コラムcolumn
薬・おうちケア, 院長より

モビコールが出荷調整になりました

出荷調整のお知らせと、海外の薬が日本で使えるようになる仕組み

便秘のお薬「モビコール」が、出荷調整に入りました。先にお伝えすると、お子さんが飲んでいる「モビコールLD」は、子ども向けに出荷が続きます。お手元の薬も、そのまま飲んで大丈夫です。
今回はこのニュースをきっかけに、海外で使われている薬が日本で使えるようになるまでの道のりをお話しします。モビコールは、その道のりがとても分かりやすい薬だからです。

モビコールLDは、子ども向けに出荷が続きます

製造販売元のEAファーマは2026年9月、出荷の調整を発表しました。LDは2027年6月頃まで出荷量を絞り、使う人を小児に限ります。大人の方には、別の便秘薬への切り替えが案内されています。量の多い包装のHD(1包にLDの2倍の量)は、11月まで出荷量を絞ったあと、12月から一時停止します※1※2。
HDの出荷の再開は2027年6月頃の見込みですが、変わる可能性もあります※1。
原因は、海外の製造所が現地の規制当局の査察で、品質管理の仕組みに指摘を受けたことです。8月には、薬に混ぜてある電解質に混ざり方のむらが見つかり、5つの製造番号が自主回収されました(薬局や医療機関に向けた回収です)。主成分は規格どおりで、電解質の量はもともと食事でとる量よりごく少ないため、重い健康被害のおそれはないと会社は判断しています※3。欧州でも2026年に、同じ成分の製品で回収が続いていました。※4※5。
すでに出荷された薬について、会社は「有効性と安全性に影響する問題は確認されていない」としています※1。

「なぜ日本では使えないのか」と、ずっと話していました

私が医者になった頃、子どもの便秘には酸化マグネシウムを使うのが当たり前でした。今も大切な薬です。
一方、海外ではポリエチレングリコール(PEG)という薬が、子どもの便秘の第一選択でした。腸でほとんど吸収されず、水を抱えて便をやわらかくする薬です※2。英国では子ども用が2002年に承認され※2、欧州と北米の小児消化器の学会も2014年に第一選択として勧めています※6。
ところが日本では、2013年の子どもの便秘のガイドラインに、同等の薬に下剤としての保険適応がない、という趣旨の一文がありました※7。同じ成分は大腸カメラ用の洗浄剤としては日本にあったのに、便秘には使えなかったのです※7。
小児科医の間でも「なぜ日本では認められないのか」は、よく話題になっていました。その答えは、日本で薬が使えるようになる仕組みにありました。


日本で薬が使えるまでには、いくつもの段階があります

海外で何十か国も使われている薬でも、日本ではそのままでは保険で使えません。
多くの場合、まず製薬会社が日本で臨床試験を行い、結果をまとめて国に承認を申請します(海外での使用実績が十分なら、新たな試験なしで申請できる道もあります)。国の審査機関であるPMDA(医薬品医療機器総合機構)が中身を調べ、専門家の会議(部会)にはかったうえで、厚生労働大臣が承認します※8。

承認されただけでは、まだ保険では処方できません。新しい薬は、国が値段(薬価)を決めて「薬価基準」という一覧に載ると、保険で使えるようになります※9※10。一覧に載せるのは、承認から原則60日以内です※11。
モビコールの場合は、2017年11月に申請、2018年8月に部会、9月21日に承認、11月20日に一覧に載り、11月29日に発売されました※2※8※12※13。

道の入口に立つのは、製薬会社です

この道のりは、その薬を日本で扱おうとする会社が申請して、はじめて動き出します。
学会が要望した時点では、日本でモビコールの開発を進めている会社はありませんでした※14。

似たことは今も起きています。国の資料では、2016〜2020年に欧米で承認された新しい成分の薬のうち、日本で承認されていないものが143品目あり、そのうち86品目は日本での開発(日本で試験を行い、承認を取る作業)に手がつけられていませんでした(2023年3月時点)。86品目のうち32品目は、欧米で子どもへの使い方も認められていた薬でした※15。海外の薬が日本に来ないこの問題は「ドラッグ・ロス」と呼ばれ、国も対策を進めています※15。

 

