「綿棒浣腸は癖になる」は本当か ー離乳食前の赤ちゃんの“いきみ泣き”と排便の練習ー
赤ちゃんが顔を真っ赤にして、苦しそうにいきんでいる。
何分もがんばっているのに、なかなかうんちが出ない。
そんな様子を見ると、保護者の方まで苦しくなってしまいますよね。
「綿棒で少しお尻を刺激すると、うんちが出やすくなる」と聞いて試してみたい一方で、
「毎日やると癖になるのでは」
「刺激しないと出せない体になってしまうのでは」
「自分で出す練習の邪魔になるのでは」
と不安になる方も多いと思います。
今回は、特に離乳食が始まる前の赤ちゃんを想定してお話しします。
つまり、便がまだ水っぽい、または泥状で柔らかい時期の赤ちゃんです。
結論からお伝えすると、綿棒浣腸が「癖になる」と証明されているわけではありません。
ただし、毎日ルーティンのように続ける必要もありません。大切なのは、「便が硬くて出ない便秘」なのか、「便は柔らかいけれど、出し方がまだ上手でない状態」なのかを分けて考えることです。
まず「綿棒浣腸」という言葉を整理します
この記事でいう「綿棒浣腸」は、市販の浣腸薬を使う処置ではありません。綿棒の先にワセリンなどをつけて、肛門の入り口をやさしく刺激する方法のことです。
医学的には「肛門刺激」と呼んだ方が近いと思います。ただ、家庭では「綿棒浣腸」と呼ばれることが多いので、この記事でもその言葉を使います。
「癖になる」は、少し怖がらせすぎの表現です
「綿棒浣腸を続けると、赤ちゃんが自分で排便できなくなる」
「刺激がないと出せない体になる」
このように説明されることがあります。
しかし、綿棒による肛門刺激によって、赤ちゃんが排便に依存するようになることをはっきり示した質の高い研究は、現時点では確認されていません。
ですので、数回手伝ったからといって、
「この子の排便する力を奪ってしまった」
「自分で出せない体にしてしまった」
と心配しすぎる必要はありません。
ただし、ここで大事なのは、
「癖になる証拠がない」ことと、
「毎日やった方がよい」ことは別、
という点です。
必要なときに一時的に手助けするのはよい。
でも、毎日の習慣にする必要はない。当院では、このように考えています。
離乳食前の赤ちゃんは、便秘ではなく「排便の練習中」のことが多い
生後数週から数か月の赤ちゃんで、次のような様子が見られることがあります。
- 顔を真っ赤にしていきむ
- うーん、うーんと苦しそうにする
- 泣きながら何分もがんばる
- 足を突っ張る
- おなかに力を入れているように見える
- でも、出てきた便は柔らかい
この場合、いわゆる「便秘」とは少し違います。
便が硬くて詰まっているのではなく、うんちを出すための体の使い方が、まだうまく整っていない状態です。
医学的には「乳児排便困難症」と呼ばれ、英語では infant dyschezia といいます。
日本語では「乳児ディスケジア」と書かれることもありますが、保護者の方には、
「便は柔らかいのに、出し方がまだ上手でない状態」
と考えると分かりやすいと思います。
なぜ、柔らかい便なのに苦しそうにするのか
うんちを出すには、実は2つの動きが必要です。
1つは、おなかに力を入れること。
もう1つは、お尻の出口をゆるめることです。
大人はこの2つを自然に同時に行っています。
おなかに力を入れながら、出口はゆるめる。
この組み合わせで便が出ます。
ところが、生まれて間もない赤ちゃんは、この連携がまだ未熟です。
おなかには一生懸命力を入れている。
でも、出口がうまくゆるまない。
そのため、便は柔らかいのに、なかなか出ないということになります。
例えばお父さんお母さんはお腹に力を入れたらうんちが出ることは分かっているけど、人前ではうんちができないですよね?これは人前では肛門の力を抜くことができないためです。赤ちゃんも同じように肛門の力を抜くことができないんです。
これは病気というより、発達の途中です
寝返りも、最初から上手にできるわけではありません。
首すわりも、ハイハイも、つかまり立ちも、少しずつ覚えていきます。
排便も同じです。
赤ちゃんは、最初から上手にうんちを出せるわけではありません。
おなかに力を入れる。
出口をゆるめる。
そのタイミングを、少しずつ覚えていきます。
ですので、便が柔らかく、母乳やミルクが飲めていて、体重も増えていて、機嫌も大きく崩れていない場合には、基本的には見守りで大丈夫です。
「何日出ないか」だけで判断しない
赤ちゃんのうんちについて、よくいただく質問があります。
「何日出なかったら綿棒浣腸をした方がいいですか」
「何日出なかったら便秘ですか」
これはとても自然な疑問です。
ただ、離乳食前の赤ちゃんでは、排便回数にかなり個人差があります。
1日に何回も出る子もいます。
数日に1回の子もいます。
母乳栄養の赤ちゃんでは、便が柔らかければ、排便間隔が空くこともあります。
ここで大切なのは、日数だけで判断しないことです。
3日出ていなくても、出た便が柔らかく、赤ちゃんがよく飲み、機嫌もよく、体重も増えているなら、それだけで強い便秘とは限りません。
反対に、毎日出ていても、便が硬く、排便のたびに痛がるなら、それは便秘として考えます。
見るべきポイントは、日数よりも便の硬さです。
便が柔らかいなら、基本は見守りで大丈夫
離乳食前の赤ちゃんで、
- 泥状で柔らかい
- 母乳やミルクが飲めている
- 体重が増えている
- 嘔吐を繰り返していない
- おなかが強く張っていない
このような場合は、まず見守りでよいことが多いです。
赤ちゃんがいきんでいる姿を見ると、すぐに助けたくなります。
