コラムcolumn
予防接種, 院長より

おとなの MR ワクチン接種

当院は小児科ですので、毎日多くのお子さんとお母さん、お父さんが来院されます。お子さんの予防接種のスケジュールを立てる際、ふとご自身のことを伺うと、こんなお答えが返ってくることがあります。

「そういえば、妊婦健診のときに風しんの抗体が低いと言われたかも……」

「出産した病院で、産後にワクチンを打ってくださいねと言われたけれど、育児に追われてそのままになっちゃいました」

無理もありません。赤ちゃんが生まれた瞬間から、お母さんの生活は自分ではなく「子供の命」を守ることで精一杯になります。自分のワクチンは、いわば「期限のない宿題」のように後回しにされがちです。

しかし、その宿題をいま終わらせることは、実は「次のお子さん」と「今のお子さん」の両方を守ることに直結します。当院では保護者の方の MR(麻しん・風しん混合)ワクチン接種を積極的に行っています。お子さんの受診のついでに、ご自身の免疫もアップデートしてみませんか。

なぜ、いま風しんの予防が大切なのか

風しんは、決して過去の病気ではありません。このウイルスの厄介なところは、「気づかないうちに広がる」という点にあります。

  • 「隠れた感染(不顕性感染)」:感染しても症状が出ない人が 15% 程度います。本人は元気なつもりでも、知らないうちに周囲にウイルスを広めている可能性があるのです(※1)。
  • 「飛沫感染による広がり」:咳やくしゃみで人から人へうつります。麻しんや水痘ほど感染力は強くありませんが、免疫を持たない集団に入ると広く広がることが知られています(※1)。

もっとも防ぎたいのは、妊娠 20 週頃までの妊婦さんが感染し、胎盤を介してウイルスがおなかの赤ちゃんに伝わり、目や耳、心臓に影響が出る「先天性風しん症候群(CRS)」です(※2)。

実際に、2012〜2013 年の風しん全国流行に伴い 2012〜2014 年には 45 例の CRS が、また 2018〜2019 年の流行後である 2019〜2021 年にも 6 例の CRS が報告されています(※3)。「自分はもう妊娠中ではないから大丈夫」と思われるかもしれません。しかし、あなたが免疫を持っておくことは、社会の中に「ウイルスの壁」を作ること。それは、今まさに妊娠初期で不安の中にいる誰かのお母さんと、その小さな命を守ることにつながります。

あなたの「免疫の通信簿」を読み解く:HI 法とは

お手元に母子健康手帳や、妊婦健診の結果はありますか。風しんの検査結果に「HI 法」という言葉と、8 倍、16 倍といった数値が書かれているはずです。これは、いわば「免疫のバリアの厚さ」を示す指標です。

数値の読み方は、厚生労働省が以下のように整理しています(※4)。

  • 8 倍未満(免疫を保有していない状態):いわば「バリアがない状態」です。風しん含有ワクチンの接種が推奨されます。
  • 8 倍・16 倍(免疫はあるが、感染予防には不十分な状態):いわば「バリアが薄い状態」です。「産後にワクチンを打ってね」と言われるのは、主にこの数値の方々です。特に妊娠を希望される女性などは、ワクチン接種が推奨されます。
  • 32 倍以上(免疫があり、発症や重症化を予防できると考えられる状態):いわば「十分なバリアがある状態」です。ひとまず安心といえるでしょう。

もし 16 倍以下だったなら、それは「次回の妊娠」や「家族の健康」に向けた具体的な準備が必要だというサインです。

なぜ「麻しん・風しん混合(MR)ワクチン」なのか

現在、国内外で「麻しん(はしか)」の散発的な流行が続いています。麻しんは、風しんよりもさらに感染力が強く、成人がかかると肺炎や脳炎などの合併症を起こし、重症化しやすいことが知られています。

風しんの予防(CRS の防止)と同時に、麻しんからもお母さん・お父さんを守る。そのために、当院では単独ワクチンではなく混合ワクチンである「MR ワクチン」で接種を行います。

