コラムcolumn
予防接種

フルミストは、なぜ鼻で効く?

「周りにうつる?」「1年もつ?」「なぜ子どもだけ?」

 

フルミストについて説明していると、外来では少し意外な質問が出てきます。

「生きたウイルスを鼻に入れて大丈夫ですか?」
「接種した子から、きょうだいや友達にうつりませんか?」
「効果が1年もつというのは本当ですか?」
「なぜ大人は受けられないのですか?」

実は、これらはすべて同じ仕組みにつながっています。

フルミストは、鼻の奥でワクチンウイルスにごく限られた「予行演習」をさせ、免疫をつくるワクチンです。予行演習ができるからこその利点がある一方、ワクチンウイルスが鼻から検出されることや、年齢によって反応が変わることもあります。
順番に整理します。

 

フルミストは鼻の奥で、ごく小さな「予行演習」をするワクチンです

フルミストの正式な種類は、経鼻弱毒生インフルエンザワクチン(live attenuated influenza vaccine:LAIV)です。

「生ワクチン」と聞くと、普通のインフルエンザウイルスをそのまま入れるように感じるかもしれません。しかし、実際には病気を起こす力を弱め、低い温度では増えやすい一方、高い温度では増えにくい性質を持たせたワクチンウイルスです(※1、※2)。
鼻やのどは、肺の奥より少し温度が低い場所です。フルミストのウイルスは鼻咽頭で限られた増殖をすることで、血液中の抗体だけでなく、鼻の粘膜の抗体やT細胞の反応も誘導します(※1、※3)。

注射の不活化インフルエンザHAワクチンが、ウイルスの部品を決まった量だけ体に届ける方法だとすれば、フルミストは鼻の入口で小さな予行演習を行う方法です。

この違いが、「鼻からウイルスが出ること」と「年齢によって反応が変わること」につながります。

 

鼻から見つかることと、周りにうつることは別です

接種後、鼻の検体からワクチン由来のウイルスが検出されることがあります。これをウイルス排出といいます。
ただし、鼻からウイルスが見つかることと、実際にほかの人へ伝播することは同じではありません。

海外の保育所で、健康な生後9か月から3歳の子ども197人をワクチン群と偽薬群に分けて調べた無作為化比較試験があります。ワクチンを受けた98人のうち80%からワクチンウイルスが検出されましたが、実際に偽薬群へ伝播したと確認されたのは1人でした。1人の接種児と接触した子への伝播確率は、モデル上0.58%(95%信頼区間0〜1.7%)と推定されています(※4)。

これは、現在の日本の製品そのものを調べた研究ではなく、対象には日本の承認年齢より幼い子どもも含まれます。したがって、現在のすべての家庭に同じ確率が当てはまるとは言えません。それでも、「排出は比較的よく見られても、伝播はまれだった」という違いを理解する材料にはなります。

一方で、ゼロではありません。国内添付文書は、接種後1〜2週間、重度の免疫不全の方との密接な接触を可能な限り避けるよう説明を求めています(※1)。
該当する方がご家族にいる場合は、接種前にお知らせください。注射を選ぶ方法もあります。

 

「効果が1年もつ」は、少し言い換えが必要です

海外の小児研究をまとめた報告では、抗原的に近いA型ウイルスに対して、接種9〜12か月後にも発症予防効果が確認され、接種1〜5か月後と同程度だった研究がありました(※5)。
ただし、この結果を「フルミストなら、誰でも1年間確実に守られる」と読み替えることはできません。

第一に、これは海外で行われた古い小児研究をまとめた結果で、現在の日本の製品を、今シーズンの流行株に対して調べた研究ではありません。
第二に、インフルエンザウイルスは変化します。同じ報告でも、流行していたB型ウイルスに抗原変異が起きた時期には、接種後半の効果推定値が低くなっていました(※5)。
第三に、免疫反応が残っていること、検査で抗体が測れること、実際の発症を防げることは同じではありません。フルミストでは血液中の抗体だけでなく、鼻粘膜の抗体やT細胞も関わります(※1、※3)。

