コラムcolumn
病気の話

お子さんがうまくしゃべれなくなったときに

2〜4歳に、ある日突然始まる。まずは全体像から

「昨日まで普通に話していたのに、今朝から『ぼ、ぼ、ぼくね』と言うようになりました」。外来でよくうかがう相談です。あまりに急なので、自分の育て方が原因ではないかと考えてしまう方が多くいらっしゃいます。
幼児期に始まる吃音はめずらしいものではなく、その多くは自然に治っていきます。慌てて何かを始める必要はありません。ただし、「見ておくべきこと」はあります。

 

吃音は、ある日突然始まることが一番多いものです

吃音は2〜4歳をピークにほとんどが幼児期に始まり、4歳代までに始まるお子さんが95%を占めます(※1、※2)。
オーストラリアで1,619名を生後8か月から追った研究では、吃音が始まった子の49.6%が「1〜3日のうちに急に」で、残りはもっとゆっくり始まっていました(※3)。「ある日突然」は吃音のもっとも典型的な始まり方です。急だったからおかしい、ではありません。
症状は3種類あります。
①「ぼ、ぼ、ぼくね」と音を繰り返す連発
②「ぼーーーくね」と引き伸ばす伸発
③最初の言葉が出てこない難発
です。幼児期は連発と伸発が多いとされますが、最初から難発で始まるお子さんもいます(※2)。

 

7〜8割は、自然に治っていきます

国内の『幼児吃音臨床ガイドライン』は、幼児期の吃音について「発症率はおよそ8%、自然治癒率は70〜80%」としています(※1)。
大事なのは分母です。この自然治癒率は、治療を受けた子の成績ではなく、吃音のある幼児を追いかけたコホート研究から出た数字です(※1)。発症率も、オーストラリアの地域調査で3歳までに8.5%でした(※3)。だから、いま吃音が始まったお子さんにも当てはめて考えられます。自然に治ることが多い病気ということを覚えておいてください。


ただし、「すぐに治る」わけではありません

自然に治るといっても、数週間の話ではありません。海外の報告では、始まって1年以内に治る割合は6.3〜9.0%と低い一方、治癒率は2年後までで31%、3年後までで63%、4年後までで74%とされています(※1)。2〜3年かけてゆっくり治っていくのが実際の姿です。なお国内の調査では、1年以内に消えることが少ないという傾向は見られていません(※1)。
「半年たってもまだ言っている」というのは想定の範囲内です。軽く見えても、しばらく続く心構えでいるほうが落ち着いて構えられます。

 

原因は育て方ではなく、生まれ持った体質です

ガイドラインは「発症の原因として最大のものは遺伝要因であり、7割程度の原因となっている」「育て方が悪いせいで吃音が生じるという説は否定されている」と明記しています(※1)。フィンランドの双生児研究でも、体質が8割程度と報告されています(※4)。

「下の子が生まれて構えなくなった」「私が精神的に不安定だった」というお話もよくうかがいます。先ほどのオーストラリアの研究では、2歳時点の母親の精神健康スコアを、吃音が始まった群(137名)と始まらなかった群(1,482名)で比べていますが、有意な差はありませんでした(※3、※5)。
ガイドラインは、吃音を叱ったり、育て方のせいだとする指導を「行わないように勧められる」としています(※1)。専門家に向けた戒めですが、ご家族にも同じことをお伝えします。

「一生もの」に響くかもしれませんが、体質があっても7〜8割は治っていきます。

 

吃音には「波」があります

吃音のいちばんの特徴は、増えたり減ったりする波があることです。同じ言葉でも、言える時と言えない時があります(※5)。
「昨日は出なかったのに今日はひどい」「治ったと思ったらまた始まった」。これは吃音そのものの性質であって、悪化のサインではありません。日々の増減で一喜一憂しないでください。見るべきは1日ではなく、数か月単位の傾向です。

