フルミスト接種後の発熱
フルミスト接種後に熱が出たとき
「ワクチンの熱でしょうか。それともインフルエンザでしょうか」「タミフルを飲ませると、せっかくのワクチンが無駄になりませんか」。
フルミストのあとに熱が出ると、原因の心配に、検査や薬の迷いまで重なります。
私が診察で考えるのは、ワクチンの影響をどこまで疑うか、検査が判断の助けになるか、そして、この子にいま抗インフルエンザ薬が必要か、ということです。
接種後の熱を、すべてワクチンの副反応と考える必要はありません。接種しなくても起こる発熱が相当数あります。一方、ワクチンのウイルスに関連した発熱も、実際に報告されています(※1〜4)。
接種全般の疑問は「インフルエンザワクチンのQ&A」にまとめています。この記事では、接種後の発熱で、検査と薬をどう考えるかを掘り下げます。
接種後の発熱は、すべてワクチンの影響?
国内の承認時の第Ⅲ相試験(J301試験)は、2〜18歳の910人を、フルミスト608人と、ワクチン成分を含まない点鼻のプラセボ302人に分けて比べた試験です。
接種後14日間に、脇の下で38.0℃以上の発熱があったのは、フルミスト群60人/608人(9.9%)、プラセボ群24人/302人(7.9%)でした。差は約2ポイントです(※1)。
大切なのは、接種していない側でも熱が出ていることです。接種後に起きた発熱のすべてが、ワクチンによって増えた発熱ではありません。この比較は、別の感染症など、接種しなくても起こる発熱がかなり含まれると考える根拠になります。ただし、個々のお子さんの熱の原因を、この割合だけで決めることはできません。
海外でも調べられています。米国添付文書に掲載された大規模比較試験の2〜6歳の集計では、接種後10日以内の37.8℃を超える発熱は、経鼻ワクチン群13%(評価対象2,170人)、注射の不活化ワクチン群11%(2,165人)でした。別のプラセボ比較試験の統合では16%対11%です(※2)。
さらに、2〜17歳を対象とした20の比較試験の統合解析では、経鼻ワクチン接種者は初年度だけで14,938人いました。日々の体温記録による発熱は、この人数とは別に、体温記録を評価できた試験をまとめると対照群より統計的に有意には増えていませんでしたが、別枠の有害事象報告では発熱の増加がみられました(※3)。
年齢、発熱の基準、製剤、記録方法が違うため、数字は完全にはそろいません。世界の結果も「必ず熱が出る」「発熱はすべて無関係」のどちらでもありません。発熱が少し増えた試験も、明確な差がなかった研究もあります。現実的なところでは「少し発熱する人がいそう」という理解が正しいかもしれません。
熱が出た日だけで、原因は分けられません
国内J301試験で発熱した60人の発熱開始日は、接種2〜14日後で、中央値は6日後でした。プラセボ群も中央値は6日後です。中央値6日とは、発熱開始の順に並べたときの真ん中が6日目という意味で、「1週間は熱が出ない」という意味ではありません(※1)。
この国内試験では、接種当日・翌日の発熱は記録されていません。ただし、この一つの試験から「フルミストでは翌日に熱は出ない」と一般化することもできません。
米国の2〜4歳の540人を登録した観察研究では、接種当日〜2日後に38.0℃以上の熱が出た子は、解析対象の経鼻ワクチン群7人/183人(3.8%)、注射群15人/264人(5.7%)でした。明確な群間差はありませんでしたが、接種後早い時期にも発熱は記録されています。他のワクチンとの同時接種を含む研究です(※4)。
接種直後ならワクチン、数日たてば感染症、と機械的には分けられません。いつから、どんな症状があり、家族や園で何が流行しているか。その経過と診察を合わせて考えます。
ワクチン株が見つかることと、発症は同じではありません
フルミストには皮下注射にない問題があります。インフルエンザの検査を惑わせてしまうことです。
フルミストは、病気を起こす力を弱めた生きたウイルスを使います。鼻の粘膜の細胞に感染し、限られた増殖をすることで免疫を誘導するワクチンです。生物学的な意味での「感染・増殖」は、その仕組みの一部です(※2)。
ただし、ワクチン株が鼻から見つかることと、流行中のウイルスに感染してインフルエンザを発症したことは、同じではありません。症状のない接種者からもワクチン株が見つかります(※2)。
国内J301試験では、接種後28日までに「インフルエンザ」として報告されたのは、フルミスト群13人/608人でした。そのうち11人/608人(1.8%)で、ワクチン株を区別する特別な遺伝子検査により、ワクチン由来のウイルスが確認されました。残る2人では流行株が確認されています(※1)。
