コラムcolumn
予防接種, 院長より

インフルエンザワクチンの助成は、住む街でこんなに違う

安城市・名古屋市・近隣市を比べました

今年もインフルエンザワクチンの接種が始まります。

今回は、安城市の現状を出発点に、名古屋市と周辺市の制度を比べます。そして、当院が市町村ごとの助成額に合わせて接種料金を変えないことにした理由もお伝えします。

 

まず結論:ワクチン助成だけで自治体の良し悪しは決まりません

自治体の予算と人員には限りがあります。

乳幼児から高校生まで広く助成する自治体もあれば、受験や就職を控える学年に絞って厚く助成する自治体もあります。病児保育、保育料、医療費助成、産後支援など、別の政策に力を入れる自治体もあります。

したがって、ここで行うのは自治体の「総合ランキング」ではありません。「この制度は、どの家庭を、どのように支える設計なのか」を見比べるものです。

 

安城市の令和8年度の助成

安城市では、1歳から高校3年生相当までが対象です。
注射ワクチンは1回1,000円の助成です。1歳から小学生は2回までなので、合計では最大2,000円。中学生・高校生相当は1回です。

鼻に噴霧する経鼻弱毒生インフルエンザワクチン「フルミスト」は、2歳以上で1回2,000円の助成です。(※1)
「1回につき2,000円」ではなく、注射は1回1,000円、フルミストは1回2,000円という違いがあります。助成券を使わず全額を支払った場合、後からの払い戻しはできません。接種当日は助成券を忘れないようにしてください。(※1)

 

名古屋市・周辺市はどうなっている?

令和8年度の市公式情報で確認できた範囲を、保護者目線で整理すると次のようになります。

  • 安城市:1歳から高校3年生相当まで広く対象。注射は1回1,000円、フルミストは1回2,000円。(※1)
  • 名古屋市:その年度に12歳、15歳、18歳になる方、つまり小学6年・中学3年・高校3年相当の年齢が対象。注射ワクチンは全額助成ですが、令和8年度はフルミストが対象外です。(※2)
  • 豊田市:中学3年・高校3年相当が対象。1人1回、接種費用を上限5,000円まで助成する予定です。(※3)
  • 西尾市:令和7年度は中学3年・高校3年相当を対象に、1回1,500円を上限に助成していました。令和8年度の詳細は、執筆時点では市の最新案内待ちです。(※4)
  • 岡崎市・刈谷市・高浜市・知立市:執筆時点の各市の子どもの予防接種案内では、一般の子どもを対象とする季節性インフルエンザワクチン助成を確認できませんでした。(※5〜8)
  • 東京都中野区:注射は生後6か月から中学3年生まで1回2,000円、フルミストは2歳から中学3年生まで1回4,000円の助成です。(※9)都市圏ではこのようにワクチン補助が厚くなっている自治体が多いです。

制度は更新されることがあります。対象年齢、接種期間、指定医療機関、必要な助成券は、接種前にお住まいの自治体の最新案内をご確認ください。

 

中3・高3だけに助成する方法は、全国的にメジャー?

豊田市や西尾市のように、中学3年・高校3年相当に絞る方法は、受験や就職を控える時期を重点的に支える「受験生重点型」と考えると分かりやすい制度です。名古屋市も、令和8年度はこれに小学6年相当を加えた形です。

この方法は全国にもあります。2019年に全国1,741市区町村を対象として1,732自治体から回答を得た調査では、「中学3年生のみ」「高校3年生のみ」を対象にする自治体が実際に確認されています。(※10)

ただし、この調査は1学年だけの助成でも「中学生への助成あり」「高校生への助成あり」と集計しています。そのため、中3・高3だけに絞る方式が全国の多数派、あるいは標準的な方法だとまでは言えません。

つまり、「珍しい思いつき」ではない一方、「全国で最も一般的な方式」とも確認できない、というのが正確な答えです。限られた予算を、進路決定の大切な時期に集中させる、一つの合理的な考え方です。

 

ワクチン助成だけを見ると、安城市はかなり手厚い

安城市は、豊田市や名古屋市のように学年を絞らず、1歳から高校3年生相当まで広く対象にしています。さらに、フルミストにも助成があります。

助成の対象範囲だけを見ると、安城市は近隣でもかなり恵まれていると言えます。

以前のコラム「日本一子育てしやすい街」に住むということ ― 安城市の受賞に寄せてでも紹介したように、安城市はアカチャンホンポの調査で「子育て満足度全国1位」と評価されました。(※11)

