ワクチン接種を悩まれている方へ
ーシートベルトに似ているところと、違うところー
インフルエンザワクチンの季節になると、小さなお子さんを連れたご家族がたくさん来院されます。そのなかで「この子に打って、本当に大丈夫でしょうか」というご相談を受けることが少なくありません。
迷うのは自然なことです。大切なわが子の体に、自分の判断で何かを入れるのですから。
当院は、原則としてワクチンの接種をおすすめしています。日本の定期接種のワクチンで、メリットがデメリットを下回るものは1つもないと考えています。
ワクチンは、シートベルトに似ています
私たちは、ワクチンをよくシートベルトに例えます。
交通事故に遭う日を、前もって知ることはできません。ほとんどの日は何も起きず、シートベルトは役に立たないまま目的地に着きます。それでも「今日は事故に遭わないから締めなくていい」とは考えません。万一のときに体を守ってくれるのが、シートベルトだからです。
感染症も同じです。いつ、どこで、どの病気にかかるかは選べません。ワクチンは、その偶然の出来事に出くわしたときに役に立ちます。
まれな病気は、すき間ができると戻ってきます
「まれな病気なのに、打つ意味があるの?」という声もあります。
2026年、オーストラリアではジフテリアが広がりました。9月までに届け出られた患者は597人です。例年の同じ時期の平均は13.8人でした※1。
ただ、この流行は「ワクチンを打たなかった人たちの間で広がった」という単純な話ではありません。接種率の高い地域で起きており、患者の多くは過去に接種を受けていて、軽く済んでいます※1、※2。亡くなった大人の方は、子どもの頃の接種は済んでいたものの、10年以上追加の接種を受けていませんでした※2。
ワクチンで抑えられている病気は、免疫のすき間ができると戻ってきます。そして、打っていた人の多くは重くならずに済みました。詳しくは以前のコラム「ジフテリアとはどんな病気か」をご覧ください※3。
見なくなった病気は、消えたのではありません。防げているから見えないのです。
「かかって免疫をつける」には、大きな代償があります
「副反応が心配なら、かかって自然に免疫をつければいい」と考える方もいらっしゃいます。麻疹や風疹のように、かかれば免疫がつく病気もあります。ただ、そのために払う代償が大きいのです。
麻疹(はしか)は先進国でも、かかった人の1,000人に1人が亡くなるとされています※4。風疹は、妊娠12週までのお母さんがかかると、85%で赤ちゃんの目や心臓、耳に障害が出るとされています※4。ポリオは、まひが出るのは感染した人の1%以下ですが、まひが出た場合には子どもの2〜5%が亡くなるとされています※5。
米国には、アーミッシュと呼ばれる、昔ながらの暮らしを守る人たちの共同体があります。ワクチンの接種率が低いことで知られていますが、教義でワクチンが禁じられているわけではなく、打たない理由として多く挙がるのは副反応への不安です※6、※7。この共同体では、麻疹や風疹、ポリオの流行が繰り返し記録されてきました※8、※9、※10。1979年に米国で最後となった野生のポリオの流行では、まひが出た10人全員が、ワクチンを受けていないアーミッシュの人でした※10。
ワクチンも、副反応がゼロではありません
日本の定期接種のワクチンの効果は、疑う余地がありません。ただ、どんなワクチンもデメリットがゼロだとは言えません。
小さなお子さんが多く受けるインフルエンザワクチンでは、注射した場所が赤くなったり腫れたりすることが10〜20%にあり、ふつうは2〜3日で消えます※11。添付文書に書かれた重い副反応は、どれも「頻度不明」とされていますが、これは頻度を数字で出せないという意味で、国も予防接種による重い健康被害は「極めて稀」としています※12、※13。国の集計では、接種後の死亡の報告は毎シーズン0〜3例で、ワクチンとの明確な因果関係が認められた例はなく、報告のほとんどは基礎疾患のあるご高齢の方でした※11。
しかしワクチンは、問題が見つかれば中止されたり、改良されたりしてきました。
1989年から定期接種で選べるようになった麻疹・おたふくかぜ・風疹の混合(MMR)ワクチンは、おたふくかぜの成分による無菌性髄膜炎が問題となり、1993年に中止されました※15。いま定期接種で使われているのは、2006年から使われている、麻疹と風疹の2つを防ぐ混合(MR)ワクチンです※16。百日咳のワクチンも、1970年代に重い副反応が問題になり、1981年に日本で開発された改良型に切り替わりました。以前の型では接種した人の41%に出ていた38℃以上の熱が、改良型では4.3〜7.2%まで減っています※17。
今のワクチンにも副反応はあります。ただ、「昔こういうことがあったから、今も同じだ」とは言えません。いま使われているワクチンは、いまのデータで判断してほしいと思います。
万一、健康被害が起きたときには、公的な救済制度があります。定期接種は国の制度、子どものインフルエンザワクチンのような任意の接種は、別の公的な制度が対象です※13、※18。アレルギーや費用のことは、インフルエンザワクチンのQ&A※19にまとめています。
ほとんどの赤ちゃんが打つワクチンだからこそ、起きること
小児用肺炎球菌ワクチンは、令和6年度に1回目を97.3%の赤ちゃんが受けています。五種混合ワクチンも1回目は94.4%で※20、生後2か月から受け始めます※5。
乳幼児突然死症候群(SIDS)という、元気だった赤ちゃんが眠っている間に突然亡くなる病気があります。生後2か月から6か月に多いとされています※21。令和6年には55人の赤ちゃんがSIDSで亡くなっています※22。
