フルミストは本当に効く? 発売初年度の国内データを、いま改めて読み解きます
鼻にシュッとするインフルエンザワクチン「フルミスト」。
日本で発売されてから、当院でも多くのお子さんに接種するようになりました。
特に注射が苦手なお子さんにとって、「鼻からできる」というメリットは想像以上に大きなものでした。
ただ、私たちがフルミストをおすすめするうえで、ずっと気になっていたことがあります。
「日本の子どもたちに実際に使って、本当にしっかり効いているのか?」 ということです。
有効性、安全性については海外には以前から多くのデータがあります。
しかし、日本で実際に使ったときの大規模なデータはまだ十分ではありませんでした。
2026年8月4日に第一三共(フルミストを販売している会社です)から、発売初年度である2024/25シーズンの使用成績比較調査の結果が公表されました。※1
「なぜ2024/25シーズンの結果が、今になって出てくるの?」と思われるかもしれません。
実は、ここにも意味があります。
なぜ結果が出るまでこんなに時間がかかるの?
今回の調査は、数十人、数百人を対象に短期間で行うアンケートのようなものではありません。
実際にインフルエンザが流行している診療現場で、インフルエンザのような症状で受診した子どもたちを登録し、検査結果、ワクチン接種歴、年齢、発症から受診までの期間、通院歴、家族の感染状況、前シーズンのワクチン接種歴や罹患歴などを集めます。※1
そして流行シーズンが終わったあとにデータを整理し、条件を満たした症例を確定し、背景の違いを統計学的に調整して解析します。
今回の有効性解析対象だけでも2,374例です。※1
つまり、「昨年のデータを今さら出している」のではなく、実際の診療で集めた多数の症例を整理し、解析して初めて出せる数字だから時間がかかるのです。
結果は、有効率55.5%でした
今回の調査では、インフルエンザのような症状で医療機関を受診した2歳以上19歳未満の子どもたちについて、検査でインフルエンザ陽性だった子と陰性だった子のワクチン接種状況を比較しています。※1
その結果、フルミストの調整後ワクチン有効率は、55.5%(95%信頼区間23.5~74.1%)でした。※1
私はこの結果を、フルミストを実際に接種してきた小児科医として、とても重要なデータだと考えています。
「55.5%しか効かない」のではありません
「有効率55.5%」 この言葉は、一般の方には非常に分かりにくいと思います。
これは100人に接種したら55人だけに効く、という意味ではありません。簡単にいうと、
「接種しなかった場合と比較して、インフルエンザになるリスクが約56%低くなった」 という意味です。
仮に、ある状況で未接種の子100人のうち10人がインフルエンザになるとすれば、有効率55.5%なら、同じ条件では接種した子の発症は単純計算で4~5人程度になるイメージです。
つまり、「半分の子に効くワクチン」ではなく、「一人ひとりの発症リスクをおよそ半分にする効果が観察されたワクチン」と考える方が近いでしょう。
もちろん、接種してもインフルエンザになることはあります。
それでも、発症する可能性をこれだけ下げるのであれば、予防接種として十分意味のある数字だと私たちは考えています。
本来、インフルエンザワクチンにとって一番重要な目的は重症化の予防になります。
しかし(これは良いことなのですが)、今回の集団の中では重症化するお子さんがいなかったため、そこについては評価ができませんでした。
注射と比べてどうだったのか
ここは、私たちも非常に注目していたところです。
今回の同じ調査では、フルミスト以外のインフルエンザワクチンについても解析されています。調整後有効率は、
フルミスト 55.5%
フルミスト以外のワクチン 41.2% でした。※1
この数字を見て、「ではフルミストの方が注射より優れているのですか?」と聞かれれば、そこまでは言えません。
少し専門的な話になりますが、今回の研究は、両者の優劣を証明するために無作為に割り付けた比較試験ではないからです。
しかし少なくとも、今回の実臨床データでは、フルミストは従来のワクチンに見劣りする結果ではありませんでした。
フルミストには「痛くない」という非常に分かりやすいメリットがあります。
もしその代わりに予防効果が大きく劣るのであれば、私たちも勧め方を考えなければなりません。
しかし、今回の結果はそうではありませんでした。
「注射をしなくてよい。そのうえ、少なくとも今回の国内実臨床データでは、従来ワクチンに見劣りするような効果ではなかった」
今回の結果はこのように解釈するのが妥当です。
これは、当院で昨シーズン感じていたこととも一致します
これは研究データではなく、あくまで当院で診療してきた中での実感です。
昨シーズン、当院でも多くのお子さんにフルミストを接種しました。
その後インフルエンザ流行期の診療を続けるなかで、私たちは、
「フルミストは、実際にきちんと効いているのではないか」
という感触を持っていました。もちろん、一つのクリニックでの診療経験を、そのまま科学的な有効率として語ることはできません。
当院で何人接種し、そのうち何人が感染したかを厳密な条件で比較した研究ではないからです。
しかし今回、2,374例を解析した国内データから55.5%という結果が示されたことで、私たちが診療現場で感じていたことと、大規模な調査結果が同じ方向を向いたことには安心感があります。
「痛くないから選ぶワクチン」だけではない。
インフルエンザを予防するという本来の目的についても、きちんと評価できる選択肢になってきた。
私たちは今回のデータを、そのように受け止めています。
では、なぜ6歳未満では「効果が証明できなかった」の?
