膀胱炎とは何か
ー菌が入ることと、炎症が起きることは別ですー
外来で、こんなお話をうかがいます。「熱はないのですが、おしっこを痛がるので受診したら、膀胱炎と言われて抗生剤が出ました」。飲ませてよいものか迷いながら、それでも飲み切って来てくださいます。
膀胱炎は、大人ではありふれた診断名です。ただ、そもそも膀胱炎とはどういう病気なのかを、あらためて説明する機会はあまりありません。
そこを知っておくと、抗生剤の景色が変わります。前編は膀胱炎そのものの話です。子どもではどうか、診断はどうつけるのかは、後編に書きました。
膀胱炎は、菌が膀胱の壁にくっつくところから始まります
膀胱炎の原因は、たいてい大腸菌です。基礎疾患のない子の尿路感染症では、起炎菌の70〜80%を占めるとされています(※1)。
膀胱に菌が入ること自体は、珍しくありません。とくに女の子は尿道が太くて短く、膀胱までまっすぐなため、菌が入りやすいと考えられています(※1)。
けれども、菌がいるだけでは膀胱炎ではありません。菌が膀胱の壁にくっつくことが、そのはじまりです。
くっつく道具が線毛です。尿路の感染を起こす大腸菌は、1型線毛の先にあるFimHというタンパク質で、細胞表面の糖をつかみます(※3)。
そのうえで、膀胱炎そのものは、熱が出ず、腎臓の障害も残しません(※1、※2)。おしっこのたびに痛いのはつらいので治療はしますが、放っておいて腎臓が悪くなる病気ではありません。
一方で膀胱炎から腎盂腎炎になることはあるので、「膀胱炎なら大丈夫」とも言えません。
くっついた菌は流せません。マウスの膀胱は、細胞ごと捨てていました
面白いのはここからです。FimHは「キャッチボンド」といって、ふつうの結合とは逆に、引っぱられるほど強く握ります。
おしっこが押し流そうとしても、結合はかえって固くなる。流れが止まると、今度はゆるめて動き出します(※3)。排尿の激流はやり過ごし、静かなときに移動する。よくできた戦略です。
つまり、おしっこで流せるのは「まだくっついていない菌」だけです。
では、くっついた菌はどうなるのか。膀胱は、菌がついた細胞そのものを剥がして捨てます。洗い流すのではなく、貼られた面ごと張り替えるやり方です(※4)。マウスの実験で確かめられた防御のしくみです。
ただし、すり抜ける菌もいます。上皮の内側へ入り込む菌がいることも、同じ実験で示されました(※4)。
大人では、抗菌薬なしで治ることも報告されています
体の側にもしくみがあることは分かってきました。では、実際の経過はどうでしょう。
ドイツの一般診療所で、18〜65歳の女性で合併症のない膀胱炎494人を、抗菌薬を1回のむ群と、痛み止め(イブプロフェン)を3日間のむ群に分けた試験があります。痛み止めの群では、3分の2が抗菌薬なしで治りました(※5)。
ただし、ただでは済みません。痛み止めの群は症状の総量が明らかに重く、腎盂腎炎になった人も多くいました。著者ら自身、あてはまるのは症状が軽い〜中くらいの人で、合併症のない膀胱炎のすべてではない、と釘を刺しています(※5)。
大人の女性の試験で、子どもでは行われていません。少なくとも大人では、抗菌薬が絶対に必要とは限らないようです。子どもで同じことが言えるかは、分かっていません。
膀胱炎と確かめられたなら(何をもって確かめるかは後編に書きました)、当院は抗菌薬で治療します。日数は国内の資料でも意見が分かれていて、短い処方も、1週間から10日ほどの処方もあります。当院では経過をみながら考えます。
いま飲んでいる薬を自己判断でやめるのは、これとは別の話です。使うかどうかは、最初に決めること。始めた分は飲み切ってください。
水をよく飲むことには、意味があります
ふだんの排尿と尿の流れは、体を守るしくみのひとつです(※1)。試験もあります。ブルガリアで行われた試験で、膀胱炎を年に3回以上くり返し、もともと水分が1日1.5L未満だった成人女性140人を、1日1.5Lを足す群とそのままの群に分けて12か月みました。膀胱炎の回数は、足した群が1.7回、そのままの群が3.2回でした(※6)。
では、我慢はどうでしょう。流す機会が減れば、くっつく前に流せる菌も減ります。理屈のうえでは、我慢は不利に働きます。
言えるのはここまでです。子どもで直接調べた研究はなく、大人の女性でも排尿の回数が危険因子だとは証明されていません(※7)。「関係ない」と確かめられたわけでもありません。ここまでは、すべて大人の女性のデータです。
それでも私は、水分はしっかり摂って、行きたくなったら我慢させない。それでよいと思っています。
まとめ
膀胱炎は、菌が膀胱の壁にくっつくところから始まります。菌が入っただけでは膀胱炎ではありません。
くっついた菌は、おしっこでは流せません。ただしマウスの実験では、膀胱が菌のついた細胞ごと剥がして捨てていました。体の側にも、しくみはあります。
大人の女性の試験では、抗菌薬なしで治った人もいます。ただし使わなかった群のほうが、腎盂腎炎になった人は多くいました。すでに飲んでいる薬は、勝手にやめず飲み切ってください。
水分はしっかり摂って、行きたくなったら我慢させない。それでよいと思っています。
なお、子どもでは尿路感染症そのものがめったにありません。8歳までにかかるのは女の子で7〜8%、男の子で2%とされています(※1)。くわしい数字は後編に挙げました。
熱が出た場合は、膀胱炎の話ではなくなります。ぐったりして水分が摂れないときは、病名にかかわらず受診してください。逆に、機嫌がよくて水分が摂れているなら、翌日の外来で十分に間に合います。熱が出たときの判断の目安も、子どもでの頻度や診断のつけ方とあわせて、後編に書きました。
参考資料
※1 木全貴久、辻章志、金子一成「小児尿路感染症に関する最近の考え方」日本小児腎臓病学会雑誌 27巻2号 105ページ(2014年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpn/27/2/27_105/_pdf/-char/ja
※2 日本小児泌尿器科学会「小児の尿路感染」 https://jspu.jp/ippan_014.html
※3 Hospenthal MK, Waksman G. The Remarkable Biomechanical Properties of the Type 1 Chaperone-Usher Pilus: A Structural and Molecular Perspective. Microbiol Spectr 2019;7(1). https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30681068/
※4 Mulvey MA, et al. Induction and evasion of host defenses by type 1-piliated uropathogenic Escherichia coli. Science 1998;282:1494-1497. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9822381/
※5 Gágyor I, et al. Ibuprofen versus fosfomycin for uncomplicated urinary tract infection in women: randomised controlled trial. BMJ 2015;351:h6544. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26698878/
※6 Hooton TM, et al. Effect of Increased Daily Water Intake in Premenopausal Women With Recurrent Urinary Tract Infections: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2018;178:1509-1515. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30285042/
※7 Hooton TM. Recurrent urinary tract infection in women. Int J Antimicrob Agents 2001;17:259-268. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11295405/
※8 Gnech M, et al. Update and summary of the EAU/ESPU paediatric guidelines on urinary tract infection in children. J Pediatr Urol 2026;22:105481. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40615247/
※9 Buettcher M, et al. Swiss consensus recommendations on urinary tract infections in children. Eur J Pediatr 2021;180:663-674. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32621135/