当院では、保護者の方の MR ワクチン接種を 6,000 円(税込)で行っています。

自治体の公費助成制度について

安城市では、これから妊娠を希望される方を対象に、風しんの抗体検査(まず最初に受けるもの)と、その結果抗体価が低いと分かった方への MR ワクチン接種費用について、公費助成制度を設けています(※5)。

つまり、抗体検査の公費助成は「これからお子さんを迎える準備をされる方」のためのものですので、すでに出産を終えていらっしゃる方は、抗体検査の公費助成の対象には含まれません。当院に通っていただいているお母さん方の多くは、すでに妊婦健診のときに抗体検査を受けておられますので、その結果(母子健康手帳の HI 値)をご持参いただければ、改めて抗体検査を受けなくてもワクチン接種をご判断いただけます。

詳細な条件や申請手続きについては、安城市保健センター(0566-76-1133)にお問い合わせいただくのが確実です。


お父さんの場合は検査されていないことがほとんどでしょうから、下記の進め方をご参照ください。

 

接種の進め方 : 3つのご相談ルート

ご自身の状況に合わせて、以下のいずれかをお選びいただけます。いずれの場合も、ワクチン在庫の確保のため、必ず事前にお電話でご予約をお願いいたします。当日のご来院ではお受けできかねますので、ご了承ください。

  1. 「最初から接種」ルート:抗体価が低いと言われていたなら、改めて検査をせず、すぐに MR ワクチンを打つのが一番シンプルで確実です。抗体価がわからない方も接種されて問題ありません。
  2. 「検査から始める」ルート:今の免疫を正確に知りたい方向けです。ただし、検査して抗体が低いとわかった場合、接種費用の 2 段階で費用がかかります。
  3. 「手帳持参で相談」ルート:妊婦健診の結果が記載された母子健康手帳の数値をご持参いただければ、それをもとに接種の必要性をご相談できます。

生ワクチンならではの、大切な注意点

MR ワクチンは「生ワクチン(弱毒化したウイルスを直接入れるタイプ)」です。そのため、以下の点は必ず守ってください。

  • 女性の避妊期間:接種前約 1 か月の避妊と、接種後 2 か月の避妊が必要です(※6)。
  • 男性の場合:パートナーへウイルスをうつして先天性風しん症候群を発症させた報告はなく、男性側に避妊の必要はないとされています(※7)。

おわりに:ご家族の「免疫の壁」を厚くしましょう

小児科は、お子さんの成長を支える場所であると同時に、ご家族の健康を守るパートナーでもありたいと考えています。

母子健康手帳をめくるその数分が、あなたと、あなたの家族、そして社会の子供たちを守る大きな一歩になります。接種をご希望の方、ご相談されたい方は、お子さんの受診の機会などに合わせて、まずはお電話にてご予約ください。

参考文献

※1 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト. 風疹. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/rubella/index.html (アクセス確認日:2026年5月12日)

※2 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト. 先天性風疹症候群とは. https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ha/rubella/020/crs-intro.html (アクセス確認日:2026年5月12日)

※3 国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト. 風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在(IASR Vol.45 No.530). https://id-info.jihs.go.jp/surveillance/iasr/45/530/article/100/index.html (アクセス確認日:2026年5月12日)

※4 厚生労働省. 予防接種が推奨される風しん抗体価について(参考資料3). https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11921000-Kodomokateikyoku-Soumuka/13.pdf (アクセス確認日:2026年5月12日)

※5 安城市. 風しん抗体検査及び予防接種費用に関する助成について. https://www.city.anjo.aichi.jp/kurasu/kenko/yobosessyu/otonanohuushinn.html (アクセス確認日:2026年5月12日)

※6 一般財団法人 愛生館 福田記念病院. MR(麻疹・風疹混合)ワクチン接種者向け説明書(添付文書ベース). https://www.ai-hosp.or.jp/content/files/health/menu_vaccination/mr.pdf (アクセス確認日:2026年5月12日)

※7 一般社団法人 日本ワクチン産業協会. 予防接種に関する Q&A 集. https://www.wakutin.or.jp/ (アクセス確認日:2026年5月12日)