「ゆっくり話して」ではなく、大人がゆっくり話す

アメリカの1,002名の調査では、88%の保護者が「ゆっくり話しなさい」「落ち着いて」と声をかけ、33%が言い直させたり言葉を先取りしたりしていました(※6)。
ガイドラインの家族向け資料はこう書いています。「『ゆっくり話しなさい』『落ちついて』などと助言しても、子供は言われたとおりに発話をコントロールする力がありません。しかし、周りの人がゆっくり話すと、子供も自然とゆっくり話すようになります」(※2)。
変えるのは子どもの話し方ではなく、大人の話し方と聴き方です。同じ資料が挙げているのは、急がずゆっくり間をとって話しかける、簡単な文で話す、質問を減らして子どもが自分から話すのを待つ、1日10〜20分でいいのでその子だけに向き合う時間をつくる、話をさえぎらず内容に耳を傾ける、といったことです(※2)。

もちろんゆっくりしゃべってもいいんだと感じてもらえる環境作りは大切です。
園や学校の先生に、配慮を求める文書など作成して、協力をいただくことは多いです。

なお、「気づかせないように」と話題を避ける必要はありません。2〜7歳の吃音児1,122名の調査では、2歳ですでに56.7%、7歳では89.7%が自分の吃音に気づいていました(※7)。

 

経過観察は、「何もしないこと」ではありません

「様子を見ましょう」とだけ言われ、何を見ればいいか分からないまま数か月が過ぎた、という声をよく聞きます。ガイドラインが示す経過観察は、もっと具体的です。適切な知識と関わり方を伝えたうえで、「家庭での日々の吃音症状を記録してもらうよう依頼し、面談ではその記録をもとに、症状の変化について評価する。1年経過する中で悪化が認められる場合は、専門家(言語聴覚士)につなぐ」(推奨グレードB)とされています(※1)。
記録をとり、定期的に一緒に振り返る。これが経過観察です。最終的に治っていくお子さんは、多くの場合、発吃後6か月〜1年の間に症状が軽くなる傾向が見えてきます(※1)。この時期の変化を捉えることに意味があります。
年齢の目安もあります。年少組までは経過観察が基本、年中組で積極的な介入の開始を検討、年長組では開始を推奨、という考え方です。ただしこの時期設定自体は十分な科学的根拠に基づくものではなく(推奨グレードC1)、症状や改善の傾向によって前後します(※1)。

ご相談いただきたいのは、次の3つのどれかに当てはまるときです。ひとつは、言葉が出ずに苦しそうで、体に力が入ったりまばたきが増えたりしている場合。ふたつめは、1年ほど経っても軽くなる傾向が見えてこない場合。みっつめは、就学まで1年半を切っている場合です(※2)。ただし、波があって増えた日があること自体は、この3つに含まれません。
なお、1歳半・3歳児健診の問診に吃音の項目はありません(※1)。「健診で何も言われなかったから大丈夫」とは考えないでください。

 

リッカム・プログラムという治療法があります

吃音の治療でいま最も根拠があるとされているのがリッカム・プログラムです(リッカムは開発者名ではなく、シドニーにある地区の名前です)(※5)。ほめることを中心に、5種類の決まった声かけを使い分けていく行動療法で、ガイドラインでは推奨グレードA(行うように強く勧められる)とされています(※1)。

ただし言語聴覚士なら誰でもできるわけではなく、資格に加えて研修が必要です。しかも治療の中心は家庭にあり、初期は保護者が週1回通院しながら、1年以上かけて進めていく方法です(※1)。
ガイドライン自身が「わが国では吃音の専門家が不足しているという特殊事情がある」と書いています(※1)。当院が把握している範囲でも、安城市周辺でリッカム・プログラムをきちんと受けられる場所は多くありません。ここは正直にお伝えしておきます。

