整腸剤のいろいろ
ミヤBM・ラックビー・ビオスリー、中身の菌と効き方の話
お子さんが下痢をしたとき、整腸剤をが処方されます。でもこれ、クリニックによって少しずつ名前が違いませんか?
ミヤBM、ラックビー、ビオスリー。よく処方される整腸剤ですが、中身の菌は同じではありません。
「3種類入っている薬の方が強い?」「飲めば下痢が早く止まる?」。薬の名前の由来をたどりながら、研究で分かっていることと、診察室での使い方を考えてみます。
主な整腸剤:名前にも歴史があります
ミヤBM 宮入先生が見つけた菌
ミヤBMの「ミヤ」は、酪酸菌を研究した宮入近治博士の名前に由来します。1933年、宮入博士は後に「宮入菌」と呼ばれる菌を分離しました。現在のミヤBMには、この宮入菌(Clostridium butyricum MIYAIRI 588)が使われています。歴史のある、日本発の整腸剤です。[1]
ラックビー 名前の「LAC-B」と「N」の意味
ラックビーは1961年に発売されたビフィズス菌製剤です。「ラックビー(LAC-B)」は、発売当時ビフィズス菌が「Lactobacillus bifidus(ラクトバチルス・ビフィダス)」と呼ばれていたことに由来します。現在はBifidobacteriumという別の属に分類されています。また、「微粒N」のNは「normal(通常)」の意味で、抗菌薬に対する耐性を付与していない生菌製剤であることを表しています。薬の名前から、歴史だけでなく製剤の性質まで読み取れるのです。[4]
ビオスリー 「ビオ」の「3」
ビオスリーの名前も分かりやすく、BIO(生命・生物)とTHREE(3)を組み合わせたものです。その名のとおり、3種類の菌を配合しています。薬の名前を知るだけでも、何が違うのか少し見えてきます。[2]
3つの整腸剤、何が違う?
まず一番大切なのは、「整腸剤」という呼び方は同じでも、中身の菌が違うという点です。
図1 ミヤBMは酪酸菌(宮入菌)、ラックビー微粒Nはビフィズス菌、ビオスリーは乳酸菌・酪酸菌・糖化菌。菌の形や数は模式的に描いています。[3–5]
ミヤBMは、酪酸をつくる宮入菌を含みます。酪酸は大腸の細胞が利用するエネルギー源の一つです。菌が作る物質を介して腸内環境に働きかける、と考えると分かりやすいかもしれません。ただし、この仕組みだけで下痢への効果が保証されるわけではありません。[3]
ラックビー微粒Nはビフィズス菌(Bifidobacterium longum、Bifidobacterium infantis)を含みます。ビフィズス菌は乳酸や酢酸を作ります。ただし、ビフィズス菌という名前が同じなら、どの製品でも同じ効果がある、とは言えません。[4]
ビオスリーは、乳酸菌・酪酸菌・糖化菌の3種類を組み合わせた薬です。培養実験では、これらの菌が一緒にいることで増えやすくなることが示されています。ただし、試験管の中で菌が増えることと、子どもの下痢がどれだけ早く治るかは、別に確かめる必要があります。同じ酪酸菌でも、ミヤBMとビオスリーは菌株が異なります。[3、5]
どの整腸剤が一番効くの?
結論から言うと、ミヤBM・ラックビー・ビオスリーの3剤を、同じ条件で直接比べて優劣を明らかにした信頼性の高い小児の研究は、現時点で確認できません。菌の種類が違うからといって、「3種類入りの薬が一番強い」とは言えません。
ビオスリーには、下痢を短くした研究があります
台湾の研究では、急性下痢で入院した生後3か月~6歳の子ども304人を対象に、ビオスリー(Bio-Three)と偽薬を比較しました。治療を開始してからの平均下痢継続時間は、ビオスリー群60.1時間、偽薬群86.3時間でした。差は26.2時間で、統計学的にも有意でした(P=0.003)。[6]言い換えると、下痢をした場合は数日間はよくならないとも言えます。

図2 台湾の入院小児を対象としたChenらの研究。表示値は治療開始後の平均下痢継続時間です。[6]
平均で26.2時間、約1日短かったという結果は、臨床的にも興味深いものです。ただし、台湾の入院児を対象にした研究です。菌数や投与量、重症度などの条件も考える必要があり、日本の外来のお子さん全員に、約1日の短縮を約束する結果ではありません。
海外の論文をそのまま日本に当てはめてよい?
私は、ここを特に大切に考えています。海外の研究で「プロバイオティクスが効いた」と書かれていても、それだけで日本の整腸剤に同じ結果が当てはまるとは限りません。理由は主に3つあります。
- 菌種だけでなく、菌株が違う:同じ「乳酸菌」でも、菌株ごとに作用は異なります。
- 生きた菌の数と投与量が違う:海外の臨床試験と日本の通常処方量が大きく異なる場合があります。
- 研究された子どもの背景が違う:入院患者か外来患者か、地域、年齢、原因微生物、食事なども影響します。
実際、2018年に米国とカナダで行われた大規模な小児急性胃腸炎の試験では、特定のプロバイオティクス製剤に、偽薬を上回る明確な利益が示されませんでした。
これは「すべての整腸剤が無効」という意味ではなく、効果を一括りにできないことを示しています。[7、8]
では日本ではどうなのか?
