コラムcolumn
病気の話

子どもが急に腕を動かさなくなったとき

肘内障と、まれに隠れている骨折

手をつないで歩いていて、ふとした拍子に子どもが泣き出し、その後まったく腕を動かさなくなる。
当院でもよくご相談をいただく場面です。「骨が折れたのでは」と不安になりますが、この年代でいちばん多い原因は肘内障(ちゅうないしょう)で、多くはその場の処置で解決します。
一方で、まれに骨折が隠れていることもあります。この記事では、家庭で見ておくポイントと、受診の目安を整理します。

まず、家庭で確認したいこと

見るべきポイントは多くありません。①腕の見た目に腫れ・変形・内出血がないか、②どんな姿勢で腕を保っているか、③どこを触ると痛がるか、④どんな状況で起きたか(引っ張った・転んだ・不明)、の4点です。

肘内障の子どもは、腕をだらりと体の横に下ろすか、軽く曲げて手のひらを下に向けた姿勢のまま動かさないことが多く、腕を動かさないかぎり比較的機嫌よく過ごしています。腫れや変形、あざは通常みられません(※9)。逆に、はっきりした腫れや変形、押すと一点だけ強く痛がる場所がある場合は、骨折を含めた別の原因を考える材料になります。


肘内障はなぜ起きるのか

肘内障は、肘の外側にある輪状靱帯(りんじょうじんたい:前腕の骨の一つである橈骨の頭を輪のように取り巻いている靱帯)が、橈骨の頭を越えて関節のすき間に滑り込み、はさまってしまった状態です。骨が折れているわけでも、関節が完全に外れているわけでもありません。超音波で観察した研究では、靱帯だけでなく、前腕を回す回外筋という筋肉も一緒に関節内へ引き込まれることが報告されています(※3)。

この年齢に集中するのは、発達のタイミングによるものです。乳幼児期の肘は輪状靱帯が薄く、成長にともなって5歳ごろまでに靱帯が厚く丈夫になるため、それ以降は起こりにくくなります(※9)。日本の一施設で10年間に扱われた2,331例の報告では、発生のピークは生後6か月と2歳、左腕に多いという結果でした(※1)。

ここで一つ、誤解されやすい点があります。「引っ張った覚えがない」ことは、肘内障を否定する理由になりません。上記の日本の報告では原因が前腕の強い牽引だったのは約半数(※1)、米国の救急受診データの分析では、51.0%が子ども自身の動きによるものか自然発生でした(※2)。寝返り、転倒、上着を脱ぐとき、きょうだいとの遊びなど、思い当たる出来事がないまま起こることは珍しくありません。

診断と治療 ― 多くはその場で戻ります

典型的な経過と診察所見がそろっていれば、レントゲンは必須ではありません。治療は徒手整復といって、肘を支えながら前腕を回す処置です。整復方法には回内法(前腕を内向きに強く回す)と回外・屈曲法があり、11件のランダム化比較試験(計1,198例)をまとめた2025年のメタアナリシスでは、初回の失敗率は回内法9.42%、回外・屈曲法25%と報告されています(※4)。当院でも回内法を第一選択にしています。処置そのものは数秒で終わりますが、その瞬間は痛みで泣くお子さんが多いことは、あらかじめお伝えしています。

うまく戻ると、痛みは急速に引きます。整復のときに「コクッ」という感触があった54例では53例が30分以内に腕を使い始めた一方、その感触がなかった13例では4例にとどまったという古典的な報告があります(※5)。また、2歳以下では10分以内に腕を使い始めた割合が55%(2歳を超える子どもでは89%)、受傷から4時間以上たってから受診した場合は60%(4時間以内なら84%)と、年齢と経過時間で戻りの早さが変わることも示されています(※6)。整復直後にすぐ動かさないお子さんがいるのは、痛みが残っているというより、動かすことへの警戒が抜けきらない時間があるためと考えられます。しばらく様子をみると、おもちゃに手を伸ばした瞬間から普通に使い始めることがよくあります。


まれに、骨折が隠れていることがあります

肘内障として診断・治療された子どものなかに、実は骨折だった例が一定の割合で含まれます。米国の45施設・88,466件の救急受診を調べた研究では、受診から1週間以内に上肢の骨折が判明したのは247件(0.3%)でした。この研究では受診の28.5%でレントゲンが撮影されており、著者らは「骨折の見落としはまれであり、撮影はもっと減らせる」と結論づけています(※7)。つまり、全員にレントゲンを撮る必要はないが、ゼロではない、という位置づけです。

どんな骨折が紛れ込むのかも分かっています。ドイツからの報告では、肘内障と考えて整復を受けたあとに骨折と判明した11例のうち、最も多かったのは上腕骨顆上骨折(肘のすぐ上の骨折)で4例。11例中6例(54.5%)は転倒がきっかけで、4例(36.4%)には肘内障では通常みられない腫れがありました(※8)。手をついて転んだ場合には、橈骨の骨折 ― 肘に近い側の橈骨頸部骨折や、手首側の橈骨遠位端骨折 ― も起こりえます(※9)。先ほどの日本の2,331例の報告でも、整復後に痛みや動かしにくさが残って固定を行った患者のうち、2例が後に骨折と診断されています(※1)。