それで打つ手がなくなるわけではありません。国内では、環境を整える要求-能力モデルの方法も推奨グレードBとされ、比較試験でリッカムと差があるとはいえないとされています(※1)。ガイドライン自体も、専門家が足りない現状を前提に、「自然治癒をできるだけ利用し、ある時期までに自然治癒しないか、重症化する、あるいはしそうな症例を優先的に吃音の専門家に紹介する」という段階的な戦略を提案しています(※1)。多くのお子さんに必要なのは、まず治療ではなく、正しい知識ときちんとした経過観察です。


言語聴覚士さんと一緒に経過を見ていただくこともあります

上記の通り、吃音は自然に治ることも多いですが、ご心配な方や悪化傾向のある方は、言語聴覚士さんに伴走してもらう形をお勧めすることもありますす。訓練というより、経過を一緒に見ていくことが中心です。ご家庭で日々の様子を記録していただき、定期的に振り返る。症状が重くなってきた場合や就学が近づいた場合は、より専門的な相談につなぎます。安城市には、お子さんの発達について言語聴覚士等が相談に応じる公的な窓口もあります。

短い診察では流暢に話せてしまうお子さんが多く、診察室で吃音が出ないことはよくあります。ガイドラインも「安易に『吃音なし』『心配なし』と決めつけない」よう求めています(※1)。ご家庭で撮った短い動画があると助かります。

 

まとめ

吃音は2〜4歳に、ある日突然始まることが一番多いものです。発症率はおよそ8%、7〜8割は自然に治っていきます。治るまでに2〜3年かかることが多く、「すぐに治らない」ことは想定の範囲内です。原因は育て方ではなく、生まれ持った体質が7〜8割を占めます。

ご家庭でしていただきたいのは、子どもの話し方を直すことではなく、大人がゆっくり話し、質問を減らし、話の内容に耳を傾けることです。そして日々の様子を記録し、数か月単位で変化を見ていくことです。

苦しそうな話し方が続くとき、1年たっても軽くなる傾向が見えないとき、就学まで1年半を切ったとき。このいずれかに当てはまったら、ご相談ください。それ以外の日は、波に一喜一憂せずに、お子さんの話の中身を聞いてあげてください。

 

参考資料

※1 幼児吃音臨床ガイドライン(第1版). 日本医療研究開発機構(AMED)研究「発達性吃音の最新治療法の開発と実践に基づいたガイドライン作成」研究班(研究開発代表者 森浩一), 2021. http://kitsuon-kenkyu.umin.jp/guideline/

※2 幼児吃音臨床ガイドライン 添付資料4『お子さんがどもっている(吃音がある)と感じたら-家族にできるお子さんへのサポートについて-』, 2021. https://plaza.umin.ac.jp/kitsuon-kenkyu/guideline/v1/YoujiKitsuonCGLTenpu4.pdf

※3 Reilly S, Onslow M, Packman A, et al. Predicting stuttering onset by the age of 3 years: a prospective, community cohort study. Pediatrics. 2009;123(1):270-277. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19117892/

※4 Rautakoski P, Hannus T, Simberg S, Sandnabba NK, Santtila P. Genetic and environmental effects on stuttering: a twin study from Finland. J Fluency Disord. 2012;37(3):202-210. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22682321/

※5 菊池良和『保護者からの質問に自信を持って答える! 子どもの吃音Q&A』診断と治療社, 2021(p.4-5 吃音の波、p.24-25 Reilly 2009 の母親の精神健康スコアの内訳〔吃音群137名/非吃音群1,482名〕、p.76-77 リッカム・プログラム)

※6 The Stuttering Foundation. Wirthlin Survey Synopsis – Results, 2003(N=1,002。菊池良和, 前掲書 p.14-15 に引用)

※7 Boey RA, Van de Heyning PH, Wuyts FL, et al. Awareness and reactions of young stuttering children aged 2-7 years old towards their speech disfluency. J Commun Disord. 2009;42(5):334-346. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19394635/