おしっこを痛がる子に、私が確かめていること
ーその診断名は、何を確かめて成立するのかー
前編では、膀胱炎とはどういう病気かを書きました。菌が膀胱の壁にくっついて初めて炎症が起こること、くっついた菌はおしっこでは流せないこと、そして大人の女性の試験では、抗菌薬なしで治った人もいたことです。ただし使わなかった群のほうが症状は重く、腎盂腎炎になった人も多くいました。
ここからは、子どもの話です。
外来で「膀胱炎ですね」と言われて抗生剤が出た、というお話をよくうかがいます。子どもに、とくに男の子にその名前がついていると、「どうやっておしっこを採りましたか」と、私は必ず聞き返します。
よその診断を疑ってください、という話ではありません。この診断名は何を確かめて初めて成立するのか。それを一緒に見ておきたいのです。
なお前編に書いたとおり、膀胱炎そのものは熱が出ず、腎臓の障害も残しません(※1、※2)。
子どもの尿路感染症は、めったにあることではありません
では、子どもではどうでしょう。
尿路感染症は、膀胱でとどまるもの(膀胱炎)と、腎臓まで届くもの(腎盂腎炎)をまとめた呼び名です。
そのうえでお断りがあります。これから出す数字は、膀胱炎に限ったものではありません。熱の出る腎盂腎炎も含めた「尿路感染症」全体の数字です。子どもでは、この2つを分けて集計した資料がほとんどないためです。
男の子は菌が入りにくい、という説明をよく聞きます。尿道が長く、括約筋による狭い場所が2か所あるからです(※1)。ただし、この説明だけでは足りません。実際、1歳未満だけは男の子のほうが多く(女の子の約5倍)、1歳を過ぎると女の子が男の子を大きく上回ります(男の子の約10倍)(※1)。
理由の説明はともかく、数字ははっきりしています。国内の総説では、8歳までに尿路感染症にかかるのは女の子の7〜8%、男の子の2%です(※1)。日本小児泌尿器科学会は、細菌性の尿路感染は女の子の3〜5%、男の子の1%としています(※2)。
スウェーデンの住民調査では、0〜6歳で初めて尿路感染症になるのは女の子6.6%、男の子1.8%。男の子は1歳を過ぎると、年に1000人あたり1〜2人まで下がります(※3)。
米国の民間保険に加入する0〜17歳、1322万人の受診データ(外来と入院を含む)でも、尿路感染症と診断されるのは女の子100人年あたり2.48件、男の子0.180件。単純に割れば、およそ14倍です(※4)。
膀胱炎は、この尿路感染症の一部です。全体がこれだけまれなら、膀胱炎がそれより多いことはありません。とくに1歳を過ぎた男の子では、そう考えてよいと思います。
まれなことが起きたと考える前に、まず尿の採り方を確かめたい。これは集団で見たときの頻度の話で、お子さんの診断が間違っていたという意味ではありません。しかも子ども全体を分母にした数字です。実際に痛がっている子で見れば、確率はこれより高くなります。
熱が出たら、膀胱炎の話ではなくなります
菌が腎臓まで届くと、話がまったく変わります。腎臓は本来、菌がいてはいけない場所なので、体は発熱という信号を出します。腎盂腎炎は腎瘢痕(じんはんこん)と呼ばれる傷を残すことがあります(※2)。国内の総説は、くり返すと腎の瘢痕化をきたすとしています(※1)。膀胱炎とは、まったく違う病気です。
詳しくは以前のコラムに書きました(※8)。
「膀胱炎」という診断は、尿で裏づけて初めて成立します
熱がなく、排尿のときに痛がるだけ。しかも男の子。この組み合わせに「膀胱炎」と名前をつけるなら、尿の裏づけが要ります。
診断は、無菌的に採った尿の培養で決まった数以上の菌が出て成立します。基準は採り方で違い、中間尿なら1mLあたり10万個以上、カテーテル尿なら5万個以上です(※1)。
問題は、乳幼児でよく使われる貼り付け式のパック採尿です。これまでの研究をまとめたレビュー(21研究・7659検体)では、汚染を調べた15研究・6856検体でパック尿の46.6%が汚染されていました。菌が出た検体だけを集めた12研究・575検体では、その61.1%が偽陽性でした(※5)。
ではカテーテルを入れて採るのか。当院はそこまでしません。熱もなく元気なお子さんに痛い思いをさせる必要はなく、それで受診をためらわれては本末転倒だからです。
珍しい病気なのに、診断するための検査も難しい。私はその状態で気軽に「膀胱炎です」とは言えません。疑うだけの根拠があるのか、抗菌薬内服をしてもらうだけの根拠があるのか、メリットデメリットを天秤にかけて考えます。成人で聞き慣れた病名だからといって、子どもに簡単に当てはめることはしません。
痛がっている場所が、膀胱ではないこともあります
私の外来では、排尿のときに痛がると受診されたお子さんが、診てみたら亀頭包皮炎だった、ということをしばしば経験します。おちんちんの先が赤く腫れていれば、おしっこがしみて痛いのです。膀胱は関係ありません。
女の子では、外陰腟炎が同じ役回りです。思春期前の女の子にはありふれた訴えで、多くは特定の病原体によるものではありません(※7)。石けんや入浴剤の刺激、拭き方、下着が関わることもあります。
おしっこを痛がるお子さんは、まず見せてください。その場で分かることがあります。
まとめ
子どもの尿路感染症は、めったにあることではありません。膀胱炎はその一部です。とくに1歳を過ぎた男の子では、そう考えてよいと思います。
熱がないのに膀胱炎と言われて抗生剤が出ているなら、どうやって尿を採ったのか、一度確かめる価値があります。パック採尿は、それだけでは診断の根拠になりません。
そして、おしっこを痛がる原因が、亀頭包皮炎や外陰腟炎のこともあります。まず見せていただければ、その日に分かります。
すでに抗生剤を飲んでいるなら、勝手にやめず飲み切ってください。そのうえで、次にどうするかを一緒に考えましょう。
参考資料
※1 木全貴久、辻章志、金子一成「小児尿路感染症に関する最近の考え方」日本小児腎臓病学会雑誌 27巻2号 105ページ(2014年) https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpn/27/2/27_105/_pdf/-char/ja
※2 日本小児泌尿器科学会「小児の尿路感染」 https://jspu.jp/ippan_014.html
※3 Mårild S, Jodal U. Incidence rate of first-time symptomatic urinary tract infection in children under 6 years of age. Acta Paediatr 1998;87:549-552. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9641738/
※4 Liang D, et al. Incidence of Pediatric Urinary Tract Infections Before and During the COVID-19 Pandemic. JAMA Netw Open 2024;7:e2350061. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38170521/
※5 Ochoa Sangrador C, Pascual Terrazas A. Systematic review of the validity of urine cultures collected by sterile perineal bags. An Pediatr 2016;84:97-105. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26006273/
※6 O’Brien K, et al. Prevalence of urinary tract infection in acutely unwell children in general practice: a prospective study with systematic urine sampling. Br J Gen Pract 2013;63:e156-e164. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23561695/
※7 Romano ME. Prepubertal Vulvovaginitis. Clin Obstet Gynecol 2020;63:479-485. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32282354/
※8 なかのこどもクリニック「こどもの尿路感染症 ー『かぜっぽくないのに熱だけ続く』とき、小児科医が考えていることー」 https://nakanokodomo.jp/column/198/
※9 Pantell RH, et al. Evaluation and Management of Well-Appearing Febrile Infants 8 to 60 Days Old. Pediatrics 2021;148:e2021052228. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34281996/