ほとんど全員が、SIDSの多い時期にワクチンを受けます。そのため、ワクチンと関係がなくても、接種から数日以内に亡くなる赤ちゃんの報告はあると想定されています。国は、因果関係がはっきりしない場合も広く報告を集め、一つひとつ調べるしくみをとっています※23。全員に打つワクチンには、そういう側面もあります。
2011年には、肺炎球菌ワクチンやヒブワクチンを含む同時接種のあとに亡くなった赤ちゃんの報告が続き、接種がいったん見合わせになりました。専門家が7例を調べ、いずれもワクチンとの直接的な明確な因果関係は認められないとされ※23、接種は再開されています※24。ドイツの研究でも、接種後14日以内にSIDSが増えることはありませんでした※25。
違いの1つめ:自分の行動で起きることが、怖い
一方、ワクチンとシートベルトには、違うところがあります。
シートベルトは、締めることそのもので体に何かが起きる心配はほとんどありません。ワクチンは、自分が「打たせる」と決めた結果として、副反応が起きる可能性があります。
人は、何もしなかったことで起きる悪い出来事よりも、自分がしたことで起きる悪い出来事を重く感じやすいことが知られています。心理学では「作為バイアス」と呼ばれ、たとえ病気のほうがずっと危険でも、ワクチンをためらう理由になることが研究で示されています※26、※27。
子どもを守ろうとする親として、ごく自然な心の動きです。私たちはこの気持ちを否定しません。そのうえで、打たなかった場合に子どもが背負うリスクも、同じ天秤に載せて考えていただきたいと思っています。
違いの2つめ:みんなが打つと、打てない人も守られます
インフルエンザワクチンは、生後6か月から接種の対象になります。それより小さな赤ちゃんは対象外ですが※12、妊娠中のお母さんが接種すると、生まれた赤ちゃんのインフルエンザが61%少なかったという日本の研究があります※28。病気や治療のために、ワクチンを打てない人もいます。打ちたくても打てず、不安を抱えているご家族もいらっしゃいます。
こうした人を、周りの人の接種で守る考え方があります。赤ちゃんの家族や身近な人がワクチンを打ち、まゆのように包んで守る方法は「コクーン(まゆ)戦略」と呼ばれます。百日咳では家族だけで守りきるのは難しいとされていますが※29、打つ人の輪が社会全体に広がるほど、守りは厚くなります。
日本では1962年から1994年まで、学校でインフルエンザワクチンの集団接種が行われていました※30。子どもたちへの接種が行われていた時期、65歳以上の方のインフルエンザに関わる死亡は、接種をやめたあとに比べて36%少なかったと推計されています※31。
これはインフルエンザに限った話ではありません。子どもへの肺炎球菌ワクチンが始まってから、大人がかかる重い肺炎球菌の感染症でも、ワクチンに含まれる型の割合が減りました。子どもへの接種の間接的な効果と考えられています※32。ポリオの流行でも、周りの住民の免疫が広がりを止める壁になったと記録されています※10。
シートベルトは、締めた本人しか守りません。ワクチンは、あなたのお子さんが打つことで、隣にいる誰かも守ります。
打つ選択も、打たない選択も、尊重します
お子さんのことを一生懸命考えて、打つと決めたご家族。同じように一生懸命考えて、打たないと決めたご家族。どちらも、お子さんを大切に思って出した答えです。私たちは、どちらの選択も尊重します。
尊重するからこそ、どちらのご家族も同じように迎えたいと考えています。熱を出したときや困ったときは、ワクチンを打っているかどうかに関係なく、いつでも来てください。「打っていないから行きにくい」「また何か言われるかもしれない」と、ためらう必要はありません。
私たちが一番心配しているのは、ワクチンのことで医療機関との間に距離ができ、お子さんに助けが必要なときに届かなくなることです。考えが変わったときも、変わらないときも、ここで一緒に考えさせてください。
そして、打つと決めてくださったご家族へ。
打つという選択は、お子さんを守るだけでなく、まだワクチンを打てない赤ちゃんや、病気で打てない友だち、おじいちゃんやおばあちゃんを守ることにもつながっています。社会の中で見えなくなった病気は、皆さん一人ひとりの接種が支えてくれています。
小児科医として、心から感謝しています。本当に、ありがとうございます。
まとめ
ワクチンは、めったに起きない感染に備えるものです。
そして、みんなが打つことで、打てない赤ちゃんや家族も守られます。
迷っていることがあれば、LINEの方で気軽にご相談ください。
参考資料
※1 Australian Centre for Disease Control. Diphtheria in Australia – Epidemiological update – 21 September 2026. https://www.cdc.gov.au/resources/publications/diphtheria-australia-epidemiological-update-21-september-2026
※2 Draper AD, et al. Diphtheria outbreak, Northern Territory of Australia, 2025 to 2026. Euro Surveill. 2026;31(23):2600443. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC13263650/
※3 なかのこどもクリニック「ジフテリアとはどんな病気か -オーストラリアの流行から考える、三種混合ワクチンの意味-」 https://nakanokodomo.jp/column/231/