今回のデータで最も注意して読みたいのが、6歳未満です。
6歳未満では有効率31.6%でしたが、統計学的には明確な有効性を確認できませんでした。※1
それだけ聞くと、「小さい子には効かないの?」と思ってしまいます。
しかし、そうではありません。
研究全体は2,374例と大きいのですが、年齢で分け、さらにワクチンの種類で分け、さらにインフルエンザ陽性・陰性で分けると、一つひとつのグループは急に小さくなります。
6歳未満でインフルエンザ陽性だったフルミスト接種者は11例でした。※1
この人数では、効果の推定が非常に難しくなります。
だから今回分かったのは、「6歳未満では効かなかった」ではなく、「6歳未満では、まだ効果の大きさを精度よく決められるだけのデータが集まっていない」
ということです。
次のデータに、私たちが期待している理由
ここで重要なのが、この調査が経年的に続いていることです。
今回解析されたのは、日本でフルミストが発売された2024/25シーズン。
その次の2025/26シーズンには、フルミストという選択肢そのものが医療機関にも保護者にもかなり浸透しました。
当院でも、フルミストを希望されるご家庭、実際に接種するお子さんは大きく増えました。
もし次回の調査でも同様に症例が集積され、特に6歳未満のフルミスト接種者が十分に増えていれば、「小さい子では実際どのくらい効くのか」
について、今よりずっと精度の高い答えが出てくる可能性があります。
安全性についても国内データが出ました
効果と同じくらい重要なのが安全性です。
一般使用成績調査では、3,341例が安全性解析の対象となりました。※3
因果関係を否定できない副反応として多かったのは、
鼻水20.32%、鼻づまり9.82%、発熱8.59%、咳8.08%でした。※3
フルミストは鼻の粘膜に噴霧する弱毒生ワクチンです。
そのため、鼻水や鼻づまりなど、上気道の症状が多いことは理解しておきたいところです。
重篤な副反応としては、アナフィラキシー、血小板数減少、熱性けいれんが各1例報告され、いずれも回復しています。※3
3,341例という規模で、これまで知られていなかった頻度の高い重大な安全性上の問題が新たに見つかったわけではありません。
これは安心材料の一つです。
一方で、この人数だけで極めて稀な副反応まで否定できるわけではありません。
効果と同じように、安全性についても今後データを積み重ねて見ていく必要があります。
最後に――なぜメーカーのデータを紹介するのか
今回紹介した中心的なデータは、フルミストを販売する第一三共による製造販売後調査です。
当然、「メーカーのデータなら、良いことだけを言っているのでは?」と思われる方もいるでしょう。
その疑問はもっともです。
だから私たちは、メーカーが出した「結論」をそのまま紹介するのではなく、実際の症例数、ワクチン有効率、95%信頼区間、安全性データを確認し、公表されたデータを元に自分たちでも検定を行い、自分たちでそれをどう解釈するかは自分たちで考えるという姿勢を取っています。
当院と第一三共との間に、このコラムの内容に関する利益相反はありません。
当院では、製薬会社からの説明を受ける際に、業界のガイドライン等で一定の範囲内とされる社会的儀礼を含め、弁当などの金品や接待の提供は一切受け取っていません。
それは「製薬会社を信用しない」という意味ではありません。
良い薬も、良いワクチンも、製薬会社が研究・開発し、多くの患者さんの役に立っています。
だからこそ、誰が出したデータかではなく、そのデータが何を示しているかを見る。
メーカーに有利だから採用することもしない。
メーカーのデータだからという理由だけで否定することもしない。
私たちが判断するときの基準は、ただ一つです。
その情報が、目の前の子どもたちにとって役に立つかどうか。
「まだ分からないことがある」と「今は判断できない」は同じではありません。
現時点のデータを見る限り、フルミストは単なる「注射が苦手な子の代替手段」ではなく、予防効果も期待できる選択肢だと私たちは考えています。
参考文献
※1 第一三共株式会社.フルミスト®点鼻液 使用成績比較調査(提供資料).
※2 日本小児科学会.2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針/経鼻弱毒生インフルエンザワクチンの使用に関する考え方.
※3 第一三共株式会社.フルミスト®点鼻液 一般使用成績調査 最終集計結果(提供資料).

