コラムcolumn
病気の話, 薬・おうちケア

子どもの腹痛、「原因不明」で終わらせない

―「疝痛(せんつう)」と「蠕動痛」という痛みのしくみ―

「さっきまでおなかを痛がっていたのに、診察室では元気です」
「検査をしても異常がないと言われました。では、あの痛みは何だったのでしょうか」

子どもの腹痛では、診察をしても虫垂炎、胃腸炎、便秘などの病名に当てはまらないことがあります。このような腹痛は「NSAP(non-specific abdominal pain:非特異的腹痛)」と呼ばれ、小児救急の研究でも多い診断の一つです(※1)。

ただ、「原因は分かりません」で終わると、保護者の方もお子さんも納得しにくいと思います。
そこで、痛み方とその後の経過が合う場合には、腸の一時的な収縮や伸展に伴う「疝痛(せんつう)」で説明できることがあります。腸の蠕動に伴う痛みという意味で、「蠕動痛」と表現されることもあります。

疝痛(蠕動痛)は「病名」ではなく、痛みの起こり方です

蠕動とは、腸が縮んだりゆるんだりしながら、食べ物や便を先へ送る動きです。
普段の蠕動は痛くありません。
しかし、腸が一時的に強く収縮したときや、ガス・便・腸液などで腸の壁が伸ばされたときには、その刺激が腸の知覚神経を通って脳へ伝わり、痛みとして感じられることがあります(※2)。
医学的には、このような痛みは「疝痛(せんつう、コリックペイン)」という内臓痛の一つとして説明されます。日本の『急性腹症診療ガイドライン2015』でも、疝痛は、腸などの管腔臓器が強く蠕動性に収縮したり、急に伸展・拡張したりすることで起こる、周期性・発作性の痛みと説明されています(※9)。

つまり、「疝痛」が医学的な基本用語で、「蠕動痛」はそのうち腸の蠕動に伴う痛みに焦点を当てた表現です(※9、※10)。どちらも特定の病名ではありません。
疝痛(蠕動痛)は、血液検査の数値や画像に直接写るものではありません。痛み方、診察所見、ほかの症状、その後の経過を合わせて考える、痛みのしくみです。

NSAPは「何も起きていない」という意味ではありません

NSAPは、「画像に何も写らなかった腹痛」という意味ではありません。
問診と診察をした時点で、特定の病気に分類できず、緊急の治療が必要な病気を強く疑う所見もない腹痛を指します。多くの子どもでは、最初からすべての血液検査や画像検査を行う必要はありません(※4)。
NSAPは、痛みのしくみまで存在しないという意味ではありません。「波がある」「おへその周りで場所がはっきりしない」「痛みが引くと元気に戻る」といった内臓痛の特徴がそろえば、一時的な腸の収縮や伸展による痛みと考えることには、病態生理上の根拠があります(※2、※9)。
つまりNSAPは、「痛みはなかった」「気のせいだった」という診断ではありません。診察時点では危険な原因を示す証拠がなく、特定の病名まではつかない腹痛です。
ただし、すべてのNSAPが腸の蠕動に伴う疝痛だと証明されているわけではありません。疝痛(蠕動痛)は、痛み方と診察所見、その後の経過が合う場合に、何が起きたのかを説明する医学的に自然な考え方です。


疝痛(蠕動痛)らしい腹痛の特徴

次のような腹痛では、腸の蠕動や伸展に伴う疝痛を考えやすくなります。

  • 痛みが強くなったり、軽くなったりする
  • おへその周りなど、場所がはっきりしない
  • 痛みが引くと、いつもの表情や動きに戻る
  • 排便やおならのあとに軽くなる
  • 診察時にはおなかがやわらかく、強い限局性の圧痛がない
  • 時間とともに痛みが弱くなり、繰り返さない

ただし、この特徴だけで疝痛と確定できるわけではありません。
特に最後の「その後どうなったか」が大切です。


同じ「波のある痛み」でも、腸重積には注意が必要です

腸重積は、腸の一部が隣の腸の中へ入り込む病気です。
入り込んだ腸を押し出そうとして腸が動くと強く痛み、腸の動きが止まると一時的に楽になります。日本の小児腸重積症ガイドラインにも、病初期には痛みが間欠的に起こり、発作の間に機嫌よく遊べることがあると記載されています(※3)。

つまり、「今は元気」「いったん痛みが消えた」だけでは、必ずしも安心できません。
次のような場合は、「疝痛だろう」と家庭で決めず、早めに受診してください。

  • 激しく泣く、うずくまるなどの強い痛みを繰り返す
  • 痛むときに顔色が白くなる、冷や汗が出る
  • 嘔吐を伴う、特に緑色のものを吐く
  • 血便が出る
  • ぐったりする、反応が鈍い
  • 痛みがだんだん強くなる、右下腹部など一か所に集まってくる
  • おなかが張る、硬い、触ると強く嫌がる
  • 陰嚢の痛みや腫れがある

波のある腹痛には、便秘や胃腸炎などもあれば、腸重積など急いで対応する病気もあります。痛み方だけでなく、年齢、顔色、嘔吐、便、元気さを一緒に見ます(※3、※4)。


腹痛に痛み止めは使ってよいのでしょうか

痛みを我慢させる必要はありません

「痛み止めを使うと、虫垂炎などが分からなくなるのでは」と心配されることがあります。
しかし、小児救急の研究では、診察後に適切な鎮痛を行っても、外科的な病気の診断を妨げなかったことが示されています(※6)。海外の小児救急ガイドラインでも、適切な鎮痛は重い病気を隠さないとして、痛みを和らげることが勧められています(※4)。
痛がる子どもに、診断のためだからと我慢をさせ続ける必要はありません。