しかし、「子育て日本一」という評価と、すべての個別制度が日本一であることは同じではありません。

 

病児保育では、評価が大きく変わります

では、インフルエンザワクチンの助成が手厚い安城市は、岡崎市より子育て支援全体で優れているのでしょうか。病児保育を比べると、そうではありません。

安城市が委託外の民間事業者に用意している支援は、安城市民の利用1回につき11,300円です。固定的な基本分はありません。(※12)

一方、岡崎市は、利用の少ない日にも必要な体制を支える「基本分」と、年間の利用人数に応じた「加算分」を組み合わせています。岡崎市の制度は一見すると特別に手厚く見えますが、実は独自の大幅な上乗せではありません。令和7年度は、国の病児保育事業の算定基準と同じ水準です。つまり岡崎市が普通なんです。(※13、14)

安城市の委託外支援は、利用がなければ収入が生じません。病児保育は、利用者がいない日にも看護師や保育士、専用スペース、感染対策を維持する必要があります。固定費を支える基本分がないことは、制度設計上の大きな欠陥です。全国の標準と比べても、安城市の制度はかなり手薄です。

当院も病児・病後児保育事業を検討しましたが、収支試算では、年間延べ300人の利用で収入399万円であり、経皮を差し引くと約200万円の赤字と推計されました。(※16)
健全なクリニック経営のために、現状は見送っているところです。

このように病児保育については、安城市は、安定して運営するための制度が非常に弱いのです。

ワクチン助成では安城市が強く、病児保育では岡崎市が強い。だから、インフルエンザワクチンの助成額だけを見て、安城市の子育て支援全体が優れているとは言えません。これは、自治体がどこに力点を置くかの違いです。

 

当院が市町村別の料金調整を見送った理由

当院には、安城市内だけでなく、比較的遠方から通ってくださる患者さんも多くいらっしゃいます。

そのため当初は、市の助成額にかかわらず、皆さんの自己負担がある程度同じになるよう、居住する市町村ごとに当院の接種料金を調整することも検討しました。

しかし、自治体には、ワクチン助成が手厚いところ、病児保育が手厚いところ、別の子育て支援に力を入れているところがあります。ワクチンの助成額だけを当院が埋め合わせることは、自治体ごとの支援全体を公平に扱うことにはなりません。

このように、市町村によって他の政策での良し悪しがあることから、市町村別での金額設定は見送ることにしました。当院が設定する接種料金そのものは、居住地によって変えません。実際の窓口負担は、お住まいの自治体の助成制度によって異なります。

 

同じインフルエンザワクチンでも、住む場所で自己負担は変わります。まずは安城市の制度を正確にお伝えし、周辺市には別の考え方があることも知っていただく。それが、当院として最も誠実な伝え方だと考えています。

 

参考資料

 

  1. 安城市「子どもインフルエンザ予防接種」
  2. 名古屋市「子どものインフルエンザ予防接種費用の助成事業」
  3. 豊田市「令和8年度 インフルエンザ予防接種費補助金」
  4. 西尾市「インフルエンザワクチン任意接種費用の一部助成」
  5. 刈谷市「予防接種」
  6. 高浜市「子どもの予防接種」
  7. 知立市「2026年度 予防接種」
  8. 岡崎市「お子さんの予防接種」
  9. 中野区「小児インフルエンザ任意予防接種費用の一部助成」
  10. 厚生労働行政推進調査事業「自治体におけるインフルエンザワクチン接種費用助成の実態」
  11. なかのこどもクリニック「日本一子育てしやすい街」に住むということ ― 安城市の受賞に寄せて
  12. 安城市「安城市病児・病後児保育支援事業」
  13. 岡崎市「岡崎市病児保育施設運営費補助金交付要綱」
  14. こども家庭庁「子ども・子育て支援交付金交付要綱(令和7年度)」
  15. こども家庭庁「令和6年度子ども・子育て支援等推進調査研究事業 病児保育施設の運営状況等に関する調査研究」
  16. 当院保管資料「病児保育 開設支援のご提案」(開設支援会社による収支試算、公開資料ではありません)