この11人は、単に検査だけが陽性だった子ではありません。接種2〜8日後に鼻水、咳、のどの痛みなどが現れ、9人には38.0〜39.3℃の発熱がありました。全員回復し、入院が必要になった子はいませんでした。審査では、ワクチン株による発症を副反応として注意すべきものと評価しています(※1)。
「ワクチンなので感染も症状も起こらない」と説明するのは正確ではありません。一方、ワクチン株の検出だけで、症状のすべてがワクチンによるものだと証明できるわけでもありません。
ワクチンの成り立ち上、どうしても一定数の発熱はありますし、その方を検査すると抗原検査が陽性となってしまうことがあります。インフルエンザの流行がない時期ならそもそもインフルエンザの疑いが少ないのですが、今年のように流行期に接種を行うと、判断に迷うケースは多くなります。
迅速検査が陽性でも、由来は区別できません
普段の外来で使う迅速検査は、インフルエンザウイルスの一部を検出します。ワクチン株か、流行株かを見分ける検査ではありません。フルミストにはA型もB型も含まれるため、「A型だから流行株」「B型だからワクチン」という区別もできません(※1、2)。
症状のない子まで全員検査した結果ではないので、「フルミスト後は何%が陽性になるか」の答えには使えません。
国内の添付文書も、接種後一定期間はワクチン株によって迅速検査が陽性になる可能性を注意しています(※5)。
海外の排出試験では、鼻からワクチン株が検出された人の割合は接種2〜3日後に最も高くなっています。これは迅速検査の陽性率そのものではありませんが、早い時期の陽性を慎重に解釈する理由になります(※2)。
当院では、検査をどう考えるか
当院では、接種2〜3日後で、元気があり、水分がとれ、症状も軽い場合には、すぐに迅速検査をせず、診察と経過をみることを相談します。陽性が出ても原因を分けられず、その結果だけでは薬を使うか決めにくいからです。
その時期を過ぎた発熱では、流行中のインフルエンザも考えて、原則として検査を診療に取り入れる方向で判断します。接種後だからという理由で、検査を一律に見送ることはしません。
ただし、4日目なら確実に見分けられる、1週間たてば必ずワクチン株の影響がなくなる、という境界はありません。国内の審査報告書は、接種から少なくとも1週間程度は迅速検査が陽性になり得るとしています(※1)。
のどや呼吸の所見、周囲の流行、接種からの日数、発熱の始まり方を合わせて、検査結果を解釈します。こうした情報で可能性は絞れますが、普段の診察と迅速検査だけでワクチン株と流行株を確実に区別することはできません。
薬を使うかは、症状とリスクで考えます
抗インフルエンザ薬には、流行中のインフルエンザの経過を短くする効果があります。小児のオセルタミビルを調べた5つの試験の統合では、インフルエンザが確認された1,598人で、病気が続く時間が平均として約18時間短くなりました(※6)。
薬で得られる利益がある一方、すべての発熱に役立つ薬ではありません。日本小児科学会も、インフルエンザの多くは自然に軽快し、抗インフルエンザ薬が全員に必須ではないとしています。ただし、幼児、重症化リスクのある持病をもつ子、呼吸器症状の強い子には投与を勧めています(※7)。
当院では、症状が軽く、重症化リスクが低いと判断した場合は、薬を使わず経過をみることを相談します。投与するかは、年齢や持病、症状に対する薬の利益、ワクチンへの影響の可能性を合わせて決めます。
注射のワクチンとフルミストで、薬の影響が違う理由
「注射のワクチンを受けたあとにタミフルを飲んでも大丈夫なのに、フルミストでは心配されるのはなぜでしょうか」。ここは、ワクチンの種類を分けると整理できます。違いは、皮下注射か点鼻かという経路だけでなく、免疫をつけるために生きたワクチン株の増殖が必要かどうかです。
注射のインフルエンザワクチンは、増殖できないよう処理したウイルスの成分を、免疫に覚えさせます。抗インフルエンザ薬はウイルスの増殖・広がりを抑える薬で、注射した抗原を取り除いたり、すでについた抗体を消したりする薬ではありません。不活化ワクチンは生きたウイルスの増殖に頼らないため、フルミストで心配されるような仕組みの干渉はありません。米国CDCも、抗インフルエンザ薬は不活化ワクチンへの免疫反応に影響しないとしています(※8、9)。
実際に抗体を測った研究もあります。健康な成人138人を、注射の不活化ワクチンとザナミビル(リレンザ)を併用する70人、ワクチンとプラセボを併用する68人に分け、接種日から28日間投与した比較試験では、3種類のワクチン株に対する血液中の抗体の上昇が、ザナミビルによって低下する結果は認められませんでした(※10)。