学会が求め、国が会社に頼みました

動いたのは、日本小児栄養消化器肝臓学会です。国の「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬」の募集に、子ども用のPEGを日本でも使えるようにしてほしいと要望しました※14。
国はこれを必要性が高いと認め、2015年5月、開発の意思を示していた味の素製薬(いまのEAファーマ)に、「この薬を日本で使えるようにする作業」を正式に求めました。行政の言葉では「開発要請」といいます。新しい薬を作ることではありません。モビコールの場合は、日本で試験を行い、承認を取るための作業でした※12※14。

この要請には重みがあります。当時から、正当な理由なく応じない会社は、自社の新薬の値段を保つ国の仕組みの対象から外れる決まりでした※16。
実は味の素製薬は、同じPEGを使う大腸検査用の洗浄剤を、同じ海外メーカーから日本に導入していた会社でした※17。2016年から日本の大人と子どもで試験が行われ(子どもの試験は比べる相手を置かない形でした)、承認につながりました※12。

 

薬の値段は、同じ病気の薬と比べて決まります

新しい薬の値段は、専門の組織が計算し、国の会議(中央社会保険医療協議会)で了承されて決まります。同じ病気に使う、比べられる薬があるときは、1日あたりの値段をその薬に合わせるのが基本です※13。
モビコールの比べる相手は、同じ年に出た便秘薬のグーフィスでした。効き方は違いますが、同じ慢性便秘症の薬です。1日あたりの値段をグーフィスに合わせ、子どもへの飲み方が正式に決められていることへの上乗せ(小児加算)を加えて、1包83.90円に決まりました。上乗せは、子どもの試験の人数が限られていたため、下限の5%でした※13。

同じ資料には海外の値段も載っていて、英国は1包22.40円、ドイツは105.60円でした(いずれも2018年当時の換算)。海外の値段と大きく離れると通常は調整がかかります。ただモビコールは、国が開発を要請した薬であること、海外での承認から10年以上たっていたことなどの条件をすべて満たしたため、この調整がかかりませんでした※13。
薬価は、その後ほぼ毎年、実際に取引された値段に合わせて見直されます※18。モビコールLDは2026年10月時点で1包59.30円です。酸化マグネシウムの330mg錠は1錠6円ほどです(1日に飲む量は薬ごとに違います)※19。当院の患者さんで1番多いのは1日1包飲んでもらっている方だと思うのですが、モビコールだと月に1800円程度ということになります。酸化マグネシウムとの価格差はありますが、その額で良いと言えるだけの効果があると思っています。

ちなみに値段が決まったときの持田製薬の見込みでは、売り上げは多い年でも年15億円でした※13。実際には、販売する2社のうち持田製薬の分だけで、2025年3月期に年66億円に達しています※22。学会が声を上げ、国が頼み、会社が引き受けて届いた薬は、予想をはるかに超えて使われるようになりました。
国は2024年度から、子どもの薬の開発を値段の面で後押しする仕組みを強めています※20。

 

まとめ

今回はモビコールの出荷調整を受けて、実際に薬が承認されるまでの流れを説明しました。
モビコールの処方自体はボタン一つでできますが、その陰には、治験に応じてくれた患者さん、試験を計画された企業、日本での開発を行ってくれた企業など、いろんな人の力があってお薬が患者さんのもとへ届けられています。

モビコールLDは、出荷調整のあいだも子ども向けに出荷が続きます。いま飲んでいるお子さんは、量を変えずにそのまま続けてください。万一モビコールが使えない場合の代わりとして、欧州と北米の指針ではマグネシウムの下剤が挙げられています※21。
飲み方などの基本は、以前の記事「こどもの便秘」(https://nakanokodomo.jp/column/173/)にまとめています。
いま当たり前に使えている薬のなかにも、誰かが声を上げ、誰かが引き受けて届いたものがあります。少しでも早く、元どおりに届く日が来ることを願っています。

 

参考資料

※1 EAファーマ「モビコール配合内用剤LD/HDの供給に関するお知らせ」2026年9月 https://www.eapharma.co.jp/hubfs/medical/news/2026/MVC-info.pdf

