ※8)。

ただし、「リスクが低い」と「リスクがゼロ」は同じではありません。

ワクチンは、病気を防ぐ利益と、副反応のリスクを比べながら使う医療です。ミムリットについても、今後、添付文書、PMDA審査報告書、市販後の安全性情報を確認しながら、当院として慎重に判断していきます。

海外のMMRワクチンと同じものなのか

ミムリットは、海外で広く使われているMMRワクチンと考え方は近いですが、完全に同じ製品ではありません。

海外で代表的に使われているGSK社のPriorixは、麻しんがSchwarz株、おたふくかぜがRIT4385株、風しんがWistar RA 27/3株です。一方、ミムリットは、麻しんがAIK-C株、おたふくかぜがRIT4385株、風しんが高橋株です(※6, ※7)。

つまり、おたふくかぜ成分は海外で使われてきたRIT4385株ですが、麻しん・風しん成分は日本で使われてきたMRワクチンを土台にしています。

そのため、ミムリットは「海外のMMRワクチンがそのまま日本に入ってきた」というより、「日本のMRワクチンに、海外で実績のあるおたふくかぜ成分を加えたワクチン」と考えると理解しやすいと思います。

では、今どうすればいいのか

ミムリットの承認は、小児医療にとって前向きなニュースです。将来的には、接種回数を減らしながら、おたふくかぜを含めた予防の選択肢が広がる可能性があります。

ただし、実際にクリニックで安定して接種できるようになるには、流通、費用、公費助成、定期接種としての扱いなど、まだ確認すべき点があります。

保護者の方には、次のように考えていただくのが現時点では最も安全です。

1歳になったお子さん

ミムリットを待たずに、現行のMRワクチン第1期を対象時期に接種してください。

1歳は、麻しん・風しんの予防を始める大切なタイミングです。ミムリットを待ってMRワクチンを遅らせることはおすすめしません。

おたふくかぜワクチンについては、これまで通り任意接種として当院でご相談ください。在庫や供給状況は変動することがあるため、最新の状況は予約時または来院時にご案内します。

小学校入学前1年間、いわゆる年長さんのお子さん

同じく、ミムリットを待たずにMRワクチン第2期を接種してください。

第2期は、麻しん・風しんの免疫を確実にするための大切な接種です。小学校入学後は集団生活の範囲が広がるため、入学前に2回目の接種を済ませておくことが重要です。

新しい選択肢が増えることは、小児科医として大変歓迎すべきことです。

ただし、ワクチンで最も大切なのは、「必要な時期に、確実に免疫をつけること」です。

ミムリットは、将来的に日本の予防接種を前進させる可能性のあるワクチンです。一方で、承認されたばかりの今の段階では、接種開始時期、費用、公費助成、定期接種化の扱いなど、まだ決まっていないことがあります。

当院としては、最新のエビデンス、国や自治体の方針、実際の供給状況を確認しながら、安心して提供できる体制が整った段階で改めてご案内します。

それまでは、今ある確実な手段であるMRワクチンの定期接種を最優先にしてください。

まとめ

ミムリットは、麻しん・おたふくかぜ・風しんを対象とする新しいMMRワクチンとして、2026年5月11日に日本で製造販売承認を取得しました。

これは30年以上ぶりの大きな前進です。

ただし、現時点では当院での接種は開始していません。発売日、流通、費用、公費助成、定期接種としての扱いなどは、今後確認が必要です。

今、保護者の方にお願いしたいことは明確です。

1歳のお子さん、年長さんのお子さんは、ミムリットを待たずにMRワクチンを予定通り接種してください。

新しいワクチンを待つことよりも、今必要な免疫を遅れずにつけることが、お子さんを守るために最も大切です。

参考資料

※1 第一三共株式会社. 乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン「ミムリット®皮下注用」の日本における製造販売承認取得のお知らせ. 2026年5月11日.

※2 厚生労働省医薬局医薬品審査管理課. 新医薬品として承認された医薬品について. 令和8年5月11日.

※3 厚生労働省. 過去の予防接種法の改正について. (厚生労働省)

※4 厚生労働省. MRワクチン. 定期接種の対象者とスケジュール. (厚生労働省)

※5 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会. 2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起. 2026年4月1日. (公益社団法人 日本小児科学会 JAPAN PEDIATRIC SOCIETY)

※6 第一三共 Medical Community. ミムリット皮下注用 添付文書情報. (メディカルコミュニティ)

※7 厚生労働省. 乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン(MMRワクチン)について. 第26回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会 ワクチン評価に関する小委員会 資料2-2. 2024年6月20日.

※8 厚生労働省. おたふくかぜワクチンについて. 2024年6月20日. (厚生労働省)