コラムcolumn
検査

ウイルス検査が陽性なら、必ずそれが今の風邪の原因なのか  ― SpotFireの結果をどう考えるか ―

最近、呼吸器感染症の検査として、BioFire SpotFire Rパネルという検査が使われることがあります。

当院ではこちらは導入しないことにしていますが、その理由も含め、患者さんが他院の結果を持ってこられてお話をされることは時々あります。
そのため、当院が導入しなかった理由も含め、このコラムを作成しています。


BioFire SpotFire Rパネルとはインフルエンザ、新型コロナ、RSウイルス、アデノウイルス、ヒトメタニューモウイルス、ライノウイルス/エンテロウイルス、マイコプラズマ、百日咳菌など、複数の病原体を一度に調べるマルチプレックスPCR検査です。

とても便利な検査ですが、結果の解釈には注意が必要です。
大切なのは、検査で陽性になったことと、
その病原体が今の症状の原因であることは、同じではない
という点です。

PCRは「生きたウイルス」を見ているわけではありません

SpotFireのようなPCR検査は、ウイルスや細菌の核酸を検出する検査です。
つまり、感染性のある生きたウイルスが、今そこで増えているか(感染を起こしているか)を直接見ているわけではありません。
そのため、感染が終わった後でも、ウイルスのRNAやDNAの残りがあれば陽性になることがあります。
BioFire SpotFire Rパネルの添付文書にも、病原体の核酸は、生きた病原体がいなくなった後も体内に残ることがあり、検出されたからといって感染性がある、あるいは症状の原因であるとは限らないと記載されています。

つまり、SpotFireは優れた検査ですが、
陽性=今の原因
と単純には言えません。

感染後もしばらくPCR陽性が残ることがあります

PCR検査では、感染後もしばらく陽性が残ることがあります。
大まかな目安は以下です。

インフルエンザ
多くは1週間前後。小児では10日以上、長くて2週間程度陽性が残ることがあります。

RSウイルス
多くは1〜2週間。乳幼児では3〜4週間ほど検出されることがあります。

新型コロナ
PCRでは数週間、ときに90日程度陽性が続くことがあります。

ライノウイルス/エンテロウイルス
1か月以内の感染を反映することが多いですが、前の感染の残りか新しい感染かは区別しにくいことがあります。

ヒトメタニューモウイルス
1〜2週間程度、長い場合は3〜4週間ほど陽性が続くことがあります。

アデノウイルス
日〜週単位で検出が続くことがあります。型や重症度によってはさらに長く残ることもあります。

たとえば2週間前にインフルエンザにかかり、今回はRSウイルスで咳が出ている場合、SpotFireではRSとインフルエンザの両方が陽性になる可能性があります。
この時に、
「RSにもインフルエンザにも同時にかかっている」
と考えるのは、少し単純すぎます。
本当は、今回の症状の主役はRSで、インフルエンザは前回感染の名残かもしれません。

複数陽性は、むしろ解釈を難しくすることがあります

SpotFireでは、複数の病原体が同時に陽性になることがあります。
もちろん、本当に複数感染していることもあります。
しかし、すべてが今の症状の原因とは限りません。

どれが今回の主役なのか。
どれが前回感染の残りなのか。
どれが無症状で検出されているだけなのか。

これは、検査結果だけでは決まりません。

発症日、症状の経過、周囲の流行、診察所見、全身状態を合わせて判断する必要があります。

検査結果が増えるほど、診療が分かりやすくなるとは限りません。
むしろ、判断が難しくなることがあります。

当院でSpotFireを導入していない理由

当院では現在、SpotFireを導入していません。

理由は、検査そのものを否定しているからではありません。
SpotFireは、重症例や入院診療など、場面を選べば有用な検査です。
ただ、地域の小児科外来でよく診る軽症の風邪に対して、毎回15項目を調べる必要があるとは考えていません。
特に6歳未満のお子さんでは、多くの風邪は対症療法が中心です。

水分が取れているか。
呼吸が苦しくないか。
ぐったりしていないか。
発熱が長引いていないか。
紹介が必要な状態ではないか。

診療で大切なのは、ウイルス名を並べることではありません。

その子が安全に家で見られる状態なのか、追加評価や紹介が必要なのかを判断することです。

発熱が長引く時は、ウイルス名より全身状態です

発熱が5日以上続いている場合、SpotFireで何らかのウイルスが陽性になっても、それだけで「大丈夫」とは言えません。
発熱が長引く時には、肺炎、尿路感染症、川崎病、細菌感染症など、他の病気も考える必要があります。

この場合に大切なのは、
「何のウイルスが出たか」よりも、
診察所見、経過、全身状態、必要に応じた検査です。

当院では、発熱が長引く場合や全身状態が心配な場合、ウイルス名を細かく探して院内で完結させるよりも、必要に応じて総合病院へ紹介する判断を重視しています。

まとめ

SpotFireは、優れた検査です。
ただし、使う場面を選ぶ必要があります。
当院では、軽症の風邪に対して、毎回15項目を調べる必要はないと考えています。

大切なのは、何のウイルスが出たかではなく、その子が今どのような状態なのかです。

検査は診療を助ける道具です。
検査結果が、患者さんやご家族を振り回してはいけません。