薬を長く受け取ることと、治療を続けることは同じではありません
当院が月1回程度の対面診療をお願いする理由
お子さんを連れて定期的に受診することには、時間も労力もかかります。
仕事や学校、きょうだいの予定を調整しなければならず、「症状が落ち着いているなら、薬をできるだけ長く処方してほしい」と考えることは、決して不自然ではありません。
当院でも、通院回数を減らしたいご事情は、できる限りお聞きしたいと考えています。
それでも当院では、対象となる定期処方について、原則として月1回程度の対面診療をお願いしています。
その理由は、処方日数を短くしたいからではありません。
小児の治療では、薬を処方すること自体ではなく、お子さんが実際によくなることが目的だからです。
長期治療は、もともと続けることが難しいものです
医療では、患者さんと医療者が相談して決めた方法に沿って、薬の使用や通院を続けられている状態を「アドヒアランスが良い」と表現します。
少し難しい言葉ですが、簡単に言えば、「薬や治療を、相談して決めた方法で無理なく続けられているか」という意味です。
必要な治療や通院が途中で途切れてしまうことを、「ドロップアウト」と呼ぶこともあります。
治療が続かなくなると、「保護者の努力が足りなかったのではないか」と思われるかもしれません。しかし、小児の長期治療は、もともと途中でつまずきやすいものです。
小児喘息の長期研究では、時間がたつにつれて吸入薬を予定どおり使用できる割合が低下し、27か月後には、朝の薬で40.6%、夕方の薬で46.9%となっていました。別の小児喘息研究でも、薬を予定どおり使えていた割合は、4か月時点の72.5%から12か月時点には58.6%へ低下していました。※1、※2
小児ADHDの全国データでも、治療を継続できていた割合は、最初の6か月の59.0%から、36か月時点には23.1%まで低下していました。小児の便秘治療でも、薬を予定どおり使用できていた割合は、1か月時点で38%、6か月時点では30%でした。※3、※4
これらは、「30日処方と90日処方では、どちらが続けやすいか」を直接比較した研究ではありません。
しかし、長期治療が、薬をまとめてお渡しするだけで自然に続くものではないことは分かります。
症状がよくなって薬を忘れる。子どもが味や剤形を嫌がる。点鼻薬や吸入薬を正しく使えない。毎日の治療が生活の負担となり、保護者の方が続けることに迷う。
こうしたことは、どのご家庭にも起こり得ます。
誰かが悪いのではありません。長期治療そのものに、途中で続けにくくなりやすい性質があるということです。
継続的な関わりによって、治療は続けやすくなります
長期治療が途切れやすいのであれば、治療計画を伝えて薬をお渡しするだけではなく、途中の状況を確認し、困っていることがあれば一緒に対応する必要があります。
90日を超えて薬を使う治療を受けている小児・若年者を対象とした39件の無作為化試験をまとめた研究では、説明、声かけ、行動面の支援、デジタル技術などによって治療継続を支えたグループは、通常の対応を受けたグループより、薬を予定どおり使える状態が改善していました。研究全体では、中等度の改善効果が確認されています。※5
小児の季節性アレルギー性鼻結膜炎、いわゆる花粉症などを対象とした研究でも、点鼻薬の使用状況を継続的に確認する仕組みによって、通常の診療より適切に薬を使える割合が改善しました。※6
継続的な支援には、対面診療だけでなく、オンライン診療、電話、アプリ、薬剤師による支援など、さまざまな方法があります。
その中で当院は、お子さんの治療を支える中心を、定期的な対面診療に置いています。
治療の目的は、処方箋を出すことではありません
小児の治療は、その場で形式的に正しい処方をして終わるものではありません。
薬を処方するだけであれば、小児科医でなければできない仕事とは言えないかもしれません。
小児科医として大切なのは、その薬を実際に使えているか、期待した効果が出ているか、副作用がないか、治療を続けることが負担になっていないかを確認し、必要に応じて治療を調整することだと、私は考えています。
薬を処方した時点では、治療はまだ始まったばかりです。
対面診療では、現在の症状だけでなく、表情、呼吸、皮膚の状態などを直接確認し、必要に応じて聴診や触診を行います。
薬の使い方や残薬を確認し、前回と同じ治療を続けるべきか、減らせるか、別の方法へ変更すべきかも検討します。
子どもの状態は、成長や生活環境とともに変化します。数か月前と同じ薬を希望されても、今も同じ治療が最善とは限りません。
月1回の診察とLINE相談で、できる限り治療を支えます
率直に申し上げれば、私には、一度の診察だけで数か月先までのお子さんの状態を正確に見通し、その間に直接お会いしなくても、十分な治療結果を出せるほどの力はありません。
もっと長い診察間隔や長期処方でも、患者さんの状態を十分に把握し、しっかりと結果を出している先生方や医療機関もあるのだと思います。
患者さんの負担を減らしながら、安全性と治療効果を両立できるのであれば、本当にすばらしい診療だと思います。私も、いつかそのような域に近づきたいと考えています。
しかし、現在の私の経験と力量では、小児の長期治療を責任を持って支えるために、少なくとも月1回程度は、お子さんと保護者の方に直接お会いする必要があると感じています。
本当は、もっと頻繁に状態を確認した方がよい場面もあるでしょう。
一方、受診には時間も手間もかかります。ご家庭の負担と、治療に必要な確認のバランスを考えた結果、当院では月1回程度の対面診療を基本としています。
そこで当院では、対面診療に加えて、受診と受診の間に相談していただけるLINE相談の窓口を設けています。
薬を嫌がる。症状が変わった。使い方に迷う。次回の診察まで待ってよいのか分からない。
そのような小さなつまずきを放置せず、治療が完全に途切れる前に対応するための窓口です。
LINE相談は、診察や処方、緊急時の対応に代わるものではありません。それでも、私の力だけでは行き届かない部分を、少しでも密なやり取りによって補いたいと考えています。