ですから、正確には「抗原的に近い型に対し、1シーズンを越えて予防効果が確認された海外研究がある」です。前年に受けたから今年は不要、という意味ではありません。毎シーズン接種することが基本です。

また、日本小児科学会は、フルミストと注射の間に発症予防効果の明確な優位性は確認されていないとしています(※3)。「フルミストは1年、注射は数か月」と単純に比べることもできません。研究の対象、時期、流行株、測定した免疫が異なるからです。

 

なぜ日本では「2歳以上19歳未満」なのでしょうか

下限の2歳には、明確な安全上の理由があります。海外試験で、2歳未満では接種後の入院や喘鳴が増えたため、日本でも2歳未満は対象になっていません(※1、※6)。

一方、19歳になった瞬間に、体の仕組みが急に変わるわけではありません。

PMDAの審査報告書では、日本の臨床試験で有効性と安全性を検討した年齢を踏まえ、接種対象を2歳以上19歳未満とすることが可能と判断されています(※6)。つまり、日本の上限は、国内で確認した範囲が18歳までだったことが直接の根拠です。

ただし、年齢に伴う生物学的な変化もあります。

海外で5歳から49歳の344人にフルミストと同じ種類のワクチンを接種した研究では、鼻からワクチンウイルスが検出される割合は年齢が高いほど低く、接種前の血液中の抗体が高いほど低いという関係が見られました(※7)。過去の感染や接種でできた免疫が、ワクチンウイルスを鼻の入口で早く抑え、十分に増える前に追い返す可能性があります。
ただし、これはウイルス排出を調べた研究であり、年齢別の発症予防効果を直接証明したものではありません。また、この仕組みだけで日本の19歳という上限が決まったわけでもありません。

体の反応は少しずつ変わりますが、承認の線は臨床試験で確認した範囲に引かれています。ここを分けて考えると分かりやすいと思います。

 

注射と点鼻は、「どちらが上」ではなく選び分けます

フルミストには、針を使わず、日本では1シーズン1回で済むという大きな利点があります。一方、年齢、喘息・喘鳴、免疫状態、服用中の薬、ご家族の状況によっては、注射のほうが適しています。

フルミストが必ず注射よりよく効くわけでも、注射が古くて劣るわけでもありません。

実際の選び方、接種できない条件、副反応、接種後の発熱や検査については、当院の「インフルエンザワクチンのQ&A」にまとめています。

 

国内での有効性・安全性のデータは、こちらをご覧ください。

フルミストは本当に効く? 発売初年度の国内データを、いま改めて読み解きます

 

迷われたら、接種前に診察室でお声がけください。お子さんの年齢、体調、持病、ご家庭の状況を確認しながら一緒に考えます。

 

参考文献

 

※1 PMDA「フルミスト点鼻液 電子添文」(2026年8月改訂)

※2 Chan W, Zhou H, Kemble G, Jin H. The cold adapted and temperature sensitive influenza A/Ann Arbor/6/60 virus, the master donor virus for live attenuated influenza vaccines, has multiple defects in replication at the restrictive temperature. Virology. 2008;380(2):304-311. PMID: 18768193.

※3 日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会「経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方~医療機関の皆様へ~」 9月 2, 2024

※4 Vesikari T, Karvonen A, Korhonen T, et al. A randomized, double-blind study of the safety, transmissibility and phenotypic and genotypic stability of cold-adapted influenza virus vaccine. Pediatr Infect Dis J. 2006;25(7):590-595. PMID: 16804427.

※5 Ambrose CS, Yi T, Walker RE, Connor EM. Duration of protection provided by live attenuated influenza vaccine in children. Pediatr Infect Dis J. 2008;27(8):744-748. PMID: 18600188.

※6 PMDA「フルミスト点鼻液 審査報告書」 2月 9, 2023

※7 Block SL, Yogev R, Hayden FG, Ambrose CS, Zeng W, Walker RE. Shedding and immunogenicity of live attenuated influenza vaccine virus in subjects 5-49 years of age. Vaccine. 2008;26(38):4940-4946. PMID: 18662737.