短い疝痛(蠕動痛)には、痛み止めが間に合わないことがあります

アセトアミノフェンは、小児の解熱・鎮痛に使用される薬です(※7)。
ただし、飲んですぐに効く薬ではありません。少し早く効き始めることはありますが、十分な鎮痛効果が現れるのは、おおむね1時間後です(※5)。
よく引用される海外の比較試験も、8~17歳を対象に、服用80分後の痛みを主に評価したものでした。対象になったのは、痛みの波が最も弱いときにも痛みが残っていた子どもたちです。数分だけ痛がって、その後すっかり元気に戻る発作を、その場で止められるかを調べた研究ではありません(※5)。
さらに、この試験には薬を飲まない比較群がありませんでした。時間とともに両群の痛みは軽くなりましたが、薬の効果、自然軽快、検査で異常がなかった安心感などを分けることはできません。
したがって、数分で自然に終わる一回ごとの短い疝痛(蠕動痛)を止める目的では、アセトアミノフェンは使いにくい薬です。薬が効くころには、発作自体が終わっていることが多いためです。
痛みが軽く、短時間で自然に消えていくなら、必ずしも薬は必要ありません。一方、痛みが長く続く、発作と発作の間にも痛みが残るなど、全体としてつらい状態が続く場合には、そのお子さんに処方されたアセトアミノフェンを、現在の体重に合った指示どおりの量で使うことを考えます。
ただし痛み止めは、痛みを軽くする薬です。腹痛の原因そのものを治したり、危険な病気ではないと証明したりする薬ではありません。


「腸のけいれんを止める薬」の自己使用は勧めません

波のある腹痛なら、腸のけいれんを抑える鎮痙薬の方が効きそうに思えます。
しかし、海外で行われた小児のNSAPに対する比較試験では、鎮痙薬はアセトアミノフェンを上回りませんでした(※5)。これは、鎮痙薬の方がよく効くとは示されなかったという結果であり、アセトアミノフェンが短い疝痛(蠕動痛)を止めると証明したものではありません。
また、日本の市販薬「ブスコパンA錠」は、添付文書で15歳未満は服用しないこととされています(※8)。
子どもの腹痛に、市販の胃腸鎮痛鎮痙薬や大人用の腹痛薬を自己判断で使うことは避けてください。


家庭では「痛みの前後」を見てください

腹痛が起きたときは、次の点を確認します。

  1. どこが痛いか
  2. 痛みは続いているか、波があるか
  3. 痛みのない時間に、いつものように動けるか
  4. 嘔吐、下痢、便秘、血便、発熱、排尿時痛がないか
  5. 顔色、食欲、水分、元気さが戻っているか

腹痛が完全に消え、飲食や遊びがいつもどおりで、嘔吐・下痢・発熱などもなければ、「疝痛(蠕動痛)」という理由だけで登園・登校を休む必要はありません。
一方、痛み止めを使って無理に登園・登校させるのではなく、痛みを繰り返す場合は休ませて経過を見たり、受診したりしてください。


子どもの腹痛では、診察をしても特定の病名がつかないNSAPが少なくありません。
その中には、腸が一時的に強く収縮したり、ガスや便で腸壁が伸びたりして起こる「腸の蠕動に伴う疝痛(蠕動痛)」と考えると説明しやすい腹痛があります。
疝痛(蠕動痛)は、子どもの痛みを「気のせい」にしないための言葉です。原因が分からないからと言って「嘘を言っている」と考えるのは絶対にやめてください。
短時間で自然に消える疝痛(蠕動痛)では、痛み止めが効くころには発作が終わっていることが多く、必ずしも薬は必要ありません。痛みが長く続く、発作の間にも痛みが残る、強い痛みを繰り返す場合は、薬を重ねるよりも原因をもう一度評価することが大切です。
痛みが引いたあとの元気さまで確認し、強い痛みの反復、嘔吐、血便、顔色不良、ぐったり、痛みの局在化があれば、もう一度診てもらう。この「経過を見るところまで」が、疝痛(蠕動痛)という説明の大切な一部です。


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参考文献

※1 Magnúsdóttir MB, et al. Abdominal pain is a common and recurring problem in paediatric emergency departments. Acta Paediatr. 2019;108(10):1905-1910.

※2 Feng B, Guo T. Visceral pain from colon and rectum: the mechanotransduction and biomechanics. J Neural Transm. 2020;127(4):415-429.

※3 日本小児救急医学会ほか. エビデンスに基づいた小児腸重積症の診療ガイドライン. 2012.

※4 Royal Children’s Hospital Melbourne. Clinical Practice Guideline: Abdominal pain―acute. Updated April 2024.

※5 Poonai N, et al. Hyoscine butylbromide versus acetaminophen for nonspecific colicky abdominal pain in children: a randomized controlled trial. CMAJ. 2020;192(48):E1612-E1619.

※6 Kim MK, et al. A randomized clinical trial of analgesia in children with acute abdominal pain. Acad Emerg Med. 2002;9(4):281-287.

※7 PMDA. 日本薬局方 アセトアミノフェン 添付文書. 2024年7月改訂.

※8 PMDA. ブスコパンA錠 添付文書.

※9 急性腹症診療ガイドライン出版委員会(編). 急性腹症診療ガイドライン2015. 医学書院; 2015.

※10 日本産婦人科医会. Q3.帝王切開後に腸閉塞が疑われた際の対応は?