もちろん、その気持ちは自然です。
ただ、毎回すぐに綿棒で刺激しなくても、赤ちゃんは少しずつ自分で出す感覚を覚えていきます。
保護者の方が何もしないことは、放置ではありません。
便が柔らかいか、飲めているか、機嫌はどうかを見ながら待つことも、立派なケアです。
綿棒浣腸は「毎日の仕事」ではなく「ときどきの助け舟」
では、綿棒浣腸はまったく不要なのかというと、そうではありません。
赤ちゃんが長くいきんでいて、どうしてもつらそう。
おなかが張って苦しそう。
何日も出ておらず、保護者の方も不安が強い。
このようなときに、一時的な助け舟として綿棒でやさしく刺激することはあります。
ただし、毎日決まった時間に行う必要はありません。
「出ないから毎日やる」
「出るまで何回もやる」
「予防のために続ける」 という使い方はおすすめしません。
綿棒浣腸は、赤ちゃんの排便を毎日管理するためのものではありません。
あくまで、どうしてもつらそうなときに少し手伝う方法です。
綿棒浣腸を毎日すすめない理由
理由は、「癖になるから」ではありません。
当院が毎日の綿棒浣腸をすすめない理由は、主に2つです。
1つ目は、多くの場合、赤ちゃん自身が成長とともに出し方を覚えていくからです。
便が柔らかい赤ちゃんに対して、毎日綿棒で手伝わなくても、排便の協調運動は少しずつ育っていきます。
2つ目は、やりすぎるとお尻を傷つけることがあるからです。
赤ちゃんの肛門の粘膜はとてもデリケートです。
潤滑が足りない状態でこすったり、奥に入れすぎたり、何度も刺激したりすると、小さな傷ができることがあります。
お尻が切れると、赤ちゃんは排便のときに痛がります。
すると、便を出すこと自体を嫌がるようになります。
「うんちをすると痛い」
「出したくない」
「便がたまる」
「さらに出にくくなる」
この流れに入ると、本当の便秘につながることがあります。
だから、毎日頑張って綿棒浣腸をする必要はありません。
やる場合は「浅く・やさしく・長くこすり続けない」
どうしてもつらそうなときに行う場合は、次のようにしてください。
まず、清潔な綿棒とワセリンを用意します。
ベビーオイルでも構いませんが、当院ではワセリンを使うことが多いです。
綿棒は、先が細すぎるものより、一般的な綿棒の方が扱いやすいことがあります。
細い綿棒を深く入れる必要はありません。
綿棒の先に、ワセリンをたっぷり塗ります。
白い綿の部分がしっかり覆われるくらい塗ってください。
赤ちゃんの両足をやさしく持ち上げ、お尻の穴に綿棒の先をそっと入れます。
入れるのは、綿の部分が隠れる程度で十分です。
目安としては1〜1.5cm程度です。
深く入れる必要はありません。
奥に押し込むのではなく、入り口付近で小さく円を描くように、ゆっくり刺激します。
肛門の内側をやさしくなでるように、5〜6回ほど回してみてください。
実際には、すぐに出ることもあれば、少し時間がかかることもあります。
ただし、出るまでずっとこすり続ける必要はありません。
一連の操作は数分以内を目安にしてください。
長くても5分以内で十分です。
出なければ、いったん中止しましょう。
その後、おむつを当てて少し待ったり、おなかを「の」の字にマッサージしたり、足をおなかに近づける姿勢をとらせたりすると、あとから出ることもあります。
出ないからといって、奥まで入れないでください。
強くこすらないでください。
何度も繰り返さないでください。
一度やって出なければ、その場で無理に続けず、時間をおいて様子を見てください。
便が硬い場合は、話が変わります
ここまでお話ししてきたのは、主に離乳食前の赤ちゃんで、便が柔らかい場合です。
次のような場合は、排便の練習中ではなく、便秘として考える必要があります。
- 便が硬い
- コロコロした便が出る
- 排便のたびに強く痛がる
- お尻が切れて血が出る
この場合、綿棒で出口を刺激するだけでは解決しにくいことがあります。
便が硬いなら、考えるべきことは「どう出すか」だけではなく、
どうすれば便を柔らかく保てるか、です。
この段階では、自己流で綿棒浣腸を繰り返すより、一度クリニックで相談してください。
まとめ
綿棒浣腸は「癖になる」より「やりすぎない」が大切
綿棒浣腸が癖になる、という説明には、はっきりした医学的な裏づけはありません。
ですので、必要なときに数回手伝ったからといって、赤ちゃんが自分で出せない体になると心配しすぎる必要はありません。
一方で、離乳食前の赤ちゃんのいきみ泣きは、便が硬くて詰まっている便秘ではなく、排便の動きがまだ上手に整っていない状態であることが多いです。
赤ちゃんは、成長とともに少しずつ出し方を覚えていきます。
だから、綿棒浣腸は毎日の仕事にしなくて大丈夫です。
迷ったときは、日数よりも便の硬さを見てください。
便が柔らかく、飲めていて、体重が増えていて、機嫌も大きく崩れていなければ、基本は見守りで構いません。
どうしてもつらそうなときだけ、浅く、やさしく、長くこすり続けずに、助け舟として使う。
便が硬い、痛がる、血が出る、飲めない、吐く、おなかが強く張る。
そのような場合は、自己流で続けず、一度ご相談ください。
参考文献
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- HealthyChildren.org. Pooping By the Numbers: What’s Normal for Infants? American Academy of Pediatrics.