日本の「小児消化管感染症診療ガイドライン2024」は、下痢の期間短縮を目的とした整腸薬の投与を提案しています。
ただし、根拠の確実性は「非常に弱い」と評価しています。
日本で使える菌を含む研究をまとめたうえで、効果の可能性、費用、害の少なさを考えた提案です。「効くことが十分証明済み」でも、「処方する根拠がない」でもありません。[9]
では、整腸剤を飲んだ方がいいの?
整腸剤は、すべての子どもに必須とは言えません。一方で、下痢を少しでも短くすることを目指して、状況に応じて使う選択肢です。小児科の診察室では、次の3つを考えます。
① 治療するメリットはあるのか
製剤や患者さんの条件によっては、下痢の期間を短くする可能性があります。台湾のBio-Threeの試験も、その一例です。「少しでも早く楽にしてあげたい」というご家族の気持ちを受け止め、期待できることと限界を共有して使います。ただし、脱水を防ぐ中心的な治療は水分補給です。[6、9、10]
② 治療するデメリットはあるのか
健康な子どもでは重い有害事象は多くありませんが、製剤によってはおなかの張りや発疹などが出ることがあります。重い基礎疾患や免疫機能の低下がある場合は、生きた菌を使う薬なので慎重な判断が必要です。飲ませる手間も負担になります。そして「薬を飲んでいるから大丈夫」と、脱水の確認や再診が遅れることは避けたいと考えています。[4、9]
③ 社会的に薬が求められる中でも、処方しないのか
日本では下痢に対して整腸剤を処方することが広く行われており、保護者の方からも希望されます。薬価は高額ではなく、リスクが小さいお子さんで、飲ませやすい場合には、希望をふまえて短期間処方することは妥当な選択肢だと考えます。一方で、嫌がる子どもに無理に飲ませ続ける必要はありません。希望されない場合に、無理に処方する薬でもありません。
当院では、整腸剤は「必須の治療」でも「出してはいけない薬」でもなく、期待できる効果と負担を共有し、お子さんとご家族の状況に合わせて使う薬と考えています。
下痢で一番大切なこと
下痢の治療で、まず優先するのは水分と塩分を補うことです。飲める場合は、経口補水液を少量ずつ、こまめに与えます。授乳は続け、食べられるようになったら、無理のない範囲でいつもの食事へ戻していきます。整腸剤を飲めたかどうかより、飲水・尿・元気の変化を見てください。[9、10]
次のような場合には、整腸剤の効果を待たずに医療機関へ相談してください。
- 水分がほとんど飲めない、飲んでも繰り返し吐く
- 尿が明らかに少ない、元気がなくなってきた
- 血便、強い腹痛、緑色の嘔吐がある
- 乳児で様子がいつもと違う、または心配な状態が続く
まとめ
ミヤBMは宮入菌、ラックビー微粒Nはビフィズス菌、ビオスリーは3種類の菌を組み合わせた薬です。名前が違うだけでなく、中身も違います。
ビオスリーには下痢の時間を短くした臨床試験がありますが、その結果を日本のすべての子どもにそのまま当てはめることはできません。3剤の中でどれが一番優れているかも、現時点では決められません。
整腸剤を使うかどうかは、期待できる利益、飲む負担、ご家族の希望を含めて相談します。飲めないからといって無理に押し込まず、水分が取れているか、尿は出ているか、元気は保たれているかを確認してください。ぐったりして反応が悪い場合は、整腸剤の効果を待たずに救急受診が必要です。[9、10]
参考文献・資料
[1] ミヤリサン製薬.酪酸菌(宮入菌)について.
https://www.miyarisan.com/about/butyric/
[2] 東亜薬品工業.ビオスリー配合散・錠・OD錠 インタビューフォーム.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/2316017B1041_1?user=1
[3] PMDA.ミヤBM製剤 添付文書・医薬品情報.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/rdDetail/iyaku/2316009C1026_1
[4] 興和.ラックビー微粒N・錠 インタビューフォーム(2025年12月改訂).
https://www.info.pmda.go.jp/go/interview/2/270072_2316014B1030_2_012_1F.pdf
[5] PMDA.ビオスリー配合散 添付文書.
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/480019_2316017B1041_1_08
[6] Chen CC, et al. Probiotics have clinical, microbiologic, and immunologic efficacy in acute infectious diarrhea. Pediatr Infect Dis J. 2010;29:135–138. doi:10.1097/INF.0b013e3181b530bf.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20135748/
[7] Schnadower D, et al. Lactobacillus rhamnosus GG versus Placebo for Acute Gastroenteritis in Children. N Engl J Med. 2018;379:2002–2014.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30462938/
[8] Freedman SB, et al. Multicenter Trial of a Combination Probiotic for Children with Gastroenteritis. N Engl J Med. 2018;379:2015–2026.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30462939/
[9] 日本小児感染症学会ほか.小児消化管感染症診療ガイドライン2024CQ1-3(整腸薬)、総論.
https://www.jspid.jp/wp-content/uploads/2024/06/guideline2024_noprint.pdf
[10] 日本小児救急医学会.小児急性胃腸炎診療ガイドライン2017.
https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00577/
※臨床試験の数字はその試験に参加した集団での平均値です。個々のお子さんへの効果や、日本の通常処方量での効果を保証するものではありません。