実務的な線引きはシンプルです。引っ張られた直後に始まり、腫れも変形もなく、押しても一点の痛みがない ― この条件がそろえば、まず整復を試みます。逆に、転倒や強くぶつけたことが原因、はっきりした腫れや変形がある、限局した圧痛がある、5歳以上、あるいは整復を試みても腕を使わない場合には、レントゲンで骨折を確認します。


受診の目安

腕を動かさない状態が続いているなら、様子を見て自然に治るのを待つ理由はありません。整復は早いほど戻りも早い傾向があります(※6)。目安は次のとおりです。

  • 腕を動かさない ― 診療時間内であれば当日中に受診してください。肘内障であればその場で戻せます。
  • 転んだ・ぶつけた、腫れや変形がある、あざがある、押すと一点だけ強く痛がる ― レントゲンが撮れる医療機関(整形外科など)が適しています。
  • 生後6か月未満、あるいは5歳以上で腕を動かさない ― 肘内障以外の原因の割合が上がるため、画像評価を前提に受診してください。
  • 整復後30分以上たっても腕をまったく使わない ― 再評価が必要です。連絡のうえ、再度受診してください。
  • 手や指が青白い・冷たい、しびれる、明らかな変形がある、発熱をともなって肘が腫れ熱を持っている ― 時間外でも救急受診の対象です。

受診前にご家庭でしていただきたいことは、腕を無理に動かさず、そのままの姿勢を保つことだけです。インターネットの動画を見てご家庭で整復を試すことは、当院ではおすすめしていません。骨折の有無は見た目だけでは判断できず、骨折した腕に整復操作を加えると状況を悪化させうるためです(※8)。


再発と予防

肘内障は繰り返すことがあります。前述の日本の報告では再発率は14%でした(※1)。ただし輪状靱帯が丈夫になるにつれて起こりにくくなり、5歳を過ぎるとまれになります(※9)。

予防は、腕への急な牽引を減らすことに尽きます。手や手首を持って持ち上げない、腕を持って振り回す遊びをしない、上着や袖を脱がせるときに腕を引っ張らない。これらは再発予防として推奨されている具体策です(※9)。祖父母や保育者など、お子さんに関わる大人全員で共有していただくと効果的です。


まとめ

急に腕を動かさなくなったとき、1〜4歳では肘内障がまず疑われます。腫れや変形がなく、押しても一点の痛みがないことを確認したうえで整復すれば、多くは数分から30分以内に元どおり腕を使い始めます。一方で、転倒がきっかけのとき、腫れや変形があるとき、整復しても使わないときには、まれではあるものの骨折が隠れている可能性を考えてレントゲンを撮ります。

ご家庭で判断していただきたいのは、診断そのものではなく「今日受診するかどうか」だけです。腕を動かさないなら受診してください。診察室で、押して痛い場所と腕の位置を確認し、整復するのか、画像を撮るのかを判断します。

参考文献

※1 Irie T, Sono T, Hayama Y, et al. Investigation on 2331 cases of pulled elbow over the last 10 years. Pediatr Rep. 2014;6(2):5090. PMID: 24987508

※2 Pirruccio K, Weltsch D, Baldwin KD. Reconsidering the “Classic” Clinical History Associated with Subluxations of the Radial Head. West J Emerg Med. 2019;20(2):262-268. PMID: 30881546

※3 Kimura M. Role of the supinator muscle in the pathophysiological mechanism of a pulled elbow. Acta Paediatr. 2022;111(4):756.

※4 Aksel G, Çorbacıoğlu ŞK, Akoğlu H, İslam MM. Comparative effectiveness of supination-flexion and hyperpronation maneuvers in radial head subluxation: A systematic review and meta-analysis. Am J Emerg Med. 2025;92:68-78. doi:10.1016/j.ajem.2025.03.011

※5 Quan L, Marcuse EK. The epidemiology and treatment of radial head subluxation. Am J Dis Child. 1985;139(12):1194-1197. PMID: 4061421

※6 Heydari F, Masoumi B, Samsamshariat S. Radial Head Subluxation: Possible Effective Factors on Time to Re-use the Affected Limb. Adv J Emerg Med. 2018;2(2):e19. PMID: 31172082

※7 Genadry KC, Monuteaux MC, Neuman MI, Lipsett SC. Management and Outcomes of Children With Nursemaid’s Elbow. Ann Emerg Med. 2021;77(2):154-162. PMID: 33127100

※8 Kraus R, Dongowski N, Szalay G, Schnettler R. Missed elbow fractures misdiagnosed as radial head subluxations. Acta Orthop Belg. 2010;76(3):312-315. PMID: 20698449

※9 UpToDate. Radial head subluxation (pulled elbow): Evaluation and management/Approach to the child with an immobile arm.(2026年閲覧)