3か月分や4か月分が、当然に認められるわけではありません
保険診療では、患者さんが希望する薬を、希望する日数だけ自由に受け取れるわけではありません。
保険診療の規則では、同じ薬を漫然と繰り返さず、症状の経過に応じて内容の変更などを検討すること、投薬量は医師が予見できる必要な期間に応じたものとすることが定められています。
一部の薬には14日、30日または90日という上限がありますが、この「90日」は、すべての患者さんに3か月分の処方が保障されているという意味ではありません。※7
医師が「1か月後に状態を確認する必要がある」と判断した場合、患者さんが3か月分や4か月分を希望されても、その希望だけを理由に処方期間を延ばすことはできません。
通院回数を減らしたい事情があれば、診察時にお聞かせください。医学的に安全と判断できる範囲で、ご家庭の事情も考慮します。
ただ、お子さんの状態や医師の判断にかかわらず、
「保険診療で出せる最大の日数を出してほしい」
「3か月分、4か月分をまとめて出してほしい」
「前回と同じ薬なので、途中の診察は必要ない」
ということだけを求められると、私は残念に感じます。薬の日数を惜しんでいるからではありません。
当院が患者さんのために行っている対面診療やLINE相談を通じて行っている確認と支援が、治療には必要のない手間だと受け取られているように感じるからです。
当院とは異なる診療方法を希望される場合
医療機関によって、診察の間隔や、対面診療とオンライン診療の組み合わせ方は異なります。
対面診療の回数を減らすことを優先される場合には、オンライン診療に対応している医療機関を選ぶことも一つの方法です。
また、長期処方を行いながら、別の仕組みで患者さんの状態を確認し、十分な治療結果を出している素晴らしい診療所もあると思います。
そのような診療スタイルを希望される場合には、長期処方でもしっかりとお子さんの状態を把握し、結果につなげられる医療機関を探していただいて構いません。
当院の方法だけが、すべての患者さんにとって唯一正しいとは考えていません。
私たちは、患者さんとそのご家族にとっていいことなら、どのような形であってもそれが一番いいことと考えます。
どうか、当院の少し手間のかかる診療にお付き合いください
現在の私には、数か月間お子さんと直接お会いせず、薬をまとめてお渡ししたままでも、責任を持って治療を完遂できるという自信はありません。
私の能力が足りない分、直接お会いすること、話を伺うこと、受診と受診の間にもLINEでつながることで補わせていただきたいと思っています。
もっと少ない関わりで、同じ治療結果を出せる医師になれるよう、私自身も努力を続けます。
それまでは、月1回程度の対面診療と、必要に応じたLINE相談を通じて、お子さんの治療経過を一緒に確認させてください。
少し手間のかかる診療かもしれません。
それでも、処方箋をお渡ししたところで終わるのではなく、お子さんが実際によくなるところまで関わりたいと考えています。
どうか、当院の診療にお付き合いいただければ幸いです。
参考文献
※1 Jónasson G, et al. Asthma drug adherence in a long term clinical trial. Arch Dis Child. 2000;83:330-333. PMID: 10999870.
※2 Lasmar L, et al. Factors related to lower adherence rates to inhaled corticosteroids in children and adolescents. J Trop Pediatr. 2009;55:20-25. PMID: 18820317. DOI: 10.1093/tropej/fmn067.
※3 Hong M, et al. Naturalistic Pharmacotherapy Compliance among Pediatric Patients with Attention Deficit/Hyperactivity Disorder. J Korean Med Sci. 2016;31:611-616. PMID: 27051247.
※4 Steiner SA, et al. Chronic functional constipation in children: adherence and factors associated with drug treatment. J Pediatr Gastroenterol Nutr. 2014;58:598-602. PMID: 24345842.
※5 McGrady ME, et al. Systematic review and meta-analysis of interventions to promote medication adherence among children, adolescents, and young adults with medical conditions. J Pediatr Psychol. 2025;50:531-549. PMID: 38905019. DOI: 10.1093/jpepsy/jsae036.
※6 Pizzulli A, et al. The impact of telemonitoring on adherence to nasal corticosteroid treatment in children with seasonal allergic rhinoconjunctivitis. Clin Exp Allergy. 2014;44:1246-1254. PMID: 25109375.
※7 厚生労働省「保険医療機関及び保険医療養担当規則」第20条。
※8 厚生労働省「オンライン診療の適切な実施に関する指針」令和8年4月改訂。