※4 厚生労働省「麻しん風しん混合(MR)ワクチン」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/mr/index.html
※5 厚生労働省「5種混合ワクチン(DPT-IPV-Hib)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/dpt-ipv-hib/index.html
※6 CDC. Pertussis outbreak in an Amish community — Kent County, Delaware, September 2004–February 2005. MMWR. 2006;55(30):817-21. https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5530a1.htm
※7 Wenger OK, et al. Underimmunization in Ohio’s Amish: parental fears are a greater obstacle than access to care. Pediatrics. 2011;128(1):79-85. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/21708796/
※8 Gastañaduy PA, et al. A Measles Outbreak in an Underimmunized Amish Community in Ohio. N Engl J Med. 2016;375(14):1343-54. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27705270/
※9 CDC. Congenital rubella syndrome among the Amish — Pennsylvania, 1991-1992. MMWR. 1992;41(26):468-9, 475-6. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/1343560/
※10 CDC. Follow-Up on Poliomyelitis — United States, Canada, Netherlands. MMWR. 1979(1997年に編集注付きで再掲:MMWR. 1997;46(50):1194-5). https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/00050435.htm
※11 厚生労働省「インフルエンザワクチン(季節性)」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/influenza/index.html
※12 インフルエンザHAワクチン「ビケンHA」添付文書(2026年7月改訂 第10版) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/630144_631340FA1047_1_38
※13 厚生労働省「予防接種健康被害救済制度について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_kenkouhigaikyuusai.html
※14 Shinjoh M, et al. Trends in effectiveness of inactivated influenza vaccine in children by age groups in seven seasons immediately before the COVID-19 era. Vaccine. 2022;40(22):3018-26. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35450780/
※15 国立健康危機管理研究機構「おたふくかぜワクチンに関するファクトシート」(2026年6月改訂) https://id-info.jihs.go.jp/immunization/basics/facts-sheets/Mumps_20260619.pdf
※16 厚生労働省健康局健康課予防接種室「風しんの定期接種制度の変遷について」IASR. 2019;40:130-1. https://id-info.jihs.go.jp/niid/ja/typhi-m/iasr-reference/9037-474r02.html
※17 国立感染症研究所「百日せきワクチンに関するファクトシート」(2010年) https://id-info.jihs.go.jp/immunization/basics/facts-sheets/Pertussis_20100707.pdf
※18 医薬品医療機器総合機構「医薬品副作用被害救済制度の給付対象」 https://www.pmda.go.jp/relief-services/adr-sufferers/0011.html
※19 なかのこどもクリニック「インフルエンザワクチンのQ&A」 https://nakanokodomo.jp/column/351/
※20 厚生労働省「定期の予防接種実施者数」 https://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/other/5.html