ただし、この研究は海外の成人への筋肉注射と予防投与の試験です。日本の小児が皮下注射後にインフルエンザにかかり、治療を受けた場面を直接調べたものではありません。また、別の成人40人の小規模試験では、3種類のうちH1N1株への抗体価はプラセボ群のほうが高い結果でした(※11)。すべての薬・年齢・株で細かな影響まで完全に否定できた、という説明は避ける必要があります。
それでも、現在の診療では、注射のインフルエンザワクチンを受けたことを理由に必要な抗インフルエンザ薬を控えません。薬を使ったという理由だけで、注射のワクチンを打ち直す必要もありません(※8、9)。
フルミストでは、生きたワクチン株が鼻の粘膜で限られた増殖をし、その刺激で免疫がつくられます。接種直後に抗インフルエンザ薬を使うと、病気の原因となる流行株だけでなく、ワクチン株の増殖も抑え、免疫を誘導する刺激を弱める可能性があります。米国CDCが接種後2週間以内の抗インフルエンザ薬に注意を求めるのは、このためです(※2、5、8)。
ただし、「抗体が何%減る」「何日目なら影響がない」という定量的な答えは、今回確認できた資料では示せません。接種後2週間という期間も、その間ずっと同じ程度に効果が下がると実測された境界ではありません(※2、8)。
さらに、フルミストの防御には、血液中の抗体だけでなく、鼻の粘膜で働く抗体や細胞の免疫も関わります。血液の抗体価だけを測って、ワクチンが効いているか、薬の影響で無効になったかを判定できるわけではありません(※12)。
自然感染で、ワクチンが無効になるのでしょうか
自然感染だけでフルミストの抗体の付き方が悪くなると示した直接の臨床データは、今回確認した資料にはありません。ただし、接種直後には、感染に伴う鼻の粘膜の抗ウイルス反応が、ワクチン株の増殖にも干渉する可能性があります。
小児の研究では、接種前から呼吸器ウイルス感染やインターフェロン反応がある場合、接種後に検出されるワクチン株の量が少ないことが示されています(※13)。
一方、自然感染そのものも免疫を誘導します。感染後の抗体にはワクチンと自然感染の両方の反応が重なるため、抗体が上がっただけでは、ワクチンによる免疫形成に影響がなかったとも判断できません(※12)。「罹患しただけでフルミストが無効になる」とは言えず、抗インフルエンザ薬についての注意をそのまま当てはめることもできません。
薬を使った症例から、どこまで分かるか
国内J301試験の症例表を見ると、ワクチン株が確認された11人のうち7人が、抗インフルエンザ薬を使用しています。使用した7人も、使用しなかった4人も回復しています(※1)。
ただし、この症例表には、薬の種類や投与開始日は示されていません。薬を使った子と使わなかった子の、その後の免疫や予防効果を比べた結果もありません。症状の発現日を、薬の開始日として読むことはできません。
薬を使った7人が回復したことから、薬が回復を早めたとも、ワクチン効果が保たれたとも、逆に失われたとも言えません。
必要な治療を優先し、回復後に接種を相談します
抗インフルエンザ薬は発症後48時間以内の開始が原則ですが、重症化リスクが高く症状が続く場合などは、それを過ぎても治療を考えます。「接種後2週間だから薬は使えない」と考えて、受診や治療を遅らせないでください(※7、14)。
フルミスト接種後2週間以内に治療薬や予防薬を使った場合は、接種した医療機関にも薬の名前と使用日をお知らせください。米国CDCは、その場合、年齢に合った不活化ワクチンなどでの再接種を勧めています(※8)。
日本のフルミスト添付文書には、この状況での再接種の手順は定められていません(※5)。当院では、まず必要な治療を行い、回復後に、注射のワクチンで追加接種を検討するかを相談します。
参考文献
※1 医薬品医療機器総合機構(PMDA).フルミスト点鼻液 審査報告書(2023年2月9日).表23・24・25、7.R.3.2.2.
※2 FluMist 米国添付文書(2026–2027 Formula、2026年7月改訂).6.1、7.2、12.1、12.2.
※5 フルミスト点鼻液 電子添文(2026年8月改訂、第6版).10.2、15.1.2、15.1.3.
※7 日本小児科学会.2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針(2025年10月7日).一般診療における治療.
※14 CDC. Influenza Antiviral Medications: Summary for Clinicians.

