初めての発熱で、熱性けいれんをどこまで心配するか
初めて子どもが熱を出すと、『このまま熱性けいれんを起こすのではないか』と、目を離せなくなることがあります。熱性けいれんを経験した家族や知人がいると、なおさらです。けれども、よく使われる『日本の子どもの7〜8%が経験する』という数字は、発熱1回ごとの確率ではありません。熱性けいれんを起こしやすい小児期全体を通した累積の割合です。※1〜※3
つまり、1回の発熱を見たときに7〜8%の確率でけいれんする、という意味ではありません。発熱1回あたりの可能性は、それよりずっと低くなります。
まず、100人の子どもで考える
説明のため、日本の子ども100人のうち7〜8人が少なくとも一度は熱性けいれんを経験すると仮定します。さらに、初回発作後の再発分布として、428人を追跡した前方視的研究の割合を組み合わせます。これは日本の個々の子どもの将来を当てる表ではなく、全体像を見るための概算です。※2〜※4
- 一度も経験しない:92〜93人
- 合計1回だけ:およそ4.8〜5.5人
- 合計2回:およそ1.2〜1.4人
- 合計3回:およそ0.6〜0.7人
- 合計4回以上:およそ0.4〜0.5人
丸めて言えば、100人のうち約92〜93人は一度も起こさず、約5人は一度だけ、2回以上経験するのは2〜3人です。3回以上まで経験する子どもは100人に1〜2人程度という計算になります。『7〜8%』という数字の中でも、同じ子どもが毎回の発熱でけいれんするわけではありません。
発熱が60回あった、という思考実験
次に、説明用として、一人の子どもが熱性けいれんを起こし得る時期までに合計60回発熱した、と仮定します。実際に年10回のかぜすべてで発熱するわけではなく、発熱回数には大きな個人差があります。ここでは、確率をイメージするための思考実験です。
60回の発熱がすべて独立で、どの発熱も同じ確率pで初回の熱性けいれんを起こす、と仮定し、60回を通じて少なくとも1回起こる確率が7〜8%になるよう逆算すると、熱性痙攣を起こす確率は1回の発熱あたり約0.12〜0.14%です。おおよそ720〜830回の発熱に1回という大きさになります。計算式は、1−(1−p)の60乗=0.07〜0.08です。※11
この数字は、実際の診療データから直接測った『初回発熱のけいれん率』ではありません。7〜8%という累積割合を60回へ均等に割り振った数学的なモデルです。それでも、『初めて熱が出たから、今夜7〜8%でけいれんする』という受け取り方が大きすぎることは分かります。
現実には、すべての発熱が同じではない
現実の発熱は独立でも均等でもありません。熱性けいれんは主に生後6か月から5歳ごろに起こり、年齢、家族歴、子どもごとの発作の起こりやすさ、発熱に気づいてからの時間などで可能性が変わります。発熱の機会が多い子どもは発作に出会う機会も増えますが、日本小児神経学会は、これは機会の多さを反映する面があるため、初回発作後の主要な再発予測因子には加えていません。※1、※2
したがって、約0.12〜0.14%を、目の前の子どもへそのまま当てはめることはできません。家族歴や年齢によって平均より高い子どももいれば、低い子どももいます。このモデルの役割は、正確な個人予測ではなく、『累積7〜8%』と『今回の発熱』を同じ数字で考えないためのものです。
解熱薬で先回りしても、けいれん予防にはならない
心配になると、熱が上がる前から解熱薬を使い、体温を下げ続けたくなります。しかし、解熱薬で熱性けいれんの再発を予防できるという根拠はなく、薬の効果が切れて熱が再び上がることで発作が増えるという根拠もありません。解熱薬は、けいれんを予防するためではなく、子どものつらさや不快感を和らげるために使います。※5
まだ熱性けいれんを一度も起こしていない子どもへ、心配だけを理由にダイアップを予防的に使うことも通常はしません。発熱時のジアゼパム坐剤は、過去の発作が長かった、複数の再発リスクが重なった発作を繰り返したなど、限られた場合に主治医と検討する薬です。※6
初めての発熱で見るべきこと
けいれんの可能性だけを見張るより、発熱している子どもの全身状態を見ます。水分がとれるか、呼吸が苦しくないか、顔色、尿、呼びかけへの反応、強い痛みや繰り返す嘔吐がないかを確認します。熱性けいれんの確率が低いことと、発熱の原因を軽く見てよいことは別です。
生後3か月未満の発熱、ぐったりして反応が悪い、呼吸が苦しい、脱水が疑われる、初めてけいれんした場合は、時間外でも早めに受診します。※8 休日・夜間に受診の判断へ迷う場合は、子ども医療電話相談#8000も利用できます。※10 けいれんが5分以上続く、呼吸が弱い、くちびるが紫色、意識が戻らない場合は119番です。※7、※9
最初の発熱で熱性けいれんを経験しない子どもが圧倒的に多く、熱性けいれんを経験する子どもの中でも、一度だけで終わる子どもが最も多いのが全体像です。心配をゼロにする必要はありません。確率を実際より大きく見積もらず、起きた場合の安全な対応だけを知っておくことが、科学的で実用的な備えになります。
参考文献
- 日本小児神経学会:熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023
- 日本小児神経学会:同ガイドライン 総論(再発頻度と再発予測因子)
- Tsuboi T. Epidemiology of febrile and afebrile convulsions in children in Japan. Neurology. 1984;34:175-181. PMID: 6538005
- Berg AT, et al. Predictors of recurrent febrile seizures: a prospective cohort study. Arch Pediatr Adolesc Med. 1997;151:371-378. PMID: 9111436
- 日本小児神経学会:同ガイドライン 解熱薬
- 日本小児神経学会:同ガイドライン 発熱時のジアゼパム坐剤
- 日本小児神経学会:家族と非医療従事者のための子どものけいれんと意識混濁への全国統一対応マニュアル
- 厚生労働省:上手な医療のかかり方(子どもの発熱)
- 厚生労働省:こんな時は迷わず119へ
- 厚生労働省:子どもの症状は#8000
- 数理モデル:累積確率Pと60回の独立試行を仮定し、p=1−(1−P)の1/60乗として算出(P=0.07〜0.08)。二項分布の考え方はNIST/SEMATECH e-Handbookを参照