※2 モビコール配合内用剤LD/HD 添付文書(2026年9月改訂) https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/111890_2359110B2025_1_02 /医薬品インタビューフォーム(2026年9月改訂) https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/111890_2359110B2025_1_009_1F.pdf

※3 EAファーマ「自主回収のお知らせ 慢性便秘症治療薬モビコール配合内用剤LD/HD」2026年8月 https://www.eapharma.co.jp/hubfs/medical/news/2026/MVC-H-1-PM-05755.pdf

※4 MHRA. Class 3 Medicines Recall: Norgine Limited, MOVICOL Plain 13.7g powder for oral solution, EL(26)A/41. 2026年10月 https://www.gov.uk/drug-device-alerts/class-3-medicines-recall-norgine-limited-movicol-plain-13-dot-7g-powder-for-oral-solution-el-26-a-slash-41

※5 Swissmedic. Batch recall – Movicol, Pulver zur Herstellung einer Lösung zum Einnehmen. 2026年8月 https://www.swissmedic.ch/swissmedic/en/home/humanarzneimittel/market-surveillance/qualitaetsmaengel-und-chargenrueckrufe/batch-recalls/chargenrueckruf-movicol-pulver-zur-herstellung-einer-loesung-zum-einnehmen.html

※6 Tabbers MM, et al. Evaluation and treatment of functional constipation in infants and children: evidence-based recommendations from ESPGHAN and NASPGHAN. J Pediatr Gastroenterol Nutr 2014;58:258-274.

※7 日本小児栄養消化器肝臓学会・日本小児消化管機能研究会「小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン」2013 第10章 https://www.jspghan.org/constipation/files/11_section10.pdf /第11章 https://www.jspghan.org/constipation/files/12_section11.pdf

※8 厚生労働省 薬事・食品衛生審議会 医薬品第一部会(2018年8月30日)開催案内 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000207385_00004.html

※9 中央社会保険医療協議会 薬価専門部会 参考資料「現行薬価基準制度の概要」2012 https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002cbzl-att/2r9852000002cc33.pdf

※10 保険医療機関及び保険医療養担当規則 第19条 https://laws.e-gov.go.jp/api/1/lawdata/332M50000100015

※11 厚生労働省「医療用医薬品の薬価基準収載等に係る取扱いについて」2026年2月13日 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001667931.pdf

※12 PMDA 審査報告書 モビコール配合内用剤 2018 https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20180928001/111890000_23000AMX00821_A100_1.pdf

※13 中央社会保険医療協議会 総会(2018年11月14日)総-2-1 新医薬品一覧表・算定根拠 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/000400315.pdf

※14 厚生労働省 医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議 要望書(III-①-69) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/0000052874.pdf /企業見解(味の素製薬) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11120000-Iyakushokuhinkyoku/kigyou69.pdf

※15 厚生労働省 医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議 第66回 資料2-2「ドラッグロス解消に向けた取組(令和6年度~)検討状況」2025年12月 https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001610940.pdf

※16 中央社会保険医療協議会 資料「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」2010年2月 https://www.mhlw.go.jp/shingi/2010/02/dl/s0208-9g.pdf /厚生労働省「薬価算定の基準について」2026年2月13日 第3章第9節 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001667916.pdf

※17 PMDA 審査報告書 モビプレップ配合内用剤 2012 https://www.pmda.go.jp/drugs/2012/P201200145/11189000_22400AMX01481000_A100_1.pdf

※18 厚生労働省「令和8年度薬価基準改定の概要」 https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001686059.pdf

※19 厚生労働省「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報について(令和8年10月1日適用)」 https://www.mhlw.go.jp/topics/2026/04/tp20260401-01.html

※20 中央社会保険医療協議会「令和6年度薬価制度改革の骨子」2023年12月20日 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001191719.pdf

※21 Gordon M, et al. European Society for Paediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition/North American Society for Pediatric Gastroenterology, Hepatology and Nutrition guidelines for treatment of functional constipation in children aged 0-18 years. J Pediatr Gastroenterol Nutr 2026;83:335-366.

※22 持田製薬「2025年3月期決算短信〔日本基準〕(連結)」主要製品の売上高 2025年5月12日 https://finance-frontend-pc-dist.west.edge.storage-yahoo.jp/disclosure/20250512/20250425524315.pdf