※21 厚生労働省SIDS研究班「乳幼児突然死症候群(SIDS)診断ガイドライン(第2版)」2012年 https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e2fdd400-7af4-456b-b278-cd4ccd287229/06c3c853/20251030_policies_boshihoken_kenkou_sids_29.pdf
※22 こども家庭庁「乳幼児突然死症候群(SIDS)について」 https://www.cfa.go.jp/policies/boshihoken/kenkou/sids
※23 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会安全対策調査会・子宮頸がん等ワクチン予防接種後副反応検討会「小児用肺炎球菌ワクチン、ヒブワクチンの安全性の評価結果について」平成23年3月24日 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r985200000167mx-img/2r985200000167oe.pdf
※24 厚生労働省 リーフレット「小児用肺炎球菌ワクチンとヒブワクチンの接種を再開します」2011年 https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016yw1-img/2r98520000016z53.pdf
※25 Vennemann MM, et al. Sudden infant death syndrome: no increased risk after immunisation. Vaccine. 2007;25(2):336-40. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16945457/
※26 Ritov I, Baron J. Reluctance to vaccinate: Omission bias and ambiguity. J Behav Decis Mak. 1990;3(4):263-77. https://doi.org/10.1002/bdm.3960030404
※27 Asch DA, et al. Omission bias and pertussis vaccination. Med Decis Making. 1994;14(2):118-23. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8028464/
※28 Ohfuji S, et al. Protective Effect of Maternal Influenza Vaccination on Influenza in Their Infants: A Prospective Cohort Study. J Infect Dis. 2018;217(6):878-86. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29216373/
※29 CDC. Updated recommendations for use of tetanus toxoid, reduced diphtheria toxoid and acellular pertussis vaccine (Tdap) in pregnant women and persons who have or anticipate having close contact with an infant aged <12 months — ACIP, 2011. MMWR. 2011;60(41):1424-6. https://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6041a4.htm
※30 東京都健康安全研究センター「インフルエンザワクチン接種の変遷」 https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/flu/news/1998-2002/pro/p4/
※31 Charu V, et al. Influenza-related mortality trends in Japanese and American seniors: evidence for the indirect mortality benefits of vaccinating schoolchildren. PLoS One. 2011;6(11):e26282. https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3210121/
※32 Tamura K, et al. Dynamic changes in clinical characteristics and serotype distribution of invasive pneumococcal disease among adults in Japan after introduction of the pediatric 13-valent pneumococcal conjugate vaccine in 2013-2019. Vaccine. 2022;40(24):3338-44. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/35489986/

